ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 ロストベルトNO.2をやって、心が折れそうになった兵隊です。
 何なの、アレ……。

 artisanさん、AREICIAさん、誤字報告ありがとうございます!


第15話 その紅閃は彗星の如く

 ――――あれは、どれぐらい前のことだったか。

 

 わたし達と“彼”が合流してから、一週間は経った頃だったと思う。

 “彼”が無茶をしないように、一人で勝手に進ませないように、わたしやユウキ、それにストレアとローテーションしながら“彼”を起こしていた。“彼”にとっては迷惑だったのかもしれない。何せ笑顔ではなく、うんざりした顔で「またか」と言いたげに億劫そうに、“彼”は起床するのだから。わたしだけでなく、ユウキやストレアに対してもそうだというのだから、本当に嫌なのだろう。

 でもそれだけわたし達は必死だった。目を離せば“彼”は必ず無茶をする。誰にも真意を伝えることもなく、ただ真っ直ぐに、それこそ最短距離で進み続ける。自分が傷つこうとも止まることなく、息を吸うように足を一歩一歩着実で確実に踏み出していく。

 

 キリトくんはそれをアホだと言う、リズはそれをバカねと呆れ、ドリューさんはそう言うやつだと諦めていた。

 確かに三人の言うとおりなのかもしれない。人によっては、“彼”の行動がいたく愚かしい行為だと見えるのかもしれない。

 

 でもわたしは違った。

 それが“彼”であり、アレが“彼”であるのだと、自然と受け入れていた。

 そうでもしなければ、“彼”は生きていけないのだと思った。少しでも、誰よりも、何よりも、自分に罰しないと生きてはいけない。

 自分が傷つくのは構わない、でも他人が傷つくのを黙っては見ていられない。我慢が出来ない。だからこそ彼は考えるよりも先に動いてしまう。その結果が自分を傷つけてしまうものだったとしても、構わずに行動してしまう。

 

 “彼”は以前に言ったことがある。

 自分は他人の為に動いているわけではない、自分の為に動き剣を振るっているだけに過ぎないのだ、と。

 

 それは本当なのだろう。

 他人の為に動くという行為は、立派な理由だ。でも“彼”にとってそれは、他人を理由に使い、重荷を背負わせているだけと考えを帰結させるモノであった。

 だからこそ“彼”は他人を理由に使わない。いつだって“彼”は言っていた。自分がそうしたかった、だから自分の為に心の命ずるままに動いた、それだけに過ぎないのだと。

 

 言葉にしないが、“彼”はそんな自分を捻くれ者であると認識しているのかもしれない。

 でも、わたしには違って見える。わたしはそれが“彼”の強さであると、見えてしまう。

 きっと“彼”は味方などいらずとも、一人であろうとも何かを達成してしまう。そんな強さを持っている。この世で味方一人いなくとも、この世すべてを敵に回そうとも、“彼”は進み続ける。

 

 そんなことが出来る人は、限られている。

 少なくとも、わたしには出来そうにない。しかし、近づかなければならない。少しでも“彼”の強さに近づかなければならない。守られるだけの存在ではなく、対等な存在となるためにも、わたしは“彼”に――――。

 

 

『――――オマエさ、ナニを見てやがんだ?』

『へ――――?』

 

 

 そしてわたしはジッと見ていた。

 夜天の空のもと、星が瞬き、太陽が沈んだ、第十八層を一望できる丘で、一心不乱に素振りをしている彼の背中を、わたしはただ何をするでもなく見ていた。

 

 傍から見たら不審者極まりない。

 “彼”の一手一足を微動だにせずに、わたしは観察していたのだ。それが今になって、恥ずかしくなった。

 

 頬の温度が急速に高まっていくのを感じる。きっと今のわたしは頬を赤色に染めていることだろう。

 “彼”も不快に思っているのか、素振りを一旦止めて、訝しむ視線でわたしを見つめていた。

 

 “君に少しでも近付きたかった”。

 そう言えたらどれだけ楽だろうか。長年、“彼”と付き合いがあるというものの、面と向かって言うのは少しだけ恥ずかしい。これがユウキやストレアならば、臆面もなく言えるのだろうが、わたしには無理だ。長年の付き合いがあっても、いいや逆に長年付の付き合いだからこそ、言えないことがある。自然と型にハメているわたし達では出来ない事がある。

 

 それが今。

 少しでも近付きたい、なんて改めて言うと恥ずかしいものがある。

 

