ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 まさかお気に入り100超えるとは思ってもいませんでした……。
 本当にありがとうございます。これからも皆さんに楽しく見てもらえるように頑張って行こうと思います!


第4話 後ろを振り向こうとしない愚者

 2022年8月28日 AM11:20 アインクラッドはじまりの街

 

 

 眼を開けると何度見たことか、慣れ親しんだ街が広がっていた。

 まるで現実であるような感覚。五感がしっかり機能しており、暖かな風が頬を撫でる。

 ただ現実と違う点と言えば、街並みだけだろうと優希は思う。街は石造り、道路もコンクリートではなくレンガを敷き詰められて舗装されており、商品を売り出すための露店がある。日本では決して見ることの出来ない光景が広がっていた。

 

 

「さて……」

 

 

 拳を握ったり開いたり、肩を回したり、足を振ったりと言った簡単な動作を行うも問題なく動かせた。

 ここで気になるのが、今の優希の外見はどうなっているのか、と言った疑問だがこれも問題なかった。最初の実験で、現実の世界の姿形がソードアート・オンラインで反映されるのかは実験済みである。つまり今の優希の姿は現実の世界と変わらない。

 

 今身につけている防具も簡易的なもの。

 革製のズボンを履いており、布製のシャツの上から胸当ての防具を着込んでいる。如何にも初期装備といったような出で立ち。

 

 

「晶彦くんよぉ! 今日は何をすんだー!」

 

 

 空に向かって大きな声で指示を仰ぐと返答はすぐに返って来た。

 

 

『武器を手にしてくれ。何がいい?』

「両手剣でいい」

『君はいつもそれだな。他の武器を使う気はないのか?』

「ねぇな。これが一番しっくり来るんだ、別にいいだろ」

 

 

 優希の言葉と同時に眼の前が光る。そこには片手で扱うには少し大きい剣が地面に突き刺さっていた。形状からして、特別でもなんでもない。まだ実装されてないが、この辺りの露店でNPCが売ってそうなどこにでもある両手剣である。

 

 片手で引き抜くと、優希は両手で持ち直し構えた。

 何度か大振りで振るうと、再び地面に突き刺して。

 

 

「次は?」

『NPCとデュエルしてもらう』

 

 

 茅場が言い終わるや否や、地面から這い出てくるように人影が現れる。凹凸のない人影、顔も鼻口眼といったパーツがない。まるでマネキン人形をもっと簡略したような姿形をしている。

 片手には剣が握られており、形状から察するに装備しているのは片手剣のようだ。

 

 

 ――デュエルって決闘システムだったか?

 

 

 デュエルとは『ソードアート・オンライン』における決闘システムである。

 基本的にプレイヤーがデュエルに誘い、誘われた方が承諾すればデュエルを楽しめる簡単なものであることを優希は思い出す。

 

 

 ――確か、『完全決着モード』『半減決着モード』『初撃決着モード』の三種類だったか?

 

 

 優希はぼんやりと手慣れた手つきで右手の人差し指と中指を真っ直ぐ揃えて真下に振り、メインウィンドウを開く。

 これも最初はどうやって開くのかわからなかったな、と当時の状況を思い出しながら操作していった。

 

 

『ルールは完全決着モード』

「ん」

 

 

 指示通りルールを設定し、あとは『YES』と表示されてる場所を指で押すだけなのだが。

 ここで――――。

 

 

『そうだ』

 

 

 茅場が―――。

 

 

『ペインアブソーバはレベル0にしているが、』

 

 

 耳を疑う発言だった。

 ペインアブソーバとは文字通り痛みの緩衝だ。レベル10であれば、ダメージを受けても違和感しか感じないが、レベル0となるとそのダメージは現実の痛覚として感じる。つまり斬られたものなら痛覚として鮮明に残るということ。最悪後遺症にもなりかねない。

 

 常人が聞けば、ふざけるなと憤る発言だ。冗談でも笑えない。

 しかし優希は。

 

 

『大丈夫かね?』

「構わねぇよ」

 

 

 迷う素振りすら見せずに、デュエルを開始するか是非を問いていたウィンドウをタッチする。タッチした場所は『NO』ではなく『YES』。

 何の戸惑いも見せずに、淡々とした様子で、無表情にデュエル相手となっているNPCを蒼い双眸に捉えて続けた。

 

 

「さっさと始めんぞ」

『……あぁ、始めよう』

 

 

