ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 Apricotさん、THE FOOLさん、々々さん、誤字報告ありがとうございます……。もうアレですね、こんなに合ったんだと戦々恐々としてます。自分の節穴加減に。
 そして皆さん、お気に入りがえらい数になってて「ん”!?」と変な声を上げました私です。600超えるなんて……。本当にありがとうございました。これからも読んで貰えるような作品作りを心がけていきますので、よろしくお願いします。


第7話 憩いの場、ダイシーカフェ

 2022年11月5日 PM17:30 ダイシーカフェ

 

 

 御徒町にある路地に面した場所に喫茶店ダイシーカフェがあった。

 木材で作られた内装で、店内の角にはジュークボックスが置かれており、いい意味で手作り感のある内装で纏められていた。

 店の中には若者が多く、一つのテーブルにそれぞれ各々好きにコミュニティが形成されており、陽気な雰囲気を作り出している。その喧騒自体がひとつのBGMとなっていた。

 

 とはいっても、喫茶店とは名ばかりで様々な種類の酒瓶が並んでおり、客のニーズに合わせてある程度融通が聞く注文なども出来ることがわかる。

 どうやら昼は喫茶店、夜はショットバーといった作りになっているようだ。

 

 

 そんな空気の中、カウンター席に並んで座っている人影が二人。

 二人が二人共、某都内の有名進学校の制服を着ており、一人は少女であり一人は少年。

 

 少女の方は机に広げてある教科書とノートを難しそうに見つめて、少年はそれをつまらなそうに見守っていた。

 どうやら少女の様子から察するに、学校から出された宿題に大苦戦中のようである。しかも数字と記号がノートに記載があることから、それは数学の宿題だということが分かる。

 

 カウンター席に二人以外の姿はない。

 むしろ二人の特等席はここだ、とダイシーカフェのマスターが直々にカウンター席に指定しているせいもあってか、誰一人その場によりつこうとしていなかった。職権乱用もいいとこであるが、他の客もそれを受け入れているので、別に問題はない様子である。

 

 

 うーんうーん、と少女が頭を悩ませる事数分、ここでようやくつまらなそうにしている少年――――茅場優希が口を開いた。

 

 

「ここの計算式、間違ってんぞ」

 

 

 そう言うやいなや、少女の持っているシャープペンシルを強引に持つと、走り書きのように間違っている計算式を正しいものに訂正し、シャープペンシルを少女に返した。

 頭を悩ませていた少女――――結城明日奈は「ありがとう」というと同時に疑問が生まれたので、訝しげながら彼に問いかける。

 

 

「あれ、どうして優希君がこの問題解けるの? わたし、君よりも一つ歳上なんだけど……」

「予習復習完璧だからに決まってんだろ」

「わたしお姉さんなんだけど、へこむなぁ……」

「安心しろよ。元からお姉さんってキャラじゃねぇからオマエ」

 

 

 会心の一撃。

 へこんでいた明日奈に追い打ちをかけてクリティカル。明日奈は眼に涙をうるませて、優希を可愛らしく睨みつけるも全く効果がなかった。

 

 そんな二人を見ていたダイシーカフェのマスター――――アンドリュー・ギルバート・ミルズは意外そうに声を上げる。

 

 

「ユーキって頭良いんだな?」

「別に良くねぇよ。ただ勉強が出来るってだけだ」

「それ同じ意味じゃないか?」

「頭が良いやつってのは、皆どこかトンデやがる。アイツらに比べたらオレなんて勉強が出来るってだけで、まだ可愛い方だっつ―の」

 

 

 頭に思い浮かべるのは変態じみた思考回路を持っている鉄仮面の従兄弟だ。

 そもそも勉強ができる人間と頭の良い人間はあくまで別のカテゴリーだ、と優希は思っている。勉強が出来る人間はあくまで効率を考えて知識を詰め込むだけだが、頭の良い人間はそもそもそう言う努力をする必要がない。一を知るために何度も遠回りをしてようやく一を知ることが出来る人間と、一を知るだけで十を知る事が出来る人間。そう言う枠で考えれば自分は前者だと優希は断じる。

 

 そんなことより、と優希はどこか不満そうな口調で続けた。

 

 

「ドリューくん、オレの注文したオムライスまだぁー?」

「ちょっと待ってろ! ったく、最初の遠慮はどこにいったんだ?」

 

 

