ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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第9話 囚われの君

 

 時刻不明

 世界樹 頂上付近

 

 

 彼女――――結城明日奈が本当の意味で仮想世界へ足を踏み出したのは、何もこれが初めてではない。

 一年と数ヶ月。現在も含めてしまえば、あと六ヶ月経過すれば丁度二年、彼女は仮想世界で生きてきた。しかもただ生きてきただけではない。少しでも気を緩めたら、死ぬような過酷な状況に、彼女は常に身を置いてきた。

 現実世界ではまず持ち得ることのない剣を握り、身を護る防具を装備し、生きるために戦ってきた。

 

 巨大なイノシシとも戦った、火を吐く翼竜とも戦った、三メートルは超える巨人とも戦ったことがあるし、ワーム状の気持ち悪いモンスターとも戦った。

 戦えたのは頼りになる仲間たちの存在があったから、何よりも剣を握っていたからに他ならない。今となって考えれば、アインクラッドでの彼女と剣は一心同体。むしろ身体の一部というほど、深い関わりを持っていた。

 

 しかし、今となってはそれがない。

 防具も装備していなければ、腕力も現実世界の自分と同等と言えるほどに劣化している。加えて、『紅閃』を称されるほどの速度は見る影もないに違いない。

 力では一般人にも簡単に負けるだろうし、走ったところで以前のような“眼に止まらぬ速さ”では動けない。

 

 身に纏っているのはただの趣味の悪い露出されたドレス、そして、機能しない両翼のみが明日奈の背に接続されていた。

 

 こんな身で、こんな体たらくで、加速世界(アクセル・ワールド)のギルド団長とは笑わせる、と明日奈は思わず口元を自嘲するように歪めた。

 

 構わない。

 どんな見窄らしい身なりになろうとも、恥辱に塗れようとも、情けなくともどうでも良かった。

 全ては彼を――――茅場優希を救うためなら、どんなことでもやってみせる。

 

 

「……ッ」

 

 

 鳥籠から踏み出し、巨大な世界樹の枝に降り立つ。

 裸足の裏からは、確かな感触。そして一陣の風が、容赦なく明日奈の身体へ叩いてく。突風とはいかないものの、明日奈の身体の軸を崩すには充分な風力。

 

 思わず身体が揺れて、踏み止まり彼女は一息をついた。

 ここは高度数百、いいや数千、もしかしたら数万は行くかも知れないほどの高さだ。こんなところから落ちてしまったら、優希を救うところか、明日奈の身すらどうなるかわからない。

 

 

「大丈夫ですか、団長さん?」

「うん。ありがとう、ユイちゃん」

 

 

 明日奈を鳥籠から出して、心配そうに覗き込む少女――――ユイに、明日奈はなるべく自然な笑みを作る。

 檻から出してもらった上に、不安そうな顔をなどしてはいられない。

 

 ふぅ、と一息吐き出して、明日奈は前を向き確かな足取りで歩き、改めてユイに礼を送る。

 

 

「本当にありがとうね、ユイちゃん。貴女がいなかったら、わたしずっと閉じ込められていたかも……」

「いいえ! わたしこそ、遅れてごめんなさい」

「ううん、謝ることなんてないよ。本当にありがとうね?」

 

 

 それは心からの謝意であった。

 ユイが現れなければ、今も明日奈は鳥籠に閉じ込められていたに違いない。何も出来ずに、ただ空から地上を眺めて、いずれ来る妖精王からの恥辱を待つばかりであった。

 

 だが今は違う。

 鳥籠から抜け出し、自身の両足は確実に仮想世界の地に踏みしめて、今度こそ囚われの幼馴染を救うことが出来る。

 それもこれも、ユイが明日奈を助け出したからに他ならない。

 

 しかしユイの表情は晴れない。

 暗い顔で、まるで後ろめたい気持ちでもあるかのように顔を俯かせて、ギュッと白いワンピースを握りしめて、恐る恐るといった口調で口を開いた。

 

 

「違うんです、団長さん。わたしは、ずっと見ていたんです……」

「それは――――」

 

 