 カウントが刻まれていく。

 優希は眼を閉じて深く深呼吸を繰り返す。恐怖をしているわけではない。酷く落ち着いており、今から来るかもしれない痛みを当然と受け入れている節すらある。

 

 眼を開ける。

 その蒼い双眸に感情はない。ただ俄然の敵を斬るために存在している機械のような印象すら感じる。

 

 カウントが0になると同時に――――。

 

 

「――――っ!」

 

 

 両手剣を両手で構えなおして、その身をNPCへと踊らせる。

 最短距離で、真っ直ぐに、バカ正直に、弾丸のように推進していった。

 

 

「――――ッッ!!」

 

 

 思いっきり両手剣を振り下ろすと、NPCは構えていた片手剣を使い弾く。辺りに剣戟が響き渡った。それで終わりではない。弾かれるや否や、優希は直ぐに剣を振るい、NPCも合わせて弾き返す。

 火花を散らす鋼と鋼。とても仮想世界とは思えない。まるで現実で起きているかのような光景。

 

 力量の差は歴然だった。

 優希は素人のように我武者羅に剣を力任せに振るっているのに対し、NPCは体幹が真っ直ぐで振るう剣もぶれない。

 これでは優希の剣は当たらない。現に――――。

 

 

「――――ッ!?」

 

 

 振り上げられた剣を弾くと、NPCはすれ違い様に優希の脇腹を斬りつけて、一度距離を開けた。

 

 斬られた、と知覚すると同時に脇腹から灼熱を感じると、直ぐに痛みとなって優希の身体全体を奔る。

 

 

 ――なるほど、こりゃ痛い。

 ――本当に痛いなこりゃ……。

 

 

 茅場がペインアブソーバを本気で切っていたことに驚きはなかった。

 あの従兄弟はやると言ったら本当にやる男であることを、優希は良く知っているし良く熟知している。

 

 優希が驚いたのは本当に痛みが走ったことにある。

 常人ならば顔を歪ませて立っていることすらままならない痛みを負っているのだが、科学も行くとこまで行ったもんだな、と呑気に感想を漏らしていた。

 

 

 ――さて、どうするか。

 ――体力ゲージも4分の1削られちまったみてぇだしな。

 ――加えてオレの剣が全く当たらねぇ。

 

 

 どうするか、と優希は考えるもそんな思考すら許さないと言わんばかりに、今度はNPCが優希に襲いかかる。

 

 攻守逆転というのか、巧みな剣さばきであるNPCに対して、優希は防戦一方になる。

 その様子はもはや戦闘ではない。戦闘と言う行為は、お互い仕留めることが出来る者同士の争いを指す言葉だ。だがこれは一方的な蹂躙、一方的に圧倒しているだけ。このままでは優希の敗北は必至だろうし、もはや力量の差は埋まらず打倒しうる術すら彼にはないだろう。

 

 辛うじて、ギリギリ急所を守るのが精一杯の優希に勝ち目はない。

 体力ゲージは緑色、黄色、赤色と三段階に分けられており、色が赤色になるにつれて0に近づいていく。

 今の優希の体力ゲージは赤色。あと二度ほど斬られると終わる。それくらいの余力しか残っていなかった。

 

 そうしていると。

 

 

「――――ッ!」

 

 

 何度目になるのか、優希の剣が弾かれ無防備な姿を晒した。

 NPCが狙うのは首元。合理的に、愉しむことをせずに、瞬殺出来るように、鋭く疾く首元を狙う。 

 これで終わる。優希は首を斬られて、下手したらショック死するかもしれない。そんな笑えない結末を迎えて終わる――――。

 

 

「―――――――」

 

 

 筈だった――――。

 NPCは何を思ったのか、大きく後退して距離を開ける。

 あまりにも非合理的で、今まで機械的な動きをしていた物とは思えない。というよりも、ここで引くなどNPC、いいやAIの判断とは思えない。

 

 しかし現実はNPCが大きく後退している。

 そしてNPCが見たのは優希の眼だ。その双眸にあったのは――――ドス黒い憤怒。誰に対してなのか、NPCに対してなのか、不甲斐ない自分自身に対してなのか、それとも――――世界に対してなのか。

 その矛先は定かではない。

 

 理解不能。

 NPCは何故このような行動を取ったのか、アルゴリズムに則った行動を取らなかったのか、次々とエラーが弾き出される。

 

 

「……………」

 

 

