ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 Vol.7に突入して、シノンの出番が多く熱望されて納得している兵隊です。可愛いですもんね、シノン。
 でもシノンを抑えて、好きなヒロインアンケートでぶっちぎりトップを走っている幼馴染とかいう存在。
 化物なのでは?(戦々恐々)


第2話 恐弾の学生生活

 2025年10月6日 PM12:30

 都内進学校 教室

 

 時刻は昼頃。

 午前中の授業も終えて、生徒達はのびのびと過ごしていた。

 肩の荷が下りた、といったところだろうか、と私こと――――朝田詩乃は結論に至っていた。

 

 私が通っている学校は、都内でも有名な部類の進学校でもある。

 そうなれば当然、勉強が出来る人間が通っていることは安易に想像が出来るし、世間一般的なイメージでは硬く、真面目な生徒達が通っていると思われていることだろう。

 それは間違ってはいない。中には勉強一筋、それ以外のことなど二の次に考えている生徒も確かに存在する。だけどそれだけではないということも事実だ。それこそ千差万別。公立だろうが私立だろうが、都立だろうがそこは変わらない。100人いれば、100通りの考えがあるように、一貫性は存在しない。

 真面目な生徒も入れば、不真面目な生徒もいる。模範的な優等生も入れば、反社会的な不良も存在する。それは例え、進学校だろうが関係がなかった。

 

 昼食時の過ごし方もそれぞれ。

 待ってましたと弁当を取り出して口の中にかっ込む男子生徒もいれば、談笑の方を一生懸命にしてしまっている女子生徒もいる。中には、食事の時間すら惜しいと突っ伏して寝て過ごしている生徒も居た。

  

 私と言えば、どちらでもない。

 元々少食であるしそこまでお腹も減っていなければ、談笑するほどの友達が多いわけでもない。かと言って睡眠を優先にするほど寝不足というわけでもない。

 適度に食事をとって、適度に次の授業に備えて予習復習をし、適度にボーッと時間を過ごす。それが私の昼休みの過ごし方だった。

 ――――筈だった。

 

 

「てめぇ、新川! 姐さんに近づくなって言ったべや!」

「確かに言われたけど……」

「なら近づくなし。お前みたいなナヨナヨした男が近付いたら姐さんも休めるもんも休めないだろうがよ!」

「でもさ、それ遠藤さんが決めることじゃなくない?」

 

 

 無視したかった。

 出来れば関わりたくない。

 出来ることなら無視して過ごしたかった。

 目を瞑り、耳を塞ぎ、私は関係ありませんって態度を取りたかった。 

 

 それが出来るほど、私は肝が座っているわけではないようだ。

 周囲を軽く見ても、視線は全て私へと収束されている。騒いでいる二人の男子生徒と女子生徒には向けられておらず、私へと視線が向けられていた。

 大変だね、といった同情から。速く止めてほしい、といった抗議に近い目。更に言うと、どうこの騒ぎを収めるのか嬉々として向けられている視線すら存在する。

 

 私がため息を吐くのも、仕方がないだろう。

 どうしてこうなってしまったのか、私にもわからない。慎ましくも、誰にも注目されずに、平々凡々とした学生生活だった筈なのに、どういうわけか今となっては私の取り巻く環境は変わっていた。

 主に二人の喧嘩を止めるストッパー役として、一人は総合病院のオーナー院長の次男という立場もあってかで教師達は顔色を伺っており、もう一人は数ヶ月前まで教師すら手を焼いていた元問題児の女子生徒。ある意味で個性派な二人であり、それを止めるのが私しかいないのも妙は話しだと思う。個性溢れる二人を止めるのが、無個性で地味な私なんて誰がどう見ても奇妙な光景でしかない。

 

 でもやるしかない。

 これ以上、騒ぎの中心にいたくもないし、私の平穏な学生生活を過ごすためにも、これは無視できない状況だ。

 私は立ち上がり、問題となっている二人の生徒達の元へと足を運んで。

 

 

「なにしてるのよ、二人共……」

 

 

 声をかけただけなのに疲れ切っている私とは裏腹に、女子生徒――――遠藤と呼ばれた彼女は私を見るなり「姐さん……!」と満面の笑みを向けて、もう一人の男子生徒――――新川くんは申し訳なさそうに苦笑を浮かべている。

 

 新川くんはまだ良心的と言える。

 彼には私に迷惑をかけている自覚がある。しかし問題なのは遠藤の方。彼女にはそんな意識がまるでなく、私に気安く話しかける不届き者に目を光らせている、っと言ったところ。ある種の舎弟のような気持ちなのだろう。

 

