ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
もちろん、銃が好きで始めた者もいれば、荒廃した世界という設定が好みでプレイしている人間も確かに存在するだろう。所謂そういう者達はエンジョイ勢。本腰を入れずに、されど本気で、それでいて楽しく、ガンゲイル・オンラインを遊んでいるといえる。
そう、遊んでいる、だ。
通常のVRMMOはそれで正解だ。どれだけ本腰入れようとも、どれだけ時間を割こうが、VRMMOである限りそれはゲームという枠から抜け出すことはない。詰まる所の遊び。どれだけゲーム内で有名になろうとも、現実世界ではその知名度が通用することは限られているし、一般人からしてみたらどうでもいい事実でもる。
しかし件のVRMMO、ガンゲイル・オンラインはそうではない。
エンジョイ勢も確かに存在するが、中には本気で、それこそ命をかけて、現実世界の時間を犠牲にしてでも、ガンゲイル・オンラインに没頭しているプレイヤーも存在する。
本稼働してから約八ヶ月。一年も経ってないのに、ガンゲイル・オンラインはアルヴヘイム・オンラインと比較しても遜色が無い程の人気を博していた。
どうして彼らは、たかがゲームであるガンゲイル・オンラインにそこまで夢中になれるのか。
簡単な話しだ。彼らにとって、ガンゲイル・オンラインは遊びではない。生きるために必死に、その日の生計を建てる為に、彼らは今でもガンゲイル・オンラインをプレイしている。
オンラインゲームで稼ぐことなど出来るのだろうか。通常のオンラインゲームでは不可能だろう。ゲーム内で二つと無いレアアイテムを手に入れたからと言って、それで食っていけるのかと聞かれたらそうではない。精々ゲーム内で売買し、他プレイヤーと比べて豊かになるだけでしかない。それが現実世界に反映されるのか、と聞かれれば秒も考えずに首を横に振る。
しかし、ガンゲイル・オンラインは違う。
日本で唯一、リアルマネートレーディングが許されている。それこそレアアイテムを手に入れ、それを売買し還元すれば現実世界でもその分の現金が手に入る。
だからこそ、ガンゲイル・オンラインをプレイしている者達は本気にもなるし、アルヴヘイム・オンラインと比肩出来るほどの繁栄が出来たのだろう。何せゲーム内で努力し結果を示せば、それだけ現実世界での生活も豊かになるというもの。遊びではなく本気でプレイしている人間も多いというのも、これで納得できるだろう。
何せ、トッププレイヤーともなれば月あたり20~30万円の稼いでいる者もいる。
はたから見たら、夢のある話であるし、何よりも好きなことをして金を稼ぐなんて、誰もが羨む状況ですらある。それに名を残し、腕が認められれば、数少ない“プロ”として企業団体にスカウトされることもあるという。
それは本気で臨むプレイヤーも現れるというものだ。
だがしかし、それは雲を掴むようなもの。
プロといっても、たかがゲームと軽んじられるのが現状だが、されどゲームだ。プロと言うからには他者よりも優れた腕でないとなれるものではない。サッカーや野球といったスポーツ関係でもそうだし、チェスや将棋といったボードゲームでも同じことだ。
プロになりたい、だからプロになる。なんて簡単な心構えで、プロになれるわけがない。優れた才能、血がにじむような努力、そして数え切れない挫折を得て、やっとプロになる資格が得られる。プロになりたいからなる、といった甘い考えでなれるほど、プロは決して甘くない。
しかしそれでも、プロになりたいという願望を持つプレイヤーは存在する。
そしてそんなプレイヤー達が注目する大会があるのも事実だ。企業団体も注目し、優勝すれば地位や名誉、更に富すらも手に入ることが可能とされる夢の大会。
それこそが――――バレット・オブ・バレッツ。通称、BoBと呼ばれる大会である。
バレット・オブ・バレッツ。
定期的に行われる対人戦の大会。チーム戦などではなく、完全なる個人戦。一対一のトーナメント式の予選が存在し、勝ち残った通過者合計三十名によるバトルロイヤル式の決勝戦で構成されている。
ガンゲイル・オンラインは比較的ソロの実力を重視されるVRMMOだ。その中で最強を決める大会であるバレット・オブ・バレッツは多くのプレイヤーから注目を集めていた。アルヴヘイム・オンラインで行われた『統一デュエルトーナメント』 に迫る賑わいを見せていた。
