ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 前回ドン引きされました、兵隊でございます。
 意外にも意外にも前回の凄惨な描写をして、ユーキが愛されていることに驚きながらも、嬉しく思った今日この頃です。アレでもだいぶ抑えたんだよ、ホントだよ?
 愉悦タイムもまだまだ続きます、よろしくお願いします。

 ルシオンさん、アリシア・アースライドさん、AREICIAさん、誤字報告ありがとうございました!


第4話 『リンク・スタート』

 2024年8月15日 AM11:32

 埼玉県所沢市 病院 アスナとユーキの病室

 

 

 謎のメールを受け取ってから次の日、俺はまた二人の病室に来ていた。

 今日も二人の様子は変わらない。本当にただ寝ているかのように眼を瞑り、今にも起きそうな姿でベッドに身体を預けている。

 

 俺の右手には携帯、そしてメール画面を穴が開くように、俺は凝視していた。

 

 送られてきた謎のメール。

 心当たりなどない。むしろアドレスが文字化けしており、どこの誰が送ってきたのか。そもそも機種はなんなのか、携帯からなのかパソコンからなのか、それすらもわからない。

 そうなると差出人など不明。辛うじて分かる単語と言えば――――。

 

 

「『ALfheim』……」

 

 

 アドレスが文字化けしている中、何とか解読できる単語をポツリ、と呟いた。

 ALfheim。アルフヘイム、ではなくアルヴヘイムと読むのだろう。

 それは恐らく、スグが夢中になっているアルヴヘイム・オンラインのことを指しているに違いない。

 

 そう思えるだけの確信がある。

 本文に英単語で記されている『Welcome to ALfheim Online!! It's Show Time!!』という文字の羅列。

  『ALfheim Online』というのは、例のアルヴヘイム・オンラインに違いない。そして添付されている二枚の画像。

 

 大樹のような枝に吊るされている鳥籠のような檻の中で憂いた顔で囚われている少女――――アスナ。

 薄暗く窓一つすらない牢獄に両腕に鎖を巻かれて吊るされている顔を付している少年――――ユーキ。

 現実世界に帰還していない両名の姿が映された画像。一見コラージュにも見えるそれを、俺は本人であると断じる。長い付き合いだ、二人のことを見間違うことなどありえない。

 

 二人が何処にいるのか、考えるまでもなかった。

 メールのアドレス、本文を考えてアルヴヘイム・オンラインが関係しているのは一目瞭然だ。

 

 だからこそ俺は調べた。

 昨日から帰ってずっと、雑誌、携帯、ときに人伝で情報を集めていた。

 幸運なことに、その道の情報通に頼れる友人がいる。

 

 『鼠』と称された情報収集力は健在らしい。

 報酬として、デザートの食べ歩きを要求されたが安い買い物である。

 

 

 アルヴヘイム・オンライン。通称ALOと呼ばれるVRMMOの呼称である。

 ナーヴギアの次世代機アミュスフィアと呼ばれるハードを使ってプレイできるらしい。

 ログインをして、最初にプレイヤーがしなければならないのが、種族を選ぶこと。アルヴヘイムの名の通り、種族とは妖精のことである。

 選べるのは9種類。火妖精族(サラマンダー)水妖精族(ウンディーネ)風妖精族(シルフ)土妖精族(ノーム)闇妖精族(インプ)影妖精族(スプリガン)猫妖精族(ケットシー)工匠妖精族(レプラコーン)音楽妖精族(プーカ)の中から選ぶ。

 ソードアート・オンラインと違う点といえば、レベルの概念がなく全てプレイヤースキルを重視していること。魔法という手段があり、本来では考えられない“飛行”が出来ること。そして何よりも――――PK推奨であることだろう。

 

 

「…………」

 

 

 キルされても死ぬわけではない。ヒットポイントがなくなっても、リスポーンされるだけ。

 それは分かっている。わかってはいるものの、あの世界で生きていた身としては、少しばかり戸惑ってしまうのは仕方ないだろう。

 

 ソードアート・オンラインではクリア前提の内容だった。

 PKは“出来る”程度のものであり、推奨されるほど必然であるものではない。

 

 ならばどうして、アルヴヘイム・オンラインはPKを推奨としているのか。

 それはアルヴヘイム・オンラインの最終到着地とされる場所と、設定に問題があった。

 

 

「世界樹、か……」

 

 

 反復するように先日『鼠』に教えてもらったアルヴヘイム・オンラインの設定を思い出す。

 

