ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 artisanさん。
 誤字報告ありがとうございました!


第11話 かつて恐怖と呼ばれた彼

 ――――統一デュエル・トーナメント。

 

 それは読んで字のごとく、アルヴヘイム・オンラインのシステムの一つであるデュエルを用いた大会である。

 今までもプレイヤー間でデュエルは行ってきたし、大会も開催されていた。だが統一という意味では、種族の垣根なしではじめての試みといえるだろう。

 

 今までは“グランドクエスト”の存在もあり、悪い意味で閉鎖的な雰囲気がアルヴヘイム・オンライン内では蔓延していた。

 世界樹の頂上へ、空中都市に到達し、光妖精族(アルフ)へ転生できる種族は一種族のみ。多種族でパーティーを組み、グランドクエストをクリアしたパーティーが全員転生出来るという意味ではない。そのまま文字通り、一種族のみが転生する権利を得るというもの。

 

 条件が条件だ。

 種族同士で交流を深めるのは当たり前になり、閉鎖的になってしまうのも仕方ないことだろう。

 

 だが今はそんな縛りはない。

 グランドクエストはなくなり、空には浮遊城アインクラッド。各層のフロアボスを攻略するため、アルヴヘイム・オンラインのプレイヤー達は自由にパーティーを組み、日夜攻略に励んでいる。

 

 グランドクエストが全てであったゲームが、皮肉にもその存在意義を失った結果、以前よりもアルヴヘイム・オンラインはますます活気付いていた。

 

 

 そんな中、統一デュエルトーナメントは一人のプレイヤーの戯言から始まった。

 酒場で何気なく、一人のプレイヤーは呟いた。今、アルヴヘイム・オンラインのプレイヤーで、一番強いのは誰なのか、と。

 そこで議論が勃発。論争は瞬く間に広がり、熱は他人に伝播していくのも時間はかからなかった。

 そうして開催されたのが統一デュエルトーナメント。誰が一番強いのか決めるために開催された催しであり、当然ルールはもちろん『完全決着モード』。

 

 最初はプレイヤー同士の小規模な大会であったのだが、時が経つにつれて参加人数が増大。その数1万人は超えていた。

 予選でのバトルロイヤルを勝ち残り、上位16名によるトーナメントを行い、最終的に優勝者、準優勝者を決めるというもの。

 

 

 大会中、様々なドラマがあった。

 圧倒があった、激闘があった、感動があった、策謀を張り巡らせる者がいた。

 様々なプレイヤーが、様々なやり方で、己が最強であると証明するために、己が持つ最高の武を振るい続けた。

 

 それは正に祭典であった。

 参加者はもちろんであるが、見ている人間も大いに熱狂し、次は自分もあの舞台に立ちたいと憧憬の火が灯る。

 

 白熱する統一デュエルトーナメント。

 しかし始まりがあれば、終りがあるように、それにも終りがある。

 それは、優勝者が決まるということ。永遠に見たかった夢の祭典、誰が一番強いのか決めるための大会、真に強いプレイヤーは誰なのか。

 栄えある優勝者の名は――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 2025年6月2日 AM7:55

 

 統一デュエルトーナメントが終わり翌日のこと。

 夢見は悪く、目覚めは最悪。いつも通りの朝であったと茅場優希は認識している。いつも通り悪態をつきながら起きて、いつも通り妹を起こし、これまたいつも通り朝食の支度をして、いつも通りに妹を見送って、いつも通り自分も部屋を出る。

 

 ここまで、イレギュラーなどはなかった筈だ。

 特別、定めていないがいつも通りの流れで支度をして部屋を出る。その後もいつも通りといえばいつも通り。

 寮母と幼馴染――――結城明日奈が仲良く談笑しているのを見てため息を吐いて、特に待ち合わせをしているわけでもないが明日奈と合流し帰還者学校へと向かう。

 

 問題があるとすればこの後だろう。

 いつも通りというのであれば、優希と明日奈。こうして二人で登校していた筈なのだ。

 しかしどういうわけか、人影がもう一人。

 

 それは男性。かなり恵まれた体躯であった。

 かなりの長身で筋肉質。歳は三十代前半くらいで、ごく短い髪に角ばった顔立ち。太い眉の下の眼は、鋭く優希を睨みつけている。

 だがどういうわけか、妙なことに彼は優希と同じ制服。つまり、帰還者学校の男子生徒の格好をしていた。ということは――――彼も優希、そして明日奈と同じ帰還者学校に通う学生であることがわかる。