 だからわたしは笑って誤魔化して。

 

 

『――――そう言えばさ、君って強いよね!』

 

 

 ――――話題を変えることにした。

 

 

『……急に何を言ってんのオマエ?』

『……ふと、思いまして』

『冗談も休み休み言え。オレのどこが強いってんだ』

 

 

 肩を大きく竦めて、呆れるようにため息を吐いた。

 どうやら“彼”は本気でそう言っているようだ。同時に生まれる疑問がある。どうして“彼”は謙遜でもなく、本気で言っているのか。

 

 

『強いでしょう? 一人でフロアボス攻略してたんだから。そう一人で、君一人で……ッ!』

『……一人で無茶して悪かった。だから自分で言って、自分でキレるのはやめろよ』

『別に、怒って、ないわよ?』

『笑顔、引きつってんだけど?』

 

 

 この話題はわたしにとっても、“彼”にとっても鬼門であるようだ。

 “彼”は話を戻すぞ、と静かに言うと苦々しい表情で、悔しそうに告げた。

 

 

『オレは強くなんかねぇぞ。ガチで戦えばキリトには負けるし、ユウキにも負ける、ストレアはわからん、ムカつくけどオマエにも負ける』

 

 

 裏方のリズベットには勝てるけどな、と言う“彼”がますます不思議に思う。

 “彼”は強い。近くで見てきたこそ断言できるし、何よりも結果がそれを証明している。フロアボスを単騎で幾度も攻略してきた実績が、それを物語っている。

 

 

『わたしは君には勝てないと思うけど……?』

『何を言ってやがる。オマエの突きの速度に勝てるヤツなんざいねぇだろ。対してオレの剣の腕は二流。二流が一流に勝てる道理なんざあるわけねぇだろ』

『わ、わたしの剣って、そんなに速い?』

『強みを自覚しろよ。オマエの一番の武器は斬ることじゃねぇ、突きの速度だ。型にハマっちまえば、ユウキは無理でも、キリトに勝てるくらいの代物だぞ?』

『……』

 

 

 嬉しかった。

 “彼”の言葉が何よりも、嬉しかった。認めてくれる言葉が、わたしを認めてくれる評価が、何よりも嬉しいものだった。

 だがそれでも――――。

 

 

『ありがとう。でもわたし、思うんだ。自分はまだまだ弱い奴だって』

『……もう一度言うけどよ、オマエは自覚しろ』

『え?』

 

 

 それはどう言う意味なのか。

 聞こうとする前に、“彼”はわたしに近付いて軽く頭を小突いた。出来の悪い生徒に教える先生のように、口元を緩めて呆れた表情で続けて言った。

 

 

『前にも言ったが、オレは何度もオマエに助けられてる。オレが汚い言葉を吐こうとも、オマエは諦めずにオレの傍に居てくれたんだ。オレは“間違った力”、オマエは“正しい力”を確かに持っている』

『正しい、力……?』

『あぁ。光、って言ってもいい。オマエには、オレにはない力を持っている。それを自覚しろ。辛い時、挫けそうになった時、オレの言葉を思い出せ』

 

 

 そう言うと“彼”――――優希くんは口元を僅かに緩めて笑みを零した。

 いつも苛立っている優希くんには珍しい、他人が見てもそれが“笑顔”であることがわからないほどの希薄な笑み。

 

 

               『オマエは弱くない。オマエは――――強い』

 

 

 

 

 

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 2024年8月17日 PM16:30

 サラマンダー領 首都『ガタン』 中央広場

 

 

 疾、という突きが空を裂く音が聞こえて。

 遅、という悔しそうな舌打ちが聞こえた。

 

 その速度は明らかに己を凌駕していることを、ユージーンは自覚する。

 先程まで脆弱だった女が、自分の猛撃を辛うじて防いでいた弱かった女が、今や自分を圧倒していると言う事実を、ユージーンは認識した。

 

 舐めてなどいられない、侮ることなど愚の骨頂、下に見るなどありえない。

 最早、彼女の実力は、自分と――――。

 

 

「やぁァァァっ!」

 

 

 ――――遜色などないのだから。

 

 

 裂帛の籠もった気合と放たれる突きは、正に神速の域にまで達している。

 

 ユージーンと対峙している彼女――――紅閃のアスナと名乗った彼女の攻め方は単純なものだった。

 真正面から、搦め手など使わずに、堂々と正面からユージーンと斬り合っている。単純であるのだから対処の仕様もある、と高を括っていた。しかしそれは大きな間違いである。単純だからこそ、彼女の攻め手の型は完成しているのだ。

