想いのカタチ   作:新茶

19 / 20
お久しぶりです、新茶です。
気がつけば2ヶ月程空きましたが少しずつ書き溜めを作るようになりました。
季節的にはもう6月と初夏を感じるようになり余計にこの小説の投稿の遅さが際立つ訳ですが…。

今回から波野和也の姿について迫っていくようになっていきますのでシリアスモード全開部分が多いです。それはそれでこの作品の特徴でもあるので彼の弱さや強さを知ってもらえればと思います。
では、どうぞ!


第18話 絶対成功の意思

クリスマスの頃から月日は流れ1月下旬を迎えていた。生徒会では主に俺が体育祭に向けての資料作成、絢瀬先輩は別方面で学校の廃校阻止に動いてもらいながら卒業式の準備。東條先輩は両面のサポートをお願いしている。

体育祭に関してはまだ生徒用にアンケートも行う必要があるしで問題は山積みだ。

 

「絢瀬先輩、この資料ってありますか?」

 

「あ、うち持ってるわ。ちょっと待ってや」

 

「分かりました。えっとここは後で補完するから空白でいいか」

 

「エリチは何悩んでるの?」

 

「これからどうしたらいいかってこと」

 

「学校を存続させるために?」

パソコンに向き合いながらも耳を向ける。色々調べたりはしているがそれをこの場で考えるのは悪手でしかないのはこの半年学んだ。そのためひたすらキーボードを叩き続ける。

絢瀬先輩は前々から一層学校存続に努力されていた。しかし、現在は少しばかり方向性を変えなければならなくなった。説明会も思う結果が出ず出願者も昨年より減少した。

 

「考えすぎても体に悪いだけですよ」

 

「…でも!」

 

「別に考えるなって言ってるわけではないです。詰まるように考えても視野は狭くなるばかりですから1度頭をスッキリしましょう。自分は少し休憩させてもらいます」

席を立ち『自教室に行ってきます』とだけ伝え、その場を後にする。

 

「そう…ね」

 

「エリチ…」

 

「大丈夫、まだ手はあるはず。彼だって諦めろなんて言ってない。逆にあれだけの資料を作ろうと励んでくれてる」

 

「和也くんがいたことによってできることが増えた。感謝しないとな」

 

「彼に伝えておいてよ?くれぐれも無理は禁物だって」

 

「うん、1度落ち着いて考えてみない?」

 

「温かいもの飲みながら考えましょ、彼が戻ってくるまで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なぜ報われない」

生徒会室から出て廊下を急ぐことなく歩く。

生徒会長があれほど努力してどうして…先輩だって一介の生徒であることには変わらない。

それでも人のせいにできない理由がある。責められる理由があるのかもしれない。

 

「腹が立つ」

何にかは分からないけど1つ言えるのは、努力は時に儚く残酷だ。デスクワークで冷えた手をさすりながら俺自身の挫折や物事の終わりを噛み締めた。

だが今はそんな感情に浸っている場合ではない。とりあえず話を聞きたい人には出来るだけ早くに聞かないといけない。

 

「波野じゃない」

 

「あ、いた」

その話を聞きたいという人が矢澤先輩だ。

 

「いたって何よ」

 

「すみません、少しお話をよろしいですか」

 

「…少しよ」

渋々了承といったところ。それでも聞いてくれるあたりいい先輩なのだ。

 

「…『ARISE』って知ってます?」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

「はぁ…まさかあれほどむちゃくちゃ言われるとは思わなかった」

聞く人間を間違えた気がすごくする。せめて抑止が聞く涼輝にするべきだったと後悔しているが聞きたいことは聞けたから良しとするか。

先輩には用ができたと連絡して遅くなってもいいようにしている。

 

 

 

『ARISE』

 

 

 

前にも考えさせられたことはあったがちゃんと有識者に聞くべきだったと感じた。

『UTX学院』は音乃木坂の近くにできた高校で設備などそこらの学校とは一線を画す。高校というよりはオフィスというか超大手会社のビルや銀行本社って感じか?