 対する優希は無言で両手剣を構える。

 一番しっくりくる構え。剣先を天に向かって、柄を顔の横に。その構えはまるで示現流という古流剣術の構えに似ており、一撃に重きを置いている構えだった。

 もはや二撃目など考えていない。一撃目で決着をつける『先手必勝』の型。もちろん、茅場優希という人間は剣術など習っていない。今まで剣を振るっていて、この型が一番しっくりきたので、構えているだけに過ぎない。

 

 だがそれは異様だった。

 最初の初撃で、我武者羅に振るっても通じないと理解したはず。なのに変わらず一撃の型。まるで自分の命など勘定に入れていないかのようであり、それは明らかに異様であり、不気味であった。

 

 そしてその眼には怒り。純粋な怒りが滾っている。だが頭に血が登っているわけでもない。極めて冷静とも言える。

 

 一歩、NPCは無意識に一歩後ずさる。それと同時に、優希は疾走を開始する。

 最初よりも鋭く、それは疾い。まるで痛みなどないかのような走り。

 

 

 遅れてNPCが迎撃行動に移る。

 優希の状態で、一撃を決めるのは難しいと判断したのか、合理的に脇腹を狙う。

 その脇腹は最初に傷つけた場所。ここをもう一度痛みつければ、流石に怯む。怯んだ隙にもう一度身体のどこかを斬りつけて、体力ゲージを0にする。そういうつもりなのだろう。

 

 そうと知らずに、優希は間合いに入る。

 瞬間、NPCは僅かに片手剣を引くと。

 

 

「――――――」

 

 

 寸分の狂いなく、剣は優希の脇腹に突き刺さった。

 これで止まる、と思いきや。

 

 

「―――――――ッ!」

 

 

 怯むことなく、無表情に、暗い感情を眼に宿したまま、優希は両手剣を振り下ろす。

 斬ッ!っと。

 NPCの左肩口から斜めに振り下ろし、上半身を斜め一直線に貫き、NPCはそのまま地面に叩きつけられて後方へ二転三転転がりながら吹っ飛んでいく。体力ゲージは0になっているのに対して、優希の体力ゲージは1ドットほど残っていた。

 

 自分の勝利を確認すると、深く息を吐くと優希は両手剣を肩で背負い空に向かって一言。

 

 

「勝ったぞ」

 

 

 その眼はいつもどおり蒼い双眸。

 先程宿していた黒い憤怒はどこにもなかった――――。

 

 

 

 

 

 

 

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 PM15:30 東京都内 とある研究所

 

 

 あれから実験も終了。

 優希の姿はどこにも居らず、実験データを纏め終わった茅場は研究レポートを纏めていた。膨大なデータであるが、茅場にとってそれは苦ではなかった。これも自分の思い描く世界の構築のためには必要な代物。そう考えると、どこか楽しくもなってくる。

 

 

「お疲れ様です」

 

 

 そんな茅場に声をかけるのは一人の男性。茅場の後輩にあたる人物である。

 後輩は茅場にコーヒーを振る舞い、邪魔にならない場所に置いた。

 

 

「ありがとう」

「いいえ」

 

 

 社交辞令で礼を言うも、茅場はコーヒーの入ったコップに手を伸ばさない。必要ないし興味が無いのだ。今はそれよりも、作業に集中したい。

 そんな茅場の心境を読めずに、後輩は口を開いていく。

 

 

「『ソードアート・オンライン』ももう少しで発売ですね」

「そうだな」

「ベータテストの人数って何人でしたっけ?」

「千人だ」

「多いですね―。これから忙しくなりそうだ」

「ここまでこれたのも、君達のおかげだ。本当に感謝しているよ」

「いえいえ、先輩の力があってこそですよ!」

 

 

 後輩は熱く語るが、茅場の言葉には中身がない。こう言えば良いのだろう、という簡略的なものに過ぎない。もしここに彼の従兄弟もいるものなら「ホントに性格が悪いな、晶彦くんよぉ?」と自分のことを棚に上げて思っていたことだろう。

 

 後輩の無駄話は続く。

 と、ここで――――。

 

 

「それにしても先輩の従兄弟さん、優希君でしたっけ? 凄い子でしたね?」

「――――彼がどうかしたのかね?」

 

 

 ここで初めて、作業に没頭していた茅場が興味を引いた。

 彼はこれまでやっていた作業を放り出して、後輩の顔へと視線を向けた。いきなり視線を合わされた後輩は少し驚きながら続ける。

 