この大会に出場する連中の殆どが優勝を狙っており、その理由も共通している。
シンプルなものだ。優勝し、地位と名誉を手に入れ、あわよくばプロとしてスカウトをされたいがため。これに尽きる。しかしその願望は間違いではない。むしろその為のバレット・オブ・バレッツ。優秀なプレイヤーを見つけて、ヘッドハンティングする、といった目的としても企業は注目している。
その点を考えれば、選手側としても、見る側としても、利害は一致していると言えるのかも知れない。
優勝することが出来れば、輝かしい未来が約束されている。
その事実は眩しく、プレイヤー達の目を曇らせるには充分すぎる理由でもある。最終的にバトルロイヤル方式で争うわけだが、秘密裏に同盟を組むプレイヤー達が現れることだろう。そして裏切り裏切られ、醜悪な人間模様を繰り広げるに違いない。だがそれも仕方ない。人間とは欲望に生きる獣の名だ。己の利のまま、自分勝手に、己の主張を叫び続ける事に、なんの違和感も感じないことだ。何故ならそれが、人間なのだから。
しかし彼女はその限りではない。
彼女もまた、バレット・オブ・バレッツに参戦しようと考えているプレイヤーだ。
だが彼女の中では名誉だの、地位だの、ましてや富なんて全く興味がなかった。しかし優勝は目指している。
それもこれも、自身の強さを証明するため。この世界で一番強いことを証明し、今まで背中だけを見てきた“彼”に追いつくために、彼女はバレット・オブ・バレッツに出場し銃を手にする。
ガンゲイル・オンラインを取り巻く環境において、彼女のバレット・オブ・バレッツにかける理由は明らかに異端だ。
そんな理由で彼女がバレット・オブ・バレッツに出場するなんて、誰もが思わないことだと思うし、誰もが想像できないに違いない。
でも彼女は本気だ。
誰よりも本気で、誰よりも優勝を狙っている。
その眼差しは冷たく、その奥には狂おしい程の情熱を秘めている。
彼女の名は――――。
2025年10月25日 PM21:40
ガンゲイル・オンライン SBCグロッケン とある酒場
彼女が席に座っているのは酒場の一角だ。
土曜日の夜、ということもあってか酒場内では大層な賑わいを見せている。筋骨隆々の男が破顔しながらジョッキに入った酒を飲み干したと思ったら、酒場の角では怪しげな取引をしているプレイヤー達もいる。各々好き勝手に騒いでは、楽しげに笑う。酒場内ではある種のコミュニティーが形成されており、彼女の存在は明らかに浮いたものとなっていた。
ガンゲイル・オンラインでは数少ない女性アバター。性別も女性という事実が拍車をかけているが、彼女が突出した空気を出しているのはそれだけではない。
彼女の座るテーブルに立て掛けている物体。それこそが彼女が手にする獲物であり、この世界で最も信頼する相棒であり、彼女を象徴する武器でもあった。ソレを見たプレイヤーは声をかけると同時に、蜘蛛の子を散らすように距離を置き始める。
それこそが――――PGM・ウルティマラティオ・ヘカートⅡ
現実世界では、対物狙撃銃というカテゴリーに属し、対人狙撃は禁止されるほどの物騒な狙撃銃だ。ギリシャ神話の冥界を司る女神『ヘカート』を冠する武器。それを手にしているプレイヤーは二人と、ガンゲイル・オンラインには存在しない。
狙った獲物は逃さず、賞金首だけを狙う。彼女の放つ弾丸は、音を殺して世界を駆ける、とまで言われている
いつの間にか“恐弾の射手”とまで呼ばれるようになり、腕に覚えのない賞金首は逃げ惑い、腕に自信がある賞金首は撃ち砕かれる。
第三者から見たら物騒極まりない彼女は、何をするでもなくテーブルに敷き詰められたコピー用紙らしきモノに目を通していた。
これまた異常な光景。他のテーブルを見れば、銃をメンテナンスするための道具が広げられていたり、雑な見た目な料理などが置かれている。しかし彼女はそんなものよりも、大量の用紙を所狭しと広げていた。
それはプレイヤー達のデータだ。
それも優れたプレイヤー達の情報、もっと限定的に言えばバレット・オブ・バレッツに出場するであろうプレイヤー。
