魔導士ジュノ・ネペンテスの暴件   作:ゴーストライター

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第7話『新たな友』視点:ジュノ&クラマ

 

 

 

 最寄りのプラットホームで路面電車を降り、商店街の裏手に回っていく。ウズハの借りている物件はその先の、オレンジ色の明かりで装飾された通りの一角にあった。

 

 驚くことにマンションと表現すべきか迷う佇まいをしており、あえて言及するならば、一戸建てを次から次へ建て増ししていき、いらない部分に無駄にはしごなどを掛けつつ数年かけてようやく出来上がったゴチャゴチャ感が凄まじい23戸建てだろう。

 もっと言えば、住人らの好き勝手にしていいのか、『一夜干し』やら『アウトサイダー』やらでっかく文字で描かれているのは傍から見たら何のことだかさっぱりである。

 

「ここから入るの」

 

 と言ってウズハが屈んでくぐろうとした門は、おおよそ門は呼べないような小さい入り口で、どう見てもすこし離れたところにある入り口が正門だろうと思う。

 

「入り口あっちじゃねーの?」

 思わずジュノが止めに入った。

 

「あっちは開かないのよ。大家が作る際に手違いがあって門のかたちはしてるけど、絶対通れない開かずの扉になったんだって」

 

「すげーな。そいつ絶対馬鹿だろ」

 

「シッ! 大家に聞かれたらヘソ曲げられて来月の家賃値上がりするから、絶対にシッ!」

 

「大家は物好きの大馬鹿だ~」

 遠慮がちに口笛でも吹くかのようにジュノは言う。

 

「シッー! 次言ったら道ばたに寝かせるわよっ!?」

 

「いいもんね。そしたら大家のとこ言って耳元でずっと囁いてやるから」

 

 このっ……減らず口め……、と先に門をくぐり抜けていたウズハは、現在くぐり中のジュノをギギギと憎々しげに睨む。

 

 するとそこへ。

「はっはっはー! 汝らを我が同胞を認めよう!」

 耳によく通り、どこか中性的で色っぽい女声が横合いから飛んできた。

 

 反射的に振り向くとちょうどライトの下にあたるその場所には、茶色にほど近い赤毛の髪を肩にかかる長さに伸ばす、見るからに変わり者である一面と、良家のお嬢様を匂わせる一面を併せ持った妙な風貌の少女がいた。

 

 自信に満ちたその瞳は蒼く澄んだ海によって出来ており、頬などの肌は同じ生きものとは思えないほど艶やかで、首から下も――つまり全身がスベスベなのだろうと容易に想像がついた。よほど自由気ままにストレスフリーな生活を送ってきたとみえる。

 

 そうしてそんな少女は腰に手を置いて、

「何をぼーっとしているの? ……ははーん。さては、私の超邪悪なオーラにめまいを起こしているのね。安心なさい。あとで私お手製の聖なるお茶をごちそうして差し上げるから。それを飲めばね、誰だってたちまち元気になる万能薬なの」

 

 まあ……、23戸もあれば一人くらいは気が触れている奴がいてもおかしくはない。

 だが、この直後にウズハの口からぽろっとこぼれ出た「……彼女がここの大家よ。ちなみにアタシと同い年」という言葉に、一同は耳を疑った。

 

 こんな馬鹿げた建造物を作り上げた大馬鹿がまさか現役女子大学生だったとは――。しかもさりげなく刺激性の強い巨乳さんじゃないか!

 

「ふふふふ。私お手製のお城、素敵でしょう? 言ってしまうとね、私は私自身の想像力で物を組み立てて駆動系の仕組みなどをすべて無視しても動くように作れるの。たまにちょっとおかしな部分が出てしまう事もあるけれど、人型魔導兵器とかお手の物なんだから」

 

 たぶん〝ちょっとおかしな部分〟というのがゴチャゴチャした23戸建ての正門がまったく機能しないあたりなのだろう。反省していないところをみると、そんな細かい事は気にするだけ無駄と思うタイプに違いない。

 

 それから少女は自身のことを「世界一邪悪な学徒、リスティロゼッタ。全部名前だから好きなように呼んでね」と名乗り、茶を煎れに自室へ戻っていった。ちなみに彼女の部屋は最上階らしい。