 もちろん、私はそんなこと頼んでいない。

 文字通り急だった。私のことを気に入らなかった筈なのに、遠藤の態度が突然変わっていた。

 何をするにしても私の後をついて来て、少しでもため息を吐けば「大丈夫ですか!?」と気にかけて、少しでも私が他人と肩をぶつかったり接触すれば狂犬の如くイチャモンをつけて回る。

 そんな状況で、平凡な学生生活など送れない。むしろ生徒達からも、教師達からも、私は一目置かれるようになってしまっていた。あの札付きの不良であった遠藤を、手足の如く使っている、と。いつの間にか私は、遠藤を裏から操る人物として、畏怖されるようになってしまっていた。

 

 元々、遠藤にもそういう素質があったのかもしれない。

 舎弟としている立場を苦痛に感じている様子もなく、むしろ喜んでいる節すらある。Mっ気が強いのだろう。ときたま私も辛辣な言葉を投げかけるも、どこか恍惚とした表情でその言葉を受け止めている。

 今も彼女は「お疲れ様です!」と両手を両膝に当てて、深々と私に頭を下げて。

 

 

「聞いて下さいよ、姐さん!」

「……色々と言いたいことはあるけど、姐さんはやめてもらいたいのだけど?」

「わかりました、姐さん!」

「…………」

 

 

 全く分かってない。

 わざとなのか、と疑いたくなるが遠藤は悪びれもなく応じている辺り、これは素なのだろう。

 きっと細胞レベルで、遠藤の中では朝田詩乃=姐さん、という図式が刷り込まれているに違いない。どこをどう調教すれば、そうなるのかある意味で興味が湧くが知的探究心を満たすのは今ではない。

 

 ずれ落ちかけたメガネをかけ直して、私は再び遠藤に問いを投げた。

 

 

「……それで何をしていたの?」

「はい、コイツが不相応に姐さんに話しかけようとしていたので、気合いをいれてやろうかと、押忍っ!!」

「いいや、押忍じゃないから。あのね、遠藤。本当にそういうことしなくていいから。ぶっちゃけ困るのよ私が」

「困るんですか、姐さん?」

「うん、すごく」

 

 

 力強く、バカでもわかるように、私は首を縦に振る。

 きっと遠藤も分かってくれるはず。頭のネジをどこに締め忘れてしまったのか、急にポンコツになってしまった彼女でも分かってくれるはず。

 

 そう思っていた、私の方がバカだったようで――――。

 

 

「わかりました。新川には今度気合い入れますねっ!」

 

 

 押忍っ! とこれまた元気良く応えられてしまった。

 開いた口が塞がらないとはこのことをいうのだろう。ガックリと、私は肩を落として、今の自分の行動が徒労に終わり、虚無感に苛まれていった。

 そして静観していた新川くんはポツリと一言。

 

 

「……大変だね、朝田さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして私達が移動してきたのは、校舎の中庭だった。

 庭、といってもそれは質素な作り。花壇といった視覚で楽しむ物は一切存在せずに、木で作られたベンチが数箇所設置されているのみ。

 10月ということもあってか幾分肌寒く、中庭には私と新川くんくらいしかいなかった。

 

 あのまま教室で談笑できるほど、私は神経が図太い人間ではない。注目なんてされたくないし、目立つのも御免こうむる。

 談笑するのなら、静かに、自分のペースで。そんな願いもあって、中庭に足を運んだのだがこれまた大正解のようだ。人っ子一人もいない中庭を見て、思わず軽くガッツポーズ。

 遠藤は置いてきた。残念だが、彼女には私達の会話について行けない。というよりも、話しが進まない。一方的に新川くんに噛みついて。

 

 

「それで、新川くんも何の用だったの?」

 

 

 時間も限られている。

 昼休みが終了するまで時間も少ない。新川くんと肩を並べてベンチに座ると、私は単刀直入に訪ねた。

 

 彼もそれがわかっているからか、勿体ぶらずに自分の要件を口にする。

 

 

「用って程じゃないんだけど。昨日はお疲れ様、って言いたくて」

「あぁ、GGOの?」

 

 

 私にも心当たりがある。

 ガンゲイル・オンライン。通称GGOにて、私と新川くんは協力している仲だ。

 標的を決めて、情報収集、及び撹乱を新川くんが行って、私がその標的を仕留めるといったもの。中々のチームワークである、という自負もある。特に新川くんのプレイヤーキャラクター『シュピーゲル』は恐ろしく速い。撹乱には適している敏捷力はもちろん、ゲーマーとしての知識も私よりも遥かに上だし、何度も彼には助けらている。

 そして私には彼にない決定力――――敵を一撃で屠る武器がある。

 

