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中国、深山幽谷。霧の濃い山岳地帯、険しい岩山が来る者を拒む。ここに、古より影として蠢く一族がいる。
「当主、客人だ」
「ほう。我等、曹一族の住処を嗅ぎ付け、そのうえ乗り込んでくとは驚きだ」
「ごほっ」と咳払い一つ。当主と呼ばれる老人は皺の多い、しかし鋭い眼で依頼に来たであろう客人を見る。
「客人の主から手紙を持ってきたと言っている」
「どれ・・・」
日本、神奈川県。川神市。
そこに通う、とある男子学生こそ
君達の求めていた人材である。
その名は直江大和。
詳細は手紙を持って行った私の秘書に聞いてほしい。
---------《M》
「M?それで名乗っているつもりとは無礼すぎて面白い・・・。興味が湧いた。その客人・・・連れてこいや・・・史文恭」
「了解だ、当主」
気取らせず、しかし確実に、影で闇が蠢いた。
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「んーーーー!ここが川神か!」
長旅に疲れたのか史進がグッと体を伸ばした。しかし・・・胸は・・・張らない。
中国から日本国川神まで、近いようで遠い。特に武闘派の史進は早く体を動かしたかったのだろう。
「人がいっぱいだ・・・。あ、あのシュークリームおいしそう」
周囲をもの珍しそうに見渡す武松。
「おー!流石オタクの国!あちこち面白そうな店ばっかじゃん!」
引きこもり魂に火がついたのか、目を輝かせる公孫勝。
「三人とも。今回は任務として来たんだ。あまり気を抜かないように」
はしゃぐ三人をなだめる林冲。
「そうだぜ、三バカ。《一応》、任務中のリーダーは林冲なんだから。《一応》リーダーの言うことは聞かなくちゃ」
「うぅ・・・。なんで一応をつけるんだ」
あくまでいつも通りに林冲をイジル曹正。
「みんな浮かれちゃってるな(人がいっぱい・・・パンツもいっぱい。ふふふ)」
こちらもあくまでいつも通りの楊志。
六者六様ではあるが、それぞれが川神に来たことを実感していた。
「ごほん、気を取り直して。任務内容を再確認するぞ」
「ブショーブショー。シュークリームやるから倒立して」
「ほっ」(タッ
「先輩に芸をしつけんな。ブショーもやんなよ」
「に、任務内容を・・・」
「うっ・・・発作が!?パンツキメないと!・・・すーはー!すーはー!」
「それわっちのパンツじゃんか!返せ変態!」
「うぅ・・・。助けて曹正。誰も私の話を聞いてくれない・・・」
「メンタルが脆すぎるよ・・・林冲」
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「ご、ごほん。改めて任務内容の再確認だ」
「「「はーい」」」
「今回の任務は護衛だ。難易度は天」
「無駄に難易度高いよねー。最高難易度じゃん。せいぜい特とかじゃないのー?」
「ここ川神は川神院と武神、さらに九鬼の本拠地がある場所だぞ。連中を刺激しないように任務を遂行する必要がある」
公孫勝の問いに林冲は答えた。
川神院。日本で武を磨く者ならば知らないものはいない武術院であり、関東三山の一つとして数えられる。日本最大の組織規模を誇り、その名を世界に轟かせている。さらに川神には九鬼財閥の第一拠点が存在している。九鬼の擁する従者部隊、そして川神院。闇に生きる者にとって川神での稼業は難しく。川神の治安は常にこの二者によって保たれていた。
いや、川神を語る上でなにより特筆すべきは・・・
「武神・・・」
「おーい、曹正。バーサーカーが顔に出てるぞ」
「おっと、すまん。って誰が狂戦士だ!」
史進に諭され我に返る曹正。顔を戻そうとしてもその名を聞いただけでにやけてしまう自分に気づく。
武神、川神百代。拳法家として、いや人として別次元の強さを誇る最強の女子高生である。その力は最早自然現象の一つとされ、人でありながら神の名を冠す唯一無二の存在である。
(出来ることなら一戦交えてみたいものだが・・・)
「って考えてるでしょ曹正。でもダメだよ。今回は護衛任務なんだから」
「楊志君は人の心を勝手に読むんじゃありません」