 アンドリューは巧みにフライパンを扱い、何やら調理しているようだ。口調では不満そうであるが、その表情はどこか嬉しそうである。こうして世話を焼くのが好きなのだろう。

 ちなみに優希の言うドリューくんとは、アンドリューのことである。

 

 

 どうしてあだ名で呼ぶようになったのかは簡単なことであった。

 優希と明日奈が彼の娘であるレベッカを保護し、アンドリューがお礼をしたいから遊びに来て欲しいといった三日後、彼らはアンドリューの店に訪れた。

 その際、優希と明日奈は敬語を使っており「ミルズさん」と呼んでいたのだが、アンドリューがそれに不満を抱き「敬語はいらない、好きに呼んで欲しい」とリクエストを出した結果、優希からは「ドリューくん」と呼ばれ、明日奈からは「ドリューさん」と呼ばれるようになった。

 

 

 そういった経緯を優希は思い出して、ニヤリと邪悪に口元を歪めながら口を開いた。

 

 

「遠慮すんなって言ったのはそっちだろ? それとも何だ、またミルズさんって呼べばいいんですかぁ?」

「わかったわかった、そのままでいろ!」

 

 

 どこか投げやりに応じると、アンドリューは皿に器用に盛り付けて、優希の前にそれを置いた。

 それは香ばしくも良い匂いが漂っており、匂いを嗅ぐだけで食欲が湧いてくる。皿の上にあるのはオムライス。だが一つ何かが足りず、優希は小首を傾げて問いかける。

 

 

「ケチャップ忘れてるんだけど」

「おっと、ちょっと待ってろ」

 

 

 そう言うと、アンドリューはケチャップを取り出して、オムライスの上にハート型にケチャップを垂らしていく。

 そして出来上がると満面の笑みで。

 

 

「召し上がれ」

「…………」

 

 

 嫌なものを見た。

 そう言わんばかりに、優希は顔をこれでもかと顰めて、速攻でスプーンを持つと電光石火の勢いでケチャップを広げていく。

 

 

「あー! お前、俺の会心の出来を!!」

「いやホント、マジでそういうの良いから。求めてねぇからオレ」

 

 

 無感情に言うと、オムライスをひとすくいして、口の中に入れる。

 それから満足気に無表情で一言。

 

 

「ウメェ」

「だったら美味そうにしろよ、無表情とかやめろよ……」

「超ウメェ」

「いやだから――――あ、いいやもうそれで……」

 

 

 変わらず無表情に感想を漏らす客に対して、折れたのはマスターの方だった。

 だが本当に美味しかったのか、優希のスプーンは止まることを知らない。いつの間にかもう半分も消えており、勢いもとどまることをしらない。

 が、そこで――――。

 

 

「……」

「あん?」

 

 

 停止することになる。

 彼を止めたのは隣りに座っている明日奈だ。彼女は上目遣いで、どこか不安そうにしているものの口を開く気配がない。

 

 何がしたいのかわからない。

 そう言わんばかりに、優希は不満そうに口を開く。

 

 

「何だよ歳上?」

「あ、あのね?」

 

 

 そういうと、明日奈はチラチラッと優希を見て。

 

 

「わ、わたしの作るオムライスとどっちが美味しいかなーって……」

「…………」

 

 

 無言。

 優希はどう答えるか考える。どうすれば正解か、どうすれば平和に終わるか考えて、明日奈をこれでもかと見下しながら。

 

 

「ハッ」

「あー! 鼻で笑ったでしょ今!」

「だってよ、どこで対抗意識燃やしてんのかわからねぇんだもん」

 

 

 むむむ、と面白くなさそうに頬を膨らませている明日奈に、アンドリューは大人の余裕を醸し出しながらフォローをする。

 

 

「アスナが作るほうが美味いな。間違いない」

「え? そ、そうですかね?」

「あぁ、何せ――――愛情が入ってるからな」

 

 

 前言撤回。

 どうやらこの場に大人は誰一人いないようだ。アンドリューはニヤニヤとからかうように笑みを浮かべている。その様子は子供のようで、意地の悪いものであった。

 対する明日奈は華麗にかわす余裕はない。顔を真っ赤に染めて、力いっぱい否定しようと身を乗り出していた。

 

 