 中間もあるためどこが二階でどこが三階か定かではないが、すべて階として数えるならば最上階は6階で、本人いわくウズハの部屋は4階の南側にある。

 

 建物の内部に足を踏み入れると、土産を買ってくるのが趣味の住人でもいるのか、廊下や階段にはやたら飾りものだらけでしかも幅がいきなり狭くなったり(だから一列になって歩くほかない)、かと思いきやその先に『営業時間はランダム制』という札を掲げた不思議な雑貨屋が存在していたりした。

 古めかしいランプから新しめの盗聴器まで豊富な種類の品を扱っている雑貨屋には、ボサボサ頭の老人が座っているが、ぱっと見じーさんともばーさんとも付かない。

 

「まるで迷路みたいだな」思わずジュノ口から感想がこぼれる。「あらら、これは困ったぞ。ついドジっこ属性を発揮してあの大家の部屋に迷い込んじゃったらどうしよう? もしそうなったら今夜はそっちに泊まるしかないかー」

 

「ぼ、ぼくは、当然ウズハちゃんの部屋を選ぶよっ。こう見えても一途だからね!」

 慌ててクラマが取りなそうとすると、そこへ先頭をいっていたウズハの声が飛んでくる。

「アタシはあんたがどうなろうと何とも思わないけど、気をつけた方がいいわよ? リスティの場合、じゃれ合いが殺し合いになってもおかしくないから。それにもの凄くしつこいから根に持たれたら一巻の終わり。あの子の手にかかれば人ひとりの物語りなんてあっという間に終幕を迎えるわ」

 

「殺し合いって。いくら何でも、それは大袈裟すぎないか?」

 ジュノが首をひねる。

「あの大家は殺し屋か何かかよ」

 

 丁度そこでウズハは足を止めた。目の前のドアがアンロックするのを確認してから開けて中へ一歩踏み入れる。

 しかし途中、思い直したように回れ右した。

「念のために冗談抜きで警告しておいてあげる――。リスティのお父さんはね、正真正銘のとんでもない戦争屋なのよ。命が惜しかったら遊び半分で噛みつかないほうが身の為。親が親なら、娘も娘ってことだから」

 

 

 ちょろちょろ。

 ちょろちょろ。

 部屋のドアをくぐると、水の流れる心地よい音が耳に響く。

 しかしそれは流し台から聞こえてくるものではない。見ると、天井から床まで伸びる3つの水路を水が流れており、つまるところそれが音の源だった。

 

「あ。ジュノ。もし階段に置いてある鉢を1つでも蹴り落としたりしたら、問答無用で殺してやるから」

 

「おいおかしくね? なんでおれだけなんだよ」

 

「わざとやる奴といったらあんた以外ほかに誰がいるっていうわけ?」

 

 それもそうだな、とジュノは思わず納得してしまった。

 因みにウズハの言う鉢とは、8畳ほどの部屋の天井が7階ぶん上にあるため、全室へのアプローチとして備え付けられた階段の隅に置かれたたくさんの植木鉢のことである。

 

「ウズハさん、どうして天井だけ高くしたんです? 部屋を広くしたほうが快適かなとワタシは思うんですが」

 

 最後尾を歩くシャムエルがそう問うと、前をいくクラマが視線を他へやりながら「確かに」と同意する。

 

「はじめはね、ただの一室だったんだけど大学入ってやることが増えたら、本やら研究の道具やらそういうのも一緒に増えちゃって、気づいたらここまで部屋を拡張してたのよ。横じゃなくて縦に拡張したのは2階が欲しかったって理由が一番かも」

 

「フーン。これはお前の魔法でやったのか? それとも魔術で?」

 

「やっぱりそこ聞く?」

 

「当然。これでもおれは最上級がつく魔導士の端くれだぞ」

 

「はぁ? 今はただの端っこのくせに」

 

「オイ! ずばり言うなよ! お前、今日一日でおれのHPごっそり削る気か!?」

 

「そうね。HPがゼロになったら植物たちの肥料にしてあげるわ」

 