 

 眼にも止まらぬ突き。

 幾千、幾万、と繰り返した突きに迷いなどない。避けることなど出来ず、防ぐだけで精一杯。

 鋭く、深く、必殺の速度で以て、ユージーンの身体を抉っていく。

 

 

「舐め、るなァァァ!!」

 

 

 それでも反撃するのは、最強としての意地か。

 被弾覚悟で両手剣を横に薙いだユージーンの一撃に、アスナは紙一重で避ける。

 後ろに大きく身体を反らし、そのままの勢いで二転三転とバク転をしながら後退する様は、軽業師のようで軽やかなモノだった。

 

 余裕、というわけではない。

 アスナも今の一撃は想定外だったのか、冷ややかに汗を流していた。

 それでも物怖じせずに、真っ直ぐに視線を逸らさずに、意識をユージーンに向ける。

 

 

 ――なんだ、コイツは……?

 ――どうしてここまで、食い下がってくる……?

 

 

 プレイヤースキルは互角、恐らく身体能力も互角なのだろう。

 しかし体力だけは違う。ユージーンはまだまだ余力があるのに対して、アスナのHPゲージは危険域に達している。一撃でも与えられれば、ゲームオーバーとなる。それは紛れもない敗北に繋がっているのだ。

 だと言うのに、彼女は恐れない。ユージーンよりも疾く、何よりも速く攻める。守っても勝ち目はないのなら、攻めなければ勝てないというのなら攻める。まるでそれはいつも見てきた“彼”のようでもあった。

 

 しかしユージーンは知らない。

 どんな想いで、どんな真意で、彼女が手にとっているのかユージーンは知らない。

 だからこそ困惑する。鬼気迫る様子に、生きるか死ぬか余裕のないアスナの様子に、ユージーンは飲まれつつあった。

 

 それこそが、致命的となる。

 プレイヤースキル、身体能力、両者の実力が拮抗しているのなら、決め手となる要素は一つしかない。

 それこそが絶対に負けないという意地。心の強さ、と言っても過言ではない。長く争っていれば浮き彫りになってくる第三の要素。

 

 困惑するユージーンに対して、アスナには迷いなどなかった。

 技の精度はますます研ぎ澄まされていき、鉄の島――――アインクラッドに居た頃よりもその練度は増していく。

 

 

 アスナは加速する。

 守りに入ったユージーンから行動することはない。ならば全て、アスナのタイミングで攻防が始まる。

 

 

「シッ――――!」

 

 

 神速を伴った速度で放たれる突きを、辛うじてユージーンは魔剣グラムの剣脊で受け止めた。

 しかし一撃では終わらない。その上から四撃――――ソードスキル『カドラプル・ペイン』を模した連撃を加えた。

 

 真正面から受け止めた連撃に、衝撃を受け流せるわけもなく。たたらを踏んでユージーンが後退したところに、彼女の斬り上げが迫る。

 

 重厚な鎧に守られていた胸部が裂け、紅色の斬傷となり血液のような斑点が流れた。

 斬られた、という不快感がユージーンを襲う。後退しなければなんらい、という生存本能が語りかけるも、それを戦士として本能を用いて押さえつける。ここで下がってはならない、下がれば最後決定的な敗北に繋がることをユージーンは理解していた。

 

 故に上段で構えたグラムを――――。

 

 

「ドリャァアァ!」

 

 

 ――――全力で振り下ろす。

 しかし予期していたのか、アスナは全力のそれを皮一枚で避けて、踏み込んできたところを顔面目掛けて蹴り上げた。

 

 頭を、顔を、首を、蹴り上げられたユージーンの巨大な体躯が仰け反った。

 一瞬、何をされたのかわからなかった。しかし直ぐに、蹴られたことを自覚すると、仰け反っていた身体を急停止させて、体勢を立て直し、地面を強く蹴って大きく後退する。

 

 肩で息をする。

 それは相手も同じであった。対峙している女も、息も絶え絶えであり、余力もない。一撃でもまともに喰らえば負ける、という現状が後押ししているせいもあってか顔色も優れていない。

 だと言うのに、攻めきれない。守るだけで精一杯と言う事実。たった一撃、それだけのことなのに、勝てないという状況。

 

