ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
べるせるく・おふらいん
~シノンとモブの談笑中継~
リズ「めっちゃ見せ付けてくるわね。アスナがいなくて良かった」
ストレア「あれ、そういえばいないね? どこに言ったの?」
リズ「ユーキ達の寮」
エギル「あっ(察し)」
ガンゲイル・オンライン
BoB本選 ISLラグナロク 草原地帯
今思えば、こうして落ち着いて空を見上げる時間もなかった。
私は一人、歩を進めてぼんやりと、そんなことを考えていた。
私の視界には満点の星空。
いつもは層が厚く、晴れる事が極めて珍しいガンゲイル・オンラインの空であるが、今となっては雲ひとつもない。正に快晴といって差し支えのない空だった。
いいや、もしかしたら、こんな空になった事が何度もあったのかもしれない。私が気付かないだけだったのかもしれない。
だがそれも仕方ない事といえる。他のVRMMOではいざ知らず、ガンゲイル・オンラインはフィールドに出たものなら、戦地に赴いているといってもいい。
極限な環境下。
銃弾が飛び交い、待ち伏せがもあり、少しでも気を緩める事があれば死に繋がる。
そんな状況で空を見上げるのなんてありえない。
何よりも――――。
「そんなことを考える余裕も、なかったことね……」
思わず独り言を呟いた。
そうだ。考える余裕も、空を見上げて一息を吐くといった選択肢すらも、私の頭にはなかった。
全てはあの人に――――先輩に追い付く為に。一人でドンドン先に進む、彼の隣に立つために、私はこの世界で戦ってきた。
先輩は否定するだろうけど、ソードアート・オンラインから帰ってきた先輩は、何かが変わっていた。戦友を見る時の眼差しが穏かになり、妹ちゃんを見守る視線は優しく、そして幼馴染である彼女を語る口調は高邁を感じさせる。
先輩が何を見たのか、何を感じたのか。仮想世界で先輩は何を見出し、どの様な答えを得たのか。それが知りたかった。そして同じ視座に立ち、先輩と並び立ちたかった。
故に、私にとってガンゲイル・オンラインは娯楽ではない。
歯を食いしばり、
そして、今。
戦う必要がなくなった今。
こうして初めて私は、落ち着いた気持ちで空を見上げる。
「うん、そうね」
悪くない景色だった。
戦いの後でもあったからか、万感の思いを達成出来たからか、もしくは先輩に名前で呼んでもらえたからか。
気持ちのいいほど、私の心は軽やかだった。
何だかんだで、私はこの世界が好きなようだ。
鼻腔に香る微かな硝煙の匂い。幻聴である銃声の音、一寸の油断も出来ない戦闘、今日は敵でも明日には味方になるかもしれないという腹の探り合い。
プレイしていて染まってきたからか、それとも元々そういう素質があるからか、私にとってガンゲイル・オンラインは悪くない世界であり、いつの間にか好ましく思っていたようだ。
それを証拠に私は、こうして足を運んでいる。
この世界での実質的な決勝戦を見るために、私達を下した二人がどの程度の腕なのかを見物するために。
先輩は言った。
良い機会だから見ておけ、と。
二人の決闘はそこまでの価値があると、彼は一言足りないものの確かな評価を下していた。
ならば行くしかない。他ならぬ先輩がそこまでの評価を下したのだから、それを見ないという選択肢は私にはなかった。───先輩と一緒に見たかったというのが本音だが。
到着するは草原地帯。
先程確認したら、生き残っているの私を含めて三人。
残りの二人は草原地帯におり、どの位置にいるのかも解っていた。
砂丘を越えて、二つの地帯を流れていた川を渡り、そうして漸く私は草原地帯に足を踏み入れた。
辺りを見渡すも、目的の二人は直ぐに見つける事ができた。
そして――――。
「……」
思わず私は息を呑んだ。
