ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 バレンタインデー番外編
 男連中との馬鹿話 にするか プチ修羅場にするか。
 私、迷っています。


第7話 後輩とのデート ~激闘編~

 

 2025年5月31日 AM11:00

 都内 ファミレスにて

 

 

 そこは至って普通な、シンプルで、何処にでもあるファミレスであった。

 レジがあり、そこには菓子の類が販売されている。ファミレス特有な対面式の座席があり、席の上にはメニュー表が置かれている。店内の中心部にはジュースやコーヒーなどを汲むことが出来るディスペンサー。温度管理が充分に整っているレタスや人参などのあるサラダバー。

 誰がどう見ても、どこにでもあるファミレスの風景である。

 

 その客層もファミレス特有なバラバラのもの。

 子供連れの家族もいれば、恋人同士が睦まじく談笑、スーツを着た男性がテーブルにパソコンを置いて仕事、もちろん彼女達のような友達同士で席についている者も存在する。

 

 二人の少女。

 その中の一人である篠崎里香は辺りを見渡した。何気なく、その行為に理由はない。強いてあげるのであれば、相席している友人がメニュー表とにらめっこを始めて暇だったから程度の理由だ。 

 

 昼時に近い、ということもあってか店内は程々に混み始めていた。

 数分経ち新しい客が、また数分も経たぬうちに新しい客が。不規則であるものの、客足が衰えることがない。

 現実(ここ)ではない仮想世界、しかも取り扱う物が違うとはいえ、彼女も店舗を構え経営している立場の人間だ。店の立地、昼時に近い時間帯、そして土曜日という情報さえあれば簡単な結論であった。

 

 里香は結論を出した。

 間違いなく、このファミレス内は混み合うだろう、と。

 ならばさっさと食事を終えて、さっさと出るのが吉だ。元々彼女達は遊びに行く前に軽食と考えて立ち寄った。腰を落ち着かせて長々と居るつもりもない。

 その、筈だった――――。

 

 

「ちょっと、アスナー。まだかかるわけー?」

 

 

 思わず頬杖をつき、不満そうに講義する里香。

 かれこれ待つこと数十分は経過している。彼女も我慢の限界、とまではいかないものの不満になるのも無理はないかもしれない。

 

 抗議が届いたのか。

 メニュー表とを持つ手、両肩がビクッと縦に揺れると恐る恐るメニュー表を下げて両目部分だけ覗かせて彼女――――結城明日奈は申し訳なさそうに声を漏らした。

 

 

「うー、ごめんー……」

 

 

 何と情けない声なことか。

 里香は吹き出すのも無理はない。そして深い溜息。なるほど、これが毒気を抜かれるということなのか、と一つ勉強になりながら里香は呆れた口調で口を開く。

 

 

「あたし達の中じゃ【紅閃】だの【紅の女王】だの呼ばれてるのに、どうして剣を持ってないとポンコツになるかなー?」

「ポンコツじゃないわよ! 迷うのも仕方ないことなんです。だって久しぶりなんだもん!」

「はいはい、そういうことにしておくわよ。あんたの彼も良く我慢してるわね?」

 

 

 優希くんは彼なんかじゃ……!的な声が耳に入るも、里香は軽く受け流していた。無論、里香は“彼”と言っただけで、優希の名前が出てしまっているのは完璧に明日奈の落ち度である。

 

 しかし里香の言葉は冗談半分、本気半分だった。

 優柔不断な明日奈をずっと待っている忍耐力は並外れたものではないだろう。現にソードアート・オンラインで何度か見てきたやり取りが物語っている。

 明日奈が悩んでいたら、話しを聞いて結論を急がせない。聞き上手、というのだろうか。本人は全力で否定するのは目に見えているが、第三者から見たら明日奈のフォローを全力で優希は行っていた。

 

 自分と明日奈達とは長い付き合いとはいえ、数年の間柄だ。

 となれば、彼女達は物心がつく頃から今の関係であるのだとは安易に想像が出来る。

 

 まるで忠犬。

 いいや、犬と評するには彼は凶暴過ぎる気がするし、ならば狼であるのかといえばそれはそれで過大評価過ぎる気がしないでもない。

 だったらやはり、犬ということになるのだが。

 

 

「犬、犬かぁ……」

 

 