ゼクシード、ペイルライダーといったプレイヤー名から、薄塩たらこといった強いのか弱いのかよくわからない名前のプレイヤーの情報もあった。しかし数値は馬鹿にできない。薄塩たらこやゼクシードというプレイヤー達を比べても実力差に遜色がない数値であるし、彼女も名前でバカにすることなく用紙を手にとって眺めていた。そして圧倒的で、彼女が集めた情報の中でも飛び抜けて高い数値を示しているサトライザーというプレイヤーの用紙を手にとって、考えていると。
「シーノン♪」
ふと彼女――――シノンは自身の名前を呼ばれ反射的に顔を上げた。
シノンが座る席の前。そこに立っているのは男性。彼はニッコリを笑みを浮かべて、気安くシノンに話しかける。
馴れ馴れしい、といった不快感はシノンにはなかった。何せ彼とは文字通り顔見知り。何度か護衛という立場で彼の依頼でクエストに同行したこともあったし、用心棒として働いたこともある。相棒というには遥かに遠く、仲間というには親しい仲でもない。故に顔見知り。シノンの中ではそれ以上でもそれ以下でもなかった。
だからだろうか。
シノンの反応も非常に淡白なもの。
彼の存在を認めたと思ったら、素っ気ない態度で再び用紙へと視線を戻して口を開く。
「何の用、ダイン?」
「何の用って、随分と釣れないじゃねぇのよ」
これ見よがしにガックリと、大きく肩を落としてダインと呼ばれた彼はシノンの向かいの席に座る。
相席することを許した覚えはない。とシノンは小言を呟こうとするも止めた。そんな事を言ったところで目の前の男は「まぁまぁ」と席を立つことがないだろう。そう決めつけて、シノンは用紙に目を通しながら話しを進めることにする。
「それで本当に何の用なの? また護衛依頼?」
「お生憎様、今日は違ぇよ。噂話を確かめに来ただけさ」
「噂話?」
ここでやっと、シノンは用紙からダインへと視線を移した。
彼はテーブルに広げられていた用紙を適当に手を取って眺めながら続ける。
「いやなに。あの“恐弾の射手”様が遂にBoB参戦する、って聞いたもんでな」
「本当よ」
「見たいだな。あーあ、嫌になるぜほんと。なんで今頃になって出場すんだよ?」
「あなたに関係ないでしょ」
「大有りですぅ! 俺だって出るんだよ!」
「そう。だったら安心しなさいよ。予選であたったら容赦なく撃ち込んであげるから」
顔見知りだからと言って容赦などしない。
シノンは暗にそう語り、ダインも本気で言っていることを理解する。思わず彼はテーブルに立て掛けているヘカートⅡを横目で見て、背筋が薄ら寒くなるのを感じた。
ゲームとは言え、彼女の獲物は対物狙撃銃。現実世界では人間に対して向けることを禁止されている化物銃の一つである。
そんな物を自分に向ける、と一切の温情もなく断言されたのだ。それは背筋の一つや二つ凍りつくというもの。
かと言って、彼女の武器は狙撃だけではないことをダインは知っている。
狙撃など選択肢の一つであり、いざとなればシノンはヘカートⅡを手に鈍器として扱う。実際それを何度か、ダインは目撃していた。そうなれば彼女はある種のバーサーカー。相手が死ぬまで殴りつけるのをやめない狂戦士と化す。
思わずダインは頭を抱えてしまった。
シノンに対して、勝ち筋が見えない。
「な、なぁ、シノン。俺と――――」
「同盟なんて組まないわよ」
「……デスヨネー」
一瞬浮かんだ望みは、これまた一瞬で撃ち砕かれた。
狙撃手らしいといえばらしい手際に、ダインは再び頭を抱える。
対するシノンは冷ややかな目でその一連の状況を見て質問を投げる。
「ねぇ。そんなに噂になってるの?」
「噂って?」
「私がBoBに出ることよ」
あぁ、とダインは顔を上げて力強く頷いた。
「巷で有名になってるぜ。オッズがひっくり返るとか大騒ぎよ」
「……私で賭け事しないでほしいのだけど」
「しゃーない。有名人なら誰もが通る道さ」
「ちなみに誰が一番人気?」
「そりゃお前だろ? あとは例の“アインクラッドの恐怖”かな?」
「――――っ」
ピクッ、とシノンの身体が反応し、テーブルの下で握りこぶしが作られていく。
アインクラッドの恐怖。
それは正体不明のPKを専門としているプレイヤー。
もちろんプレイヤーネームではなく、異名のようなものだ。しかしシノンのように、第三者が呼びそこから広まったものではなく、自発的に自身のことを“アインクラッドの恐怖”と名乗っているだけに過ぎない。