闇夜を切り裂く光剣。片や紫色のキリト、片や蒼色の妹ちゃん。銃の世界でもあるガンゲイル・オンラインに来ても銃ではなく剣を使う二人に呆れる、といった気持ちが私には湧かなかった。
いちゃもんを付ける暇も、皮肉を一つ呟く余裕も、瞬きをする時間すら惜しい。
私は不覚にも、二人の決闘に目を奪われてしまっていた。
先輩が野性染みた本能と超直感に任せた
なるほど。確かに先輩の言うとおりだ。流石は先輩。
これは見ておいて損はない。中継越しでもなく、間近で見れる私は幸運といえるだろう。
二人の決闘は、VRMMOにおいて頂点同士の戦いといえるのかもしれない。先輩以上とは言わないが、彼らの実力は先輩に迫るものがある。
戦うとしたら遠距離で仕留めるしかない。
だが倒しきれるだろうか。先輩は超直感とも言える、常識では説明できない感覚で私の狙撃を防いでいた。彼らも同じことが出来るかもしれない。そうなれば、私の勝ち目は薄くなる。
私には狙撃しかない。近距離は出来なくもないが、彼らに一歩見劣りするのも事実だ。となれば接近されてはならない。常に遠距離を心がけ――――。
「……って違うでしょ」
そこまで考えて、私は頭を振るう。
いつもの癖だ。強敵を見ると、観察し、戦いの癖を見て、そこを攻めようとしている私がいる。誰の影響かなんて言うまでもない。
ここでおいて、これが決勝戦。ここで乱入、もしくは勝利した方と戦っても、私に勝ち目がないくらい、二人の力量は上だ。何よりも私にはもうやる気がない。燃え尽きたといっても過言ではないくらい、私の心は穏かなものだった。
だから私は二人の決闘に手を出さない。
両手は空けたまま、舞踏にも似た決闘を、私は眼に焼き付けていた。
ずっと見ていたいとすら思ってしまう剣技。
しかし終わりはやってくる。突如として、二人の動きが止まった。
ポツリと。
「相打ち、か」
蒼色の光剣が首筋に寸止めされたキリトが呟き、
「そうみたいだね」
対する妹ちゃんの胸部には、紫色の光剣が止められている。
あまりにも一瞬の出来事。
突如終わった舞を見て、私は少しだけ混乱してしまう。
しかし当の本人達は違うようだ。
妹ちゃんは悔しそうに、されど満足気に笑みを零して。
「SAOのときより強くなってない?」
「まぁ、そうかもな。いつ再挑戦されてもいいように、実は特訓してたんだよ俺」
「そっかー。にしてもちょっと悔しいなぁ! 二刀流だったらボク負けてたかも」
「そうでもないだろう。ユウキなら直ぐに対応できてたと思うぜ」
称え合う二人を見て、呆気に取られている私を見て、キリトが気付いたのか片手を上げて声をかけた。
「シノン」
「あっ、シノンだー!」
おーい、と両手を振る妹ちゃんに答えるように、私はやっと反応する事が出来た。
先程まで、圧倒的な力量を用いて戦っていた二人とは思えないくらい、あまりにも普通な様子を見て、少しだけ面白かったのか私は笑みを浮かべて。
「お疲れ様、二人とも」
「シノンもねー。って、ここにシノンがいるってことは?」
妹ちゃんの疑問に答えるように、私はピースサインを作って応じる。
「キッチリ倒してきたわよ」
「凄い! にーちゃんに勝ったんだね!」
「余裕よ」
そこまで言って、直ぐに私は白状をする。
余裕なんてとんでもない。余裕などありえない。勝った方が奇跡であったと。両肩を大きく竦めて、ため息を吐いて私は訂正する。
「嘘。先輩が万全なら負けてたし、ズルした上に勝ちを譲ってもらった感じね」
「ズルって?」
興味津々といった調子で、私に近付いて目を輝かせて聞いてくる妹ちゃんだが、こればかりは言わない。
先輩を信じたからこそ出来た戦術。
私の過去を知った上で、一緒に居てくれた事を信じたからこそ、私は勝つことが出来た。
信じていなければ手を緩める事がない。
だからこそズル。先輩の心に付け込んだ勝利といえるし、これは私と先輩との秘密。
妹ちゃんと言えど、こればかりは教えられない。