…とりあえずこの学校によって音乃木坂は入学者数が毎年減少していくことに大きく繋がった。

 

そこに拍車を掛けたのが『ARISE』というスクールアイドル。俺はあまり興味を示していなかったが涼輝はその『スクールアイドル』というワードが流行る初期の頃から色々と知っているらしい。

何度か動画を涼輝に見させてもらったがテレビに出ているアイドルに引けを取らないってすごく唸っていた。実際俺もそう思ったしここまで気持ちを芯に持ってやり遂げる凄みも感じた。

これは学校側がやらせているわけじゃない。自分達の意志で行われているもの。それが学校の活性化にさらに勢いをつけているなら周りに敵はいないだろう。

 

今年の夏にはスクールアイドルに関する一大イベントが開催されるらしい。スクールアイドルは今まさに波に乗っている。なら、目には目を歯には歯をと音乃木坂でスクールアイドルを…いや、可能性が低すぎる。それにこれは『ARISE』のように自分達から切り出す必要がある。とても企画云々で済むような話ではない。

じゃあ部活か?それか生徒会?何か動くには…

 

「どれもイマイチ爆発力がない」

何を考えてもダメだ。俺ができるとすれば弓道で何かこの学校を有名にさせることができれば…いや、それも遅すぎる。今年のインターハイに出場できたとしても強豪校なんていくらでもあるし、施設がよくともここを選ぶ理由にはならない。それが1年で大成して多数になるとも思えない。

 

考えるだけで頭が痛くなってくる。そろそろ戻ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、戻ってきたやん」

 

「お待たせしました」

 

「いえ、構わないわ。今度の先生への企画と説明に関してだけど…」

 

「その件に関しては生徒に対しのアンケートの後、先生への説明のどういったものにするかの説明の順で行えれば問題なく進むと思っています」

正直、生徒のことに関しては何も問題なく進行するとと思う。あとは先生をその気にさせられるかや予算の関係など前々から理事長に匂わせておいてはいたが実際どうなるかは不透明だ。

 

「まぁうちら3人やったら先生らに負ける気しやんけどな」

 

「どうして?」

 

「まずはエリチが大体主旨を説明していって、うちと波野君が補完していけばいいと思うんよ」

正直そんなところとは思っていた。まぁ実際大丈夫なんじゃないかと本番でのフィーリング次第でもあるが平気だとは思っていた。

 

「希!そんな簡単に言うけど…」

 

「いけるんじゃないですか?」

 

「波野君まで…」

 

「先輩の協力が不可欠ですが、何としてでもやり遂げますので」

 

「とは言うけれど」

こういうのってやらせたもの勝ちなところあるしと東條先輩をみるとあともう一押しって顔をしている。

 

「うちら3人でむっちゃ大っきいこと達成してみたいやん?」

 

「希…分かったわ、やってやりましょう」

東條先輩の方を見るとやってやった、みたいな顔してた。俺もスイッチが入ったからか気分は上々だ。

 

「資料はこの際作り直しますか、絢瀬先輩が思う存分やりたい放題できるように」

 

「波野君、何言ってるのよ。流石に期間が詰まり過ぎているし私のことは気にしなくていい、あなたの今の資料を見てでも十分言いたいことを伝えられるわ」

 

「俺が満足しないんですよ、最高のものにできるようにしますから」

2人からは何も出てこないようでまたパイプ椅子に座ってパソコンを開く。

 

「…うち今日日直やったから一旦教室戻るわ。1人やったら時間かかるだけやし、エリチも来てくれん?」

 

「?…分かったわ」

そう言って2人は生徒会室を後にした。

俺はどうすれば保守派の先生達を賛成に持っていくことができるか考えていた。あとは、不自然な退出の仕方をした先輩方とか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「希どうしたのよ。あなた今日日直じゃないでしょう」

咄嗟の判断で希の意思を受け取った絵里は困惑しながらも生徒会室から離れたところで真意を問う。

 

「そりゃそうなんやけどな、さっきの波野君ちょっとおかしくなかった?」

 

「おかしかった?」

 

「いや、どちらかというといつもと少し違った。エリチ、人にはそれぞれオーラってのがあってな、その人がどんな人なのかを表す指針になるんよ。例えばオレンジなら明るく元気、青ならクール、物静かとかね」

 

「まぁ、なんとなくイメージはつくけど」

 

「さっきの波野君、途中から何か別のオーラが混ざりこんでいた気がする」

 

「混ざるってそのままの意味よね?」

 

「うん、彼のオーラのイメージは?」

 

「青、紺、藍とかかしら、比較的濃い目の色」

 

「うちもそうやと思った。でもさっきの彼には…」

 

「何が混ざっていたというのよ」

 

 

 

 

 

 

「血のようなそんな色」

 

 

 

 

 

 

 

「…なッ、それは流石に目が利きすぎじゃない?」

 