 どうしてアルヴヘイム・オンラインではPKを推奨としているのか。

 それは簡単な話だ。9つの種族は争っているのだ。世界樹と呼ばれる大樹の頂点にあるはずである空中都市を目指し、彼らは今も熾烈な種族間の抗争を行っている。

 争わずに協力し合い、世界樹を目指せば良いのではないか、と考えるもそれは不可能と言えるだろう。

 

 何も彼らは目指しているだけではない。

 空中都市に到達できた種族が光妖精族(アルフ)へ転生できる権利を持つことが出来る。1種族のみだ、決して到達できた種族全員ではない。

 だからこそプレイヤー達は争う。出し抜かれるのを恐れ、協力して到達できたとしても1種族であるのだから、待っているのは闘争のみだ。だらこそPKを推奨しているのだろう。

 

 結果から考えて、クリアするのは無理である。

 それが俺と『鼠』の出した結論だった。ゲーマーがゲーマーである以上、誰しもが達成感を求めている生き物だ。自分の努力が実を結び、自分の力で難関な関所を突破し、自分しか持ちえない個性を手に入れる。どう言葉を繕ったところで、ゲーマーはそれを欲している。

 そしてこれこそが、ゲーマーの、人間の本能を付いたトラップと言える。種族間で協力しない限りクリアできない無理難題、しかし協力しては1種族しか光妖精族(アルフ)とやらには転生できない。

 そのことから、俺達は断じた。不可能であると。自己犠牲の精神でもない限りクリアするのは不可能である。

 

 だがそれでも、俺は空中都市とやらに到達しなければならない。

 もう一度、携帯の画像を凝視した。それはアスナの画像。注目するのは彼女ではなく、彼女が囚われている場所だ。

 空がある、日がある、そして大樹に吊るされた鳥籠のような檻。その事から踏まえて、彼女がいるであろう場所は――――。

 

 

「世界樹、だよな……」

 

 

 しかもただの世界樹ではない。

 恐らくその頂点、誰もが到達することが出来なかった場所に、アスナは囚われていると考えても良い。

 

 もちろん、確証はない。

 そこに必ずアスナがいるというわけでもない。

 可能性があるのなら藁にでも縋る思いであるし、なによりも問題なのがアルヴヘイム・オンラインを運営しているのはレクトの子会社『レクト・プログレス』だ。

 そこに深く関わる人物を、俺は知っている。

 

 

「須郷、伸之……!」

 

 

 ミシリ、と音を立てる。持っている携帯を力一杯握りしめていた。

 

 もはや嫌悪感しかない。

 アスナを物扱いして、ユーキに強い敵愾心を持っている男。

 彼が関わっているのなら、辻褄が合うのだ。アスナを鳥籠のような檻に閉じ込めていることだって、ユーキが痛々しい姿で吊るされている姿だって、あの男が関わっていると考えれば辻褄があってしまう。

 

 証拠もなにもない。

 これは俺の憶測であるし、自分でも自覚していることがわかるくらい感情で“須郷は黒”であると決めつけている。

 そんなものは子供の言い分だ。誰も取り合ってはくれないだろう。ならば自分で動いて、決定的な証拠を見つけるしかない。

 

 となれば、俺は再び、あの世界に、いかなければならない――――。

 

 

「……ッ!」

 

 

 恐ろしくはない、といえば嘘になる。

 やっとの思いで、俺は現実世界に戻ることが出来た。必死に生きて、必死に剣を振るい、必死に技を磨いて、ここまで生きてきた。そうでもしないと、死んでしまうから。

 だがまた仮想世界に戻ればどうなるか。またログアウト出来ないかもしれないし、何よりも今度こそ俺は一人だ。

 

 誰もいない。

 皆を引っ張ってくれていたギルドリーダーも、いつも装備や俺のことを面倒見てくれていた鍛冶師も、父親のように慕ってくれたAIの少女も、ムードメーカーでいてくれた少女剣士も誰もいない。

 ましてや、いつも競争相手であった少年もいない。本当の意味で、自分は一人で、事を進めなければならない。

 

 ――――だが、それでも――――。

 

 

「あら」

 

 

 声が聞こえた。

 その人物はいつの間にか病室に入ってきて、眉を顰めて俺の方を見ている。

 半袖のコットンシャツに、スリムジーンズとかなりラフな格好をしていたメガネを掛けた少女は言う。

 

 

「貴方、また来たの?」

 

 

 暇なのね、と呟くと彼女はユーキ側のベッドの側にある椅子に座る。

 その動きはスムーズすぎるもので、何度もここに来ているかのような動きだった。

 

