ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 GGO編はオリジナル要素がてんこ盛りになることが予想されますが、どうかよろしくお願いします!


Vol.7 フィアー・バレット
第1話 恐弾の射手


 

 ――――その世界は、弱肉強食の世界だった。

 

 

 今やVRMMOの総数は膨大な数に及んでいる。

 ジャンルも様々なもの。妖精達となって冒険する幻想的なものから、魔法などが一切存在しない中世を舞台としたもの、更に言えば地球の外へと飛び出し宇宙を駆けるものまで存在する。

 人がいるだけ考え方が違うように、VRMMOも多種多様となり、今も新しく生まれつつある。

 

 その中でも注目されているのが、ガンゲイル・オンライン。通称GGOである。

 世界観はある意味でありきたりなものだ。魔法など不確定現象は一切存在せず、鋼鉄が支配する荒廃した大地。近未来という設定もあってか、実弾銃や光学銃が主な主要武器となっている。これだけ聞くと特筆すべき点は存在しない。銃を題材にしたVRMMOなど数え切れないほど存在し、荒廃した世界観というもの同じである。

 

 だが問題はそこではない。

 真にガンゲイル・オンラインが注目されているのは、世界観が特殊という部分ではなかった。

 ガンゲイル・オンラインは日本では珍しい、リアルマネートレードやリアルマネー換金が認められているVRMMOとなっている。

 実力次第では、GGOで生計を建てることも可能であり、日本人で唯一プロが存在するゲームでもあった。

 

 となれば、日本で注目されるのは必然と言えるだろう。

 ゲーマーとしては願ったり叶ったりでもあるのだ。好きなゲームをして富を手に入れて、地位も確立され、そうなれば名誉も約束されているようなものだ。

 とは言っても、銃撃戦が好きで、世界観が気に入り、純粋に楽しんでGGOをプレイしているプレイヤー存在する。プロを目指して、楽に資金を稼ぎたく、GGOをプレイしているプレイヤーはそんなに多くはないと言えるだろう。

 

 

 男が居た。

 彼もまた、理由としては金を稼ぐ為にGGOへ足を踏み入れた人種だ。

 富を得るには大会で結果を残す必要があり、結果を残す為にはより良い武器を手に入れることが絶対条件であり、武器を手に入れるためにはやはり富が必要となってくる。

 正に堂々巡り。最終的には一番欲しいものに帰結してしまう。

 

 もちろん、男はそこでは止まらない。

 資金とは自分にはないものだ。となればどこから手に入れれば良いのか。決まっている、自分にないのなら――――他者から搾取してしまえばいい。ある意味で合理的な考えであり、それ故に人として欠落しているものと言えるだろう。

 

 男は止まらない。

 GGOは対人戦が主となっている。モンスターも存在するが、それは素材集めに、もしくはクエストのクリア条件のために狩るといったのが目的だ。

 大義名分は既に得ている。そう言わんばかりに、男は人狩りを始めるようになった。しかもただの人狩りではない。経験者を極力避けて、右も左もわからない初心者が男の狩りの対象となっていた。

 ときに言葉巧みに初心者に近付き闇討ち、ときにフィールドの死角から奇襲、ときにギルドを作って部下と一緒に大人数で襲いかかることもあった。

 

 男の名が知れ渡るのも時間の問題だった。

 『ハイエナ』と蔑まれようが、男は別に気にすることはなかった。むしろ誇らしかったと言える。

 誰でもない自分が注目され、ギルドの長となり、更に言えば『ハイエナ』と称されるまでになった。優越感はいつしか男を蝕んでいき、男の良識的な部分を腐らせるほどに至っていた。

 

 今の自分は誰にも止めることが出来ない。

 それこそ、GGOで賞金首としてPKトップランカーに君臨している生意気な正体不明のプレイヤー『アインクラッドの恐怖』なる存在にも負けない。

 そう断言できるほど、男は自身の悪辣な実力に酔いしれてしまっていた。

 

 無論、男にプレイヤーとしてのスキルはないに等しい。

 ずっと初心者狩りに勤しみ、被弾することはあれど負けることはなく、一方的に撃つ快楽に酔いしれていた男だ。

 負けて反省し、経験として活かし、プレイヤースキルを磨いてきた連中とは違う。負けることがなかった男は、安全圏からでしか銃を撃ったことがない男は、誰よりも弱い人種と言える。

 

 

「――――っ――――っ――――!」

 