 どう言う意味、と問いを投げる前にユイが続ける。

 

 

「わたしは、わたし達は、ずっと観測していました。団長さんの現状を、ユーキさんの状態を、ずっとずっと“システムの外側”から……」

「システムの、外……?」

「アルヴヘイム・オンラインはソードアート・オンラインのサーバーをコピーして精製した物でした。プログラム、グラフィック、カーディナル・システムから何もかもです」

 

 

 とは言っても、カーディナル・システムの方は古いバージョンを使っていますが、と付け加えてユイは口を開く。

 

 

「わたしはソードアート・オンラインがクリアされた時、確かにデータを初期化され消滅しました」

「……うん、わたし達もユイちゃんが消えるのを見たよ」

 

 

 最上階で茅場晶彦と戦っていたユーキ以外の加速世界(アクセル・ワールド)の全員が見届けた。

 涙をながすことはあれど、満面の笑みで消えたユイを、確かに明日奈達は見届けた。

 

 

「消える瞬間、“あの人”は何やら細工されていると気付いたのでしょう。事の異変を、SAOプレイヤー達が拉致された異変を解決しようと、“あの人”は消滅したわたしのデータを集め、復元されました」

 

 

 でも、と言葉を区切りユイは悔しそうに声を震わせる。

 

 

「わたし達にとっての不幸は、アルヴヘイム・オンラインがソードアート・オンラインのデータを流用していることでした。外部からのハッキングは完全にシャットアウト、ファイヤーウォールにも穴がなくて、手も足も出ません……」

「……わたし達を囚えていた人は、それを狙っていたと思う?」

「いいえ、偶然だと思います。ただそれが、管理者にとっての幸運だった思います」

「一応聞かせて? 首謀者が誰なのか、ユイちゃんわかる?」

「団長さんを拉致した実行犯は――――須郷伸之。この世界では妖精王オベイロンとして、君臨しています」

 

 

 衝撃はなかった。

 何度か、須郷から聞いたことがあるから。自慢するように朗々と、誇らしげに己の地位がどれほど高いものなのか、聞きもしないことを語っていたから。その際に何度も言われた、明日奈を殺すも生かすも僕次第である、と。

 その男が、自分と優希を拉致した関係者ではな筈がない。一枚噛んでいる、もしくは首謀者であることを想像していた。

 蓋を開けてみれば正にその通り。予想通りで何も面白味のない展開である。

 

 これでハッキリした。

 自分達がどうすれば、現実世界に帰還出来るのか。これでハッキリした。

 やはり元を断たねばならない。今回の主犯、全ての元凶をどうにかしなければ、何も解決などしない。

 

 しかしここで、新たな疑問が生まれる。

 

 

「ユイちゃんはどうやって、わたしの所まで来れたの?」

 

 

 ユイの言葉を借りるのなら、彼女がアルヴヘイム・オンラインへ侵入するのは難しかった筈だ。

 外部から接触できないように設計されているソードアート・オンラインのシステムを流用しているのだ。これでどうにか出来てしまえば、それこそ一年近くもSAOプレイヤーがデスゲームを強いられる事もなく、現実世界へ帰還できた筈なのだ。

 

 不思議そうに首を傾げる明日奈に、ユイは自分の結論を出した。

 

 

「恐らくですが、誰かがナーヴギアでアルヴヘイム・オンラインにログインしたんだと思います」

「ナーヴギアで?」

「はい。ソードアート・オンラインとアルヴヘイム・オンラインのシステムの基幹は同じです。ログインした際に、ナーヴギアにあったソードアート・オンラインのデータが引き継がれてしまい、ありもしないデータを引き継ぎシステム内に不具合が生じてしまった結果――――」

「ユイちゃんが侵入出来たって訳ね……」

 

 

 ユイは「確証はありませんが」と頷く。

 

 何処の誰かは明日奈にはわからない。だがその人物が、ナーヴギアでログインしなければ、ユイはアルヴヘイム・オンラインへ侵入できなかったし、明日奈も鳥籠の中に囚われていただろう。

