ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
コンボイさん、リクエストありがとうございました!
「頼みがある」
アルヴヘイム・オンラインへログインしてそうそう、央都アルンにて眼の前のコイツはそんなことを口にしてきた。
オレとしても頼られれるのは嬉しいことだ。しかもそれが、普段から自力でなんとかしようとする人間からの口から出たとなっちゃ無視できねぇ。それこそ男が廃るってもんだ。
眼の前のコイツの眼差しは真剣そのものだ。
それこそ、コイツがこんな目をするのは、まっすぐに前だけを見つめる目をするのは――――ソードアート・オンラインでのフロアボス攻略くらいだろう。
そこまで
「クライン」
応答がないオレを不審に思ったのか、目の前の野郎――――ユーキは再度口を開いた。
不審に思う、ような目ではない。むしろオレの次の言葉を待っているような、そんな目でオレを見つめていた。
悪ぃ、と一言だけ謝ってオレは応じることにする。
「しっかし、珍しいな。オメェがオレを頼るなんてよ」
「アンタしか、頼れる人間がいなかったからな」
「キリトやエギルじゃなくて?」
「あぁ。アンタしかいなかった」
そこまで言われちゃ頬がニヤけちまうよ。
何せユーキって人間は頼ることを知らねぇ人間だ。何でも自分で解決しようとして、力尽くでどうとでもしちまう。男として見てもスゲェって思うし、大した奴だと思う。キリトとは違う意味で、偶に歳下とは思えないときがある。
そんなやつがオレを頼りにするっていうんだ。
嬉しく思わないってのがどうかしてる。しかも普段から競い合っているキリトや、割と頼りにしている方のエギルでもない。あのユーキが、オレを、頼りにしている――――!
ニヤけそうになるが、必死にこらえる。素直に言うが嬉しい。
しかし、歳上の威厳をここで見せつけてやらねぇとならん。コイツは歳下で、オレは歳上。頼られるのも当然だからな。
「しょ、しょうがねぇなぁ。ンだよ、オレに頼みって」
「実はな……」
「おう」
「――――エロ本の隠し場所ってどうすりゃいいんだ?」
「は――――?」
一瞬、ときが、止まった。
コイツは何を言ってるんだ?
「悪い。もう一回言ってくんねぇか?」
「エロ本の隠し場所ってどうすりゃいいんだ?」
オレの聞き間違いじゃなかった。
というか、何だそりゃ。なんでそんなどうでもいいことを、コイツは真面目に聞いてくるんだ?
肩から崩れ落ちそうになるが、オレは必死に踏みとどまる。意地があるんだよ、男の子にはな。
「……普通にベッドの下とかで良く――――」
「バカ、オマエ。ンなとこに隠したら、妹に見つかるだろ」
オレのナイスな提案を、高速の速度でもってユーキは否定してきた。
とは言え、我ながらベッドの下は安直すぎた。王道の中の王道。探してくれと言っているようなものだ。
うん、とオレは力強くユーキの言い分を肯定して。
「確かに見つかるな。オレも学生の頃、母ちゃんに見つかったことがあった」
「……やっぱり見つかるもんか?」
「おう、見つかる。見つかって、机の上とかに置かれてる。酷いときは家族会議だ」
「エロ本で公開処刑されんの?」
「いっそ殺してほしかったな。オメェにもそういう経験ないんか?」
「オレは、そういうのなかったかな、まだ」
ユーキはそう言って小さく笑うが、何か気になる笑い方だった。
苦笑いというには不自然なもので、満面の笑みには程遠い。言い辛いのかもしれない。聞けばユーキは妹のユウキちゃんと寮生活していると聞いたことがある。親元を離れて二人くらいというには特殊だ。もしかしたら、親御さんと上手く言ってないのかもしれねぇ。
コイツとは結構ツルむが、だからと言ってこのままズカズカ踏み込んでいいって訳じゃない。コイツにはコイツなりの事情ってもんがあるんだろう。