「愛――――! そんなの入ってませんよ!」

「ハッハッハ、隠すな隠すな。んー、思えば俺も嫁さんの料理初めて食ったとき確信したなー。これは入ってるって」

「えっ、そうなんですか?」

「案外男ってのはわかるもんだぞ?」

 

 

 そう言うと、アンドリューは優希を凝視し、明日奈もジーっと恥ずかしそうに見つめる。

 マイペースにモキュモキュとオムライスを食べていた優希はその視線を受けて一言。

 

 

「愛情で腹は膨れねぇし、味なんてわかるわけねぇじゃん」

「――――――ぅぅ!!!」

「何でオレは今、明日奈に肩を激しく揺さぶられてんだ?」

「お前さんはもう少し、女心を学ぶべきだな……」

 

 

 どうして明日奈が憤りを感じているのかわからない。

 本気でそう思っている優希に、アンドリューは頭を抱えて呆れるのだった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アレから明日奈の機嫌が直り、落ち着いた様子でアンドリューが淹れた紅茶を飲んでいた。

 カウンター席のテーブルに広げていた教科書やノートはなく、明日奈の飲んでいる紅茶と優希の食いかけのオムライスのみである。

 

 

「明日何時からインするの?」

「あ?」

 

 

 実に脈略がない、と優希は思うも明日奈が何が言いたいのか理解出来た。

 今日は11月5日。つまり明日は『ソードアート・オンライン』のサービスが正式に開始される日でもある。

 

 面倒くさそうな口調で、優希は問いかけた。

 

 

「何時からだっけか?」

「確か13時からだよ」

 

 

 敢えて興味ない口調で「そうか」というも、実のところ優希は予習復習は完璧であった。

 最初どこに行けば良いのか、次にアイテムなど何を揃えれば良いのか、序盤で経験値をどこで稼げば良いのか。全てインターネットを使い余すことなく調べ上げている。そんなこんななので無論、何時からサービス開始されるのかなんてわかっているが、ここまで入念に調べたのがバレたらカッコ悪い、という優希の安いプライド故の演技。それ故に、彼は興味がない振りをする。

 

 

 ――コイツがやるっていうまで、マジで興味なかったが。

 ――まぁ、飽きるまで付き合ってやるさ。

 

 

 どこか保護者的な立場で、優希は考えていた。彼は明日奈をサポートする気満々のようである。

 それは『過保護』と称されるくらいの勢いであるが、本人が無自覚のため余計質が悪いといえる。そもそもな話、優希はゲームには詳しくない方で、ソードアート・オンラインの情報はあるものの、根本的なMMOというのがどういうものなのか理解していないのだが。

 

 

 二人のやり取りを聞いていたアンドリューは横から嬉しそうに問いかけてきた。

 

 

「なんだなんだ、お前らもソードアート・オンラインやるのか!」

「あれ、お前らもってことはドリューさんもやるんですか?」

「おう! なんだ、言ってなかったか?」

「聞いてませんよー」

 

 

 「偶然だな」「偶然ですね」と同好の士を見つけたように、嬉しそうにしている明日奈とアンドリューを見て優希は我関せずを貫いていた。

 

 

 ――そういえば、初めてレベッカに会ったときに言ってたな。

 ――明日奈は妄想世界に入り込んでたから聞いちゃいなかったが。

 

 

 そう思いながら、残りのオムライスをこれまたマイペースに食べ始める。

 

 

「ドリューさんもよかったら一緒にやります?」

「あー、悪い。最初はソロで動こうと思っててな」

「そうですか……」

「あぁ、悪い。VRMMOは初めてだからな、正直言うと興奮してるんだ。だからその……、あんまり見られたくないんだ」

 

 

 どこか恥ずかしそうに情けないような声で言うアンドリューに明日奈はどこか納得した。

 どうやら年甲斐もなくはしゃいでいる姿を見られたくないらしい。生粋のゲーマーであるのなら、はしゃぐのも無理はないというものだろう。何せ完全な仮想空間だ、興奮しないというのがおかしいというもの。

 

 

「今度ですね」

「おう。良かったら入れてくれ、MMOで鍛えたノウハウが活かせると思うからな」

 

 

 ニカッと気持ちのいい笑みを浮かべるも、アンドリューは直ぐに不思議そうな顔に変わると二人に問いかけた。

 

 

「そう言えば二人はMMOって初めてなのか?」

「わたしは始めてです。優希君は――――」

「オレ何かMMOって言葉の意味も知らねぇし。ピコピコのことじゃねぇの?」

 