 

 いつ頃から彼はいるのだろう。

 優希達が寮から出る段階で、彼は寮の門の前に仁王立ちで堂々と立っていた。

 奇妙そうに、物珍しそうに、奇異な眼で、他の生徒達に見られていたが関係がないようで、まったく気にすることなく腕を組み彼は立っていた。

 

 嫌な予感がしていた。

 彼を一目見て、優希は嫌な予感はしていた。

 どうするか少しだけ考えるもつかの間。彼は優希を確認するや否や、一目散に足早に優希に近付き現在に至る。

 

 正に電光石火であり猪突猛進。

 あまりの急な出来事に、明日奈は狼狽えながら優希と彼の顔を交互に見つめることしか出来ない。

 そんな幼馴染を庇うように一歩足を踏み入れ、背には幼馴染、前にいる彼を見上げて挑戦的な笑みを浮かべて優希は口を開いた。

 

 

「――――ンで、何の用なんだよコーバッツくん?」

「古場剛である。今の私の名は古場剛だ。間違えるなよアインクラッドの恐怖」

 

 

 対して彼、コーバッツ――――古場剛は物怖じすることなく今にも蹴立ような態度で、優希の言葉に応じていた。

 

 奇妙な光景だ。

 三十代半ばの外面している男性が、高校生にカツアゲしている。そのように見れる光景であるが、お互い同じ制服を着ているからか、一方的に絡んでいるとは見ることは出来ない。

 どちらにしても、古場の外見もあってコスプレ感が否めないが、彼の実年齢は十代。むしろ優希よりも年下であるのだから、人は見た目ではないのかもしれない。

 

 人は見た目ではない。

 そうは言っても、古場は怒っているように見えて実は怒っていないのではなく、今の彼は憤怒に身を任せている状態。

 両手に握りこぶしを作り、優希を睨みつけるその姿は金剛力士像を彷彿とさせる。

 

 しかし、優希も伊達に修羅場を潜ってきているわけではなく。

 むしろため息を吐いて、人を喰うような口調でもって、優希は対応していた。

 

 

「テメェも間違えてんじゃねぇよ。オレは茅場優希。アインクラッドの恐怖なんて名前じゃねぇよ。あと敬語使えよ小僧。オレよりも年下だろテメェ」

「今はそんなことどうでもいい! 貴様、先日のあの体たらくは何だ!」

 

 

 優希はわずかに眉をひそめた。

 何のことなのか少しだけ考えて、直ぐに放棄することにする。

 こんな奴のために時間を割いてやるのも勿体無い。そう判断した優希は古場を睨みながら問いを投げた。

 

 

「何のハナシだ?」

「昨日の統一デュエルトーナメントだっ!」

 

 

 怒声混じりの声。何人かの生徒は何事かと見て、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに、直ぐに見て見ぬふりをする。

 

 対する優希は本当に意味がわからなかった。

 そもそも、自分と古場は予選でのバトルロイヤルも、本戦でのバトルロイヤルもかち合わなかった。

 理不尽に怒りの矛先を向けられれる謂れなどないはずだ。それが優希の主張である。

 

 

「ますますワケわかんねぇよ。テメェ何が言いたいわけ?」

「何故本気を出さなかった! 貴様が一回戦で負けるわけがないだろう!」

 

 

 そこまで言われて、優希は漸く納得することが出来た。

 

 統一デュエルトーナメント。

 誰が一番強いのか決めるための大会。先日まで連日連夜話題の中心となっていた祭典に、優希も参加していた。

 結果だけ言えば、予選は通過したものの、そのあとの本戦で優希は一回戦で敗退していた。見る人間が手を抜いている戦いであった、というわけではないだろう。優希も本気だったし、相手を侮るような真似をしている暇すらなかった。

 勝つために最大限の努力をし、今ある力を存分に奮った。その結果が一回戦で敗北というだけだ。

 

 特別、理由があるわけでもない。

 単純に、優希が相手よりも弱かったから負けた。それだけの話しだ。

 

 

「何を見てたんだ。オレは本気だった。相手がオレよりも強かった、だから負けた。それだけのハナシだろうが」

「そんなわけがない。貴様は“アインクラッドの恐怖”だ。貴様が何者かに負けるなど、ありえんだろう!」

「うるせなぁ、何だテメェ。結果は結果だ。どうしようもねぇモンにまで、ケチつけにくるんじゃねぇよ――――」

 