 

「い、いや。最初のVRではあんなにも顔色を悪くしていたのにやめずに、今では平然とダイブしていたので……。凄い精神力というか、意思が強いなぁ、と……」

「……君にはそう見えたか」

「へ?」

「いいや、こちらの話だよ」

 

 

 そういうと、茅場は再び作業に没頭し始める。その様子に後輩は首を傾げるも、茅場は無視を決め込んでいた。

 

 

 ――確かに意思が強いのだろう。

 ――精神力も凄まじいのだろう。

 ――だが彼の注目するべき点はそこじゃない。

 

 

 茅場が思い出すのは今までの茅場優希の態度と口調、先程のアインクラッドにインしていた茅場優希の振る舞いだ。

 痛みをものともせずに、敢えて自分を辛い環境に置いている。

 

 

 ――――サバイバーズ・ギルトという言葉がある。

 それは戦争や事故、災害などに遭いながらも生還した人間が抱いてしまう感情を指す言葉だ。何とか助かることができた人々が感じる罪悪感全般。「自分だけ助かってしまって申し訳ない」「あの時、自分が行動していれば他の誰かを助けられたのでは?」「自分のような者よりも助かるべき人がいたはずだ」といった過剰な自責の念が罪悪感となり感情を蝕んでいく。精神医学ではPTSDの症状の一種と見なされている。

 

 茅場優希の状態が今のそれだ。

 両親が死に、自分だけが生き残ってしまった。生きていれば幾千幾万の人名を救うことが出来た筈の両親と引き換えに、何も救えない自分が生き残ってしまった。

 なまじ両親が名医だっただけで、その罪悪感は凄まじいものだ。

 

 

 ――だからこそ、彼は自分を追い込む。

 ――アルバイトを掛け持ちしているのがその証拠だ。

 ――兄さん達の財産にも手を付けず、私からの援助も手を付けない。

 ――自分が傷つき、苦しむように無意識に行動を取る。

 ――そして振り向きもせず、前しか見ようとしない。

 

 

 そこまで分析すると、先程の実験中のデュエルを思い出す。

 ペインアブソーバはレベル0にするという凶行を知る人間は優希以外いない。そんなことが研究員が知れば、止めることだろう。だが茅場は知りたかったのだ、優希がどんな反応するのか。結果は知っての通り。

 

 彼は言った「構わない」と。

 淡々と、さも当然であるかのように彼は戸惑わずに了承した。

 

 

 ――彼の原動力は純粋な『怒り』だ。

 ――何も出来なかった自分への、理不尽で不平等な世界への純粋な『怒り』。

 ――彼は人一倍それが強い。

 

 

 その怒りを真正面からぶつけられた結果、NPCはある感情に目覚めていた。

 それは恐怖。本来感情を持たないNPCに恐怖を与えてしまったのだ。故に、NPCはとどめを刺せる状況で大きく後退する。あまつさえ後ろに一歩下がるという行動をしてしまったのだ。

 

 この結果に茅場は。

 

 

 ――素晴らしい。

 

 

 と、口元を邪悪に歪めて。

 

 

 ――既存のシステムすら超える意思。

 ――私の世界に対する叛逆。

 ――今回の『恐怖』はカーディナルも学習したことだろう。

 

 

 長らく忘れていた己が目指す目的の一つを思い出す。

 システムをも超越する強い意志の力。ただそれが見たいというだけの探究心を彼は思い出す。

 

 

 ――罪悪感に押しつぶされながらも、己を焼くほどの強い怒りを宿す。

 ――そんな生き方など、本来であれば息をすることすら苦痛の筈。

 ――だが彼は生きている。

 ――彼をこの世に留めているのは何か。

 ――怒りか、それとも罪悪感か。

 ――もしくはもっと違う『存在』か。

 ――彼を思い留ませる程の『大切な存在』がこの世にいるからか。

 ――何にしても。

 

 

「これからが、楽しみだよ――――」

 

 

 

 

 

 

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 PM17:45 東京都内某所

 

 

 アルバイトが終わり、優希は帰路についていた。

 まだ日が登っているからか、通行人もパラパラとすれ違う。すれ違う度に、優希の片手に視線を向けられている。

 

 

 ――まぁ、当たり前だろうなぁ……。

 

 

 優希は視線を片手に落とす。

 握られているのはナーヴギア。これは実験中に彼が使っていた物であり、茅場が帰り際「餞別だ」とそのまま渡されたものに他ならない。

 梱包もせずに、無梱包で手渡し。最新のゲーム機、更に言えば今話題沸騰中の代物である。注目しないわけがなかった。

 

 通行人の眼が痛い。

 特に子供からの羨望にも似た眼が非常に痛い。

 

 

 ――ホント天才って生き物は常識がねぇかなぁ?