だがそれよりも、気になることが一つ。
「……どうしてオレにエロ本の隠し場所なんざ聞くんだよ?」
そう。
恋愛相談とか、人生相談ではない。
よりにもよって、何故エロ本の隠し場所。嬉しさ反面、虚しさ反面。オレの心は今や複雑となっている。
そんな中、コイツは当たり前だろと言わんばかりの口調で。
「こういう話しはお手のもんだろアンタ」
「お前の中のオレぁどんなキャラだよ?」
「エロ河童」
「エロ本の隠し場所で悩んでるオメェも同じだよっ!!」
思わずでかいため息をついちまう。張り切って損した。
とは言え頼られたのも事実だ。ここはオレも知恵を絞ってやろうじゃねぇか。人生の先輩として、男の子として、それは大きな悩みだ。人生の一度や二度、十度や二十度は悩む代物。先達として道を示してやるのも、歳上の努めってやつだろう。
「しっかし、意外だな」
「何がだよ?」
「いや、オメェも健全な十代なんだなぁって思ってよ」
キリトといい、ユーキといい、偶に性欲があるのか疑問に思う事がある。オレがコイツらの歳のときにはそれなりに異性に興味があった。いいや、それなりじゃねぇ。ぶっちゃけて言うと、それはおう脳内ピンク色だったとも。
いいや、オレだけじゃないはずだ! みんなそう! 男の子みんなそうに決まっている!! 万国共通、男の子はみんなエロに生きる探求者!!
それはユーキも例外じゃあない。
心外だ、と言わんばかりにユーキはすねた口調でオレに言ってきた。
「オレだって人並みに興味はあるさ。だからこうして悩んでんだろ」
「そうだな。つーか、今どき本かよ。今はネットの時代だろネットの」
「浩一郎兄――――オレの兄貴みたいな人にも言われたけどよ、コンピューターとかわかんねぇよオレ」
「コンピューターって。いつの時代の人間だよオメェは」
とても十代とは思えないセリフだ。
というか、ネットを今どきコンピューターっていうやつがいるのか。爺さん婆さんですら言わねぇぞ。
まぁ、その辺りは置いといて本題に入るとしよう。
「ユーキよぉ、いいこと教えてやるよ」
「いい事って?」
「木を隠すなら森の中だ」
「おぉ? クラインくんにしては、知的なこと言うじゃん。ンで、それとこれとどう関係がある?」
「バカ。エロ本を隠すなら本棚の中だよ」
「いいや、バレんだろ」
「それが案外バレねぇんだなぁこれが。エロ本は隠すもんだろ?」
「普通はそうだろうな」
「それを敢えて、本棚っていう誰でも目に留まる場所へ隠す逆転の発想よ。ンで、ベッドの下とかにダミー置いておくのよ」
「ちょっと待てや。見つかったら家族会議だろ? それは勘弁だぞ。オレの場合、いろんな連中がやってきそうだ」
「ダミーって言ったべ? ちょっとエッチな本でいいんだよ。アイズとか、リリムのキスとかな」
「なにそれ、マンガ?」
「おう。パンツは見えるけど、健全なマンガさ。それらは見つかっても漫画だ。これが隠したかったものかって、見つけたやつは信じて疑わない」
「……スゲェ。オマエ、天才かよ」
「よせやぁい。照れんだろ」
眼を丸くして、ユーキは皮肉ではなく素直な気持ちをオレにぶつける。
普段から捻くれているコイツからそんな素直な言葉を聞けるとは思わなかったオレはこれまた素直に受け止めちまった。
こいつはオレも人生の先輩として、言葉を送らなければならんだろうな。
ポン、とオレはユーキの肩へ手をおいて。
「ユーキ、覚えておきな。エロいのは男の罪、それを許せないのは女の罪だ」
「哲学者みてぇだな……」
「よせやぁい、照れんだろ」
我ながら名言を残せたと思う。
それにユーキともグッと距離が縮まった気がする。そうかそうか、コイツもしっかりとした男の子なんだな。
「ちなみによ、お前のお宝本ってどんなんだよ?」
「グラビアだよグラビア。メガネかけたやつ」
「――――――――」
ユーキ。
それな、エロ本じゃないぞ――――?