「肥料? ふざけるな。おれがここで死んだら、ここの住人であるお前が責任もっておれの白骨死体を抱き枕にしろ。とくにおれの骨は硬いからいろいろ使い道があるぞ。たとえば」

 

「それ以上いったらここから落としてやる」

 

 不意に振り返ったウズハが上から睨みつけてきた。現在、地道に階段をのぼって5階の地点。無抵抗で落ちればかすり傷や打撲などでは済まない。打ち所が悪ければ本当に死が襲いかかる可能性だってあるだろう。

 彼女の声色にはまるで以前もそうしてやった事があるといった迫力があり、ジュノはあわてて口をつぐんだ。

 

「それで――えっと、部屋を拡張した方法ね」

 ウズハは満足げにまた階段をのぼり始める。

「大学で知り合った人に頼んでやってもらったわ。その人とは同じ教授のもとで一緒に学んでるんだけど、もっぱら異空間を創造する魔術ばかり身につけてるの。ただ残念なことに魔法はこれまで一度も開発に成功していないから……」

 ハッと息をのんだかと思えば、いきなりウズハは時が止まったように立ち止まった。

 

 見ると言葉を失って立ち尽くしている。

 すると間もなくふっと我に返り、

「あ……、ああっ、そうそう忘れてた。ここが男二人の寝床(クローゼット)ね。でアタシ達ふたりはこの上の」

 と、強引に話を逸らした。

 

 当然ジュノは覚えた違和感を逃すまいとして、すぐさま問う。

「ウズハ、開発に成功していないから何だ?」

 

 一瞬ばかり気まずい空気が漂う。

 上階を見上げる彼女はそのまま、

「何でも無い。ちょっと思い出した事があっただけ。忘れて」

 

「……あっそう」

 追求したところでどうせ答えないだろうと読み、ジュノはあえて引き下がるほうを選んだ。

 

 別に誰かが嫌なことを口にしたわけでもないのに場の空気が……重い。ウズハ本人も今のは失敗したと自覚している様子で、その他の3人も今の奇妙なやりとりをどう消化すべきか各々考えを巡らせながら彼女の出方をうかがっていた。

 

「お腹……、減ってない? アタシの作るものでいいならご馳走するけど」

 

 ジュノは内心、そんな事どーでもいいから今すぐ話せよ、と苛々を募らせていた。

 厄介なことにストレスって奴は人を変えてしまう。それまで優しかった人が怒り狂い、仲良かった人が離れていく事もある。

 自称最上級クラスの魔導士とて例外ではない。

 だからついやってしまったのだ。ポチッと爆弾のスイッチでも押すように、手の届くところにあるウズハの丸っこい尻のお肉を指で、ツンと。

 

「何……それ。どこ触ってるか分かってる?」

 

「分かってるに決まってるだろ。おれは尊い命をかけてまで気まずい空気を一瞬で変えてしまえる魔法のスイッチを押してるんだぞ? ――覚悟は出来てる」

 

「なら安心ね」

 

 ところが。

 メチャクチャ鋭利な肘鉄を喰らうまで、悲しいかなジュノは相手がプロテクトスーツを装着している現実をすっかり忘れていた。

 

 伸縮自在でありながらあらゆる危害から身を守ってくれるそれは、同時に装着者のパワーを向上させ、動きのアシストも欠かさない。そして、望めば手加減なんて幾らでも可能だ。

 なのにジュノの鼻があっさり折れたというコトは……、つまりそういう事なのだろう。

 

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 植物マニアでもあるウズハお手製の野菜料理を堪能したのち、クラマはひとり、夜の街を散策しようと外へ出掛けた。無論一人では必ず迷うからと、ジュノに魔術で召還してもらったアヴィオール専門の案内人〝ドゥーガル〟を連れて。

 

(あーあ。こんな奴と二人で観光なんて本当は望んでないんだけどなあ)

 

 ドゥーガルの外見は10歳前後の子どものよう。

 髪はごわごわしていて仄かに蒼く発光している。それと同じように丸い瞳もまた蒼く光っていた。

 顔つきは女の子っぽくいつもどこか楽しげであり、以前ジュノに付き添った時には「にらめっこ」を挑まれ、威勢良く受けて立ったが笑い転げてしまったコトもあった。ドゥーガルはいささか人より笑いの沸点が低いのだ。

