魔導士ジュノ・ネペンテスの暴件   作:ゴーストライター

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第4話『白い砂漠での邂逅』視点:ジュノ

 

 

 

 あえて揃えているのか、砂の色に合わせたような白いロングコートを羽織っている人間が離れたところに立っている。後ろ姿の感じからして女だ。

 

 その女の前には車がぶつかった相手と思われる怪物――全身びっしり緑色のコケに包まれているゴーレム――の姿があった。

 

 相手が一向に振り返る様子を見せないため仕方なくジュノはまた声を張り上げる。

「おいそこのクサレ女ぁ! 人の車にぶつかっておいてごめんなさいの一言もねーのかよ!? テメェどこ中だこらー!」

 

 と言いつつ、最近見た昔の映画で覚えたセリフが口をついて出たことに本人もいささか戸惑う。ゴーレムなんて大層なもの連れているところをみるに、ああいう奴はどうせ小物で友達も恋人もいない寂しい奴だろ、なんて思ったのが表にあらわれたに違いない。

 

 案の定、びびったらしい(ジュノ本人の所感)白いコートの女はようやく車のほうを振り返った。

 だが互いの距離はいまだ遠い。

 したがって。

 

「さっさとこっち来て謝れよ! それと先に言っておくけどなー! そのでっけーゴーレムを引き連れてるからってこっちが下手に出ると思ったら大間違いだぞ!(こっちにはすんごく気持ち悪い変態がいるもんねー、いざとなったら目の前に突き出せばオッケー)」

 

 ジュノは内心、あっちが逆上でもしてゴーレムを動かしたらやばい、と脂汗を掻くような非常事態を想像して心穏やかではなかった。

 

 白いコートの女がこっちに向かって歩き出す。

 かたやゴーレムは一歩も動かない。

 ふう、と安堵の息を漏らしたジュノは相手が心を読む奴じゃなくて良かったと、胸のうちで勝利を確信した。

 

(あとは……、あの女のレベルがおれの許容範囲内だったら、ちょっと大げさに痛みをアピールして、罪の意識を感じさせれば完璧だ。連絡先の交換までスムーズにいけるだろ)

 

 と、頭の中でイメージを思い描き、ミッション完遂までのプロセスを再確認していたところに白いコートの女の脚が現れた。

 見たところコートの下も、首からつま先までカバーする白のプロテクトスーツを着用しており、つまりそれは不意打ちで拳を打ち込もうものなら仕掛けたほうの拳が破壊される事を意味していた。

 

 深く考える時の癖で下を向いていた事を自覚したジュノは目線を上げる。

 すると驚いたことに、

 薄緑色のセミロングヘアの彼女はどこをどう見ても――錐羽ウズハその人だった。

 

 幼いころ、2人がまだ初等部だった時。

 ほんの出来心でほんの遊び心で彼女の自慢のきれいな髪を、ジュノは当時流行っていた〝狙ったものしか切れないカッター〟で切り落とした事があった。

 

 静かにぶち切れた彼女のほうもジュノが「ごめんなさいもう許してください」と土下座してしまう程の仕返しをしたのだが、それでもまだ怒りは収まらなかったようで、ある一枚の誓約書をジュノに書かせ生涯その呪いから逃げられないようにしたのだった。

 

「久しぶり」

 

 小顔でどこか少年っぽい、でも冷たいように思う鋭い目つきのウズハは上からジュノを見下ろしながら、

 

「ちゃんと髪の毛伸ばしっぱなしにしてるのね」

 

 そんな事を言っておもむろにコートのポケットから高性能小型カメラを取り出す。そしてジュノ目掛け、ぱしゃりとシャッターを切った。

 それに対しジュノが過敏に反応する。

「やめてよ! 肖像権の侵害で訴えるわよ!?」

 

「はいはい。そのふざけた態度も相変わらずだこと。そんなんだから面接で落とされるのよ」

 

 言われてジュノは白けたと言わんばかりの表情へと変え、不機嫌さを露わにする。

 

「お前のほうこそ、相変わらず男の心を掴んで放さない、めちゃくちゃ嫌な奴だな。かわいそうにー、使い道のない胸と尻だけ無駄に成長しちまったかー」

 

「ふん、あんただって大きいのは口だけでしょ?」

 

 ムッとしてそんな事をほざいたウズハを、何だコラとジュノが睨む。

 

「お前べんしょーしろよ? 昔のよしみで許してもらえると思ったら大間違いだからな?」

 

「いいけど――、もし無かったことにしてくれたら、今日の夜、アタシの家に招待してあげるって言ったらどうする?」

 

 はあ? とジュノは首を傾ぐ。

 

 ……ややあってから、「ちっ」と舌打ちした。

 それからボソボソと。

「家に招待だ? たったそれだけで人の車を凹ませた事実を無かったことに出来ると思うなよ。おれが男だからそうやって餌をやればほいほい許してもらえると思いやがって……」

 

「何ボソボソ言ってるのよ。交渉は成立? 決裂?」

 

「しょーがねえ、交渉成立だ。さっき起きた事はうちの運転手がラリってたせいでやっちまった自損事故だった。これでいいだろ」

 

「はあ。ほんとあんたって変わらないわね」

 

 ため息を吐いたと思えば、ウズハは続けざまに小さく微笑する。しかしそれはほんの一瞬のことで――。

 

「ところでその車ってまだ動きそう?」

 

「たぶん」

 

「だったらもう少し先にアタシのバイク停めてあるからそこまで乗せてって。その先はアタシが先導するから」

 

「あのゴーレムはどーすんだよ?」

 

「あれはここへ教授から頼まれてた地質調査しに来る前に土から作ったものだから、ほっとけば勝手に帰るわよ。ああそっか。比較的柔らかい土だったから衝撃もそこまで大きくなかったのね」

 

「お前、結局やりたくないって言ってたのにそっち方面の大学に進んだのか」

 

「まあ……ね」

 

 普段から何かとむすっとしていた印象の強い錐羽ウズハから返ってくる返事としてそれは妥当なものだったが、その歯切れの悪さにジュノは一瞬ばかり神妙な顔をした。

 

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