ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
【マルス】一日で10話ぐらい投稿すればいけるか……?【理論】
ぐるけさん、akihaさん、神羅さん、天狼レインさん、白よもぎさん、釜玉うどん大盛りさん、yuki3さん、ムーパパさん。
誤字報告ありがとうございました!
2025年5月26日 PM12:15
帰還者学校 食堂
午前中の授業も終了し、生徒達は待ちに待った昼食を楽しんでいた。
帰還者学校は給食制ではない。
各々各自、生徒達は自身の昼飯を持ち込んで食べている。
中には自分で調理した弁当、もしくは実家から通う生徒は親に作ってもらい、またはコンビニで買ってきている生徒も存在した。だが中には、コンビニで買っても来なければ、弁当すらも持参してこない生徒達がいる。それらの生徒の大半は、食堂に集まってきていた。
帰還者学校の食堂は、昼食時になると大変賑わい始める。
それもそのはずと言ったところか、値段も学生に対してかなり安く、舌が肥えている人物が食べても美味いと感じ、更に言えば料理が出てくるのも速い。
安い、美味い、そして速い。この三拍子が揃っているというのだ。生徒達が食堂で昼食をとるのも無理はない。連日、食券を購入するための自販機には長蛇の列。最後尾、なんてプラカードを持つ生徒がいる始末。
待たされずに美味い物を食べる。
それだけで人は幸せになれる。現に、大半の生徒は楽しそうに、嬉しそうに食べ物を口へと運んでいる。
中には談笑しながら、中には黙々と黙って一人で。しかし誰もが“笑顔”という共通の感情を抱いている。だが大半、されど大半。どこにも、どこにでも例外は存在するというもの。
項垂れるように、顰めっ面で、不味そうに。
スプーンで炒飯を掬い、面倒くさそうに口へと運ぶ男子生徒が一名。
長い金髪は後ろで縛り、光のない碧眼は炒飯をひたすら見つめている。周囲の生徒達が纏うオーラといえば光そのものに対して、彼が纏うそれは闇そのもの。どんよりとした、とても元気と捉えがたい雰囲気と表情で彼は食事している。
「お前、なんて顔でご飯食べてんだよ……」
「あぁ?」
誰も声をかけない彼に、初めて外部からのアクションがあった。
誰なのか考えるまでもなく、彼は声をかけられた真正面へ顔を見上げた。
それは彼と同じく、帰還者学校に通う男子生徒であった。黒髪に黒い瞳で、中性的な幼さの残る顔立ち。出来たてなのか、持っているトレイの上には器に入ったラーメンから湯気が出ている。
声をかけられた彼は笑顔では応じない。
むしろ迷惑と言わんばかりな表情を向けて、吐き捨てるように言葉を漏らした。
「うるせぇよ、桐ヶ谷。オレがどんな顔で飯を食おうがオマエに関係ねぇだろ」
散れ散れ、と片手で追い払うような動作をするが、彼に声をかけた男子生徒――――桐ヶ谷和人はどこに吹く風。気にすることなく、むしろいつも通りの反応と言わんばかりに彼の座っている真正面の席に座り始める。
そして向い合せとなり。
「そんな顔見ながらご飯食べると、美味いものも不味く感じるだろ」
「だったらオレの正面に座ってんじゃねぇよ。なに自然な形で同席してるわけ?」
「しょうがないだろう、ここしか開いてなかったんだから」
和人に言われて、初めて周囲を見渡した。
確かに、この辺り一帯しか席が開いていない。彼から半径3メートル以内に座っている生徒達の姿はなかった。食券を購入する自販機前には長蛇の列、そして配膳口には料理を待っている大量の生徒達の姿がある。中には座りたくても座れない料理をトレイに乗せた生徒達が立って待っている始末。
彼の周りの席に人影はいない。食堂が混雑しているのならば、座ってしかるべきだろう。
どんよりとしたオーラが不快だった、というわけではなく、原因は彼自身に存在する。
彼は以前、ソードアート・オンラインで【アインクラッドの恐怖】と呼ばれていた怪物だ。フロアボスを単騎攻略という偉業。それも一度二度ではなく、十数回を無謀に続けてきた化物だ。