「これでも少しは濁した表現してる。うちも趣味程度でやってるんやから自信持って言えるわけじゃないけど」

 

「希の占いとかそういう神秘的なものはよく当たるけど…見かけで判断するのも良くないわ」

 

「うん、分かってる。気のせいかもしれんし」

 

「とはいえどこかでその影響が出てこないとも限らない。でも、彼の力がなければ成り立たないし…。気にするべきじゃないかもしれないわ」

 

「…そやね、わざわざ呼んでごめんね」

 

「ううん、気にしないで。何か起こって何も分からないじゃ困るもの。でも一体何がトリガーだったのかしら」

 

「それこそ彼の身近な人に聞けば分かると思うんやけど」

 

「多分ね、あとは私達が踏み込んでいいところなのか」

 

「んーなんとも言えんなぁ。彼が何かしらボロを出すとも思えないし」

 

「それこそ無意識でやられてたらどうしようもないわよ?」

 

「せやなぁ、ほんとどうしよっか」

 

「暫くは何か起こるまで待ちましょう。問題はそれから、やることも多いんだし」

 

「了解、じゃあ戻ろか。なんて言い訳しようか考えものやけど」

 

「そうだったわね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「お疲れ様です、大丈夫でしたか?」

 

「うん、大丈夫大丈夫」

 

「なら良かったです」

何もないなら別にいいかと疑念はスルーしたところ次に絢瀬先輩の質問が来た。

 

「ねぇ波野君、この学校に体育祭を必要とする理由ってなんだと思う?」

それはなんとも言えない質問。ただやりたいからとかそういうのでは隣の芝生は青いってだけだ。じゃあどうすれば納得させることができるのかってなるとやはり…。

 

「ただ無い物ねだりをするわけじゃなくてやっぱり生徒の意見をぶつければいいと思います」

 

「アンケートにコメント欄みたいなのつければいいとか?」

 

「そんな感じです。結果をグラフや表、図にするのは任せてください。確認してもらうことにはなりますが」

 

「ええ、文章は任せてちょうだい」

 

「全然大丈夫そうやね」

 

「油断はできないけどね」

 

「はい、頑張りましょう」

今日はここで解散。あと1週間やれることをやろう。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「では、仕分けをしましょう」

…生徒会室にて、朝礼時に行ったアンケート結果をそれぞれ回収して回ったものを確認していく。

 

 

 

 

 

 

 

「…賛成票がほとんどですね」

 

「そやね、蓋を開けてみればそれほど杞憂するものでもなかったかな」

 

「だからといって反対票を無視することはできないわ、一先ずは全てに目を通しましょう」

 

「はい、なかったことにはしない。異論はありません」

反対意見をあえて書かないことは協議に関して相手に不信感を抱かせる原因になる。少数ながらにその意見を尊重したものにすればより相手を引きつけやすい。対応策があれば尚更のこと。

 

 

 

 

 

いや、違う…!

 

俺はそんな相手の意見を出し抜くような考えをするわけにはいかない。先輩達はそう思ってやっているわけない。

 

 

 

自分達の利益になるように利用するそんなことがあってはならない。生徒の代表であるからこそ平等である必要が…

 

 

 

「波野君?」

 

「…?、どうかしましたか?」

 

「悩みすぎるのも良くないわよ、数日前あなたが言ってくれたわ」

 

「そうですね、すみません」

 

「まぁ頭スッキリさせて考えや」

 

「はい…」

嫌な考えが脳裏を過ぎったが、そんなものは払拭できた。

 

「では、続けるわね。私達はこれまで通り体育祭の開催を推すように進めるわ」

 

「分かっとるよ」

 

「もちろんです、必ず…」

失敗するわけにはいかない、廃校以前にまず絶対に成功させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「このページは丸々全て意見に使おう」

時計は深夜2時を指している。家の中で自室のみに光を点した机にはメモ紙と画面が明るいノートパソコンにひたすらに文字や線が入力されていく。

 

抜粋された文章を出来るだけ脳内に焼き付け素早く打ち込む。静かなタッチ音だけが響く室内は暖房をつけていながらもまだ2月中旬。寒さはそれなりに感じる。

 

「枠を持っていった分次のページもやってしまわないと」

月は既に弧を半分以上描いている。しかし、手は止まる必要を覚えない。

明日1度見てもらって内容の修正をしてもらわなければ。

 

 

 