 昨日も私達の思惑通り、標的としていたプレイヤーとその取り巻きを壊滅させたばかりだ。

 仕留めたのは私であるが、それもこれも新川くんの情報があってこそだった。だからお疲れ様を言うのは私の方であるべきだ。

 

 

「私が活躍したのは最後だけよ。新川くんが色々と頑張ってくれたから、簡単に叩き潰すことが出来た。労われるのは新川くんの方」

「でも僕じゃ彼らを倒し切るのは無理だったよ。朝田さんがいたから、全員倒すことが出来た」

「……新川くんも頑固よね?」

「朝田さんには負けるよ」

 

 

 ジト目で睨めつける私に対して、新川くんは苦笑で受け止める。何やら大人な対応をされて少しだけ悔しい。

 

 

「それじゃこうしよう。どっちもお疲れ様ってことで」

「……不承不承ながら了承します」

 

 

 どうやらまだ不服であるということがバレてしまっているようだ。

 

 新川くんは「そういえば」と話題を変えて私へ問いを投げる。

 

 

「朝田さんがあの手の連中を相手にしようとするの珍しいね?」

「そう?」

「うん。いつもの朝田さん――――シノンなら自分よりも強い相手を狙う筈でしょ?」

 

 

 シノン。

 それが私のもう一人の自分。GGOでのプレイヤーキャラクター。

 朝田詩乃ではない私。弱い私を撃ち殺す、強い私。それがGGOにて銃を手にしている私だ。

 

 新川くんの言い分も理解できる。

 シノンは賞金首を狩る賞金稼ぎ(バウンティハンター)。今まで小物なんて相手にしたことがない。そんな相手に構っている余裕はない。少しでも、誰よりも、私は強くならなければならない。そうでもしないと、私は“あの人”に追いつけないから。

 私が賞金首ばかりを標的にするのもそんな理由だ。賞金とはある種の目安だ。対象の賞金が高ければ高いほど強者であるのは明らかであるし、彼らを撃ち負かし私は強くなっていく。

 

 その点で言えば、先日の標的は明らかに弱者だった。

 初心者を相手にする、小物の中の小物。あんな輩を相手にしたところで、私が強くなる筈もない。そう断言できるほど、つまらなく、どうしようもない。

 

 シノンが狙う部類の強者ではない。

 それなのに銃口を向けてしまったのは、簡単な理由だった。

 

 

「……あの人なら、放っておかないって思ったから」

 

 

 あの人なら、無視しなかった。

 賞金すら受け取らず、やられた奴が悪い、弱いオマエらが悪い、と口では言うものの、きっと“あの人”ならそれで終わらなかった筈だ。

 真正面から堂々と、件のつまらない男とその仲間達を叩き潰して、弱者から搾取した資金や素材、武装を返して回っていたに違いない。口悪く態度も悪く、鬱陶しそうに、強者を気取っていた連中を叩き潰して、弱者の味方をしていたに違いない。

 私を救ったヒーローは、私が想う彼は、私が好いている――――あの人なら、きっと誰にも感謝されることを望まずに、人知れずそんなことをしていた筈だ。

 

 だから私も同じことをした。

 賞金の支払いも拒否して、連中を叩き潰した。

 だから今回、新川くんは本当の意味で骨折り損だった思う。私も申し訳なくなって、報酬分を支払おうとしたが、彼は受け取ってくれなかった。

 故に私も疑問を口にする。

 

 

「新川くんはどうして、私に協力してくれたの?」

「僕も同じだよ。先輩なら、きっと黙っていなかったと思ったからさ」

 

 

 にっこり、と満面の笑みを零す彼を見て、私も自然と頬が緩む。

 意見が一致した。私が想う“あの人”と彼が言う“先輩”は同一人物だ。であるのなら、私達の意見は一致するのは必然と言える。

 

 だが無視できない単語が一つ。

 

 

「どうして新川くんが先輩って呼んでいるの?」

「どうしてって、僕にとっても先輩だからさ」

「むー……」

 

 

 それを言われたら何も言えない。

 別に“あの人”は私だけの先輩というわけではない。新川くんにとっても先輩であるし、彼が“あの人”を先輩と呼びたいのなら私が止める謂れなどない。でも面白くないのも事実。わかっている、それもこれも私の強い独占欲が原因だ。新川くんも、ましてや“あの人”は何も悪くない。原因があるのなら、私だけだ。それでも納得出来ないのは、複雑な乙女心故だろう。狙撃手であるのなら、感情の一つや二つコントロールしないとならないのに、これではお話にならない。

 私もまだまだ、だ。

 

 