 想像が出来ない。

 誰かに尻尾を振って喜ぶ優希の姿が想像出来ない。

 発想が貧困なのも困りものだ。もう少し想像力豊かであれば、かなり愉快な絵面が想像できたものを。なんて事を考えて、里香は一人で落胆していると。

 

 

「犬がどうしたの?」

 

 

 いつの間にか持っていたメニュー表をテーブルに広げて見ていた明日奈に対して、里香は何でもないと首を横に振って。

 

 

「決まったの?」

「それがね、見てこれ」

「なによ?」

 

 

 明日奈が指差した先。

 それはデザート。イチゴとストロベリーシロップ垂らされているパフェ。一般的に言うのであれば、ストリベリーパフェの写真だった。

 

 それがどうしたというのか。

 里香は首を傾げて問いを投げる。

 

 

「それにするの?」

「ううん。これね、前に優希くんと食べたパフェなんだよね」

「アスナ」

「え?」

「早 く 決 め な さ い ?」

 

 

 ニッコリと満面の笑み。

 柔和な笑みであるものの、どこかその表情には迫力があり、膨大な威圧感を感じさせる。

 笑顔を浮かべながら威嚇。何やら矛盾らしきものを感じさせるが、それは気の所為ではないようだ。それを証拠に、どこか楽しそうに語っていた明日奈は顔を青ざめると「はい!」と元気よく返事をして再びメニュー表とにらめっこを始める。

 

 本当に同一人物とは思えない。

 かつて自分も所属していたギルドの団長としてのアスナ、そして現実世界の抜けているお嬢様として結城明日奈。恐らくスイッチをオンにしているか、オフにしているかの違いなのだろう。

 だとしても、落差がありすぎると思ってしまうのは里香だけであろうか。

 

 でもぶっちゃけ、そのギャップが可愛いんだけどね。

 そう心の中で呟き、小さく笑みを零す。里香も本気で呆れているわけでも、怒っているわけでもないようだ。

 質の悪いことに、からかっているだけ。明日奈の反応が面白かったから、興が乗ってしまった、ということなのだろう。明日奈からして見たらたまったものじゃないが。

 

 

「そう言えば優希の奴は何やってんのよ?」

 

 

 ふと、疑問に思ったことを口にする。何度も話題になった茅場優希の話し。

 考えれば、里香の中での優希は謎であった。自分達のようにアルヴヘイム・オンラインに頻繁にログインしているわけでも、放課後など共にするわけでもない。かと言って付き合いが悪いといえばそういうわけでもない。

 

 だからこその謎。私生活など、優希は何をやっているのだろうか。

 今回だってそうだ。和人や木綿季のように統一デュエルトーナメントの練習も兼ねてインしているわけではないだろう。何せやる気がないのだから当然とも言える。参加するのだって、妹にせがまれたから程度の理由でしかないことは里香も知っている。

 ならばアルヴヘイム・オンラインへログインしている、というわけでもないだろう。

 

 

「優希くんなら今日後輩と遊びに行くって言ってたけど」

 

 

 そして、明日奈も考える素振りすら見せずに答える。

 普通は疑問に思うことである。何故彼女が、優希の行動を把握しているのか。

 しかし里香は疑問にすら思えなかった。むしろ何度も見てきた光景故に、慣れてしまったようでもある。

 

 

「えっ、アイツに後輩なんているの?」

「うん。朝田くんって言うんだけどね?」

「朝田、くん……」

 

 

 はて、どこかで聞いたことがある。

 里香は少しだけ考えて、該当する人物の顔を思い浮かべた。だがそれはおかしい。何故なら里香が思い浮かんでいる朝田なる人物は。

 

 

「は? 朝田くん??」

 

 

 女の子なのだから。

 メガネを掛けた、都内にある高校の制服を着て、本がとても似合いそうな文学少女。それが里香の中にある朝田なる人物だ。

 何せ、入院中だった優希の口から紹介してもらった。後輩の朝田であると。そして本人の口からも、朝田です、と確かに聞いた。

 

 思わず頭を抱える。

 里香は、まさか、と疑い、ありえない、と結論付ける反面。ポンコツ状態のアスナなら仕方ないと投げやりに受け入れながら。

 

 

「アスナさぁ。もしかしてだけど、朝田と会ったことがある?」

「……ない、かな。そういえば」

「優希の口から、朝田って男の後輩って聞いた?」

「ううん」

 

 

 ふるふる、と不思議そうな顔で明日奈は首を横に振った。

 