作業を進めていると新聞配達のバイク音が聞こえる。微かにうちのポストに入る音がし、取りに行こうとも一瞬思うが今は…と椅子から立つことすらしない。

 

進行状況としては特に焦る必要は今のところないのだが、あれもこれもと考えれば考えるほど手をつけたくなる。

全てにおいての可能性を理解した上で進める必要があるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し遅れたな。準備ありがとう」

 

「いえ、前は和也さんにしていただきましたから」

ある日の午前7時、弓道場には2人の姿があった。基本的に2人の場合が多く今日もまた例外ではない。

 

「今日は生徒会で少し用事があるから遅れる」

 

「分かりました、連絡しておきます」

 

「ありがとう。…どうかしたか?」

 

「いえ、ただ少し顔色が優れないなと思いまして」

朝あまり鏡を見る時間がなかったからか見落としていたが、射形の確認用の大きな鏡の側まで行くと、確かに顔は青白く、目の隈もいつもより酷い気がした。

 

「そうだな」

 

「無理しない範囲で留めておいてくださいね」

 

「今日を越えれば比較的落ち着くと思うから」

 

「その言い方大丈夫なんですか?」

 

「ああ、どうにかなるようには頑張る」

多分いつもより反応が悪いのも普通に感じてそうだ。流石に寝不足が祟ってきた感じはあるもののまだ体は動くし、頭も思ったよりスッキリはしている。

 

「本当に大丈夫なのでしょうか…」

 

「気持ちは貰っておくよ」

 

「…明日の朝練は無しにしましょう。いいですね?」

 

「…はい」

いつもより低い声が無音の道場に静かに響いた。何かが取り憑いたような姿で少し下を向いているからか目元は見えないがとんでもない恐ろしい片鱗を見た気がした。

 

「さぁ、引きましょう。いつもより時間もありませんから」

 

「あ、うん」

いつのまにか射場に入っていた園田に呆然としながらも俺は俺で弓を手に持った。

ふと、彼女の射が目に入り手を止める。入学当時から試行錯誤を繰り返して今の射が生まれた。何にも左右されることのないあの瞳が、身体の隅々まで力が込められて一体となった姿が美しいのは俺が園田を最初に見た時となんら変わりはない。今までの生きてきた中での数少ないターニングポイントの1つで、当の本人にとってはそんなこと思ってもいないのだろう。

 

瞼を閉じ数秒が過ぎた時、優しく静かに弦音が響く。刹那、的を射抜き破裂音が響く。

 

「俺も行くか」

よく一手と言われるが矢を2本持ち、出入りを交代するように射場に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は変わり生徒会室にて最後の調整をしていた。

 

 

 

「本当によくこんな資料作ってくるもんだわ…」

 

「うちも正直予想以上やわ。これだけあれば流石になんとでもなるやろ」

 

「…一先ずはどうにかなりました。まぁわざと手を抜いた部分もありますので」

 

「質問された部分は波野君が受け持ってくれると?」

 

「ええ、もちろんです。ぶっ潰してやりますので」

 

「随分と頼もしいやん」

 

「この資料を作ったのは自分ですから」

 

「これ以上はないわね」

全員が1発勝負にも関わらず自信に溢れていた。学校にとって行事が1つ増えることは全てにおいて変化が起きる。その中で生徒の意思を伝え、いかに振り切れるか。

全ては俺と先輩達に託されている。だからやりがいがある。やってみせるのだ。

 

 

 

 

「行きましょう」

 

「うん」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…が今回の概要となります」

絢瀬先輩がまず大まかな内容を伝えていく。冷静ながらも強い気持ちが溢れているからこそ、彼女と関わりの深い先生はまず大丈夫だろう。

 

「質問があれば答えさせていただきます」

 

「じゃあ1つ質問させてもらうね」

 

「はい、お願いします」

 

「君達がこういった大々的に行動を起こした理由を説明してほしい」

 

「…まずきっかけとしては意見箱に意見として寄せられたことに起因します。私個人としても中学時代の友人10人程度に聞きましたがほとんどがメインの行事として成り立っていると分かりました。

そこで、生徒会は生徒に対して面白く、盛り上がる行事の1つであるべきだと考えたためこのような場を用意していただく運びになりました」

 

「そうか、ありがとう」

その後の質問の波にも丁寧な回答が続き、次第に流れは止まった。

 

 

 

 

「…では、生徒会からのプレゼンを終わらせていただきます、ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分は少し話があるようなので先に戻っておいてください」