 ――天才が常識持ってねぇから、世界は上手く回ってんだろうがよぉ。

 

 

 ここまで歩いてくるのに、嫌ってほど注目を浴び、なおかつ元来注目されることに慣れていないせいもあってか、優希の表情は疲れ切っていた。

 そのまま歩いていると。

 

 

「痛……ッ!」

 

 

 急に身体から激痛が走り、顔が苦痛に歪む。

 どうやら先程の実験の痛みがまだ治っていないようだ。外傷はないものの、リアルな痛みを仮想空間で体験したからか、今だに痛みが引かない状態にある。外傷がない以上、どうやって治療すればいいのかわからない。

 

 だが優希は無表情に言葉を漏らした。

 こんな痛み、当然といえるかのように無感情に。

 

 

「まぁ、いいか」

 

 

 そんなこんなで、ようやく自分の住んでいるボロアパートに着いた。

 錆びついた階段を登り、一番奥にある自分の部屋まで歩くと。

 

 

「あぁ?」

 

 

 妙な匂いがしてきた。

 異臭などではない。家庭的な匂い、もっと何かしらの良い匂い。それは自分の部屋から漂ってきた。

 

 まさか、と思いながらドアノブを回す。

 もちろん家を空けるので、鍵は閉めて家を出たことを優希は忘れていない。ということは、優希の部屋を開けて、誰かが料理しているしか考えられない。

 

 ドアを開けると。

 

 

「あ、おかえり」

 

 

 エプロンを装備している女性――――結城明日奈が台所に立っていた。

 右手にはお玉、左手には小皿。味噌汁を作り、その味見をしていたようだ。家庭的な姿をこれでもかと見せつけながら明日奈は続ける。

 

 

「合鍵使っちゃったけど大丈夫だったかな?」

「問題ねぇよ」

「それはよかった――――って、えぇ!?」

 

 

 優希の片手に持っているナーヴギアを見て、明日奈は驚愕の声を上げる。

 

 

「それってナーヴギア!? 何で持ってるの、ゲーム興味なかった筈だよね?」

「あぁ、貰った」

「何でそんなもの貰えるの……」

「さぁな。ンなことより――――」

 

 

 そこまで言うと、優希はチラッと台所に視線を向ける。

 そこにはレジ袋があり、入っていたのは食材。近くのスーパーのレジ袋だったことから、わざわざ買ってきたことがわかる。

 わかっているが、一応優希は確認した。

 

 

「買ってきたのか?」

「うん。優希君バイトって言ってたし、疲れてるかなって思って」

 

 

 だから料理して待っていた、と。

 優希はそう結論付けると、舌打ちを小さく一度して。

 

 

「ンな下らねぇことで、自分の小遣い使ってんじゃねぇよ。レシート見せろ、その分払う」

「いいよ。わたしがしたかったことだし」

「そういうわけに行くかよ。いいから――――」

「――――そんなことより、優希君!」

 

 

 自分の言葉を遮ってきた明日奈へと視線を向ける。

 そこには満面の笑みの明日奈がいて、朗々とした口調で嬉しそうに口を開く。

 

 

「――――おかえりなさい」

「――――――」

 

 

 一瞬だけ、眼を丸くさせるも、優希は面倒くさそうな口調で応えた。

 

 

「へいへい、ただいま」

「へいは一回!」

「ヘーイ」

 

 

 




→両手剣
 優希の愛用武器。
 ちまちま削るのは性に合わない、とは彼の言葉

→優希の構え
 一撃必殺重視。
 示現流に似ているだけであって、全く関係ない。
 二の打ち要らずならぬ、優希版二撃目いらず。李先生もニッコリ

→決闘システム
 デュエルだ!! デュエルしろよ!?
 なあ プレイヤーだろうおまえ デュエルしろよ!! なあ!!!
 (アインクラッドの方言で「こんにちは、いい天気ですね」の意)

→NPC
 何あいつ。マジやばくね?めっちゃ怒ってたんですけど、マジやばくね?(意訳)

→カーディナル
 何なのアイツ。ありえなくね?マジやばくね?(意訳)


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