そんな化物と誰が一緒に食事するというのか。何をされるかわからず、何をしてくるかもわからない。理解出来ない怪物の近くで、落ち着いて食事も取れない。有り体に言えば、彼は帰還者学校にかよう生徒達から恐れられている存在だった。
今の生徒達のイメージから言えば、彼は狂犬である。誰にでも噛みつき、情け容赦のないイカれた狂犬だ。もちろんそんなこと彼がする筈もないし、しようとも思ってもいない。それが他人に伝わっていないのは、彼が言葉にしないからであり、行動に移そうともしないからだ。
こうして、彼は恐怖の代名詞となってしまった。
気安く話しかけるとすれば、彼と同じ元
「優希、胡椒取って」
「……ほらよ。かけすぎて咽び苦しめ」
どういう状況だよ、と和人は苦笑しながら彼――――茅場優希から受け取った胡椒を二振りしながら辺りを見渡して。
「それにしても、お前って本当にみんなから怖がられてるよな」
「周りの評価なんざ知ったことかよ」
「猫被りもいつの間にかやめてるし」
「別に、もう必要ねぇだろ」
何を言うわけでもない、特別なことを言う様子もなく、いつものぶっきら棒な調子で。
「今更、取り繕ったところで遅ぇ。晶彦くんの家族ってぶっちゃけたあの時点で、もう手遅れってヤツだ」
「まぁ、それもそうか」
「それに連中に距離開けられたところで、痛くも痒くもねぇよ」
連中とはつまり、こちらの様子を遠巻きに伺っている生徒達、そして優希から距離を開けている生徒達のことを言っているのだろう。
人とは案外そういう評価を気にするものだ。自分がどう思われているか、自分は周りからどのような立ち位置にいるのか、面識があまりない存在に対しても気にする人間は気にする。
しかし優希は断じた。どうでもいいと、気にしないと、関係がないと。
それは恐らく、彼らは優希から見たら身内ではないからだろう。どうでもいい、とはではいかないものの“線の外側”に位置する存在であるから、彼は気にしないのだろう。
気にしないというのに、彼はどういうわけか関係がない連中に命をかける。本当にお人好しにも程がある。
口悪く、他人などどうでもいい。その癖、困っている者を見れば悪態を付きながら手を差し伸ばす。
本当に――――。
「バカだよな、お前って」
「喧嘩売ってんのか?」
「いいや別に。褒めてんだよ」
「このクソが。トーナメントであたったら恥ィかかせてやっからな」
優希が言うトーナメントとは、統一デュエルトーナメントのことを言っていることを和人は瞬時に理解した。
だからこそ多少驚いてしまった。何度聞いても考え中と返していた男が、ここに来て参戦すると言うのだ。
啜っていたラーメンを頬張り飲み込み、和人は静かに驚いた様子でつぶやく。
「結局、お前も出るのか」
「まぁな。妹が出ろ出ろうるせぇ。オマエのとこはどうなんだ?」
「スグか? まぁ、張り切ってはいるけど……」
お兄ちゃんも出るの? と聞かれただけで優希のように出てとまでは言われていなかった。
アレは寧ろライバルが出るかの事前調査に近かったことを和人は思い出す。
何はともあれ。
「お前が出るなら、俺も本気で出ようかな」
「本気って、二刀流かよ?」
「おう。決着もついてないしな」
「……オレとオマエ、優劣なんざもうハッキリしただろうが」
「いいや、まだだ。だってお前、全力出してなかっただろ!」
ビシッ、と片手持っていた割り箸を優希に向かって向けて和人が言い放つ。
和人は決着がついていないと言うものの、優希の中では既にキマっていることだった。自分たちの勝敗など、先の決闘で済んでいることだ。誰がどう言っても変わることなく、白星と黒星がその証拠。どちらが勝利し、どちらが敗北したのかなど、議論の余地もなく明らかだ。
だと言うのに、和人は言う。決まっていないと、俺達の戦いはまだ終わっていないと。
「チッ、暑苦しい野郎だ。出したくても出ねぇンだろ」
舌打ちを一つ。
否定的な言葉であるものの、表情はそれとは真逆。
どこまでも好戦的で、明らかな挑戦的で、比喩なく獰猛に笑みを浮かべて。
「叩き潰してやる」
「おぉ。叩き斬ってやる」
和人も不敵な笑みを浮かべて、その言葉に応じた――――。
「それにしても、なんで不味そうにご飯食べてたんだ?」
「あ?」
