ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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第19話 BoB本選 ~先輩と後輩~①

 

 ――――私が、彼らと知り合えたのは、偶然だった。

 

 

 SAO失敗者(ルーザー)と腐っている場合じゃないと、一念発起して始めた副職が軌道に乗り始めてしまった頃、私は再び腐りかけていた。

 

 

 正直な話、やっていられなかった。

 副職、つまりは“アインクラッドの恐怖”をガンゲイル・オンラインで名乗り、名を売り本物の興味を引き、そして誘き寄せるといった簡単なもの。

 しかし一向に現れない。どれだけ私が戦場を駆け巡り、他人をブッ殺しても、偽者(わたし)賞金首(バウンティ)システムの上位ランカーになろうが、本物が現れる兆しがなかった。どうでもいい雑魚を蹴散らし、返り討ちにし尽くし、健気に待っていたが、私は根気が強い方ではない。

 どうやら“アインクラッドの恐怖”は自身の異名など気にしない人間であるらしい。そうでもなければ、偽者(わたし)をずっと放置しているわけがない。偽者(わたし)の名が売れ始めた初期段階で、ブチ殺しに来る筈。

 でも来ない。偽者(わたし)など最初からどうでもいい、と言わんばかりに無視され続ける。

 

 

 モチベーションを保てる筈がない。

 腹いせに恋人を普段よりも5割増にボコっても憂さが晴れない。しまいには、“アインクラッドの恐怖”の個人情報を特定するまで会わない、なんて無茶振りする始末。

 私自身思う。なんて無茶なことをいうのかと。絶望し切っていた恋人の顔が記憶に新しい。

 

 それなのに、ガンゲイル・オンラインに毎日ログインしていたのは、きっとまだ諦めついていないのだろう。

 何をするでもなくボーっと。話し掛けれれても生返事。上の空で何もする気が起きない。きっとこの頃の私は見れたものじゃなかった筈だ。死んだような魚の目をしていたに違いない。

 

 ぼう、とその場に座り込んでいる私の視線の先には、ギャンブルゲームを楽しんでいるプレイヤー達の姿。

 その中で、私の目線はある建物へ。金属バーを隔てて20メートルほどの距離。その奥には弾痕が刻まれた建物があり、その中には西部劇に出てくるような格好をしたNPCのガンマンの姿。建物の屋根の辺りにピンク色のネオンでUntouchable!の文字。

 ガンマンのNPCの銃撃を避け、近づく簡単なルールだ。挑戦するのか、一人が金属バーが開くと同時に、一人が走り始める。数メートル進むが、程なくして銃撃されてゲーム終了。

 

 私もやったことがあるからわかる。

 恐ろしく難しく何度もやったが踏破出来るビジョンが浮かばない。アレをクリアした人間は存在せず、これからも現れることがないだろうと思う。

 

 現に、何人か挑戦しては、返り討ちにあう。

 次こそは、と挑戦するも、やはり撃ち倒される。

 もしガンマンに触れることができれば、今までプレイヤーが掛け金として支払ってきた500クレジットの全額―――――ざっと30万クレジットを手に入れることができる。

 一攫千金。踏破することが出来れば、ガンマンに触れることさえ出来れば、30万クレジットが手に入る。でもクリアできない。故にギャンブルゲーム。ダンジョンやクエストを回り地道に稼ぐのではなく、一発逆転を狙い大金を手に入れようと躍起になる。

 

 そこまで楽したいのなら、賞金首でも狙えばいいのに。

 だが彼らはそれすらも出来ないのだろう。賞金首になっているプレイヤーは上位に位置する連中ばかり。装備を整えて、狩ろうとするも返り討ちにあってしまっては目も当てられない。ゲームオーバーになるとペナルティが発生し、装備していた武器や防具がランダムにドロップしてしまう。しかし逆も然り。賞金首を殺せば、賞金を手に入れることができるし、装備品を手に入れることも出来る。リスクに見合ったメリットがある。

 だが腕に覚えがあればの話しだ。弱い人間は賞金首を狩るなんて選択肢はなく、地道に稼ぐ能力もなければ、ギャンブルゲームに走ってしがない路銀を手に入れ繋ぐしかない。

 

 ゲーム内にいるのに、まるで現実世界のよう。

 

 

 ぼんやりと私は、世の縮図的な光景を眼にしていた。

 

 

 そして、また挑戦するプレイヤーの姿を眼にした。

 数は二人。先程まで挑戦していたプレイヤー達とは違い、初期装備で身を固めている。

 どうやら初心者のようであり、幾人ものやつらを食い物にしてきた魔のゲームに挑戦するようであった。

 