 ユイ以外にも感謝する人物がいることを、明日奈は再認識する。

 

 明日奈にとっての恩人は、今も増えるばかりだ。

 その恩人の一人――――ユイの表情は晴れない。何処か影を背負っており、今にも泣きそうな顔で伺うように明日奈に頭を下げた。

 

 

「ごめんなさい、団長さん……」

「どうして、謝るの……?」

「だって、だって! わたしがもっと早く突破出来ていれば――――」

 

 

 小さな身体、華奢過ぎる細い肩が震える。

 顔を伏せており明日奈から表情は見えないものの、その顔は今も泣きそうになっていることだろう。

 

 自分のせいである、自分がもう少し有能であれば、自分がもう少し優秀であれば、苦しまなかったに違いないという、“もしも(もしも)”の後悔がユイに襲いかかる。

 その気持は明日奈にとって痛いほど理解が出来るものだった。何度思ったかわからない、自分がもう少しだけ強ければ“彼”への負担が減ったのではないか、と常に考えていた。

 

 だからこそ、明日奈は努力を積んできた。もう二度と、足手まといにならないために、少しでも“彼”の力になるために、必死にその背を追いかけてきた。

 きっと、ユイも同じなのだろう。仲間が悲観に打ち拉がれているのが嫌でずっと抗い、そして漸くその努力が実を結んだのだろう。それでも自分が遅かったからと言ってしまうのは、少女の人柄なのかも知れない。

 

 だからこそ、

 

 

「ううん――――」

 

 

 明日奈は優しく否定した。

 取扱に気をつけるように、触れれば溶けてしまう雪を触るように、大事に優しくユイを抱きしめる。

 

 

「ユイちゃんは頑張った、頑張ったよ。それを証拠に、わたしはここにいるんだもん」

「団長さん……」

 

 

 今度こそ、ユイは顔を上げる。

 やはりその眼には涙を溜めていた。必死に流すまいと堪えて、縋るように明日奈を見る。

 

 思わず笑みが溢れた。

 明日奈はあやすように、力付けるように――――自分を鼓舞するように。

 

 

「――――今度は、わたしが頑張る番だよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界がアルヴヘイム・オンラインというVRMMOの中ということは、須郷からの口から、そしてユイからも簡単に説明されている。

 プレイヤーは9種類の種族に別れ、世界樹の頂上にあるとされる空中都市を目指し、妖精王オベイロンがプレイヤーを光妖精族(アルフ)へと転生させる。それがアルヴヘイム・オンラインの全てのプレイヤーが目指す『グランドクエスト』の内容である。

 

 そうなれば、世界樹の内部すらも幻想的なものであると想像が出来る。

 行く手を阻むレベルの高いモンスター、数々の罠が張り張り巡らされ、最終ダンジョンらしい難易度に仕上っている筈だ。

 元々ゲームの経験が少ない明日奈から見ても、それくらいのことは想像が出来るものだ。

 

 だが――――。

 

 

「なに、これ……」

 

 

 茫然と明日奈は、目の前の光景が信じられないような口調で呟いた。

 内部へと続く明らかな人工的なタッチパネルを模したプレートが外部と内部を隔たっている。木製のドアでもなければ、ドアノブすらもない。ファンタジーの世界観には似つかない入り口に触れると、音もなく左右にスライドした。

 

 世界樹の内部に侵入しても、違和感が払拭されることはない。内部は自然的な要素などなかった。

 外壁は白く、床も白い。通路は薄暗く、所々で足元からオレンジ色の光が発光されているのみである。もちろん自然光などではなく、明らかに電力の力を使ったような光であり、現実世界で良く見かける電光がこれでもかというくらい主張していた。

 

 運営の施設なのか、と予想したが、直ぐにその考えを否定する。

 そもそもな話、そういったモノは外部で運営されるはずだ。ゲーム内部に設営するのは、ありえない話だろう。

 

 ならばこの施設はどういった意味を為しているのか。

 ゲームの世界であるはずなのに、まるで明日奈から見える光景。それは現実世界での大企業でよく見る小奇麗にされているオフィスのようにも見える。

 