悪戯を成功したように、人差し指を立てて自分の口元まで持っていき、笑みを浮かべて答える。
「秘密よ」
「えーっ!!」
「ふふっ、ごめんね?」
不満そうにする妹ちゃんの頭を撫でる。
反応が本当に可愛く小動物のようで、先輩が甘くなるのも理解が出来る。彼女にはこのままで居てほしい。悲しんでいる顔なんて見たくない。
だから。
「妹ちゃん」
「なに?」
「八つ当たりしてごめんなさい」
あの時は本当にどうかしていたと思う。
先輩に突き放されて、冷静な判断が出来なくて、よりにもよって彼女に八つ当たりしてしまっていた。
励まそうと追いかけてくれたのに、私に寄り添ってくれていたのに、私は彼女に最低な事をしてしまった。
だが妹ちゃんは笑みを浮かべる。
怒るでもなく、憤るでもなく、満足そうに笑みを浮かべて。
「ううん、大丈夫だよ! 終わり良ければ全て良しっていうでしょ?」
「───ありがとう。そう言って貰えると、私は嬉しいわ」
「うん、ボクも嬉しいよ」
「それは、どうして?」
思わず首を傾げる。
どうして彼女が嬉しく思うのかわからなかったから。
妹ちゃんは天真爛漫に笑みを浮かべたまま。
「シノンが幸せそうだからに決まってるよー!」
ねっ、キリト、と話しを振って、今まで傍観していたキリトが、あぁ、と頷いて。
「良い顔していると思うぞ。何か吹っ切れた顔というか、そんな感じに見える」
自覚はあった。
先輩に認められて、隣に立つ事が出来て、名前まで呼んでもらえて、私は心のモヤが晴れていたことを自覚していた。
なるほど、と。顔に出るまで私は浮かれていたようだ。そう考えるとちょっと恥ずかしい。まるで恋する乙女だ。いいや、恋もしているし、乙女でもあるのだが。
しかし良くない、あまりにも良くない。
浮かれたままでは足元を掬われるというもの。油断なく慢心することなく、事に当たらねばならない。
咳払い。
仕切り直すことを目的とした咳払いを一つして、私は改めて仮面を被り二人に応じる。
「――――それで、どうするの?」
「どうするって、何を?」
キリトは首を傾げる。
外見の影響もあってか可愛く見えたのが悔しい。
私は呆れた口調で、ため息混じりに。
「三人生き残ってるでしょ。最後の一人になるまで、BoBは終わらないわよ」
「んー、ボクは負けてもいいかな」
いの一番に、妹ちゃんが手を上げて答える。
満足したような口調で。
「ボクの目的って、優勝じゃなくてキリトと戦うためにだったしねー。出来れば勝って、にーちゃんの仇を討ちたかったけど」
「先輩の、仇……?」
周囲が凍りつく。
気付いてないのは妹ちゃんのみ。キリトはやべっ、と身体を固めるが遅い。
私の耳に入ってしまった。聞き捨てならないワードが、無視してはならない言葉が、反復するように何度も何度も。
私は妹ちゃんからキリトへと。
首を動かして視線を向ける。キリトは冷や汗を掻いているが関係ない。ジッと見据えて、再度私は妹ちゃんに尋ねた。
「妹ちゃん、仇って?」
「えっ? キリトってにーちゃんに勝った事があって、ボクもキリトと戦いたかったから、ついでに敵討ちしよう、って思ったんだけど……」
もしかして、ボク変な事言った? と漸く妹ちゃんは辺りの雰囲気が妙な事になっていることに気付く。空気が読めていないわけではなく、ただ純粋だから私やキリトの様子に気付かなかったのだろう。
それは長所だ。彼女はそんな性格だからこそ、周りに愛され、穏かな空気にさせてくれる。
しかし今回は、今回ばかりは、妹ちゃんと言えども変えることは出来ない。
「妹ちゃん、ちょっと離れてて」
「?? うん、わかったよ?」
純粋な彼女をここに居てはならない、と私は離れるように言うと、腑に落ちない様子で従ってくれた。
視線と意識はずっとキリトの方へと。
蛇に睨まれたカエルのように、彼は動く様子はない。
もしかしたら、私の動きに反応するために、一挙手一投足監視しているのかもしれない。