 

 ご愁傷様。

 私は心の中で十字を切る。

 二人のうち、一人は黒髪の長身美人。もう一人は小さい体躯な金髪。金属バーの前に、黒髪の方が立つ。どうやら彼女が先に餌食なってしまうようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、私の予想は大きく外れた。

 なんと、クリアしてしまったのだ。初期装備の黒髪の女性が。あっさりと、リトライもなしに、初見で余裕で。

 

 他のプレイヤーが黒髪の彼女を囲み始めたのは無理もない。

 半ば無理ゲーであると諦められていたギャンブルが、目の前でクリアされてしまったのだ。周囲が興奮するのも無理はない。心が死んでいた私も、思わず立ち上がってしまったものだ。良い物が見れたおかげか、いつの間にか私の心はやる気に満ちてしまっていた。

 

 

 このようにして、私は彼らに出会った。

 これが初めまして。囲まれている黒髪――――ユウキちゃんを強引に連れ出して、ついでに傍に控えていた金髪の小さいの――――モブも連れ出す。

 我ながら、初めましての割には少しばかり強引だったかもしれない。モブには長いこと警戒されていたからね。

 

 

 

 

 それからというもの、私達は一緒にクエストに回ったり、ダンジョンを攻略したり、一緒に過ごしていた。

 二人とも当然のことながら初心者。教えることはたくさんあったし、やることもいっぱいあった。しかし流石、というべきだろうか。ユウキは少しレクチャーすると卒なく何でもこなす。天才とは彼女のことを言うのかもしれない。対するモブは彼女ほど器用じゃないようで、何ともデコボコ感がある二人なのだろうと思った。

 ユウキがあの“絶剣”であるとわかったのは一緒に過ごし始めて数ヶ月たってから。別に驚きはしなかった。むしろ納得していたのを覚えている。

 

 しかしそうなると、問題はモブだ。

 ユウキが“絶剣”であり、SAO帰還者(サバイバー)であるのなら、彼も似たような状況――――ソードアート・オンラインに囚われていたのかということ。

 

 彼が気になったのはそれだけではない。

 ある種のシンパシー、もしくは同属の気配。普段から、凶暴性を抑えている自分だから解ったのかもしれない。彼も私と同じ――――()()()()であると。私はどうしようもない破壊衝動を抑圧し、死への憧れを理性で抑え付ける。

 その気配は彼からも伝わる。しかし何を? 彼は何を我慢しているのか、見当が付かない。少しでも彼が自分を語る人間であれば、推察出来るかもしれないのだが、彼は全くと言って良いほど自分を語らない。私を警戒している、という訳でもない。

 私が彼に興味を引かれたきっかけは、そんな理由だった。私と同じ理性で以て誤魔化す者。彼の根底に何があるのか、それが気になった。

 

 

 数日後、憔悴していた恋人から“アインクラッドの恐怖”の正体を聞き、興味から好意へと変わった。

 どうやらコイツは私の言い付けどおり、“アインクラッドの恐怖”の情報を集めていたようだ。労いの言葉の一つでも贈ってやるのが人情といえるのかもしれないが、そんなものは私にはない。人としてどうかと思うが、私は意識は恋人ではなく、“アインクラッドの恐怖”に向けられていた。

 

 茅場優希。ソードアート・オンラインの名はユーキ。そして現在の名は――――モブその人。

 どこまで調べ上げたのか、過去も調べつくした恋人に引く。流石はストーカー野郎。調べ上げることに関してだけで言えば、右に出る者はいないのかもしれない。

 

 彼の過去は悲惨なものだった。

 両親は事故で亡くなり自分だけが生き残る。叔父が彼の面倒を見るも、叔父はあの茅場晶彦。

 想像以上の地獄だった。もしかしたら、把握していないだけで、更なる地獄を経験しているのかもしれない。

 

 そして推察する。

 もしかしたら、彼が我慢しなかった結果が“アインクラッドの恐怖”なのかもしれない、と。

 フロアボスの単騎攻略、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)といった殺人集団の殲滅。正気の沙汰とは思えない行動の数々。

 

 彼は我慢しなかった。

 死にたくて、息をするのも辛く、生きるのも苦痛で、自身の破滅を望み、かといって助かった自分が簡単に死ぬことを許さず、我慢しないまま行動した結果が“アインクラッドの恐怖”なのではないだろうか。

 どうしようもない破滅願望。それこそが彼の正体なのではないだろうか。

 

