──ある男の話をしよう。
宛もない旅をする男がいた。
お金もない、家もない、家族もいないその男は渇望していた。
だが、ないものだらけの男は何を渇望しているのか解らなかった。
男は己が望みを知るための旅に出た。
草原を歩き、海を渡り、炎天下の砂漠を一人さ迷い、極寒の雪原をひとり進む。
歩く度に、その渇望は強くなるのに何が欲しいのかわからない。
男は、やがて歩き疲れて動けなくなった。
腹は減るし、喉も渇いた。
なのに違う。男が欲しいものではない。
男はこのままいっそ見つからないなら死ぬべきかと考えた時
通りすがりの旅芸人の一座の少女が彼に水筒の水を分けてくれた。
その水を飲み干した男はやっと自分が欲しかったものに気がついた。
彼は─────
「…ムーンセルシステム…ですか?」
戸惑いぎみな高橋女史に文月学園学園長・藤堂カヲルは真面目に頷いた。
「そうさね。文科省のお達しでね、今年度から導入されるシステムだ。」|
「…それは一体。」
「分かりやすく言うと、従来の召喚獣に助っ人キャラが新に付随する。この助っ人キャラはサーヴァントという。ムーンセルシステムは、そのサーヴァントの召喚システムさね。」
「っ…あの、学園長。どうしてそんな助っ人キャラの必要性が?」
「試験召喚獣はあくまでも生徒の学力に基づいて作られたものだ。学生達はその召喚獣を使い試召戦争に勝つため、日夜勉強に励んでいる者も多い。ただ、ゲーム感覚で勉強をして、下の人間を嘲笑し、侮る傾向が生まれつつある。それは果たして将来的にそのまま成長したらどうなのだろうかと言う疑問視する声が出てきたんだよ。」
「それは…。」
「要は学力《アビリティ》だけを重視しすぎず、精神的《メンタル》な部分も配慮しろって事だよ。で、新に導入されるムーンセルシステムは人間の精神、真相心理を数値化した…いわばRPGで言うMP《マジックポイント》を精製する機能がある。これにより、生徒及び教師は己の精神状態を各自確認できる。ただ、それだけでは意味がないので従来の召喚獣のシステムと併用できるように、助っ人キャラと言う名目でサーヴァントと言う新たなサポート召喚獣を作ったのさ。
」
「すなわち、従来の召喚獣とは別の召喚獣を呼べるわけですね」
高橋女史も漸く把握したのか、なるほど頷く
「いや、ムーンセルシステム開発責任者のトワイス・H・ピースマン曰く、精神力が強く、純粋な人間に至っては学力が低くてもサーヴァントを複数召喚する可能性もあるんだと。まあ、やっかいこの上ないが。サーヴァントの強さは生徒の心のパラメーターをかねており従来の召喚獣とは違い、心の強さで変わるからねまあ、頭が良くても精神的にダメダメなら意味がないと学力至上主義の生徒の鼻を折る目的もある。」
「ですが、それでは生徒達の学業意欲が削がれてしまうのでは。?」
確かに、サーヴァントが強ければ召喚獣の意味が無くなってしまうし勉強の意欲もなくなる。
「そ、だからサーヴァントは召喚獣が必殺技ゲージが満タンにならないと戦闘に参加できない作りになっている。ほら、どっかのゲームだと必殺技ゲージを溜めないと秘奥技がでないだろう?あれと同じさ。サーヴァントの召喚はいわば一撃必殺技。果たしてゲージを溜めるまで有利なのはどちらだ?」
「点数が多い方…ですね。」
「そういうこった。ただ、これは点数が低いものにも下克上も可能だという事は忘れるなよ。ガキ共の驕りを糺し、健全な精神の成長も見るのもあたしら教師の腕にかかっているからね。ああ、いい忘れたが、来月の中間テスト後にムーンセルの心理計測用の心理テストを皆に配布、提出させるように。」
「はい。」
学園長と、高橋女史は互いに顔を見合せ不意にそらした。
彼女達の脳裏に一人の少年が浮かび上がったが、嫌な予感がはしり、慌てて頭から振り払う。
「まあ、今さら気にしてもしようがない。なるようになるさ」
その言葉に高橋女史は一抹の不安を抱いたのだった。