 やはりだ。やっぱりだった。そう言うわけだった。

 余裕、があるわけではない。明日奈はむしろ知らないのだ。朝田なる人物が女性であることも、優希を慕っていることも、彼女は知らない。

 

 いいや、知ろうとすれば知ることが出来ることだろう。

 朝田が誰なのか聞けば、優希も隠すことなく話す。何せ隠すことでもない。聞かれたら答えることだろう。

 だが明日奈はしなかった。それが何故なのか――――。

 

 

「……あんたどうするのよ。朝田が女の子なら」

「朝田くんが、女の子?」

 

 

 ポカンと口を開くと、明日奈は直ぐに笑みを浮かべて。

 

 

「ないない。だって優希くんって腹黒いし、目つき悪いし、口が悪いもん。女の子なんて寄って来ないわよー」

 

 

 茅場優希という人物を良く知るからこその余裕なのか。

 確かに彼女の言う通り、優希は女受けする性格でもなければ、見た目でもない。彼を良く知らない人物が相対すれば、口の悪さを額面に受け取り、その先にある“甘さ”を察することが出来ないだろう。

 言動が辛辣のくせに、行動が伴っていない。それが茅場優希の一つの本質とも言える。

 

 だからこその油断、だからこその墓穴。

 そう。結城明日奈は完璧に油断している。彼に好意を向けている物好きは自分だけであると、完全に断言していた。

 

 里香はため息を吐く。

 自分が指摘すればいいだけなのかもしれない。

 だがそれでいいのだろうか。いいや、良いわけがない。明日奈の油断、それは自分が気付かなければ意味がないことだ。

 ならば友達として何が出来るだろうか。荒療治であるが呑気過ぎるその心を矯正させること他ない。

 

 具体的に言えば。

 

 

「ライバルが多いあたしから見て、今のあんたに足りないものがあるわ」

「足りないもの?」

「危機感よ」

 

 

 ヒントだけは与えた。

 気付くかどうかは明日奈次第。

 最も、そのヒントがきっかけになったのかは、別の話しであるが――――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 2025年5月31日 AM11:00

 都内 繁華街

 

 

「ぶぇっくしょんッッ!!」

 

 

 それはもう盛大に、あまりにも壮大で、絶大なくしゃみ。

 思わずくの字に身体を曲げるほどのくしゃみをすると、ズズッと鼻をすする。

 

 風邪か? と思わず首をかしげるも、それありえなかった。

 何せ寒気もなければ、熱も出ていない。ましてや気怠さすらもない。至って健康そのものである筈だ。となれば、誰かに噂されているのか?なんて的を得た結論に至り。

 

 

「先輩」

「ん?」

 

 

 先輩と呼ばれた彼――――優希は隣へと視線を移す。

 そこにはバックから取り出したポケットティッシュを差し出している後輩――――朝田詩乃の姿があった。

 眼は真っ直ぐに優希を居抜き、心配するようにテッシュ差し出す姿はどこか甲斐甲斐しい。

 

 ともあれ好意で差し出されたものをそのまま無碍にも出来ない、と思ったのか優希は片手でそれに応じると。

 

 

「悪いな」

「別にいいわよ。それよりも本当に大丈夫なの?」

「風邪ぇ引いてるわけじゃねぇよ。自然に出た感じ。……でいいのか?」

「私に聞かないでちょうだい。……そういうことでなくて」

 

 

 首を横に振りながら、どこか慌てた様子で詩乃は続けて。

 

 

「私と遊んでて大丈夫なの? 顔も青かったし」

「……まぁアレは気にすんな」

「本当に?」

「本当に」

 

 

 そこまで言うとやっと納得したのか、詩乃はホッと胸をなでおろす。

 せっかくこうして遊べる時間が出来たのだ。優希が不本意、または不調子で無理しているのでればそれこそ彼女の中ではあってはならないことである。

 詩乃としても優希には会いたかった。会いたくて会いたくて、仕方がなかった。しかしそれは自分だけの感情。優希本人にまで押し付ける道理などないのだから。

 

 

 心配していたものから、高揚するものへと変わっていく。

 そして思い出すのは先程の言葉。優希が出会い頭に褒めてくれたあの言葉。

 

 『メガネ、滅茶苦茶似合ってるじゃん。ナイスメガネ』

 

 反復する言葉で、身が捩れそうになる。

 ニヤつきそうな顔は必死に鉄仮面を被り、体温が上昇してしまうのは仕方がないというもの。

 服装も気を使った。バックや腕時計といったものにさえ念には念をいれて。流行りのブーツも履いて抜かりはない。だがそれでもメガネを褒めたという事実。

 

 それはつまるところ――――。

 

 

 ――これは先輩の好みの女ってことでいいのではないかしら?