 であるのなら、今の彼がどれほど苦痛なのか解るのも私だけだろう。

 彼は我慢することを覚えた。“アインクラッドの恐怖”で居続けることが困難になったから。きっとユウキが悲しむから、もしくはもっと違う理由なのかもしれない。

 だが人間はそう簡単に変わらない。それが一番私が解っている。私も彼も同じだ。この世界における異物。全うな人間には理解されない異分子。私達は我慢しないからこそ、この世界で生きていける。そうすることでしか生きて行けない異物。

 

 私が彼を――――“アインクラッドの恐怖”を求める。

 私を救ってもらうために、彼を救うために。私は彼が我慢しなくても良い状況をつくりあげる。

 まぁ、つまるところ――――彼が辛そうにしているのを見ていられなかった、だけなんだけどね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、現在。

 アインクラッドの恐怖に戻った彼に、私や死銃(デス・ガン)は蹂躙されていた。

 

 文字通りの意味で、歯が立たない。

 三つ巴の戦いだった筈だ。味方など存在せずに、己の力のみが信じられる状況を、私は作り上げた筈だ。

 だが蓋を開けてみればこのザマだ。彼が本気を出しただけで、彼が全力で臨んだだけで、彼が眼を覚ましただけで、彼が我慢することを止めただけで、私達は相手にすらならなかった。

 

 同じ実力の者同士、優劣がない伯仲の力を持っていれば、私達は仲良く平等に殺し合いが出来ていたのだろう。

 しかし現実は悲惨なものだ。三人の中で一人が突出しているのであれば、残りの二人は力を合わせないと生き残れない。死銃(かれ)と組むのは納得がいかないが、当然の流れと言えるのかもしれない。

 

 状況は二対一。

 私達が二で、アインクラッドの恐怖に戻った彼が一。

 数ではこちらが有利。それでも戦況は拮抗していると言い難いものだ。

 

 自分の命すら顧みない彼の戦い方。

 一見、自棄を起こし、捨て身に見えるがそうではない。

 必要最小限の動きで、彼は私達を仕留めに来ている。全ての攻撃に我武者羅に反応していた先程とは違い、今の彼には無駄がなかった。被弾はするものの、それが致命傷になるものではない。逆に言えば、致命傷の攻撃だけ避け防ぐ。動きに迷いはなく、最少の動きで、最大の戦果を上げる。

 

 その様子はまるで機械のよう。

 敵を倒すためにプログラムされた機械のよう。

 

 まるで、物を言わぬ怪物のようで。

 まるで、何も通じない不死身の怪物のようで。

 まるで――――正体不明の何かのよう。

 

 ゾッ、と。

 私は鳥肌が立つような感覚を覚える。

 

 眼が合った。

 片目に蒼く黒い焔が宿った眼が、こちらを向いている。

 スコープ越しに視ている狙撃主のように、彼は私だけに視線を向けている。

 

 口元が笑みで歪んでいく。

 嬉しかった。やっと私を見た。アインクラッドの恐怖が、待ち望んだ本当の彼がこうして今私だけを見ている。

 

 私はそれを、銃弾で以て応じる。

 パラパラ、と連続した乾いた音が響く。

 同時に彼は駆ける。いいや、駆けるというのは間違っているかもしれない。膝の力を抜くようにし身体の軸を重力に従ったまま、地面を滑るように距離を詰める。

 

 銃弾は空を切るものもあるが、着実に彼の身体を穿つ。

 彼の脇腹を抉り、肩に風穴を開けて、脚部の太ももにも着弾する。しかし彼は止まらない。致命傷となりえるだろう頭部への弾丸は首を動かし避け、心臓付近を推進する銃弾は片手で身を削りながら、私に向かって直進し続ける。

 

 HPバーは確実に削られている。

 負傷しているのは間違いない。

 被弾率など先程の彼の非ではない。

 それでも、彼は倒せない。自身が傷つくことに戸惑わずに、“恐怖”は確実に私の元へと辿りつく。

 

 そこで彼は突然として、急停止を始める。

 ふとみれば、彼の背後には死銃(デス・ガン)の姿。

 隙が出来たと思ったのだろう。彼の右手に、先端が鋭利なものに変わっているクリーニング・ロッドが握られている。このまま私に推進していれば、確実に彼は背後から貫かれていただろう。

 

 どういう反応なのだろうか。

 まるで後ろに眼があるかのよう。

 彼はこの状況で、後ろに迫る脅威に敏感に反応をしてみせる。

 

 不意打ちなど無意味。

 慢心はなく、油断も彼にはなかった。

 

 それを証拠に、彼は死銃(デス・ガン)へ振り返る。

 同時に、左手に持っていた散弾銃(MTs255)の銃口を私に向ける。

 ここで放置するなんてありえないと。確実に仕留めるために、私を着実に討ち取るために、銃口だけを置いていく。

 

