バカとテストとお月様   作:酉野笹実

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狂った亡霊

(ここはどこだろう…。)

 

暖かくもなく冷たくもない、羊水のような紺碧の海の中を落ちていく。

 

寄る岸もなく、さ迷うように沈んでいく。はたして、今は、朝なのか昼なのか夜なのか。

 

「ようこそ、虚数の海へ。」

 

 

突然の人の声にハッとして顔をあげると、いつの間にか明久は見知らぬ場所に立っていた。

 

一面の蓮池の中央に、ルービックキューブみたいな巨大な箱が横たわっていた。

 

 

「だ、誰?」

 

「怯えなくともいい、私は君を害すつもりはないよ。新米魔術師(ウィザード)くん

 

かつかつと音をたてながら歩み寄る足音に振り向くと、一人のさえない男が立っていた。

 

見た限り害がなさそうな男だが、雰囲気がちがうと明久は身構えたまま男を見据える。

 

「ふむ。信じてはくれなさそうだ。ならば、自己紹介でもしようか。私はトワイス・H ・ピースマン。この、ムーンセルシステムの開発者だよ。」

 

「ムーンセルシステムって、サーヴァントの召喚プログラムの?」

 

「そうだね。サーヴァントの召喚プログラムはムーンセルシステムの一部であり、この世界でいう精神計測システムが相当する。」

 

「この世界?」

 

「ああ、失礼したね。私の本体は今、違う場所にいる。夢で君と交信している状況かな」

 

「え!?じゃあ、トワイスさんが僕の夢の中に居るってこと?」

 

「逆だよ。君が私の夢の中にいるんだ。さしずめ、腕輪は回線みたいなもので、君は無自覚で私の夢に迷い込んでいるんだよ。」

 

「え、うぇええええ!?」

 

「実に興味深いね。君は」

 

 そこまで言うとトワイスは肩をすくめる。

 

 

「君たちの学校にムーンセルシステムを提供したのは、あくまでこれから起こる戦いのデータを取るためだった。独自の召喚システムをもつ文月学園の生徒を魔術師に見立てて、与えられた条件でどこまで戦えるか、私は観測したかっただけだったのに、突然君というイレギュラーが生まれてしまったのは、楽しい誤算だったがね。」

 

 

「え?どういうこと?トワイスさんはえーと、僕たちで実験していた…ってこと?誤算って何?」

 

「そうだね、でもシステム自体は君たちの世界の役人の意向に沿って、非殺傷指定しているし、人体や精神には影響がないように構築したから機能には問題はないよ。

 

 ただ、そのシステムに大きなバグができた。それが君だ。」

 

 

「ぼ、ぼく!?」

 

「わかりやすく言うと、君は偽物を本物にしてしまったんだ。科学という現実に、魔法という仮想現実を構築してしまった。私が作った観測システムの規制を上回る奇蹟を体現した。君はわかっているのか?君は今、幾多の聖人と呼ばれた人間たちの偉業と同じことをしたのだよ。

 

 馬鹿となんとかは紙一重だというが。本当に君は素晴らしい。まさか…君が」

 

「そこまでにしておけよ、観測者。」

 

「「!」」

 

滔々と語っていたトワイスに冷や水を被せるような声に、明久とトワイスは驚いて振り向くと、

見知らぬ男が立っていた。

 

金色の髪にピジョンブラッドの瞳、金色の鎧と深紅の布飾りを纏う見目麗しい男が立っていた。

 

 

「…王子様っていうか…王様?」

 

「ほう、脳が抜けた雑種(マスター)かと思ったが、(オレ)の本質を見抜いたか。しかし、(オレ)を差し置いてあの太陽の騎士を先に呼んだのはいただけんな。」

 

そこまで言うと男は優雅に片腕をあげる。その瞬間、金色の光が広がり、男の背後の空間に数多くの武器が顕れる。

 

その凄絶な光景に絶句する明久をよそに、トワイスは目を細めた。

 

「随分と、物騒だねこの世界の英雄王ギルガメッシュ。」

 

「そろそろ、コレを還さねばならんからな。これ以上、異なる世界の貴様が干渉することは裁定者たる(オレ)が赦さん。二度とコレとの接触をしようとするならば、我が宝物の餌食になると思え」

 

 

「…大事な玩具を取り上げられた子供の論理だね。大した保護者ぶりだな英雄王」

 

「その無礼、一度しか赦さんぞ狂った亡霊(レイス)(オレ)は寛容だからな。」

 

 

「えー、と、その?」

 

 

戸惑う明久にギルガメッシュは一瞥を向けると、背後に浮かんでいる宝具をトワイスと明久の間の地面に突き立てる。

 

その瞬間、明久の足元が崩壊し、明久の体は重力に引かれるように落下した。

 

 

「うわああああ?!」

 

「喚くな雑種。帰還するぞ。」

 

「ちょっ!帰還て何!?」

 

「さようなら、明久君。そちらの世界の私によろしく。」

 

 

奈落に落ちていく明久は、明久の後を追って落ちてきた金ぴかの王様に肩に担がれたところで途絶えた。

 

 

 

 

****

 

「ふがっふ!?」

 

 

水中から酸素を求めるような肺の動きに、明久は眼を醒ますといつもの自分の部屋だった。

 

 

「あれ…?」

 

「起きたか雑種。」

 

「!?」

 

嘲るような男の声に明久はギョッと体を起こすと、現代風の服を着た金色の王様が明久を見下ろしている。

 

「狭い犬小屋よな。手狭で小汚なく、実にみすぼらしい。まあ、垢抜けぬ雑種の仔犬には似合いだな」

 

散々な評価を下す王様に明久は慌ててベットから起き上がった。

 

 

「て、どなたぁああ!?」

 

「…昨夜、夢の中でこの我直々に保護してやったというに、忘れただと?度しがたい阿呆、いや、馬鹿だな貴様。3時間と48分30秒前の記憶すら覚えられんとは、嘆かわしいにも程があるぞ?」

 

「なんか、蔑まれてるし!…って、もしかして昨日夢に出てきた…金ぴかの王 様?」

 

 

ようやく、昨晩夢に出てきた金ぴか鎧の青年と目の前のファンキーな兄ちゃんが合致したのか、明久は口をパクパクとさせている。

 

その驚きよう、に、男は哀れに感じたのか、はたまた金魚みたいな明久の顔が面白かったのか、機嫌良さそうな笑みを浮かべる。

 

 

「いかにも、我は絶対にして始まりの王、英雄の中の英雄王ギルガメッシュ。故に貴様もそう呼ぶがよい。」

 

「あ、はい。僕は吉井明久です。って、あれ?夢の中にいた人がなんで僕の部屋にいるの??」

 

 

そう、明久が聞き返すと、英雄王は呆れた表情を浮かべ、充電器に充電されていた明久の携帯電話を明久に投げ渡した。

 

 

「そのような些末な雑事、王たる我のする事ではない。語り手は語り手に。幸い貴様のサーヴァントにおあつらえ向きな奴がいる。精々、馬鹿でもわかるよう語らせるのだな。」

 

そう言うと、ギルガメッシュは明久に背を向けてその姿を音もなく消した。

 

 

「え、えーと」

 

明久は途方に暮れながら、携帯に視線を落とした。

 

【2年 Fクラス 吉井明久】

 

・ mental point 7000p

 

 

 

契約

 

・剣兵1  800

・騎兵  800

・ギルガメッシュ  

・槍兵  400

・剣兵2  500

・弓兵2  500

・魔術師1 500

・ガウェイン

・暗殺者  500

・魔術師2  100

・狂戦士1  700

・狂戦士2  800

 

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