ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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正妻戦争(仮) ~予告~


 某月某日。

 あれは夕方の出来事であったと茅場優希は思い出す。

 

 夜の時間帯――――というには中途半端で、ダイシーカフェ店内は混雑しているわけでもなく。

 程よい客数で、程よい忙しさであった。そんな事もあってか、優希は普段よりも二割増で愛想よく振る舞っている。しかし余裕があるというのも考えもの。客との世間話によって、()()()()()になるとは優希も考えもしなかった。

 

 今思えば迂闊だった。

 我ながら妙なことを口走ったものだ、と猛省するばかり。

 

 

「お疲れ様優希君ー」

「ありがとうございます、御坂さん」

 

 

 話しかけてきたマダムに、ニッコリと、柔和な笑みを浮かべて優希は応じる。

 優希の名を知っているということは、ダイシーカフェにはそれなりの常連であるのだろう。現に常連客の名を完全に記憶している優希も、マダムの名を呼び応じている。

 

 

「頑張ったから何か食べない? おばさんが奢ってあげるわよ?」

「あはは、ありがとうございます。でもお気持ちだけ。今は勤務中ですし」

 

 

 これまたあざとく、優希は困ったようにあざとく笑みを浮かべる。

 それがどうやらマダムの琴線に触れたのか、キュン、と胸を高鳴らせて引き下がることなく続ける。

 

 

「釣れないこと言わないで。店長さんには私が言っておいて上げるから」

「……困ったなぁ。そこまで言われちゃうと僕も断れませんよ」

「断らなくていいじゃない。大丈夫よ、頑張った自分へのご褒美だと思ってくれれば」

「わかりました。でも奢ってもらうのは、流石に気が引けますし、こうしてお喋りするということで一つ」

 

 

 ウィンクしながら、イタズラを思いついたような小悪魔的な笑みを浮かべて優希は言うと、それだけでも充分だったのかマダムは気を良くして頷いて。

 

 

「えぇ、えぇ。それでもいいでしょう。でも優希くんはそれだけでいいの?」

「はい、むしろ嬉しいですよ。僕も御坂さんとお話し出来て楽しいですから」

「優希くん……」

 

 

 再びマダムの琴線を触れていく。あざとい、実にあざとい。

 だが一定の距離感を保っているようでもあるようだ。それを証拠に、マダムの席に優希は座らない。立ちながら応対し、必要とあればそこから直ぐに離れることが出来るように立ち回っている。

 

 もちろん、それを相手に悟らせることはしない。

 マダムは気を良くして、うっとりとした笑みを浮かべながら優希を見つめて。

 

 

「本当に良い子ねー。結婚してなかったら私、直ぐに連絡先交換したのに……」

「ありがとうございます。僕も御坂さんが結婚してなかったら、声をかけてましたよ」

「あら、お上手ね?」

「事実ですから。可愛いですよね、御坂さんって」

「もうアラフォーなのに?」

「歳なんて関係ないですよ」

 

 

 笑みを絶やさず、歯の浮くような台詞ばかり、優希の口から紡がれていく。

 優希の本性を知っていれば、直ぐに嘘であると見抜ける言葉だ。捻くれ者が素直に他人を褒めるわけもなく、笑いながら言う時点で怪しいものだ。

 しかしマダムは知らない。茅場優希がどのような人間なのか知らない。とはいえ知らないとは時に幸福なものだ。知らなくてもいい真実なるものは確かに存在する。

 

 マダムのご機嫌は今や最高潮。

 ルンルン気分で口を開く。

 

 

「本当に口が上手い子ね。彼女とかいるでしょ?」

「彼女とかいませんよ」

「へぇ、意外ね。でも実際、モテるでしょ?」

「それが全く」

 

 

 困ったような笑みを浮かべる。

 こればっかりは本当のことである。だがそれは優希自身の認識の話だ。真実、他人が優希に対してどう思っているのか、本人が全くこれっぽっちも察することが出来ていない。

 

 

「それって優希くんが選り好みしているからじゃないのー?」

「選り好み、ですか?」

「えぇ。選んでるから彼女が出来ない、とか」

 

 

 それはない、と優希は心の中で断言する。

 選り好みなんて出来る立場ではないし、優希の本性を知った他人は萎縮してばかりだ。これでは異性と添い遂げるのは不可能であるし、今の所優希も異性と付き合っているほど余裕がない。

 

 

 

「優希くんの好みの子ってどんな娘?」

「それはメガ――――」

 

 

 反射的に、メガネが似合う女、と答えかけるも何とか踏み留まる。

 さすがにこの発言はフェチすぎるものであるし、ただの他人に暴露していい性癖でもない。

 

 

「メガ、なに?」

「いいえ、僕の好み、ですか……」

 

 

 真剣に悩む素振りを見せるが、それはもちろん演技。

 

 正直な話し、面倒くさかった。

 これ以上構っているのは無駄であるし、こうして話している間にも仕事は溜まっていく。主に洗い物方面で。それに夜に向けて仕込みもある。となれば早々に切り上げるのが吉であるのは明白。

 さて、どうやって切り上げようか、と優希は考えて。

 

 

「んー、僕の暴走を止めてくれる娘ですかね?」

「暴走?」

「はい。こう、僕がダメな方向に進んでたら力尽くで止めてくれる娘、ですね」

「力尽く、っていうと腕っぷし的な意味で?」

「まぁ、そうなりますかね? 何度かそうやって止められたことありますし」

「ってことは、優希君に勝つ娘が好みってこと?」

「はい、そうなりますね――――」

 

 

 それがイケなかった。

 たとえ嘘でもそんなことを言うべきではなかった。

 早く話を切り上げたくとも心にもないことを言うべきではなかった。

 優希の失敗はそう言うことだ。もっと真剣に考えて、自分の言葉に責任を持っていれば――――あんなことにはならなかった。

 

 些細なことで戦争とは起きる。

 いつだって争う理由はつまらない状況から生じる。

 それが今。優希の発言によって戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。

 

             ――――正妻戦争、ここに開幕――――




抜刀妻「――――(無言で剣を抜く)」
発砲妻「――――(無言でメガネをかける)」


キリト「何が始まるんです?」
エギル「大惨事大戦だ」


続くかは未定

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