「続きを話そう。護衛対象は直江大和。彼を曹一族から護衛する。これは首領の宋江直々の命令だ」
「直江大和ねぇ。写真を見る限り、大物には見えないけど」
楊志の手にする写真を見せてもらう。そこに写るのはどにでもいそうな一般の男子学生だった。たしかに、見た目的には曹一族が狙うほどの人材ではないように思われる。
林冲はさらに続ける。
「だが宋江によると彼は、蘆俊義の資質があるという話だ」
「ほう、蘆俊義か。長らく欠番だった役職じゃんか。確か、資質は武士娘の管理・・・だったか?」
「そうだ曹正」
梁山泊における108星はそれぞれが特有の資質、または資質に適した異能を有している。それは彼女等の前世であり宿命である。
「曹一族も同じ理由で彼を狙っているわけだな」
「うん。だから彼を曹一族に取られないように護衛しつつ、蘆俊義の資質があるかどうか見極める」
仮に曹一族に管理能力の優れた人材が渡れば梁山泊にとって脅威となる。しかし、梁山泊に引き込めれば戦力の上昇に繋がる。
「シンプルでわっち好みの任務だ」
「護衛とか面倒だから、その直江大和ってのデストロイしたら?」
いかにも公孫勝らしい意見が公孫勝から出てきた。敵に渡るくらいならいっそ・・・。という話だろう。
「いや、直江大和はあの武神と姉弟の盃を交わしているようだ。武神、ひいては川神院。最悪の場合は九鬼財閥まで出張ってくるかもしれない。そんな連中、任務でもないのに敵に回したくない」
「そっか、それこそ面倒だね」
「難易度天がわかる話になってきたな」
「!」
ここでパッ・・・史進が何か思いついたような顔をした。
「あ!パッドがなにか思いついたような顔してる」
「おい、今パッドって言ったかマサルゥ?」
「ひはい!ひへらないへ!!」
恐らく「痛い!つねらないで!!」と言ったのだろう。口走らなくて良かったと曹正は安堵した。
「曹一族の連中に直江大和襲わせて、武神に連中をやっつけてもらおうぜ!」
「いや、曹一族も゛それなりの刺客゛を向かわせたとのことだ。痕跡は残さないだろう」
「ちぇ、いい作戦だとおもったのになー」
「ふふーん。パッドの悪巧み失敗って・・・ひはい!ひはい!」
「さしあたって我々は直江大和の在籍する川神学園に生徒として潜入し、直江大和を護衛する」
「生徒ねぇ・・・」
「不満か?曹正」
「いや、林冲。お前に任せるよ」
「よし、決まりだな。明日から転入だから、今日は・・・」
「川神のおいしいご飯が食べたい」
と武松が一言。緊張感があるのかないのか。若き傭兵集団は川神での活動を開始した。
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(どうしてこうなった・・・)
腰に巻いたタオル一枚、曹正は岩陰に隠れながら思う。ここはホテルの露天風呂。
「ブショー!髪洗ってー!」
「うん」
「いいなぁ、林冲の髪は綺麗で」
「そんなことない。楊志だって綺麗だぞ」
「くっ・・・」
「バスタオルで胸隠すなってのパッド~。うりうり~」
「ひゃぁ!や、やめろってのマサル」
「いいじゃん、私たちだけなんだし」
「そうだぞ九紋龍。裸の付き合いをしよう」
「ブ、武松まで・・・!ひゃん!?」
乙女たちの楽しむ声を聴きつつ思う。
(どうしてこうなった・・・)
曹正はことの発端を思い返してみた。
武松の提案で川神グルメを堪能した梁山泊の面々は、夜遅くになって宿泊先のホテルにチェックインした。曹正だけが男子なので一人部屋だったが、むしろ気軽だったのでそこはよかった。
問題はそのあとだった。慣れない土地のせいもあって寝つけなかった曹正はホテルの目玉でもあった露天風呂に入ることにした。ここでえろげー主人公であるなら男湯女湯を間違えてラッキースケベ。その後××という展開になるだろうが、
(いや、ふつうそんなミス起こらないし)
と見事にフラグを壊し、男湯に入った。誰もいない露天風呂はある種の貸切のようで、しかし寂しいようで不思議な感覚がした。しかし、ここからそんな寂しさなど吹き飛ばす事態が発生する。
(さて、そろそろ上がろうか)
曹正が立ち上がろうとしたその時・・・
「おー!ここが露天風呂か。広いなぁ」
「入雲龍、走ってはいけない」
(!?)