食事も終わり、食器も返却口に返して、優希と和人は中庭に向かっていた。
理由は簡単。和人はリズベットこと篠崎里香から、優希は明日奈から連絡を受け、中庭に来るよう指示されたからである。特に急ぎなど理由はない。連絡の内容、そして今までの傾向から察するに、ただの談笑が目的なのだろう。
当然、優希は無視しようとしていたが、寸前のところで和人に止められる。別に優希と一緒にいたいわけではない。そうしないと里香に怒られるから、といった自己保身に走ったからである。
そして中庭へ向かう途中。
和人は何気なく疑問を口にした。和人から見ても、他人から見ても、アレだけ美味しい食事を不味そうに食べる優希が理解が出来ない故に。
しかし優希からの返答は驚愕のそれである。
「別に不味くねぇよ。むしろ美味いだろ」
「美味いけど、お前が食べてる様子じゃ美味しくなさそうだったぞ」
「マジかよ」
「マジだよ」
余程、自覚がなかったのか。
優希は一瞬だけ考えて、すぐに答えを導き出した。
当時、自分は何を思っていたのか。感じたことをそのまま口にする。
「今までの授業、これからの授業を考えて鬱ってた」
「そんな理由であんな不味く食べられるのか……」
和人から見た当時の優希は本当に不味そうに、土でも入っているのではないかと勘繰ってしまうくらい不快そうに、そもそも人体に悪い影響があるのではないかと考えてしまうくらい凄惨な顔で炒飯を頬張っていた。
纏う雰囲気は暗黒。どんよりと粘っこい空気を纏う優希が食べるモノはさぞかし不味いに違いない。そう思わせるくらい、当時の優希は“酷い”有様であった。
それが授業でこうも変貌を遂げるとは、和人も想像がつかない。
そもそも和人も知っているが、優希は勉強は出来る方だ。頭の良し悪しは別としても、今まで優希は明日奈と共に有名進学校に通えるくらいの学力がある。
だと言うのに、授業が嫌で憂鬱になる現状。授業内容に苦手なものがあるのか、それとも理解が出来ないのか。新たな疑問が生まれるも、それは直ぐに解消されることとなる。
「ンで、授業すんのに機械が必要なんだよ……」
「機械?」
「お前も持ってんだろ。アレだ。授業に絶対使うやつ」
「もしかして、タブレットPCのことか?」
授業に使う機械など、タブレット型PCしかありえない。
なるほど。確かにそれは機械であり、優希が最も苦手としている。というよりも、電子機器全般が優希は苦手だ。和人も何度か明日奈にレクチャーを受けている姿を目にしたことがある。その度に優希は頭を抱えて、明日奈は教えようと張り切っていたことを覚えてている。
ゲームを以前までは“ピコピコ”と称していた男だ。
一般的な教室で黒板にあたるものは大型パネルモニタ、教科書やノートなどは使わずに支給されたタブレット型PCで授業を進める。
機械全般に弱い優希にとって、誰もが憧れる最新鋭の設備が整っている帰還者学校の授業は苦痛以外の何物でもないだろう。それでも成績は落とさず上位をキープしている辺り、彼の根性がなせるものだというのか。
「そもそも、気前が良すぎる。生徒全員に機械とナーヴギア的な奴を無料配布って可笑しいだろ」
「確かにそうだよな……」
今まで深くは考えてこなかったが、確かに優希の言う通りだと和人は同意を示した。
帰還者学校に通う生徒だけでも千人は超えている。
その全員が全員に、タブレット型PCを配布し、授業はおろか全く関係がないアミュスフィアまでもが無料で生徒達全員に配られていた。
どう考えても割に合わないだろう。元々帰還者学校は勉学を疎かになってしまった中高生の受け皿として設立したのが表向きで、裏では殺伐としたデスゲームに巻き込まれた不安定である未成年の監視だった筈だ。
ならばそこまでする必要もなければ、ナーヴギアの後継機ともいえるアミュスフィアを生徒達に行き渡るようにするのはおかしな話だ。
「この現状、オマエはどう見る?」
「妙な話しだと思う。でも今は気にしなくてもいいんじゃないか?」
「根拠は?」
なにかあるかもしれない。
警戒を怠らない優希とは対照的。どこか前向きで気楽な答えに訝しむように彼は和人に問いを投げた。