 

 アンドリューはそれを聞いて、主に優希の言葉を聞いて苦笑を浮かべて続ける。

 

 

「ピコピコって……。いいか、MMOってのは簡単に言っちまえばオンラインゲームの略称だ。他人、もしくは友達とパーティーを組んで攻略していくってのが一般的だな」

「なるほどー」

「ヘぇー」

 

 

 二者二様、明日奈は感心するように言葉を漏らし、優希は興味がない様子でありながらも目線は次の話を聞きたそうにアンドリューを見つめている。

 

 

「最初は自分のアバターを作るところからなんだが、二人のネームはどんなのにするんだ?」

「わたしはアスナで行こうかと」

「オレはユウキだな」

 

 

 それを聞いたアンドリューは「こいつら、正気か?」という信じられないモノを見る目で二人を見つめる。

 何か不味いことでも言ったのか、と明日奈と優希は同時に首を傾げていた。

 

 

「いいか、MMOやる際に気をつけなきゃならないのが――――」

 

 

 本名をネームに入れないことだ、とアンドリューが注意をする前に勢い良く店のドアが開いた。

 ここで聞いておけば、物語は変わったかもしれないが、あいにく二人は聞かずに、その注意は乱入者に遮られる。

 

 それは5歳ほどの幼い幼女。

 その瞳からは伺える勝気な性格。黙っていれば良いところのお嬢様と言われるくらいの整った容姿をしている。

 キョロキョロと周囲を見るために頭を動かしているせいか、ツインテールに結った金髪の髪の毛が宙を舞う。

 

 そこで視線はカウンター席に注がれて、パァーっと花が咲いたように笑みをこぼして。

 

 

「明日奈お姉ちゃん!」

 

 

 そう言うと、ツインテールの幼女――――レベッカは明日奈に走り寄ると腰のあたりに抱きついた。

 そのまま顔を埋めながら続ける。

 

 

「ダディから聞いたのよ! 今、遊びに来てるって! 会えて嬉しいわ私!」

「フフフッ、わたしもレヴィちゃんに会えて嬉しいよ?」

 

 

 純粋な好意を甘んじて受けて微笑む明日奈に、レベッカもはにかみながら笑う。

 そして今度は視線を優希に移すと、レベッカは見下したような視線に変わり。

 

 

「あら、いたのねゆーき。こんにちわ!」

「……オマエさぁ、どっちかにしろよ。無礼な態度とるのか、挨拶はしっかりするのかよぉ?」

 

 

 呆れたように言う優希を無視して、レベッカの興味は彼が食べていたオムライスに移る。

 どこか羨ましそうに、ジーっと視線を外さずにレベッカは見つめていた。残り半分ほどのオムライス、まだ熱も冷めきっておらずまだまだ美味しいことが約束されたオムライス。

 

 優希はレベッカを見つめながら、一口オムライスを頬張りモキュモキュと口を動かしてそれを飲み込む。

 視線が合う。優希はつまらなそうな表情のまま口を開いた。

 

 

「――――食うか?」

「――――食うわ!」

 

 

 わーい、と子供特有の喜び方をしながら、レベッカは優希の隣の席へと移動する。

 その様子を見て、アンドリューはさすがにそれは不味いと思ったのか、少し慌てながら口を開いた。

 

 

「おい、レヴィ。それはユーキの物だ。お客さんに出したもんだから――――」

「オレは別に良い」

「だけどなぁ……」

「ンなことよりもドリューくん、コーヒー欲しいんだけど?」

 

 

 この話はここまで、と有無を言わさない優希に対して、コーヒーを入れてアンドリューは申し訳なさそうに口を開いた。

 

 

「すまねぇな。オムライスの料金、半分にしとくからな」

「別にいいって。全額払う」

 

 

 だから気にするな、とぶっきらぼうに優希はコーヒーを口に入れる。明日奈はそんな不器用な優しさを見せる優希の様子がおかしいのかクスクスと笑う。

 それを視界の端に捉えて、照れ隠しのようにコーヒーを一口飲んで。

 

 

「うまみあるな。あと……んー、うまみが最高かよ」

「貴方ごいりょくが死んでるのだわ」

「語彙力な。オマエ、本当に色々な言葉知ってんのな?」

 

 

