我輩は憲兵である   作:赤狼一号

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【憲兵隊】
陸海軍の軍律違反を取り締まる内務省直轄の組織。
人員は陸海軍および警察から選抜される。

【海軍特別警察隊】
 艦娘という戦力を個人で擁する「提督」および「鎮守府」を特に取り締まる組織
反乱の防止及び軍律違反の取締りを主な任務とし、
通常の憲兵隊に加えて「提督」の中でも陸海軍に正規で所属しているものから選抜された所謂「憲兵提督」と後述の北支那特別警備隊の生残りからなる。

[北支那特別警備隊」
 憲兵隊司令部内に秘密裏に創設された特殊任務部隊。
陸海軍・警察から志願者から選抜して創設された10大隊を基幹として編成
艦娘出現以前の深海凄艦との戦闘において、通常兵器での撃破が困難との結論から
各特務機関による人道を無視した強化措置を施こされた文字通りの実験部隊。

 出撃之特攻と言わしむほどの甚大な被害を出しながら、
艦娘出現まで陸上侵攻を押しとどめた。
度重なる改良により艦娘を凌駕する戦闘力を誇るが、非人道的な改造処置に
よる副作用や甚大な養成コストの関係で艦娘と民間徴用の「提督」の増加を受けて
その命令不服従や反乱の危険に対抗する手段として海軍特別警察隊に吸収される。



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 我輩は憲兵である。名前はもうない

 それ以前に何であったかとんと見当がつかぬ。薄暗い寒々とした寝台からは、解剖され標本のように貼り付けにされた何かが見えた事だけは記憶している。

 

 吾輩はここで始めて深海凄艦というものを見た。しかもあとで聞くとそれは人類が出会った中で一番獰悪な種族であったそうだ。この深海凄艦というのは深き水底から我々を攻め立て殺すという話である。

 

 しかしその当時は何も分かるらぬばかりであるから、別段恐しいとも憎らしいとも思わなかった。ただ腹の底からを、何とも言えぬこみ上げる感じがあったばかりである。

 

 少し落ちついて深海凄艦の顔を見たのがいわゆる深海凄艦というものの見始めであろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。

 第一角やら仮面やらで妙に装飾された顔は青白くてまるで冬空の月だ。つまり言うならば、人に似た形をしていながら人ならざるとはっきりと分かる。その後、我らが「北支那特別警備隊」に属する他のご同輩にもだいぶ逢ったが存外こんな片輪ばかりであった。

 のみならず面相があまりに殺伐としている。そうして時々目が合えば、なんとも言えぬ哀れむような目を向けてくる。どうも湿っぽくて実に弱った。これが人の言うところの「同病相哀れむ」である事はその後知った。

 この深海凄艦どもをぼーっと見物しておったが、しばらくすると非常な速力で白衣をきた連中がこちらに走ってきた。こちらに怒っているのか恐れているのか分らないが無暗に押さえつける。揮発した消毒薬特有のにおいに胸が悪くなる。到底かなわないと思っていると、どさりと音がして腕を取っていた者が飛んでいた。

 

 それまでは記憶しているがあとは何の事やらいくら考え出そうとしても分らない。

ただ怒号が飛び交い、最後に火花のような物を見た記憶がある。

 

ふと気が付いて見ると誰もいない。たくさんおった白衣の者が一人も見えぬ。その上今いままでの所とは違って無暗に暗い。眼が明いていおらぬかと思うくらいだ。何かを頭に被せられていることだけはかろうじて分かる。

 はてな何でも様子がおかしいと、のそのそ手を動かそうとしてみれば枷が嵌められ痛い。どうも椅子のようなものの上にくくり付けられていたらしい。

吾輩はそのまま坐ってどうしたらよかろうと考えて見た。別にこれという分別も出ない。

 しばらくして声を出したら白衣の連中がまた来てくれるかと考え付いた。ワー、ワーと試みにやって見たが誰も来ない。そのうち目の前をさらさらとモノクロの映像が流れる。頭が非常に痛くなって来た。目を閉じたくても閉じられない。

 

 仕方がない、何でもよいから最後まで見ようと観念するとずかずかと情報が頭に入りこんでくる。これが非常に苦しい。そこを我慢して無理やりに見て行くとようやくの事で何となく我輩が「憲兵」というものであることを理解した。

 

 この「北支那特別警備隊」へ志願したら、先ほどの深海凄艦なる連中をどうにかなると思って、この様に成り果てたとの事だった。縁は不思議なもので、もし我輩が「志願」していなかったなら、吾輩は北支の片隅でいずれ戦死したかも知れんのである。