 回避行動を取る余裕もなかった。

 放たれた散弾は、一寸の狂いもなく私の身体へと着弾する。

 

 衝撃で後方へと吹き飛ばされる。

 そのままの状態で、視界の隅で。

 彼は放った散弾銃《MTs255》を手放し、軍用スコップを両手に構えていた。

 いいや、それは構えと言えるのだろうか。構えとは敵の攻撃に備えるためのもの。つまりは防ぐことに重きに置いたもの。彼の姿は構えと言うよりも姿勢。剣術でいうところの八相の構えよりも天に向かって軍用スコップを突き上げ、腰を低く落としたそれは明らかに攻撃を防ぐためものじゃない。一撃に重きに置いたようで、あまりにも超攻撃的な姿勢。

 

 

「お前、その構えは……っ!」

 

 

 吹き飛ばされながら、私の耳に死銃(デス・ガン)の絶望したような声が聞こえる。それはまるで、何度も見てきた悪夢であり、どうしようもない未来であり、自分の運命が決まった故に諦観しているようでもある。

 彼は答えない。一寸の容赦もなく、一切の加減なく、一際の希望もなく、彼はその天高く振り上げた得物を空を疾る稲妻の如し速度で以て――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ガンゲイル・オンライン

 BoB本選 ISLラグナロク 都市廃墟

 

 

 辺りは静寂に包まれる。

 俟っていた戦塵も、突如と起こる爆発も、銃声も聞こえない。

 先程、ここが戦場になっていたとは思えないほど、不気味なくらい静寂が都市廃墟を支配していた。

 

 その場に立っているのは一人。

 片手には散弾銃。もう片方の手には軍用スコップを握った人影――――モブ(ユーキ)がその場に超然と君臨していた。

 

 身体が悲鳴を上げる。

 痛覚は残留し、激痛は悲鳴に変わり、鼓動が今にも停止するような感覚。

 それでも、と。モブ(ユーキ)悟らせないように、無表情で歯を食いしばる。ここで倒れたらどれほど楽だろうか。意識を手放し、気絶する事が出来たらどれほど良いだろうか。しかしそれができないからこそ彼はここにいる。

 

 

「どうして見逃したの?」

 

 

 境地(ゾーン)に至ったまま、モブ(ユーキ)は声のした方へと視線を向ける。

 

 そこにはもう一人。

 仰向けに倒れ、地に背を預けている女性――――ピトフーイの姿があった。

 もはや死に体。些細なダメージでHPバーが削りきられる程度の余力しか彼女には残されていなかった。それでも警戒心は緩めることはない。彼女の実力がどれほどのものか理解しているからこそ、どのような行動にも反応が出来るようにモブ(ユーキ)は応じた。

 

 

「何の話だ?」

「とぼけないでよ。君、はなから死銃(デス・ガン)殺すつもりなかったでしょ」

 

 

 この場にいないもう一人。

 足元を見ると、片腕が落ちており、その手にはクリーニング・ロッド。それは紛れもなく、死銃(デス・ガン)の片腕であった。しかしここにあるのは片腕のみ。本人はと言うと、モブ(ユーキ)への恐怖心が勝ったのか、この場から逃亡していた。

 しょせんはその程度。英雄を殺すと言っておきながら、自分程度にすら敵わなかった男を思い出し、どうでもよさそうに口を開く。

 

 

「逃げ足が速い野郎だ。仕留め損なった」

「嘘だね」

 

 

 そういうと、ゆっくりと。上半身を起こして、ピトフーイは傷だらけのまま笑みを浮かべて。

 

 

「最初から、倒す気なんてない。私達なんて見えてない。もっと先を視ている」

「どうして――――」

「わかったかって? 何度も言ってるでしょ。私達は思いの外、通じ合ってる。君は納得しないと思うけどね」

 

 

 ピトフーイの言うとおり、モブ(ユーキ)死銃(デス・ガン)を止めるつもりなどない。告げたとおり、死銃(デス・ガン)の対処をするのは自分ではないと考えているから。英雄でもなく絶剣でもない、もっと身近な存在こそが、死銃(デス・ガン)の凶行を止めるべきだと思っているから。

 

 ならばどうして、死銃(デス・ガン)の前に現れたのか。

 それを語るつもりはなかった。誰にも語るつもりはない。いらぬ世話であるし、余計なお節介であるから、モブ(ユーキ)は何一つ語らない。

 

 

「……一つ、解らん事がある」

「なーにー?」

「どうしてあんな嘘をついた」

「嘘って?」

 

 