 

「分かったわ、パソコンとか持って行かなくて大丈夫?」

 

「構いません、自分が持っておきます」

 

「じゃあ一先ずはお先に」

 

「はい、また後で寄ります」

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえずお疲れ様とこれを」

 

「いいんですか、先生」

話というのは担任とだ。誰もいない教室に戻り自分の机の上に座るものの何も口出しをされることはない。ビニール袋ごと飲料3本を手渡されたのは担任だからこそと言えると思う。

 

「ああ、もちろん。あれほどに気持ちをぶつけられると確定だろう」

 

「いい意味でですか?」

 

「当然だ。元々南理事長も生徒会側ではあったし、あれだけ徹底的にリークされると元々反対していた先生もどうにもならん」

 

「その甲斐がありました、こちらの作戦の範疇です」

理事長がこちらの味方だった…?

まぁいい、こちらとしては好都合だ。今回も理事長が場を作って下さらなければどうにもならなかった節はある。

 

「なんだと?あと、この資料は誰が作った?」

会議で配られた資料を机から取り出して見せつけられるが、俺の口角が上がったことは夕陽によって見えないらしい。

 

「自分です。もちろんですが先輩方と話を固めた上で自分が完成させただけです」

 

「本当に言っているのか?」

 

「別にここでデータを見せても構いませんよ?手元にパソコンありますから」

 

「…疑う余地はなさそうだな。全くお前には驚かされるばかりだ」

 

「いえ、ただやろうと思ったことに全力を尽くそうとしただけです」

 

「その結果が作戦ぶっぱなして大成功と。1組の先生が言ってたぞ、『芯の通った大した奴だな、あの2人が仲良くする意味も分かる』ってよ」

あいつらが日頃何を話しているのか少し焦りは感じたものの、いい意味でならと無理やり押し込めた。

 

「有り難い限りです。では、失礼致します」

 

「あーそうだ、最後に1つだけ」

 

「はい」

 

「お前、一旦休んだ方がいいぞ」

 

「…そういうことですか」

 

「会議中は目立たなかったが青白い顔とクマもひどい、お前相当無理してたんじゃないのか」

 

「…平気です。失礼します」

 

 

 

「全く、信用に値しないもんだな。そんな状態じゃ人に迷惑かけるだけだってのに」

担任の独り言が冷えた教室に静かに消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2月14日、おそらくはチョコが1年で最も行き交う日。しかし、朝からいつもは何事も無い様子でいる彼が机に突っ伏し反応が無い様子をクラスメイトは不審に思っていた。

 

「あいつ今日どうしたんだ?」

 

「分かんねぇな、変に起こしちまうのもかわいそうな気がするし、そのままにしておこう」

 

「おはようございます」

そんな時教室に現れたのは園田海未。今日も朝練を終えて余裕を持った状態で着いたのだが、顔は不安げだった。

 

「おはよう、海未ちゃん。今日も朝練?の割には早かったけど」

 

「はい、ですが和也さんが珍しく来なかったので様子の確認も兼ねて早めに切り上げました」

海未は朝学校に着く前に珍しく彼が朝練を休むという連絡を入れてきたことに不安を感じていた。体調が悪いとかそれといった文章は何1つ書かれておらず、触れることができないでいたのだが、

 

「波野君学校に来てから直ぐに机に突っ伏しちゃって、ね?」

 

「おう、いつもしれっとしてるくせに今日はどうしたんだって、さっきまで話してたところ」

 

「そうですか…また起きた時にでも聞いてみます」

 

「また教えてくれや」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

「流石におかしすぎます…」

授業中も周りから見れば多分私らしくないことは承知の上ですが、和也さんを様子を伺っていました。彼は授業中はなんとか板書を取り続けていたようです。しかし、授業が終わるとすぐに机に突っ伏し、力なくだらんとしているのです。それを全部の授業でやられるのですから流石に焦りも出てきます。途中どうしたのかと聞こうとは思いましたが、前述の通り授業中しか起きておらず私とは席が離れているためどうにもなりませんでした。

 

「どうしたんだ園田、珍しく悩み込んで」

 

「先生、今日の和也さんについて何か知りませんか?」

すると、分かりやすそうに顔をしかめて溜め息をつく。

 

「休めよとは昨日の段階で言っていたんだがな。どうも何も聞いちゃいないとはねぇ。まぁ園田はあいつの女房役みたいなところあるし、部活連れて行くなら連れて行くで任せるけど」