 翅を使い、空から攻めると言う選択肢は既になく、魔法を用いることも頭に入れていなかった。

 真正面から来るのであれば真正面から、搦め手を使わないのなら己も使わない。それこそが最強としての矜持、『将軍』と呼ばれた彼の誇りでもあるのだ。

 

 

「何故だ」

「……」

 

 

 思わず言葉に出た疑問。

 対峙しているアスナが応じないのは、そんな余裕もない故だ。だからこそ疑問が加速する。

 

 

「何故だ。何故、俺は貴様を倒しきれない。何故、俺は貴様に圧倒される……!」

 

 

 答えなど返ってこない。

 わかりきっていたことであるが、ユージーンは口にせずにはいられなかった。

 だが――――。

 

 

「――――えぇ、貴方は確かに強いわ」

 

 

 答えは、返ってきた。

 口にした本人であるユージーンは目を見開く。応じてくるとは思わなかった。

 だが彼女は応じた。余裕が無いくせに、肩で息をして、ギリギリの状態のくせに、律儀にユージーンの言葉に返す。

 

 

「でも負けられない、負けてなんていられない。わたしは知っている、自分よりも強い相手に対して諦めなかった“彼”を。絶対に引かなかった“彼”の姿を。敵に背を向けなかった彼の背をわたしはずっと見ていた――――!」

 

 

 そう言うと、アスナは身を低く構える。

 低く、更に低く、尚低く。片手を地面に付いて、片手を細剣を持つ。その姿はまるで、クラウチングスタートのようでもある。引くことを拒否するかのような、攻撃的な構え。

 何をする気なのか、と知覚される前に、アスナはその状態のまま地を思いっきり蹴り上げる。右手に持つ細剣を腰溜めに構えて、全力でユージーンと開いていた距離約50メートルを走破する。

 

 不味い、とユージーンはグラムを構えて剣脊受け止めようとするも、それは遅かった。

 充分に速度が乗ったアスナは二度地面を蹴って、更に速度を上げていく。

 

 

「――――負けない」

 

 

 更に速度を上げる。

 もっと、もっと、もっと――――。

 勝て、と己の内側にいる“彼”が叫ぶ。

 勝つ、と己自身が吠え立てる。

 不利であろうが関係ない、勝ち目など知ったことか。勝つと決めて、並び立つと告げ、今度は自分が守ると定めたのなら何が何でも勝て。

 

 

「――――絶対に負けない」

 

 

 絶対的な加速するアスナに、反応できる人間はいない。

 前傾姿勢で細剣を突き出し、ユージーンの身体に細剣が突き刺さり、そのままの勢いで推進していく。

 

 

「――――貴方を倒して、わたしは“彼”に追いつく。守られるだけの女じゃない、今度こそ“彼”を守れる女になる。だから――――!」

 

 

 それは紅色の閃光を伴った彗星だ。

 紅色の光の尾を引きながら、驚異的な速度と殺人的な速度を以て、敵対者に向かって突進する。

 それこそが細剣最上位剣技、ソードスキル『フラッシング・ペネトレイター』。突きこそがオマエの強みだ、と“彼”は言った。だから彼女は自覚した、自覚したが故の決着でもあった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺りが静まり返る。

 無理もない。今まで圧倒していたにもかかわらず、姿形を変えたと思いきや、最強に打ち勝ってしまったのだから。

 

 そして、次第に周囲がザワつき始める。

 既に限界なのか、両手両膝を地面に付き、呼吸が荒いアスナに火妖精族(サラマンダー)の意識が集中していく。

 

 もしかしたら、暴動が起きるかもしれない。

 何せ、今のアスナの姿は人間のそれだ。とてもアルヴヘイム・オンラインのプレイヤーとは思えない外見をしており、何よりもその背には妖精族特有の翅がない。

 となれば、おかしな話だ。正規のアバターではない彼女が何者なのか、安易に連想出来てしまうというもの。それこそが、大半のゲーマーが嫌うチート行為をしている人間――――チーターと称される存在。

 

 もちろん、アスナがチート行為などしたことがない。

 この姿も全盛期の姿を強く思った結果であり、心意による力のものである。しかし大半のプレイヤーは、その力の正体を知るわけがない。見ようによっては、チート行為であると思われても仕方ない。

 

 見守っていたリーファ、シグルドは思わず駆け寄ろうとする。

 最悪、この場を離脱する。それだけを考えて、行動に移そうとするも――――。

 

 