 体つきは華奢なので弱々しい印象を受け、襟にどっさりファーが付いた銀色のワンピースに青いストッキングを纏う姿は、やはり人工妖精らしい。

 

「というわけでっ。今からボクおすすめの靴屋さんに案内いたしましょう。自信まんまんで! これはもうクラマさんのお気に召すこと請け合いですよ」

 

「嫌だね。なんでぼくが靴なんか見なきゃいけないんだ。君、ぼくの話ちゃんと聞いてたかい? ぼくは素敵なお姉さんがいっぱいいる場所に行きたい、出来れば話したいって言ったつもりなんだけど?」

 

「ええ、もちろん聞いてました。だから靴屋さんに行くんです」

 

 ……はあ?

 クラマは思わず首を45度傾けてしまう。

 

「まあまあ。騙されたと思ってボクについてきてください。悪いようには致しませんので」

 

 そうして数分後、実際に蓋を開けてみたら――。

「いらっしゃい。当店のご利用は初めて?」

 たちまち甘い声と、大人の甘い香りに包みこまれた。

 

 店の名は『シャルマント』。フランス語で〝チャーミングな〟〝魅力的〟という意味である。もともとは地球ですこし背伸びしたい子供向けの服を売っていたショップだったが、冥王星に移転してからは靴を売るようになったのだとドゥーガルは語る。

 

 肝心の店内は、晴天の空を丸く切り取って地上に運んできたかのように、まるっきり空の景色が広がっていた。

 床は雲で出来ており、どこを見ても靴らしきものは置いていない。あるのはこれまた雲で出来ているチェアと、そこに座って水色と白色の二色を基調とした制服を着るスタッフから一対一で接客を受けている客たちの姿。客の中には常時ふっくらと膨らんだ胸ばかり見ている野郎もいる。

 

「ではこちらへ。ドゥーガルさんは付き添い?」

 常連らしいドゥーガルは当然ウイと頷く。

「だったら別に椅子を用意するわね」

 

 そう言ったボブヘアの清楚なお姉さんは、指輪をはめた人差し指で床の雲を指した。それから彼女は自らの魔力でもって指輪に刻まれた魔法陣を目覚めさせたのだろう、妖しい光がほんの一瞬で魔法陣を描く線を駆け抜けた。

 その指をなめらかに天まで誘う。

 すると床から雲がモコモコと盛り上がり、あっという間に一人分の椅子が出来上がってしまった。

 

「ボクの為にありがとう」

「いいえ、どう致しまして」

 ドゥーガルと清楚なお姉さんは互いに顔を見合わせニッコリ笑う。

 

 一方、それを間近で見ていたクラマは、ただ単にこのエロガキが来たかっただけなのではと思った。

 

(くそう。やられたよ……。ぼくを案内するというのは建前で、本当は自分の為にやっていたのか……。だから案内する相手がこのぼくでも動じる様子すら見せずに平然としていたんだ。ひどいよ、人をだますなんて!)

 

 ご機嫌伺いのためか、隣にいるドゥーガルがクラマにも愛嬌たっぷりの笑顔を振りまく。しかし絶対に応えてやらない。

 そればかりかプイッと顔を背けてやった。

 

「どうかしましたか?」

 

「別に。君は楽しく好きなだけ靴買ってなよ」

 

「どうしてボクが靴を? 買う買わないはさておき、クラマさんが接客を受けるお客様なんですが……」

 

「ふん。その割には君、ずいぶん楽しげに笑ってるね。――ぼくをのけ者にして」

 

「え? のけ者……?」

 

「違うっていうのかい? 現に君は案内するだけが役目の人工妖精のくせに、自分だけ楽しんでいただろう。それでまさか人の為とか言わないよね? だとしたら君は相当な偽善者だよ」

 

「…………」

 

 少し振り返ってこいつの反応を見てやろう。

 そう企んだクラマがいざ振り返ると、びくっと飛び跳ねそうになるくらい驚いた。

 目と鼻の先にドゥーガルのまるで幼い少女のような顔があったのだ。

 