 

 そこまで言い切り、優希は古場の表情を見た。

 妙なモノだった。確かに彼は激怒していることに変わりない。だがどこか悔しそうに、認められないと言わんばかりの幼子のような表情だった。

 

 考えてみれば、最初から彼の言い分は奇妙の一言に尽きる。

 古場の性格は、優希も何となく知っている。傲慢で自分本位で、自己中心的にモノを捉える人物であった筈だ。

 だが彼の言い分は自分が負けたという結果に憤っているわけではなく、優希が一回戦で敗退したことに怒りの焦点を合わせている。おかしな反応だ。古場剛という人間は、『聖竜連合』遊撃部隊リーダーコーバッツというプレイヤーは、他人の勝ち負けに口を出すような性格ではない筈。

 

 腑に落ちない。

 だから優希は口を開く。どういうつもりなのか問いを投げようとするも。

 

 

「私は認めんぞ」

「あ?」

「貴様が、アインクラッドの恐怖が弱いなど、私は認めん。貴様の情けない姿など、見たくもない」

「――――」

 

 

 そう断言すると、古場は優希達に背を向けて一人堂々と歩き始めた。

 

 引き止める人間はいない。

 むしろ彼は招かざる客だ。求めてもいないのに急に現れて、思いの丈を気ままに優希にぶつけて、去って行っただけにすぎない。

 しかし、それでも。そんな自分勝手な者からの言葉でも、優希にとって無視できない単語があった。

 

 弱いアインクラッドの恐怖。

 優希の情けない姿。

 

 自覚はあった。

 過去を美化するつもりも毛頭なく、あの頃のほうが良かったなどと言うつもりもない。だが言われてみれば、考えてみれば、古場の言うことは確かにその通りだった。

 アインクラッドの恐怖としての茅場優希であれば、少なくとも一回戦で負けるということはなかった筈だ。本能のまま石斧剣を振るい、自分を傷つける痛みすら物ともせずに、システム外の力である心意――――己すら焼き尽くす黒炎を噴出し敵を屠っていく。

 

 

「勝手なこと言いやがって……」

 

 

 優希は舌打ちをした。

 答えは得た。常に自己に向けていた怒りや憎悪、許せなかった自分を、少しでも許そうと努力することを決めた筈だった。

 

 だがそれは、本当に正しいのか?

 自分が弱くなり、あの頃のように強くない事を、受け入れて良いものなのかどうか。

 この先何が起こるとも限らない。またデスゲームと似たようなことが起きれば、優希は再び剣を取ることだろう。そんな窮地に陥ったところで、今の自分に何が出来るというのか。

 

 自分の中に未だに燻っている、自身に向けられている憤怒や憎悪。

 これを失くしてしまって本当に良いのか。それは本当に正しいことなのか。

 ――――本当に、自分を、許してしまっても、良いものなのか――――。

 

 

「――――良いに決まってるじゃない」

「……え?」

 

 

 振り向く。

 そこには――――微笑んでいる明日奈の姿があった。

 古場のように激怒し思いの丈を叫んでいるのではなく、弱くなった優希をそれでも良いと肯定するように受け入れたまま続ける。

 

 

「今、弱くなったままでいいのかなーって思ってたでしょ」

「別に……」

 

 

 咄嗟に何とか取り繕うと否定から入るも、優希はうまく言葉を紡げない。

 そんな彼がわかっているのか、明日奈はクスクスと笑みを零しながら口を開く。

 

 

「確かにあの頃の優希くんは一番強かったと思うよ? でもね、一番弱かったとも思うの」

「ンだよそりゃ、矛盾してねぇか?」

 

 

 一番強くもあり、一番弱い。

 眉をひそめて指摘するも、明日奈は揺るがず、首を横に緩やかに振って笑みを向けたまま。

 

 

「ううん、矛盾してないよ。あの頃の優希くんは凄い強かった。誰よりも先に進んで、誰よりも先に敵を斬って、前に進んで行く。それこそ一人で第百層まで行ったと思うの」

「買い被りだ。オレはそこまで滅茶苦茶じゃねぇよ」

「滅茶苦茶よ充分。でもだから弱くもあった」

「どういう意味だ?」

「きみは私達が追いつかずとも第百層に到達して、フロアボスを倒したと思う。でもねそれで終わり。優希くんは絶対に満足して、燃え尽きていた」

「…………」

 

 