静寂を掻き消すように聞きなれた声がズカズカと入ってきた。ここは風呂場。当然、それに適した格好なわけで。当然、健全な男子としては目のやり場に困るわけで。
(な、なぜだ!?ここは男湯のはず!なのに奴らはどうして!?)
曹正は慌てて近場の岩場に身を隠した。ばれては・・・いないようだ。
「いやー、それにしても女湯が清掃中って参ったよねー」
(!?!?)
「まあでも、支配人さんがこの時間は男湯を使えって言ってたしこれでいいっしょ」
(支配人!いらないサービスだよ!)
女子が入ってきた瞬間であれば上手くして状況を打開できたのかもしれないが、最早機を逃してしまった。ここで見つかったら・・・万が一、見つかりでもしたら・・・。
(死ぬッ!確実に殺される!)
こうなっては曹正に残された道は一つ。
(絶対に気づかれずに隠れ通すこと!気配を殺し、気を抑えるッ!)
傭兵としての基本スキル。まさか、こんなところで使うことになるとは。
「林冲ってば肌も綺麗だよねぇ」
「ちょっ!楊志!どこ触ってるんだ!」
(気配を殺し・・・)
「ほら、こことか♪」
「や、やめ、楊志・・・きゃっ!」
(気を抑える・・・)
「ふふふ、ここはどうかな?」
「こ、こら、いいかげんに・・・くぅっ」
(気を・・・)
「ほらぁ♪」
「あん♥」
(ッッッッ!!!!)
「はっ!誰だ!?」
一瞬の気の乱れを感づかれてしまう。
(まずい、ばれたか!?)
「どーしたの林冲?」
「そこの岩陰、だれかいる!」
「なに!刺客か!」
声を聞きつけすぐさま武松が飛んできた。すぐにでも攻撃してくるだろう。曹正は周りを見る。
(どうする!?なにか、なにかないのか!?この危機的状況を打破できるような《なにか》が!・・・!あれだ!)
見つけたのは従業員用の出入り口。あれで外へ出られる。位置的にも今自分がいる場所から近い。
(ここしかない!)
そう考えた時には体が動いていた。こんな状況でも梁山泊108星。機敏に対応していた。
「逃がすか!くらえ、烈火球!!」
しかし、少女もまた梁山泊。すぐに火球で追撃してきた。
「ふっ!」
寸のところで火球を躱す。しかし、火球に気を取られすぎたのか目の前の人物に気づかずにぶつかってしまった。
「きゃっ」
ドンッ!と音を立て押し倒してしまう。それに何やら顔に柔らかい感触が。
(ん?今の声は史進か?こ、こんな女の子らしい声も出るんだ)
少しだけドキッとしてしまったが、今はそれどころではない。逃げなければ。
「ごめん、史進。《背中》にぶつかってしまった。怪我はないか?」
一瞬、史進が《なにかに》ピクリと反応した気がした。しかし構っている余裕はない。逃げなければ。
「よし、もう少しで出口だ!」
体勢を立て直す。希望の扉まであと少し。しかし・・・
「ん?」(グッ
手首をかなり強く掴まれる。振りほどけないほどに・・・
「そこは・・・」
「史進?」
「そこは・・・だ」
「し、史進さん!?」
「そこはわっちの胸だぁぁあああああ!!!」
「待て!史進!」
「!?」
「意外と柔らかかったぞ!ありがとう」
「きめぇ!死ね!」
「ぐはぁっ!!!」
恐らく、史進の全力を乗せたであろう拳が鳩尾に炸裂した。梁山泊きってのパワーを誇る彼女の一撃は曹正の意識を簡単に刈り取ってしまった。
その後、どうにかして誤解を解いた曹正だったが、しばらくの間女子たち(特に史進)には頭が上がらなかったとか。
次回から、風間ファミリーや他のキャラクターも出ると思います。たぶん・・・