 一樹の蔭とはよく云いったものだ。この「憲兵」という役務は今日に至るまで、

吾輩の家となり我輩そのものと成っている。

 

 さて我輩は「憲兵」であるという事は分かったもののこれから先どうして善いか分らない。そのうちに目の前が暗くなる、枷がはずされる、寒さは寒し、格好からして褌一丁という始末で、もう一刻の猶予が出来なくなった。

 仕方がないからとにかく明るくて暖かそうな方へ方へと歩いて行く。

今から考えるとその時はすでに行くべき所を分かっておったのだ。

 

 ここで吾輩は初めて「憲兵」の軍装に袖を通す機会に遭遇したのである。第一に頭に浮かんだのは、これが我輩をたらしむる装束であるという事だ。見るや否やいきなり服の着方から装具のつけ方まで頭に浮かんだ。

 

 いやこれは便利だと思ったから眼をねぶって動くに任せていた。軍服を着込み乗馬靴を履いて革脚絆をつける。刀帯をつけてそこにやや長寸の妙に馴染む軍刀を下げ、拳銃嚢の付いた帯革をしめて一心地つく。後は「憲兵」の文字が書かれた面頬をつけて軍帽を被り、外套を羽織れば完成と相成るわけだが、そうしてようやっと一人前になったような気がして妙に落ち着いてものだ。

 

 しかしそうして万端準備を整えてみれば、次はどうしたものかとまた途方にくれる。すると間もなく一人の「憲兵」が現れた。聞けば吾輩は憲兵兵長であり、どうもその御仁は憲兵少佐殿で、我輩の小隊長殿であるとの事だった。その後、同じ格好のご同輩が四十ほどいる広間のような部屋に連れて行かれたのを記憶している。

 そこで我輩達はこれから同じ小隊になる事を聞かされた。そして半数は北支で死んだ。小隊長殿を含めほとんどの者が大陸を撤退するときに死に、樺太で死に、千島で死に、小隊の生き残りは我輩ともう一人だけだった。

 

 この間の北海道反攻作戦の際に「姫」を三体「鬼」を二体ほど叩き斬ってこの返報をしてやってから、やっと胸のつかえが下りた。

 

 吾輩が最後に出会ったのは、奇しくもいまや最後の同輩となった「キムラ」であった。これが出会った当初から横柄で騒々しい男で、何にやら騒動の中心にいた。

キムラは数人ほどの同輩らをぶら下げたまま小隊長殿の方へ向けて

 

「きちがいどもに体をいじられるとは聞いていません、柔道の試合に出られなくなるのは困ります」という。

 

 小隊長殿は口ひげをひねりながら「キムラ」の顔をしばらく眺ながめておったが、

おまえ、自分の名前が言えるのか、とお尋ねになった。

 「キムラ」はといえば横柄そのもの口調で、キムラマサヒコがキムラマサヒコ以外の何だと言うんだ、と答えると小隊長殿はほんの少しだけ関心したようだった。後に知った話だが「キムラ」は天覧試合を制した著名な柔道家で、娑婆にいるころから「鬼の木村」の異名を持った男だった。

 我輩がこれを知った時には「キムラ」が深海の連中を文字通りに千切っては投げするのをさんざん見ていたから、なんとまあ娑婆にいるころからこの有様かと、かえって呆れたものである。

 

 とにもかくにも上背も高く肩も広く胸も厚い「キムラ」が正面からすごめば、なかなかの迫力がある。だが小隊長どのは興味深げに「キムラ」を観察しておった。

 

「これから相手にするのは人間なんぞよりよっぽど投げがいのある連中だ」キムラにそう言って小隊の連中に整列するように言った。

 

 我輩はもとよりあの「キムラ」も上官には逆らえぬと見えて、口惜そうに吾輩の横にならんでいた。小隊長殿は声は静かであるが遠くまでのびる。何か形容しがたい重みがあって、容易に従ってしまうのだ。

 

「諸君らは志願し選抜された北支那特別警備隊の一員として、本日着任した。黄河を遡上し、北支を跋扈する深海凄艦どもを殲滅する、それがわれらの任務である」

 

 それだけを簡潔に言うと、小隊長殿は口を閉じた。このときあまり口を聞かぬ人と見えたのは、我輩の思い違いでなかったと後々分かっていく。

 

 かようにして吾輩はついに「憲兵」として、正式に着任したのであった

 

 

 




 このほどまったく掛けなくなったためとりあえずリハビリ中です。
何とかまた書けるようになるといいんですが、
待ってくれている方、本当に申し訳ありません。
このあせればあせるほど書けなくなるのは本当に辛いです。
でもエターにはしたくない。わがままですね。
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