 否定は出来なかった。

 優希がアインクラッドの恐怖と呼ばれるようになったのも、根本的な理由は我慢ができなかったから。

 キリトが無理をするのを見ているのが我慢が出来なかったから、リズベットが怯えているのが我慢できなかったから、エギルを速く家族の元へ帰したかったから、そして――――アスナが剣を握るのが我慢が出来なかったから。

 だから彼は剣を取った。自分が傷つこうが、記憶を失おうが、余命幾ばくもなくなろうが関係がない。黙って見ている自分が許せず、思うがままの獣になろうが、攻略するためだけの機械と成り果てようが構うことはなかった。

 

 その結果、どうなろうが、優希は躊躇しないことだろう。

 無理を続けた代償がどうなろうが問題なく、自分が燃え尽きる結末になろうが、最後には目的を果たし満足して、消えていく。

 

 そう考えれば、明日奈は間違っていない。

 最終的に独りで百層まで到達しうる常識破りで滅茶苦茶な“強さ”を備えているが。

 目的を達成することが出来れば消えることも是とする“弱い”危うさも秘めている。

 

 

「一人で登り詰めるかはわかんねぇが、そんなに危なかったかオレ?」

「うん。だからわたし達も必死だったのよ?」

 

 

 ウッ、と言葉に詰まると優希は視線をそらす。

 気不味そうに、申し訳なさそうに、小さい言葉で一言。

 

 

「……悪い、迷惑かけたな」

「間に合ってホント良かったわよ。正直言うとね、アインクラッドの恐怖って嫌なんだ」

「危ないからか?」

 

 

 首を横に振って、明日奈は否定すると。

 

 

「“アインクラッドの恐怖”はきみの全力の象徴だから。全力を出して無茶をする優希くんなんて、もう見たくないよ……」

「明日奈……」

 

 

 自身が全力を出す、そうなると必ず無茶をするだろう。戦力として他者に劣っているのならば、それはもうその身を賭して、命を賭けるしかない。そうでもしなければ覆りはしないのだから。

 今まではそれを迷わず実行してきた。自分が生き残ったところで待っている人間など、もうこの世にはいないと思っていたから。

 

 だが今は違う。

 悲しんでくれる幼馴染がいる。恐らくだが、いつも自分と張り合っている“彼”も怒り、他の仲間達も叱ってくれることだろう。

 余計なものである。余計な繋がりを得て、満足に動けなくなってしまった。だがそんな余計なものこそが、茅場優希にとって必要不可欠なモノだった。

 思えば、両親を見殺しにしてから、自分は人間ではなかったのだろう。機械であるように、自罰的に、生を怠惰に過ごしてきた。それをもう一度人間に戻ることが出来たのは、仲間達のおかげであり何よりも――――目の前の幼馴染のおかげでもある。

 

 弱くなった――――認めよう。

 受け入れるのか――――応とも。

 救えなかった命はどうする?――――これから考える。

 憎悪や憤怒はどうするのだ?――――心に常にある。

 それでも、闇を抱えたまま生きるのか――――当たり前だ。

 

 

「明日奈」

「え?」

 

 

 明日奈は俯かせていた顔をあげる。

 そこには笑みを浮かべた優希の姿が。以前よりも良く笑い、表情も柔らかくなった。だがそれ以上に、明日奈すらも数えるくらいしか見たことがない優しい笑みを優希は浮かべて。

 

 

「悪い、またオマエに助けられた。――――ありがとうな、明日奈」

 

 

 

 




明日奈「そういえば優勝者は?」
優希「先に行ったぞ。桐ヶ谷とオレが早期敗退して、ガッカリしてたな」
明日奈「あっ(察し)」


>>古場剛
 コーバッツ。二盾流。
 実は同じ学生だったのでござる、という設定。しかも優希よりも年下という超設定。更に言えば、日本特有の名家であるというビックリ付き。
 実は優希に憧れている。ネットの掲示板では日夜匿名で『アインクラッドの恐怖』の凄いところを羅列ばかりしているツンデレ。
 原作では早期退場していたのが運の尽き。作者の眼に止まったのが不運。諦めて。

>>アインクラッドの恐怖
 ユーキの異名。一番強くもあり、一番弱くもあったあの頃。
 未だにその知名度は凄まじいものがある。
 絶対に狂化:EXはあると思う。

>>「それこそ一人で第百層まで行ったと思うの」
 みんな、『それはありえたかもしれない結末』を見よう!(ダイマ)


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