ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
べるせるく・おふらいん
~なぞなぞ~
木綿季「聞いてよ明日奈ぁ」
明日奈「どうしたの?」
木綿季「昨日寝ぼけてさ、にーちゃんに“パンはパンでも食べられないバナナってゴーリラ?”って意味不明ななぞなぞ出しちゃったんだよ。恥ずかしかったなぁ」
明日奈「あぁ。それで今日ずっと難しい顔してたのね……」
木綿季「解こうとしてたの……?」
12月14日 BoB本選開始から数分後
アルヴヘイム・オンライン 央都『アルン』のとある酒場
夜といっても差し支えのない時刻。
昼間では閑散としていた酒場といった施設も、今では満席に近いほど活気に溢れていた。酒場といっても、アルヴヘイム・オンラインは昔は不祥事があったものの、今となっては健全なVRMMOゲームである。中には未成年もプレイしていることも考慮して、酒を飲んだところで身体に酔いが回ることはない。中には食事を楽しんでいる者もいるが、大半のプレイヤーはあえて酒をゲーム通貨である“ユルド”を払って飲み、娯楽として楽しんでいた。
中には飲んで本当に酔っているようにも見えるプレイヤーも散見しているのだが、つまるところ場酔いしているのだろう。
かんぱーい! とご機嫌に木製のジョッキをぶつけ合う一団もあれば、ご機嫌な調子で食事を楽しんでいる卓もあり、来たばかりなのかNPCの店員に注文をしまくる者達もいる。
他者多様であるものの、共通していることがあった。
それはテーブルの中央の設置されているバスケットボールよりも少しだけ大きめのボール型の水晶。魔法世界であるアルヴヘイム・オンラインには、どこにでもあるようなオブジェクトが、それぞれの卓の中心部に設置されていた。
それは遠く離れた場所を魔法の力で遠見できることができる魔法石、というゲーム内の設定であるが、結局のところモニターであった。
誰も彼もがその水晶に釘付けとなっている。
固唾を呑んで見守り、時折「おーっ」っと感嘆な声を漏らし、次には歓声を上げている卓まである。
その様子は、現実世界で言うところのスポーツ観戦を売りとしているバーのようでもある。
彼らが見ている映像はリアルタイムで発信されているもの。
この世界ではない戦場。魔法とは縁遠い、実弾が飛び交う硝煙の香りがする殺伐とした世界。それこそ、ガンゲイル・オンラインでのBoB本選の生中継の映像に他ならない。
酒場が繁盛しているのもそういった理由なのだろう。
つまるところの、ここではないどこかで行なわれている大会を観戦するため。魔法でもなく、剣技でもなく、実銃によって勝敗が別れる大会の行く末を見守るため。
酒場に居る全てのプレイヤーが釘付けになっていることから、やはり興味があるのだろう。アルヴヘイム・オンラインとはまた違うこともあり、嬉々として楽しそうに生中継を楽しんでいた。
水晶に映し出された『MMOストリーム』の司会者が煽るように、BoB本選に出場している注目プレイヤーを解説している中。
「はい、アスナ」
「うん?」
立つように促されて、
この意図になんの意味があるのか。首をかしげて、指示をしてきた
「なにこれ?」
「なんて書いてある?」
「えーっと」
持っていた木製の板を裏返しにし、自分の顔の辺りまで持ってくる。
「『わたしは嘘をつきました』?」
「はい、正解。復唱! 『わたしは嘘をつきました』!」
「わ、『わたしは嘘をつきました』!」
「よし!」
リズベットは満足したのか、しきりなしに頷く。
満足そうにしていたのは彼女だけではない。アスナ達と卓を囲んでいる数人。クライン、リーファ、シリカ、ユイ、そしてシリカのペットモンスターである小竜のピナも満足そうに小さく鳴き声を上げる。
ますます解せないのか。
アスナは「えーっと」と困った調子で苦笑を浮かべ、困惑しながら。
「本当に何なのこれ?」
「何なのじゃねぇだろー」
ニヤニヤ、と。
頬杖をつきながらだらしなく笑みを零しながら言うクラインに嫌な予感をアスナは感じた。
まるで正論で殴られるような、言い訳を許さない言葉を並べられてDVされるような、そんな感覚。
彼女の心配を余所に、クラインはニヤケ顔になりながら。
「あの兄妹がアスカ・エンパイヤで遊んでるって騙したろオレ達を」
「人聞きが悪い!?」
がーん、と思わずアスナはショックを受ける。