「先輩の仇、ねぇ?」
「言っておくけど、俺は決着が付いたなんて思ってないからな」
「当たり前でしょう。先輩が負けるわけないわ」
断言して、ため息が出る。
先輩は敵討ちなんて望んでないし、何よりも私はキリトに勝てない。そこまでの領域に達していない。悔しいが正々堂々で戦っても勝ち目はない。
「悔しいけど、今の私じゃ貴方には勝てない」
ゆっくりと歩を進める。
ため息をついて、得物を出さずに、ゆっくりと。
キリトも警戒心を薄めていく。
当然だ。私の両手には何も持っていない。この状態で戦えるわけがなく、どのような攻撃にも対応できるといった自信が彼にはあるのだろう。
私はニッコリ笑みを浮かべて、左手を差し出す。
「だから、もっと腕を上げて、先輩の無念を晴らす事にするわ」
「……アイツはそんなこと望んでないと思うぞ」
「知ってる」
そんなこと私が一番良く知っている。
自分の黒星を帳消しにする為に、私や妹ちゃんに任せるわけがない。故に、これは自己満足。
キリトはわかっているのならいい、と私の差し出した手に応じる。
握手。友好を示す行為。
私は笑みを深める。
それは悪手であると。求めていない方の手を、キリトから死角になっているポーチから取り出して、直ぐにピンを抜きキリトの足元へと落とす。
グレネード。手榴弾。爆弾。
パイナップル型とも呼ばれる、グレネードを無造作に放り投げる。
キリトはギョッ、と眼を丸くし、足元から私へと視線を移す。
「シノン、おまっ」
「キリト、それはそれこれはこれよ」
私はニッコリ、と。
満面の笑みで、狼狽えるキリトに応じてみせる。
「先輩はこんなこと求めてないけど――――アンタはここで爆ぜて頂戴」
最初は抵抗する。
しかしビクともしない。やはり
はぁ、と深いため息。
観念したのかキリトは後悔するような口調で。
「学んだよ。シノンはアイツが絡むと、見境がなくなるんだな?」
「そうよ。次からは気をつけてね?」
瞬間、爆発。
跡形もなく、先程見た舞踏のような決闘とは程遠い決着。
第三回 バレット・オブ・バレッツはここに決着する。
優勝者――――Yuuki
戦いは終わった。
野望を砕かれた者が居た、自分の欲望を満たすために動いていた者が居た、戦い者が居たから参加した者がいた、凶行を止めたいから戦う者が居た、認めたもらいたいから銃を手にした者が居た。
戦いは終わった。
目的を果たした者、道半ばで散った者、後一歩で届かなかった者、全て者が戦った。
「痛っ」
彼もその一人。
命を懸けて、痛みを伴って、戦場を駆け抜けた。
後遺症があるのか、身体を動かすのもままならない。それこそ、常人であれば指一本すら動かすことも出来ず、想像を絶する苦痛だけが全身を蝕んでいたことだろう。
彼はそれさえも無視して、当たり前の様に頭に装着していたアミュスフィアを外す。
そんな彼に。
「へぇー、痛いんだ?」
「まぁ、そりゃ――――」
反射的に答えようとし、直ぐに口を閉じる。
そしてギギギッ、と。油をまともに注していないブリキの人形のように、軋みを上げて声のした方へと首を向ける。
鬼が居た。
満面の笑みで見下ろしている、鬼の姿がそこにいた。
鬼は言う。
「お疲れ様」
「オマエ、どうして」
「寮母さんが入れてくれたんだ」
「……どこから見てた」
「君が無理し始めた辺りからだよ?」
言い逃れなど許さない、と言わんばかりに笑みを深めた鬼は――――結城明日奈は無慈悲に言う。
「無理したよね?」
「ちょっと」
「ちょっと?」
「ちょっぴり」
「そう、わかったわ。優希くん、お話、しようか?」
「……うす」
訂正。
戦いは終わらない。
彼――――茅場優希はこれから説教という名の戦いが始まる―――。
次でVol.7最終話予定です。
第二回 貴方の好きなヒロインを教えてください
-
幼馴染
-
後輩
-
義妹
-
AI二号
-
毒鳥
-
その他