 はて、とピトフーイは首を傾げる。

 彼女にはどれのことをいっているのかわからなかった。嘘なんて何度も吐いてきた。どのことを指しているのかなど、もはや皆目見当が付かない。

 

 

「オレは何度も死にかけた。数えるのも馬鹿らしくなるくらいな。だから、死ぬかもしれないって状況は気配でわかる」

 

 

 例えはSAOでのアインクラッドの恐怖として行動していた頃。

 例えばALOでの人体実験の日々。

 もっと前で言えば――――両親を見殺しにした日。

 幾度も茅場優希は死にかけてきた。自分で望んだことにしろ、他者に巻き込まれたにしろ、何度も何度も死という終わりを何度も経験してきた。

 

 だからこそ腑に落ちない。

 死の気配がわかる彼だからこそ、納得がいかない謎が残されていた。

 

 

「ゲームオーバーになったら死ぬなんて、なんで嘘をついた?」

「……」

 

 

 理由はある。

 一つは本気になった彼を見たいから。

 一つは本当に殺し合いをしたかったから。

 そして何よりも――――我慢をしている彼を見ていられなかったから。 

 

 本当のことを口にしようと、ピトフーイは口を開きかけるが、直ぐに閉ざし押し黙る。

 まだそれは口に出来ない。相手にもされていないのに、そんなことを言うのは自殺行為であるし、何よりも気恥ずかしさが勝ってしまった。

 

 だからおどけた口調で、ピトフーイは笑みを浮かべて、誤魔化すような口調で。

 

 

「バレちゃったかー。いや、特に理由はないよ。面白かなーって思っただけ」

「チッ、聞いたオレが馬鹿だったか」

「本当にね。これが終わったら死銃(アレ)も終わるんじゃないかな? 各所にリークしておいたから」

「どうでもいい。予定が早まっただけだろ」

「ねぇ、アイツの殺す方法って興味ある?」

「ない」

 

 

 それだけ言うと、モブ(ユーキ)はピトフーイから背を向けた。

 何をせずとも、彼はがゲームオーバーになる。もはや警戒することもない、とモブ(ユーキ)は背を向けた。

 

 そこでピトフーイは一つ尋ねた。

 どうしても聞きたかった。答えてほしかったことを。

 

 

「ねぇダーリン」

「ダーリンじゃねぇ。……なんだ?」

「――――楽しかった?」

「――――」

 

 

 モブ(ユーキ)は振り返らない。

 特に感情も乗せることもなく、事実だけを口にした。

 

 

「久しぶりに暴れたからな。それなりには楽しめた」

「そう、良かった。また私と戦ってくれる?」

「面倒だがな。気が向いたら、またオマエの遊びに付き合ってやるよ」

 

 

 答えはなかった。

 ドサ、と何かが地に倒れる音がモブ(ユーキ)の耳に入る。

 彼の背後には満足気に笑う一人の物言わないプレイヤーの姿。その頭上にはDEADの赤い文字。

 

 さて、とモブ(ユーキ)は呟く。

 視られている感覚はあった。戦法を分析し、戦略を練り、撃ち倒すことのみに専心していたのだろう。

 

 

「オレの前に晒したって事は、勝つ算段が付いたって事でいいんだよな?」

 

 

 三度、モブ(ユーキ)の右目に蒼黒色の焔が灯る。

 その視線の先には廃墟となったビル郡の一角。

 

 反射光が光る。

 狙撃主は既に姿勢制御の態勢に移っている。ビルのアスファルトに付して、得物を構えている。

 照準器越しから見えるレティクルはモブ(ユーキ)へと合わせている。引き金を引けば、いつでも放たれる弾丸。圧倒的に有利な状況から放たれる狙撃。

 

 驕りはない。

 深く息を吸い、そして留める。

 意識はモブ(ユーキ)のみに注がれている。

 もはや邪魔者はいない。ずっと待っていた。このときをひたすらに、健気なまでに、彼女はずっと待っていた。

 ――――準備は整った。これから貴方を仕留める――――、と彼女は語る。

 

 それはモブ(ユーキ)も同じだ。

 役目は終えた、義理も果たした。あとは自らの欲望のまま、狙撃主である彼女と相対するのみ。

 

 笑みが零れる。

 獰猛に口元を歪ませて、本当に楽しそうに、身体に奔る激痛など感じさせない高揚感に包まれる。

 

 ――――交わる筈のない視線が交わる――――。

 ――――見えない筈の敵を互いに視認する――――。

 

 

「勝負よ――――」

                            「――――勝負だ」

 

「先輩――――!」

                            「――――後輩!」

 

 

 

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