 

「ユイちゃん、ここってゲームの世界なんだよね……?」

「……そうです。間違いありません」

 

 

 恐る恐ると言った調子で、ユイは明日奈の後ろから伺うように辺りを見渡した。

 それからユイも明日奈の考えと同じような意見を口にする。

 

 

「アルヴヘイム・オンラインは魔法や剣が主だったゲームです。こんな人工物はありえません」

「だよね。わたしもそう思う……」

「世界観をぶち壊しています。恐らく、ここはプレイヤーが入れない施設なのでしょう」

 

 

 そうなれば、ある程度納得がいく。

 ゲームの攻略とは関係がないのなら、人工物をふんだんに使用した建造物を建てても問題はないのかもしれない。もしかしたら製作者側の遊び心という可能性もある。

 だがそれは、製作者側がどんな人間なのか知らない人間の考えだ。生憎、明日奈は製作者側の人間を、思い出すのも嫌気がさす人間を一人知っている。

 

 それは傲慢な人間であり、全てのモノを手に入れなければ気が済まない、とうの昔に破綻している人間である。

 彼が――――須郷伸之が遊び心など許す筈がない。常に余裕がない彼に、ここまでの施設を作らせる人としての度量はないことを、明日奈が一番良く知っている。

 

 ならばこの施設は、何のためにあるのか――――。

 

 

「一体何の為に、こんなのを作ったの……?」

 

 

 答えれる人間がいないのを分かっているが、思わず問わずにはいられなかった。

 

 

「それは……」

「もしかして、知ってるの?」

 

 

 問いを投げると、ユイは「はい」と力なく答えた。

 ならばこの施設はどんな目的で作られたのか、と問いかけようとするも明日奈は言い淀む。

 

 様子がおかしかった。

 どこか気不味そうな、口にするのも引けるといったような、後味の悪い雰囲気と表情でユイは口にするか明らかに迷っている。

 それだけ変な施設なのか、と考えていると。

 

 

「あの人が言うにはここは――――」

 

 

 意を決してユイは、言葉を選びながら口にしようとするも。

 

 

「ソードアート・オンラインのプレイヤーに――――」

「――――っ!? 待って、ユイちゃん……」

 

 

 しっ、と明日奈は人差し指を口元に置き静かにするよう促すジェスチャーを取った。

 

 すると同時に、壁が左右にスライドする。

 明日奈は瞬時にユイを抱きかかえると、物陰に隠れて様子を伺った。

 

 そこから現れたのは二体の物体である。

 ナメクジのような姿で、その背には何十本も触手が生えており、生理的に受け付けない姿をしていた。

 

 もしかして、モンスターなのだろうか、と明日奈は疑念に思った。

 しかしそれは妙なモノだ。ここはプレイヤーと関係がない施設なのであれば、どうしてモンスターが現れるのだろうか。仮にモンスターであるのなら、今の状態は不味い。今の自分は現実世界のような非力な存在であり、武器も携帯していないのだ。自分よりも小さいユイもいる今、満足に戦えない。

 どうするか、と切迫しながらも様子を伺っていると。

 

 

「ったく、須郷ちゃんも人使い荒いよなぁ?」

「まったくだ」

 ――えっ、喋った!?

 

 

 思わず両手で口元を抑えた。驚きのあまり声が出そうになる。

 よく見ればユイも驚いているのか、目を見開きながら明日奈と同じように口元を両手で抑えていた。

 

 二人は視線を合わせると、コクリと頷いた。

 とりあえず様子を見る。何よりも明日奈にとって無視できない単語が一体のナメクジらしき物体から口に出た故に。

 

 

「今朝嬲ったばかりだろうによぉ」

「いきなりだもんな。意識があるか調べろなんて」

「毎度トばせる癖にな? 何をあんなにビビってんだか」

 

 

 どうやら二体は須郷の命令で、何かを確かめに行ったようであった。意識があるか調べろということは、それが生き物であることが察することが出来る。

 二体の愚痴は続く。

 

 