「――――見事だ」

 

 

 それはアスナの進行方向から。

 五体満足とはいかないものの、ボロボロの状態でユージーンが決闘場となっていた輪の中に再び入ってきた。

 

 見れば、まだHPゲージが削りきれていない。

 そう。彼とアスナの決闘(デュエル)は、まだ終わっていないのだ。だというのに、どういうわけかユージーンからは敵意はない。むしろスッキリしたような、清々しい面持ちでアスナを見つめている。

 

 深く息を吸い込み、深く息を吐く。

 すると彼は、思いもよらないことを口にした。

 

 

「降参だ。この決闘(デュエル)、俺の負けだ」

 

 

 同時に、アスナとユージーンの眼の前に紫色のウィンドウが表示され、勝者の名前が表示される。

 勝者の名前は――――ティターニア。姿形はアインクラッドで生きてきた『紅閃』の姿であるが、どうやらプレイヤーネームだけは変わらなかったらしい。

 

 ふぅ、と息を深く吐いて、アスナは立ち上がる。

 そして愛剣を腰に差している鞘に収めて、ユージーンに向き直り問いを投げた。

 

 

「わたしの勝ちでいいんですか? このまま続けていれば、貴方の勝ちだったのに」

「構わんさ、俺は満足した。条件も飲もう」

「いいんですか? 世界樹攻略はサラマンダーの悲願だったのに……」

「これから始まる貴様達の世界樹攻略に、俺達サラマンダーは一切の妨害をせぬ。貴様の条件に、俺が飲んだ。そして負けた、それだけの話しだ。約束を違える道理もない」

「ありがとう、ユージーン将軍」

「攻略できるかは貴様次第だ。負けることなど許さんぞ、ティターニア」

「……アスナです」

 

 

 そうだったな、とユージーンは笑みを零す。

 悪気はないのだろう。アスナはため息を吐くと、意識と視線を世界樹へと向ける。その視線は頂上へ、自分がいたであろう場所へと向けられていた。

 それは雲海を抜けて、空へと高く伸びている。どれほどの高さにあるのかなんて、皆目見当もつかない。それでも自分達は世界樹の頂上へと登らなければならない。

 

 

「アスナさーん!」

 

 

 ふと、名前が呼ばれてアスナは振り返った。

 駆け寄ってきたのはリーファだ。彼女は慌てた様子で口を開く。

 

 

「お兄ちゃんからメッセージが来たんだけど、直ぐに――――」

「団長さんー!」

 

 

 今度は幼い声。

 そちらに視線を向けると、幼い少女の姿が――――ユイの姿があった。

 ユイはなんと、空を駆けながらアスナの元へと降り立つ。翅がないのにもかかわらず飛行できるのは、プレイヤーデータを使用していないからこそだろうか。

 

 慌てているリーファとは対称的に、ユイはニコニコ笑みを零しながらアスナに抱きつきながら嬉しそうに口を開く。

 

 

「パパが言ってました。みんなが待ってますよ!」

「そうそう、お兄ちゃんが言っていたんだけどね。攻略部隊が整えたって。だからアスナさんも早くって!」

「……みんな? ……あぁ、そっか。さすがキリトくん。考えがあるって、そういうことだったんだね」

 

 

 うん、とアスナは二人の言葉に頷いた。

 

 ギュッと首からぶら下がっていた蒼色の宝石がついているペンダントをギュッと握りしめる。

 視線は世界樹へ、意識は“彼”へ、それは自然と言葉が紡がれ。

 

 

「――――待ってて、優希くん。今、行くからね」

 

 

 




 べるせるく・おふらいん

 ~マジっすか、将軍~

カゲムネ「負けたな、ジンさん」
ユージーン「カゲムネ……」
カゲムネ「攻略できるかな、彼女達?」
ユージーン「さぁな。それよりもカゲムネ、今から部隊を動かせれるか?」
カゲムネ「えっ? あぁ、ジンさんの直属の部隊なら20人位なら……」
ユージーン「よし、直ぐに招集をかけろ」
カゲムネ「まさか、ジンさん」
ユージーン「うむ、ティターニア。いいや、アスナと言ったか。なるほど大した腕前だ。紅閃とは良く言ったもの。美しい刺突だった」
カゲムネ「まさか、まさかだよな、ジンさん?」
ユージーン「うむ、惚れた。ならば俺がやることなど、決まっている」
カゲムネ「……マジっすか、ALO最強」




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