 

 そして件の男は、頭を抱えて、朽ちたビルが並ぶ廃墟の一角に身を隠していた。

 声を発していないが、命乞いをしているようでもあるその姿は、とてもではないが自身は強者であると驕っていた人物とは思えない。

 吐き出される息は荒く、どこか震えているようでもあり、弱々しい姿をその場に晒していた。

 

 思い出すのは一つの銃声だった。

 いつもどおり、初心者を狩ろうとギルドメンバーと共にフィールドに赴いていた。

 此度の狩場は都市の廃墟。ビルが多く並び、奇襲をするにはうってつけの場所でもある。

 簡単な作業の筈だった。経験者か初心者か見抜いて、数で勝っていることを確認し、そこで初めて襲いかかる。

 資金を得るなどといった理由は最早消え失せ、効率など度外視した行為。言ってしまえば、男と仲間達が行っているのはストレス発散のようなものだ。現実世界で上手くいかないことが起きれば、こうして他人を使って憂さを晴らす。そんな身勝手で理不尽な行為。

 

 今回もそうして、気持ち良く初心者を狩る――――その筈だった

 

 

 一つの銃声で何もかもが終焉を迎える。

 それは的確に、男の頭蓋を撃ち抜いて、理解が追いつかないままもう一人も頭へと叩き込まれる。

 狙撃されていると気付いた頃にはもう遅い。叫ぶ前にまた一人頭部を消し飛ばされていた。

 

 男がこうして生き残っているのは、実力で銃撃を回避していたわけではない。運が良かっただけだ。

 現に、男の仲間は合計で十人いた。だが今となっては男しかおらず、すべてが狙撃手に撃ち抜かれたということになる。

 

 男は自分勝手で自分本位な人間だ。

 そんな人間がここまで自分が追い込まれているという事実。それは許し難い状況であり、屈辱に満ちたものである筈だ

 しかし不思議と、男から激昂なる感情はなかった。むしろその真逆、震えて、頭を抱えて、武装すらしていない、生き残ることのみを考えている。

 

 激情に駆られないのも簡単な理由だった。

 男は単純に、恐れているのだ。

 音もなく、銃声一つで、自分たちを壊滅たらしめた謎の存在に、男は恐れていた。

 今もこうして、狙撃手は自身に照準を合わせているに違いない。その上で楽しんでいるのかも知れない。もしかしたら自分を見失ったのかもしれない。

 

 全ては憶測だ。

 冷静に状況を分析できていない男にとって、脳裏に過る考えは憶測でしかなかった。

 これからどうすればいいのか、なんて男には考えられない。何せこんな状況に陥ったのは初めてなのだから。今までずっと、自分よりも弱いプレイヤーを狩り、自分は安全圏から銃弾を打ち込み、危機的状況になることなどありえなかった。

 ピンチになれば今までの経験が活かされ、危機の打破にも繋がるものだが、男にはその経験がなかった。

 

 だからこそ次の一手が思いつかない。

 足を止めて震えるだけの家畜。それだけのことでしかなかった。

 そして愚者が取る行動など楽観的なもの。どうやら男は、自分を見失ったという“IF”を愚かにも選択したようだ。

 

 そーっと立ち上がる。

 遮蔽物となっていた敷居から、頭が飛び出した形となる。

 同時に男が耳にしたのは、一つの銃声。

 

 聞いたことがあった。

 自分のような賞金首を相手にしている賞金稼ぎ(バンティハンター)

 GGOでは数少ない狙撃手であり、|対物狙撃銃《アンチマテリアルライフル・スナイパーライフル》を獲物としている人物。

 狙ったプレイヤーを必ず仕留め、恐怖を与えることからついた異名が――――“恐弾の射手”。

 

 自身を狙っている人物が『恐弾の射手』であった。

 それを知ったと同時に、男の頭は撃ち抜かれていた――――。

 

 

             ――――音を殺して

                       私の銃弾は世界を駆ける――――

 





>>恐弾の射手
 賞金首を狩る謎の狙撃手。
 正体は誰なんだ?(すっとぼけ)

>>賞金首
 ウォンテッド。
 害悪プレイヤーに施されるシステム。
 ゲーム内の掲示板(有料)に募集をかけて、対象のプレイヤーがキルされたら報酬を支払う。
 報酬内容は素材などでも良い。
 ちなみに現在の賞金首のトップは“アインクラッドの恐怖”。
 

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