「それにしてもあのガキ、よく生きてるよな?」

「あぁ、正直気味が悪い。常識的に考えてさ、廃人になってるだろ」

「まぁ、なんでも約束らしいぜ?」

「約束って?」

「自分が死ぬまで、実験体達と須郷ちゃんのお気に入りに手を出すな、って須郷ちゃんが約束したんだってさ」

「はぁ!? バカだねぇ、ボスがそんな約束守るわけねぇじゃん!」

 

 

 ゲラゲラ、と下卑た笑い声が二体から発声された。

 聞いていていて、不快に思わせるモノである。だがそれ以上に、明日奈にとって聞き捨てならない単語が出てきた。

 

 

「あのガキ、何て言ったっけ?」

「確かボスは――――茅場って言ってたな」

 ――――え?

 

 

 頭が真っ白になった。

 茅場、ガキ、嬲る、とてもではないが嫌な予感しかしない。

 それに須郷がどれだけ、茅場晶彦を憎んでいるか明日奈は理解したばかりだ。その矛先は本人にも向けられており、関係がない“彼”にも向けられている。常人では選択しない八つ当たり、須郷は疑問にも思わずに狂気を向けている。

 

 唇が震えて、明日奈の顔が青白く変わる。

 動機が激しくなり、両足が震えた。彼女は今――――最悪な状況を想定している。

 それは――――。

 

 

「それよりも、須郷ちゃんのお気に入り見に行こうぜ」

「怒られるだろ。俺は嫌だよ」

「いいじゃん、あの気味の悪いガキを見た後だ。少しくらいご褒美があってもいいだろ?」

「……しょうがない奴だな」

 

 

 二体の会話が入ってこない。

 取り乱していると言っても良い。二体に詰め寄らなかったのは、ひとえにユイが必死に止めていたからだ。もしユイがいなければ、考えなしに明日奈は二体に詰め寄っていただろう。

 

 そんなことなど露知らずに、二体は明日奈達の進行方向へと消えていく。

 同時に、明日奈は振り切って件の二体が出てきた壁の前に立った。よく見ればそれは先程のタッチパネルを模したプレートであり、ドアの役割を果たしていることがわかる。

 ふと、横に視線を送ると、明日奈は息を呑んだ。

 

 

「……っ!」

 

 

 壁には部屋の名前が刻まれていた。

 わかりやすく、今の状況で嫌ってほどわかりやすいほど、何の意味を成す為の部屋なのかわかる。

 二体のナメクジが出てきた部屋、それはどのような部屋なのか。仮眠室でもなければ、予備仮眠室でもない。それは――――特別実験体格納室。

 

 実験体。

 それは嫌な響きである。

 もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら。

 

 嫌な予感が、最悪な光景が、止まらない。

 自分は鳥籠に閉じ込めらているだけ。そう、“だけ”であった。もしかしたら、それよりも劣悪な事を、“彼”がされていたら。

 耐えるだけの自分とは違い、何かをされていたら、明日奈はそんな考えが纏まらないまま、意を決してプレートのドアに触れる。

 

 静かに左右に開き、明日奈はその部屋に足を踏み入れた。

 

 薄暗く、人工光も自然光もない。

 窓はなく、太陽の光すら入らない、人がいていい場所ではない。だがそれは、確かに居た。

 

 黒く淀んだ色の拘束衣に身を包み、両腕に巻き付いたそれは天井から伸びており、足は床とギリギリ届かない高さで調整されている。

 力なく頭を垂れる黄金の頭髪。鉄格子越しに見えるソレを明日奈は呼びかける。

 

 格子をギュッと握りしめる。

 痛々しいほど握る。血が出るのではないかと思わせるほど力強く握りしめて、“彼”の名を呆然と呼んだ。

 

 

「優、希くん……?」

 

 

 

 





>>ナメクジ型のアバター
 研究員の一人。
 一人は命乞い一つすらしない優希を気味悪がっっている。
 一人はロリコン。ティターニアをいつか好き放題にしようと模索中。

>>“彼”の名を呆然と呼んだ。
 待ち望んだ再会。SAOから半年ぶりの彼。

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