確かに騙したのは本当だ。真実であり、揺るがない事実である。だからこそ何も言えない。反論の余地がなく、言い訳も出来ない。
クラインはその様子を見て、満足したのか居丈高に笑い声を上げると。
「まぁ、いいけどなぁ! めでたく三人ともBoBだっけ? その本選に出てることだし!」
それだけ言うと、近くで卓を囲んでいた彼がギルドリーダーを務める『風林火山』と乾杯すると、そのまた近くの卓に「俺のダチがBoBが出場するんだよぉ! しかも三人! 凄いだろぉ!」と絡んでいき、その卓にいた中年の見た目な
あまりにも陽気なクラインを見て、リーファは乾いた笑みを浮かべて。
「テンションが高いなぁ」
「気持ちはわかりますけどねぇ。キリトさんとユウキはどこかなー?」
「二人ともガンガン飛ばしそうだけど、映らないねぇ」
想い人であるキリトと親友であるユウキを探しているシリカを見て、リーファも二人を探すのに協力しているが見つからなかった。
そしてやけに外見が気合の入った人達が多いなぁ、とリーファは思う。
崖で陣取る二の腕が丸太のような屈強な男性プレイヤー、高所を陣取っている水色髪の狙撃主、テンガロンハットを被ったいかにも西部劇に出てきそうなガンマン、ぼろ布のようなマントを纏った骸骨のようなマスクを被った人物、その隣を歩いているボディラインが強調されている装備を身につけている女性。
見た目だけで言えば強キャラばかりであり、その中に兄がいるというのは少しだけ妙な気持ちにもなるというもの。英雄視されているキリトではなく、自身の兄である桐ヶ谷和人を知っているからこそ、リーファは腑に落ちない感覚を覚えていた。
強いのは知っている。ソードアート・オンラインでははじまりの英雄と呼ばれ、アルヴヘイム・オンラインではシルフ百人斬りを成し遂げた猛者だ。だとしても、普段からの落差が凄すぎる。どちらが本当のお兄ちゃんなんだろう、とぼんやりと考えていると。
「ユウキのお嬢はそうかもしれねぇけど、キリトってああ見えて計算高いからなぁ。ある程度減るまで大人しくしてるんじゃねぇの?」
いつの間にか戻ってきたクラインの言葉に、ハッ、とリーファは思考の海から戻ってくると。
「あー、それは確かにお兄ちゃんっぽい。ユウキは……考えるまでもないか」
「うん! 暴れまくると思うな。だってユウキだもん!」
ふんす、とどこか自信満々に言うシリカに、オレンジジュースを飲んでいたユイは遅れて抗議をする。
どうやら今の彼女は、ナビゲーションピクシーではなく、ソードアート・オンラインで過ごしていたような幼女形態のようだ。
ユイが抗議するのはもちろんキリトのことである。
オレンジジュースが入っていた木製のジョッキをテーブルに置くと、クラインに小さな身体をいっぱい使って抗議をする。
「違いますよ! パパはちゃんと正々堂々! 後ろから斬って斬って斬りまくります!」
「……それって正々堂々なの?」
不意打ちだよな? とクラインは首を傾げる。
彼の中の正々堂々の定義が若干ずれているところを見て、アスナは小さく笑みを零しながら。
「ねぇ、リズ」
「ん?」
四人のやりとりをぼんやりと見ていたリズベットは、呼ばれたからかアスナの方へと顔を向ける。
「これっていつまで持ってればいいの??」
「ん? あぁ、下ろしていいわよ。気が済んだから」
「えぇ……?」
特に重たくもなかった『わたしは嘘をつきました』と彫られた木の板を床に置く。
リズベット達の様子を見るに、本当に意味などなかったのだろうとこのとき初めてアスナは感じた。それを証拠に、四人と一匹の意識はキリトやユウキの二人を探すのに夢中となっている。しかも誰が一番最初に見つけることが出来るか、といった勝負にまで発展しそうな勢いであった。
アスナとしてはどこか複雑だ。
嘘をついたことは悪いことであるが、もう少しだけこちらに意識を向けてくれても良かったのではないか、と。せめて笑ってほしかった。そうでもなければ報われない。
ギャグが滑ったような、微妙な気持ちでいるアスナを見て、全てわかっている調子でニヤニヤ笑うリズベットは意地悪く話しかける。
「それで兄貴の方はどこよ?」
「あそこにいるよ?」
「えっ?」
アスナが指さした先。
リズベットはそこへと視線を追いかけた。
そこには確かにいた。
両手を組み天へと伸ばし、軽く準備運動している何者かの姿。
ソードアート・オンラインやアルヴヘイム・オンラインの彼とは違う。これまた可愛らしい、男の子とも女の子とも呼べるような背丈になっている金髪碧眼の彼。いつもどおり機嫌が悪そうに、目つきの悪い姿があった。