 

「にょ、女房役とかななな、何言い出すんですか!」

 

「まあまあ焦りなさんなって、いちいち可愛いやつだな」

 

「なッ!!!」

面白そうに笑う先生に恥ずかしさと怒りが混じったような真っ赤な顔をした園田が文句を言おうとしたところ。

 

「ほら、こんな話しているうちにあいつ起きたみたいだぞ」

ゆっくりと立ち上がった和也は鞄に教科書やらを詰めていき、肩に掛けて教室を直ぐに後にする。

 

「え、ちょっと待ってください、失礼します」

 

「おう、部活頑張ってこいよ。あと波野に何かあればまずはお前が側にいてやってくれ」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部活中はいつもと同じ…」

部活が終わり更衣をしている園田は部活中に関してはいつも通りの動きをしている彼に疑問を抱いていた。

流石に勉強があのような状態で部活が平気なわけがないと順々に服を体に重ねていくうちに何か彼の中でよくないことが起こっているのではないかと不安になる。

 

「海未ちゃん…静止してどうしたのかしら!」

 

「ヒッ、何をやって…」

目線を下にすると両手が胸に伸びて来ていることが理解し咄嗟に離れる。

 

「あーまた、人の胸触ろうとして!」

 

「げ、この声は」

 

「あんたまたやったのね!しかも後輩に」

キョトンとしていると現れたのは手の形がそのまま残った先輩の頭に1撃かましたところの岡城先輩。

 

「ちょ、ちょっとくらい」

 

「ちょっととかそういう問題じゃない!海未ちゃん大丈夫?」

 

「ええ、なんとかなっていますが」

 

「この子意外と反応早かったなぁ」

 

「反省してない様子だね。海未ちゃん、先に帰っといていいよ。こいつ絞めてから帰るから」

 

「わ、分かりました。あとお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

更衣室を後にした園田は先に出て帰路に向いた和也を見たが、練習中とは比べ物にならないほどに動きがゆっくりでふらふらとしていた。

 

「和也さん!」

聞こえているのかはたまた後ろを向く気力がないのかは分からないがこのままほっておくわけにもいかないのは確かだった。

 

急いで追いかけて彼の手を掴む。既に場所は校舎内に移っておりあとは靴箱で履き替えるだけなのだが、彼を掴んだ瞬間に微動だに動かなくなった。

 

顔の様子は髪でイマイチ目元が分かりにくいものの、顔色は悪い。どうしようかと思っていたところ…。

 

「ごめ…ん」

今日初めて話した言葉は力のないもので、突然力がスッと抜けた和也を無理やり受け止めた海未はそのまま強引に体を下ろし座った状態で彼を受け止めることに成功する。

彼は最後の力なのか私に対して負荷を掛けるのではなく、あくまでも直ぐに座ろうとしてくれたため、一緒に倒れ込むようなことはなかった。

しかし、その後はがくんと頭が肩に乗って動きがなく、軽く揺さぶって声を掛けても動きがない。

 

 

 

 

 

そんな彼女の声を聞きつけたのか担任と警備員が現れたのは数分後のことだった。

 

 

 

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます。

前回の投稿で誕生日を祝い忘れたりとドタバタし過ぎで流石にやらかしたなぁと思いました(笑)
今年ももう半年近く、今更ですが令和初投稿でもありましたね。元号が令和のうちには流石に完結すると思いますが…。

次話は激甘と激シリアスの二律背反展開の予定でございますので出来るだけ早めに投稿できればと思います。書き溜めの分もありますしね。



最後にjenwarkさん、N.S.D.Qさん、☆シユウ☆さん、光の王エレノアさん、あかり4さん、長瀬楓さん、拓留.Dさん、ぐんさん、街を笑うサボテンさん、DAIKINさん、KoKeShiさん、プラウダさんお気に入り登録ありがとうございます。

追記、お気に入り登録に関してですが投稿の際には確認を徹底しておりますが名前の空白などによって別名で分けて投稿してしまうことがありましたので謝罪致します。過去作については随時編集し、訂正させていただきます。

私自身こうして自分の小説を評価(別観点ではありますが)していただいた結果と受け止めてこれからも執筆に取り組んでいきます。読者の皆様のひと時の休息となればと思っておりますので確認などを今まで以上に行っていきます。また、何かおかしな点は当者が気になる場合はお手数ですが連絡のほどをよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。