「な、なにさ!?」

 するとあろう事か――なんとドゥーガルは、正面からクラマの口がありそうな場所に、ちゅっ、とキスをしてきた。

 

「ほげなん!?」

 驚きのあまりクラマは思わず意味不明な言葉で叫んでしまう。

「な、な、な、なにっ、どういうコト……!?」

 

「突然ごめんなさい。でもボク、これともう一つしか魔法は使えないんです」

 

「ま……ほう……?」

 

 一体全体その魔法とは何か。確かに気になるところではあるが、それより、魔法を使うという目的の為にやったのか……と何故かクラマはちょっぴり残念に思った。――そして直ぐさま、ぼくは何でショックを受けてるんだ!? しかもこれが素の状態での出来事だったらなあとか何思っちゃってるの!? とパニックに陥る。

 

 だがしかし――。

 何故かふしぎと次第に心は安らいでいき、気づけば身も心もふにゃふにゃになる程、すべての出来事が心地よくなっていた。

 

「うわお……、なんだだろう……これ。すごい。はあ……、生きてるっていいなあ。ねえねえ、ドゥーガルぅ。ぼくに何したのぉ?」

 

 気持ちよいあまり脱力してしまっているクラマの体は、すでに半分以上がチェアからはみ出していた。だら~んと伸びながら、うへへ、と笑う様子はもはやキメた薬物中毒者である。

 

「ぼくは〝触れたものに姿を変えられる魔法〟と、今クラマさんに使った〝唇を重ねた相手を癒やしまくる魔法〟が使えるんです。ちなみにクラマさんに使った魔法の効果は唇を重ねていた時間だけ延び、今回の場合はだいたい30分ほどでしょう」

 

「うほーい! あと30分もこれが続くなんて~! 天国だよぉ! あはは。脳みそがとろけちゃって何言ってるのか自分でもさっぱり~。おおお? そこのお姉さん、もしかして天使ぃ? じつはぼく……、あ、ここだけの話ね、あのねぼくこれでも指名手配犯なんだよお。え? なんで指名手配されたかって? それはほらあ、ぼくがドスケベだからうふふ」

 

 目の前にいた清楚なお姉さんは、ああ厄介な人きちゃったな、と言わんばかりの困り顔を浮かべていた。

 

 かたやクラマは超ご機嫌な様子で手をふらふらさせ、一人で遊び始めた。それだけでも超面白くてやめられない。

 

「ミハルさんすみません。相手はボクが責任もってするので、30分くらいしたらまた改めてお願いできますか?」

 

「え、ええ……。でもこのままだと他のお客様に迷惑かかりそうだから、個室に変更させてもらうね」

 

「ウイ」

 ドゥーガルがそう返事をすると、先ほど椅子を出した時とおなじく指でもって魔術を使用し、雲でクラマ達のいる空間を囲うようにして閉じ込めた。

 

「あんれえ? どうしちゃったのぉ?」

 

「魔法が解けるまで隔離されてしまったんです。何やらボクがクラマさんの機嫌を損ねてしまったのがいけませんでした。反省しています」

 

「ふぅ~ん。あっそ~う」

 とろとろに溶けたチョコレート風クラマはゆったりとした動作で立ち上がった。

「よぉーし。元気ないみたいだからこの素晴らしい開放感を手に入れたぼくが一肌脱ごうっ」

 

 千鳥足でドゥーガルのもとに向かって目の前に立つ。

 それから、何か嫌な予感がしますね……とドゥーガルの顔が引きつり始めたのと同時にいきなり、クラマはバッと身につけているもの全てから肉体を解放した。

 

 全身を覆っていたミミズもとい現在はとろとろに溶けたチョコレートは、彼自身の魔法によるものでその性質は本人の意思や気分のありかたで大きく変化するものだった。解くとそれは肉体のどこか内部のほうへ吸い込まれて消えた。

 

 そして、直視する他ない状況下でクラマの全裸を目の当たりにした心優しい妖精ドゥーガルは、初見であるらしい突起物を見据えたまま壊れたおもちゃのように微動だにしなくなってしまった。

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