そのためか本当のプレイヤーネームも不明であり、顔はフルフェイスヘルメットのような仮面をかぶっているため見た人間はおらず、性別も、交友関係も、何もかもが謎に包まれている。ただ言えるのは恐らく性別は女性ということ。それもボディラインを強調としたボディスーツに身を包んでおり、何となく身体つきが女性らしいというだけの曖昧なものであり、実際“アインクラッドの恐怖”が女性である証拠などどこにもない。
実力も折り紙付きだ。
ありとあらゆる銃火器を器用に使いこなす。近接戦闘も得意であり、並大抵のプレイヤーでは付け入る隙などがない。
実際、アインクラッドの恐怖がガンゲイル・オンライン内で暴れてPKをしたせいもり、他のPK達が同調するように活性化。そのため、プレイヤー間で賞金首システムが流行するようになっていった。
現在のガンゲイル・オンラインにおいて、間違いなく頂点に近いプレイヤーの一人でもある。
だがシノンにとっては関係がなかった。
誰だろうが、何者だろうが、“アインクラッドの恐怖”という名を語る偽物。それだけで万死に値する。
その名は“彼”のものであり、関係のない者が名乗っていいモノではない。シノンは結論付けて、アインクラッドの恐怖の偽物として今でも標的としていた。
「しっかし、よりにもよってアインクラッドの恐怖かー」
肩を竦めて呟いたダインに、シノンは、はっ、とすると直ぐに調子を取り戻して問いを投げた。
「アインクラッドの恐怖がどうかしたの?」
「だって、アインクラッドの恐怖だぜ? VRMMO界隈じゃ、ちょっとした伝説だろ」
知らねぇのかよ、と尋ねられたシノンは素直に頷いてしまった。
言われてみれば確かに。実際、“彼”が何をしてそう呼ばれるようになったのか知らなかった。シノンが本人に聞いてもはぐらかされ、他に知る術など持っていなかった。
物を知らない、と捉えたのかダインは呆れた口調で答える。
「SAOでフロアボスを一人で何度も攻略したとか、睨んだだけでモンスターがビビったとか、PK集団を一人で壊滅させたとか、本当か嘘かわからねぇもんだらけさ」
「ボスを一人で倒したって、普通じゃないの?」
「普通じゃねぇよ! いいか、SAOのフロアボスってのは元々レイド仕様なんだよ。つまり、一人で倒せるもんじゃねぇの。多人数で挑むもんなんだよ」
「――――」
何という滅茶苦茶なものか。
シノンが絶句するのも無理はない。無理はないが、“彼”を知っているシノンから見てみたらその無茶苦茶っぷりも納得できる。
本来、複数相手取る敵を、一人で相対してしまう。
そんな無茶を何度もシノンは――――朝田詩乃は何度も目にして、守られてきたのだから。
対するダインはアインクラッドの恐怖が何者か知らない。
だからこそ、第三者の目線で、その噂話を自信満々に断言した。
「まぁ、嘘だわな。尾ひれが付いただけのハナシだろ。本当だったら、アインクラッドの恐怖は人間じゃねぇよ」
「あなたはそう思うの?」
「おうよ。実際、アインクラッドの恐怖は人間の範疇の中で強いってだけだしな」
アレだったら俺でも倒せる、と自信満々にダインは豪語するも、それはガンゲイル・オンラインでのアインクラッドの恐怖の偽物を見ての評価だろう。
何せ“本物”はガンゲイル・オンラインをプレイしている訳がなく、主な活動拠点はアルヴヘイム・オンラインだ。彼が“本物”の実力を推し量れる機会が訪れることはない。ダインがアルヴヘイム・オンラインのアカウントを持っているのなら話しは別だが、その可能性はありえないだろう。
とは言っても、ダインが本物のアインクラッドの恐怖と戦ったところで、敵わないことはシノンが一番良く知っている。
シノンの中で“彼”は一番強く、誰にも負けずに、弱き者を助け強気を挫く、言ってしまえばヒーローのような存在。仮に負けても最後は必ず勝つ、そんな絶対強者のような存在だ。
だからこそこの話しはここで終わり。
シノンは話しは終わったと言わんばかりに、三度書類に目を通し始める。
だがここで、ふと。ダインは思い出したかのように口にする。
「そういえば、妙なヤツがいるみたいだぞ?」
「妙な奴って?」
シノンは適当に相槌を打つ。
しかし次にダインから発せられる言葉は、シノンが興味を引くに値する内容のものであった。
「例のアインクラッドの恐怖のことで、聞いて回っている金髪の女と黒髪の女がいるみたいなんだわ。しかもどっちもM9000番系」
アルタナさん、誤字報告ありがとうございました!