「俺も最初は変に思ってさ。タブレットとアミュスフィアを調べたんだ」
「調べたってアレか。こう……内部、的な?」
「そうそう。細工されてるかなって」
「オマエ、プロかよ」
何のだよ、と疑問を口にしかけるも和人は無視するように続けた。
ツッコんだら話しがそれると思ったからだ。
「調べたら何もなかったよ。一般的に売られてる物と変わらない。もちろん、ナーヴギアのときみたいな惨劇も起こらない」
「気味が悪ぃな。須郷の野郎をヤッたヤツといい、何もかもがスッキリしねぇことだらけだ」
「まぁ、な。ところでこれは誰かに相談したりしたのか?」
「するわけねぇだろ。無駄に不安を煽ってどうすんだ」
「俺ならいいのかよ」
「オマエなら何とかなんだろ」
無責任に近い発言である。
しかしそれだけ、同じくらい信頼されているとも言える発言でもあった。
あの身勝手に振る舞い、何をするにしても無茶がすぎる、かつては同じく肩を並べたいと思っていた男に信頼という事実。どこか嬉しくもあり、恥ずかしくもある。それを誤魔化すようにして、和人は自分の頭を乱暴にワシャワシャと掻いていると。
「ん?」
どこからか音が聞こえた。
それは優希のポケットの中かから。それはスマートフォン。
優希は手慣れた操作で画面を開き、メールを開くと。
「後輩からだ」
「後輩って、朝田?」
「それ以外誰がいんだよ」
「むしろ朝田以外に後輩いないのかよ……」
「いねぇな。オレを先輩って呼ぶのはアイツくらいなもんだ」
和人が思うかべるのはメガネを掛けた朝田の姿。
意識が戻らない優希と明日奈を見舞う際に、何度か会話したことがある彼女。自身のことを桐ヶ谷君と呼び、笑顔は見せるものの知人以上の関係に踏み込んでこようとしなかった。
最初は人見知りなのだと思っていたが、話しているうちに違うと理解した。必要がないのだ。朝田という少女には、知人以上の人物など必要がないのだ。必要がないのだから踏み込む必要がない。
彼女の世界は――――朝田という少女の内側は自分と、もう一人だけで完成していた。そのもう一人というのが――――。
「……朝田、なんて言ってるんだ?」
「休みの日、遊びに行こうだとよ」
――――この先輩なのだろう。
二人の間に何があったのか、和人には推し量れることなど出来ない。
優希に聞けば何があったのか教えてくれるだろうが、きっとそれは朝田は望まないだろうと和人は理解する。それに二人の思い出は二人だけのものだ。第三者が野次馬に介入していいものではない。
明日奈、朝田。そして、優希。
この三人を取り巻く環境は複雑そのものであり、爆弾のようなものだろう。一回でも対処を間違えれば爆発し何もかもが破滅するとさえ感じる。
当の当事者である優希は気付いておらず、朝田とメールでやり取りしていた。
思わず和人からため息が出る。
それを耳聡く察知するのが、優希という男でもあった。
「ンだ、そのため息は?」
「別に。呑気だなって思ってさ」
「どういう意味だ?」
「俺もお前も、答えを出さないとな」
「変わらない関係なんて、この世界にないんだからさ―――――」
>>桐ヶ谷和人
キリト。二刀流が本領のはじまりの英雄。
SAOでもALOでも黒尽くめな装備が主体。メンズでナックルなハイセンス。
やはりというべきか、ALOでも頭のおかしいプレイヤー連中の一人。シルフ100人斬りとか正気の沙汰ではない。
複数から好意を向けられているのは何となく察している。鈍感ではない。さすキリ。案外友達も多い。さすキリ。
>>機械
優希の弱点。
酷いときはデジタル酔いを起こすこともある。
>>加速世界
アクセルワールド。
少数ながら攻略組の一角だったギルド。
今は特に活動しておらず、実際ALOでは結成もしていないので解散扱いとなっている。
>>アインクラッドの恐怖
ユーキの異名。
フロアボスを単騎攻略するようになってから呼ばれるようになる。
今でもある種の恐怖の対象となっており、その何陰りはない。
明日奈曰く、優希くんの無茶の象徴
>>「おう。決着もついてないしな」
優希の中では勝敗は既に決しており、和人の中ではまだ決着はついていない。
勝者は――――。