 ――いいえ、そうに決まってるわ。

 ――来てる。熱い何かを感じる。

 ――すごい一体感を感じる。

 ――今までにない何か熱い一体感を。

 ――風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、私のほうに……!

 

 

 優希の好みのタイプになっている、と詩乃は脳内で自動変換していた。

 今の詩乃は無敵に違いない。何を言われても前向きに捉えて、何もかもをポジティブシンキングることだろう。恋する乙女はかくも強くあるべきなのだろうか。

 

 とはいえ、彼女も正常な判断が出来ていないのは確かだ。

 今まで練っていたプランは吹っ飛んでいた。原因は言うまでもなく、優希のナイスメガネ。好いている人間に褒められる。しかもそれがメガネ好きからの評価であるのだから破壊力は増すというもの。それはもう舞い上がるし、テンパるというもの。

 だが流石というべきか、彼女は表面上であるものの冷静を装っている。いつものクールな朝田詩乃。好きな人に奇行は見せられないという乙女の複雑な事情でであるが故。

 

 

「それで、どうするんだ?」

「えっ、子供何人作るですって?」

「おい、オマエこそ大丈夫か?」

 

 

 ピシッ、と音を立てて固まる後輩。

 そらから数秒も経たずに、んんっ、と大きく咳払いをして。

 

 

「どうするってどういうことよ?」

「何処に行きたいんだ、聞いてんだけどよ。オマエ行きたいとこあんの?」

 

 

 言葉では他人任せそのものであるが、その様子からはどこかそうではないことが伝わってくる。

 何やら使命感染みたモノが。言葉の節々にそういった強いなにかを感じさせられる。

 

 いまいち要領がつかめない。

 詩乃はそんな顔をしているようで、優希は補足として説明する。

 

 

「いや、まぁ、アレだ。週末遊びに約束してたがそれを破っちまっただろ? そのケジメってヤツだ」

「えっ、先輩覚えてたの?」

 

 

 意外そうに思わず言葉にしてしまった。

 しまった、と口を閉じるも遅い。紡がれた言葉は確実に優希の耳に入ってしまう。

 

 対して優希はどこかバツが悪そうに、なおかつ言いづらそうに。

 

 

「覚えてるよ。悪かったな。約束、破っちまって」

「――――――――」

 

 

 プイッ、と拗ねるように呟く優希に思わず笑みが溢れる。同時に心が暖かくなるのを詩乃は感じていた。

 週末遊びに行く。そんな何気ない約束を、自分と交わしたどこにでもある約束を、彼は覚えていた。詩乃が忘れたこともないモノを、彼が覚えていたという事実。ぶっきらぼうに言い放ち、子供のようにどこか拗ねる調子で言う彼に、抱きつきたくなる衝動に駆られるも詩乃は必死に抑え込んだ。

 今は充分だ。彼と共にいる。それだけで充分だ。それ以上望むというのは、贅沢が過ぎるというもの。

 

 ――――本当に、本当に、嗚呼、本当に―――――。

 

 

「先輩」

「あ?」

「貴方って律儀よね?」

 

 

 ――――私は先輩を愛している―――。

 

 

 

 

 

 




>>篠崎里香
 リズベット。
 SAOでも、ALOでも。ユーキ達の装備は彼女が用意している。縁の下の力持ち、というよりかは生命線。
 ちなみにユーキの方天画戟や鎧と兜も彼女の作品。
 想い人がモテるおかげか、危機感には過敏。もちろん恋に関しての。
 少なくとも明日奈よりかは恋愛マスター。油断してないもの。当たり前よね。

>>ポンコツ
 アスナのこと。
 剣士でない状態の彼女のこと。
 原作とは違ってほわほわしすぎなのは、過保護なアイツのせい。全部アイツが悪い。


>>「ないない。だって優希くんって腹黒いし、目つき悪いし、口が悪いもん。女の子なんて寄って来ないわよー」
 修羅場フラグ1。

>> ――――私は先輩を愛している―――。
 修羅場フラグ2。



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