 実質、彼女は何度もここに訪れている。

 俺が目覚める前から、彼女はこうして先輩と呼ばれる者の――――ユーキの見舞いに来ている。

 かなりの頻度であると思う。何せ俺は週に2回、多くて3回。対して彼女は俺が行くと、必ずいるくらいだ。もしかしたら毎日来ている可能性すらある。

 

 自身のトートバックから本を手に取り、読もうとした辺りで彼女は俺の方へと眼を向けた。

 俺も少し彼女を見すぎていたようだ。それから居心地が悪かったのか、彼女はバツが悪そうに言う。

 

 

「何?」

「いいや、随分な言い草だなーって思ってさ」

 

 

 俺は睨みつけるとまではいかないものの、ジト目で彼女を見て続けて言った。

 

 

「朝田だって、結構来てるじゃないか」

「私はいいのよ」

「なんでさ?」

「先輩の後輩だから」

 

 

 そう言うと先輩の後輩――――朝田詩乃は手に持っていた本を開きそちらに意識を向けた。

 

 何とも素っ気ないもので、俺への反応が雑な感じがする彼女だが、当初はここまで会話する仲ではなかった。

 むしろ会話が成立しない程。お互いに会釈する程度の関係であり、朝田に至っては俺を思いっきり警戒しているくらいだった。

 

 まるで猫のように、ご主人に近付く輩を探るように、朝田は警戒心を露わにしていた。

 こうして会話できるようになったのは、つい数週間前である。

 それまでお互いに無言。俺も人当たりの良い性格でもないし、彼女も同じなのだろう。無言で俺を注意深く観察し、ユーキとはどう言う関係だったのか無言で勘繰っていた。

 

 だが今となっては――――。

 

 

「ねぇ、何を見てたの?」

 

 

 朝田から話しかける程度の関係を築くことが出来た。

 とはいっても、俺の方を向くわけでもない。本を読んで、時折チラッとユーキを見て、再び本へと視線を戻す。

 優先順位としては、ユーキ、本、最後に俺といった図式が成り立っている。

 

 別に俺は気にしない。

 携帯をポケットにしまって、肩を竦めて何気ない口調で答えた。

 

 

「……別に、なんでもないよ」

「そう……」

 

 

 それから朝田は興味が失ったのか、追求することはなかった。まぁ、追求されても答えられないのだが。

 

 内容が内容だ。

 こんな画像、誰にも見せることは出来ないだろう。それはギルドメンバーであったリズやユウキにも同じことをが言える。ユーキとアスナが何処にいるのかも、今のところ確証はない。無駄に不安を煽るのは得策ではないだろう。

 

 ましてや朝田にだけは見せてはならない。

 短い付き合いであるものの、彼女の性格は何となく察することが出来る。

 こんな画像を見せたものなら、ユーキの姿を見せたものなら、何をするかわかったものではない。

 極めて冷静に、そして慌てず沈着に、レクトへ大胆にも殴り込む可能性がある。いいや、こちらの予想を遥かに超える行動に出るに違いない。

 

 

「桐ヶ谷君、聞いてもいいかしら?」

「なに?」

 

 

 そうして朝田は本から俺の方へと見た。

 よく見てみたら、本が最初に開いたところから一頁も進んでなかった。どうやら朝田は緊張しているようだ。

 常にクールであった朝田には珍しいと思う。言うか言うまいか、彼女はどこか視線を泳がせて、覚悟を決めたようで意を決するように問いを投げた。

 

 

「……貴方、先輩と一緒だったのよね?」

「まぁ、常にってわけじゃないけどな」

「……先輩は、どんな感じだった? 無理してなかった?」

「……………」

 

 

 その問の答えは簡単なものだ。

 ユーキは、確実に無理を、していたのだろう。

 

 第十七層まで一人でフロアボスを相手にし打ち勝ってきた。

 その後も一人で笑う棺桶(ラフィン・コフィン)を壊滅させた。

 どれだけ自分が傷つこうとも引かずに、言葉にはしないものの仲間が傷つくまいと努力してきた。

 不器用にも程があると思う。言葉にした方が誤解されなかったことなど数えきれない。でもアイツは言葉にしない、いつだって行動で示してきた。

 

 口が悪く、不器用で、目付きが悪い捻くれ者。

 無茶をしては叱り、それでも無茶をし続けるバカ野郎。それがユーキなのだ。

 その辺り、朝田も良く知っている筈だ。だからこそ、彼女は敢えて問いを投げたのだろう。

 

 無茶をしてなかったのか、無駄であるとわかっていても、聞かずにはいられなかった。

 残された者として、心配する身として、帰りを待つ後輩として、俺の知っているユーキを知りたかったのだ。

 だから俺は。

 