随分と可愛らしい姿になっている。いいや、結局雰囲気で台無しにしている。ある意味で殺伐としたガンゲイル・オンラインに馴染んでいる。
そんな感想を生まれるが、それよりも見過ごせない現象を前にしてしまい、思わずリズベットは呆れてながら。
「……いつも思うけど、アンタの幼馴染センサーどうなってるのよ?」
「どうなってるって?」
「天然でやってるから、偶に怖いですよねこの団長さんって」
思わず敬語になってしまうリズベットだが、今だに渦中のアスナは要領が得ないと言わんばかりに首を傾げるばかり。
BoB本選の参加者は30人。
今は本選の中継ではなく『MMOストリーム』の司会者がBoBとはどういったものなのか、優勝候補は何人居るのか、そしてそれは誰なのか、など解説している最中だ。
まだ何も開始されてまだ目立った動きもなく、参加者の姿があると言っても、まだ米粒のような大きさで表示されているような状態。それなのに、彼女はノータイムで自身の幼馴染を見つけていた。眼がいいのか、はたまた勘が鋭いのか、それとも謎のセンサーが備わっているのか。普段はぽわぽわしている癖に、幼馴染のことになると妙に鋭くなるアスナを見て、リズベットは極まっていると判断することにした。
はい、とリーファは手を上げて。
「GPSとか必要なさそう」
はい、と申し訳なさそうにシリカが手を上げて。
「耳を澄ましただけで、ユウキのお兄さんがどこにいるかわかりそう……」
はいっ、と元気よくクラインが手を上げて。
「エロ本とか隠しても直ぐにバレそう」
あまりにもな言い分の数々に、思わずアスナは両手を挙げて抗議をする。
ここで自分の異常性がわかったのか、はたまた心外だと感じたのか、顔を羞恥で紅く染めて。
「そ、そこまでじゃないわよっ! それにユーキくんはエッチな本は持ってません!」
「何で知ってるのよ……」
もはや何も言うまい、とリズベットは呆れた口調でツッコミを入れる。
そして哀れみをユーキに向けた。何故か把握されているということは、定期的にチェックされている可能性すらある。
だがしかし、わからないでもない。
意中の人物が、他の女の裸体を見てうつつを抜かしている。
――――うん、
ノータイムでリズベットの脳内裁判は判決を下す。
執行猶予などない。即日即決、情状酌量もなく投獄されるのが世の常である。理不尽と罵られ様とも構わない。女には負けられない戦いがあるのだから。
あとでアスナにどこを探したらいいか聞いておこうと、考えていると。
「んん??」
アスナが不思議そうに水晶の中を見ていた。
言うまでもなく、視線の先にはユーキの姿。
準備運動は終わったのか、片手にはリボルバー式の小銃を肩に背負い、もう片方の手にはシャベルが握られている。
どうしてシャベル? と思いながらもリズベットはアスナに向かって。
「どうしたのよ?」
「んー、うん。間違いないよ」
「何が?」
「ユーキくん、何だか凄く嬉しそうだなーって」
嬉しそうに言うアスナを見て、訝しげにリズベットはユーキを見る。彼女だけではない、リーファやシリカ、その頭の上に乗っているピナ、クラインにユイもユーキを見る。
いつものユーキだった。
不機嫌そうに、目つきが悪く、何に苛立ちを覚えているのかわからない。姿は丸っきり違うが、いつものユーキがそこにいた。
リズベットは四人と一匹に視線を向ける――――どう思う?
四人と一匹は首を傾げる――――いつも通りでは?
違いがまるでわからない。
しかしアスナは違うようで、ニコニコと嬉しそうに楽しそうに。
「久しぶりに見るなぁ、こんなユーキくん」
「SAOでキリトくんと戦っているとき以来じゃないかな?」
べるせるく・おふらいん
~その後の酒場~
ストレア「みんな、お待たせー」
リズベット「やっと来たわねー」
ストレア「ごめんごめん。あれ、エギルは?」
クライン「アイツなら後で来るぜ。忙しいらしいな」
ストレア「そうなんだ」
ユイ「あっ、ストレア! どこにいってたんですか! 心配してたんですよっ!」
ストレア「ちょっと、GGOにいってたのー。あの人の様子を見に」
リズベット「えっ?(『アタシはズルをして世界を行き来しました』と彫られた木の板を作る)」
アスナ「あっ……(察する)」
ストレア「……ん?(もしかしてアタシ、発言間違えた?といった顔)」