「……最近、あの人と会ってる?」

「うん。この前なんて、パンケ――――」

「パンケ? えっ、なに?」

「……何でもない。この前、二人で食べ歩きツアーに行ってきたよ」

 

 

 言い淀むと、直ぐに言い直す新川くん。

 正直言うとズルい。言葉を選んで言うとズルい。もう何もかもがズルい。

 私も食べ歩きツアーに行きたかった。というか、いつの間にそんな仲良しになったのか。ズルいったらズルい。

 

 

「ズルい」

 

 

 言葉に出てしまった。

 拗ねた調子で、子供のように、むくれながら呟いてしまった。

 

 それを受け止めた新川くんは、これまた大人な対応をする。

 肩を竦めて、最もなことを口にしていた。

 

 

「なら会えばいいのに。最近会ってないんでしょ?」

「うん……」

「なんで?」

「だってまだ、強くないから私」

 

 

 そう。

 私はまだ弱い。

 GGOではそれなりに名が知られているという自覚はある。

 でもまだ弱いのだ。とても“あの人”と肩を並べるほどでもなければ――――恋敵たる彼女と同じ土俵に立っているとは思えない。

 

 “あの人”の特別になるためにも、振り向いてもらうためにも、私だけが立ち止まってはいられない。

 強くなる。そのために私はGGOで銃を手にして、弱い私を撃ち殺す。

 

 対する新川くんは困ったように、笑みを零して。

 

 

「朝田さんはもう充分強いじゃないか。『恐弾の射手』なんて呼ばれているしさ」

「ううん、まだ弱いよ。まだまだ、強くならないと。例の“偽物”を叩き潰して、私が、シノンが一番強いって、あの大会で証明しないと」

「あの大会ってまさか……」

「うん、今回は出るよ、私も。BoBに」

 

 

 そっか、と新川くんが静かに相槌を打った。

 それはただの相槌とは違う。何やら覚悟を決めたような、重大なことを決めたような、酷く短いものであったが、力強い何かを私は感じた。

 

 私が新川くんに声を掛ける前に、彼は続けて言う。

 

 

「それじゃ、僕と朝田さんは敵同士になるね」

「ということは、新川くんも?」

「出るよ、BoB」

 

 

 予感はしていた。

 先程の相槌と言い、きっと彼も何か譲れないものがあって、その為にBoBに出場するのだろう。私と同じく、何かのために、何かと決着を付けるために、何かを手に入れる為に。

 ならば負けてなどいられない。私も同じく譲れないものの為に、銃を手にしているのだから。

 

 合図はなかった。

 私達は口元に笑みを張り付かせて、不敵に笑みを向けて。

 

 

「負けないわよ」

「こっちこそ。あとで泣いても謝らないからね」

 

 

 恨みっこなしだ。

 私も全力で臨むし、彼も本気で勝ちを狙う。今日の友は明日の敵。私達はそれぞれ何かのために戦わなければならない。

 だがそこで、水を差すように新川くんは口を開いた。

 

 

「あ、そうだ」

「今更、命乞い?」

「違うよ。BoBで絶対相手にしちゃダメな奴ががいるんだ」

「……誰、それ?」

「うん、あのね――――」

 

 

           「――――死銃(デス・ガン)っていうんだけど――――」

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




>>朝田詩乃
 Vol.7のメインキャラクター。
 恐弾の射手その人。
 “あの人”ガチ勢。“あの人”が絡むと、強くもなるし弱くもなる困ったちゃん。
 連絡は取り合っているものの、最近は一緒に遊んでいない。先輩ニウムなる成分が不足気味。
 “あの人”を模範する偽物を追っている。見かけたらデストロイ&デストロイ。デッドオアダイ。
 原作とは違って、BoBには初めて出場。
 後の発砲妻。

>>新川恭二
 Vol.7のメインキャラクター
 情報収集と撹乱に関して右に出るものはいない。ようは嫌がらせが滅茶苦茶得意。
 原作と違って、AGI型でもそれなりに楽しんでいる。敵を倒すのだけが強さじゃないし、何よりも嫌がらせって面白いよね?(愉悦)と笑顔で語る。
 先輩鳩派。割とガチ勢なのは無自覚。

>>遠藤
 日常を彩る問題児。後輩の舎弟。ドM。
 最初は恐がりながらだったが、のちにそれが快楽となり覚醒。
 今では立派な朝田の犬(本人談)。
 朝田も他人にはSっ気が強い方なので、比較的相性が良い(?)。
 朝田が花を摘みに席を立った際、笑顔で「私がトイレさ」と言い放ったのはあまりにも有名。

>>恐弾の射手
 シノンのこと。

>>例の“偽物”
 アインクラッドの恐怖。
 本物じゃない。


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