 

「無茶していたさ。当然だろ、だってユーキだぞ?」

 

 

 包み隠さずに答えた。

 溜まった不満をぶちまけるように、自分が今まで何をしてきたのか、これから何を成すべきなのか確認するように続ける。

 

 

「アイツが無茶をやらかす度に、その度に俺とかアスナがフォローするんだ。リズが叱っても意味がないし、俺の娘をビビらせる。ユウキは笑ってるし、アイツと一緒に居るのは大変だった」

「また先輩、無茶してたのね……」

「あぁ。無茶して、他人を助けて、なのに助けてないって言い張るんだ。捻くれ者にもほどがあるけど、俺もアイツには助けられた」

 

 

 そう、助けられた。

 心が折れそうになっているときに、アイツは声をかけた来た。

 第一層『ホルンカ』で、一人で食堂にいた所を、アイツはぶっきらぼうで愛想を一つすら見せずに言った。

 ――――オマエ、オレ達と組め――――と。

 

 その言葉が俺にとって、これからどう進むのかの分岐点になったんだと思う。

 目を合わせれば睨み合い、口で文句を言い合って、剣を交えてきた。

 友達などではない、対敵というわけでもない、親友はおろか、宿敵という間柄でもない。それでも俺達は一緒に居た。見ようによっては歪な関係だったことだろう。

 

 それでも、俺はアイツと一緒に居た。

 羨ましかった、憧れていた、目標としていた。

 アイツのあり方に、諦めない姿勢に、何があっても折れなかった心に、俺は――――。

 

 

「こんな事を言うのもアレだけどさ、アイツは俺の目標だったんだ」

 

 

 追い付くために、努力を重ねてきた。

 その背に少しでも近付くために、鍛錬を重ねてきた。

 肩を並べたかったから、負けたくないと思った。

 

 

「何度も助けられた、だったら今度は――――」

 ――――俺が、助ける番だろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 ベッドに座り、俺はナーヴギアを手にしていた。

 アルヴヘイム・オンラインのソフトは既に買ってある。アミュスフィアは手元にないものの、事前に『鼠』にナーヴギアでも動くことは聞いている。

 既に準備は完了している。あとはコレを頭に被り、ベッドに寝て、あの言葉を紡ぐのみだ。

 

 両手が震える。

 当たり前だ。手に持っているモノは今まで共に戦ってきた戦友でもあり、俺の命を握っていた枷でもある。

 少しでも何かが誤作動したものなら、俺の脳は破壊されて今度こそ現実世界に帰ってくることは出来ない。またスグを、泣かせることになる。

 

 だとしても、せり上がってくる恐怖を感じながらも、俺は戸惑いなく装着した。

 別に恐怖に打ち勝った、何て大層なことを言うつもりはない。恐怖よりも、二人を助けたいという欲求が勝っただけに過ぎない。

 

 今度こそ、俺は二人を助ける。

 ホルンカでそうだったように、二人が俺に手を差し伸ばしてくれたように、今度は俺が二人を助ける。

 

 恐怖を誤魔化すつもりも、否定するつもりもない。

 俺は受け入れた上で、眼を閉じて。

 

 

「――――『リンク・スタート』!」

 

 

 再び、あの世界へ――――。

 

 

 

 

 

 

 




 べるせるく・おふらいん
 ~病室から出ていったキリトに対して~

後輩「……桐ヶ谷君って私と同い年よね?」
後輩「童顔だし華奢だし、歳上には見えないし……」
先輩(本人には言ってやるな、可哀想だろ……)
後輩(先輩、脳内に直接……ッ!?)


>>後輩
 現実世界のメインヒロインと化している節がある。
 何ベイロンさんの所業を彼女が知ったらエライことになってた。
 どれくらいエラいことになってたかというと、一人でレクト潰してた有様。
 迫り来るレクトの研究員共をちぎっては投げちぎっては投げ、まさにリアルコマンドーといったありさまで、近づく敵を片っ端からビューティフォーして、最終的に全身に爆弾をくくりつけて何ベイロン様ごと吹き飛んだそうな。という脳内妄想。

>>『鼠』
 なぁ、お前アルゴだろ!? アルゴだろお前!!
 ちゃっかりキリの字とデートの約束させた情報屋。逞しいなぁオイ。
 アルヴヘイム・オンラインにはまだログインしてないものの、裏からキリトを手助けしまくる。困った時のアルゴさん。

>>桐ヶ谷君
 後輩、盛大に勘違い中。同い年だと思っているの巻。
 童顔だからね、仕方ないね。



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