 えへへー、と笑みを零した。

 その口の端にはケチャップが付いており、レベッカ本人はまったく気付いていない。明日奈はそれを見て微笑ましく見て、優希は溜息を吐きながらポケットティッシュを出すと。

 

 

「あー、ほら。拭いてやっから動くな」

「んー!!」

 

 

 拭き終わるとレベッカは満面の笑みで「ありがとう!」と言うと、再びオムライスを頬張る。

 夢中に、それで美味そうに食べる姿を見て、優希は「コイツ、また同じことを繰り返すな」と半分呆れながら見ていると。

 

 

「ねぇねぇ、今度お休みの日にお茶会しましょうよ!」

 

 

 レベッカはそのお茶会を楽しく想像しながら、笑顔を浮かべて明日奈と優希に提案してきた。

 無論、断る理由もない。明日奈はうん、と二つ返事に頷きながら。

 

 

「いいよ。楽しみにしてるからねレヴィちゃん」

「チッ、面倒くせぇなぁ……」

 

 

 乱暴な口調とは裏腹に、優希は拒否をしない。

 素直じゃない優希に、明日奈はクスクス笑い、レベッカは不満そうに彼に向かって口を開きかけるが、それを遮るようにアンドリューがどこか焦ったような様子でレベッカに問う。

 

 

「な、なぁ。ダディとはお茶してくれないのか?」

「ダディは明日奈お姉ちゃんとゆーきとゲームで遊ぶのだからやーよ! ゲームが終わったら、二人は私と遊ぶのー!」

 

 

 そんなぁ、と情けない声。

 誰がどう見ても屈強な男であるアンドリュー・ギルバート・ミルズ。精神も成熟しており、大人な男性でナイスダンディという言葉を欲しいままにしているが、どうやら娘にはめっぽう甘く弱いようである。

 

 優希はそれを黙って見守り、コーヒーを飲むとアンドリューに声をかける。

 どんまい、というのか。そう言う日もある、と慰めるのか。彼は一言――――。

 

 

「コーヒーおかわりィ」

「俺を慰めろよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2022年11月5日 PM22:20 優希のアパート

 

 

 ダイシーカフェから帰り、明日奈と別れて優希は帰宅した。

 そして風呂が付いてないので、銭湯に入り帰宅して現在に至る。

 

 彼は普段使っていない、茅場から貰ったパソコンを起動してインターネットで調べ物をしていた。その記事はソードアート・オンラインであり、茅場晶彦の特集でもある。

 インタビュー形式に続いてるそれは、茅場のある言葉で締めくくられていた。

 

 それを見ながら優希は片手をマウスに、片手にはスマートフォンを耳に当てて通話している。

 相手は――――。

 

 

『え、先輩ソードアート・オンライン始めるの?』

「まぁな。意外か?」

 

 

 声の主は女性であり、優希のことを先輩と言うのは一人しかいない。

 スマートフォンの向こう側では少し驚いた様子で――――朝田は「えぇ」と言うと。

 

 

『だってゲームに興味なかったじゃない』

「現在進行形で興味ねぇよ」

『ならどうして?』

「ツレがやりてぇって言うからな。仕方ねぇだろ」

 

 

 そう言うと、朝田は電話口で若干考えて、直ぐに言葉に出した。

 

 

『明日奈さんでしょ?』

「……ピンポイントに当てて来やがるじゃねぇかよ」

『だって先輩って知り合いは多いけど、明日奈さん以外に友達いないじゃない』

 

 

 友達がいない。

 一般人が聞いたら傷つくような言葉を吐かれても、優希の表情は変わらない。むしろ「まぁな」といつもの調子で朝田の言葉を肯定した。

 

 そこで、朝田はふとこんなことを言った。

 

 

『ねぇ、先輩たちって付き合ってないの?』

 

 

 その声はどこか不安そうであり、吹けば壊れそうな儚さが宿っている。

 しかし優希はそれを鼻で笑い。

 

 

「オレとアイツはそんなんじゃねぇよ。つか、付き合うとかありえねぇ」

『どうして? 大抵は一緒にいるじゃない』

 

 

 確かに大抵は一緒にいるかもしれない。友達以上であり恋人未満なのかもしれない。

 しかし優希はそれ以上踏み込むことを無意識に拒否していた。

 

 茅場優希にとって、結城明日奈とは光だ。

 何も変わらずに接してきてくれた人間であり、平和を具現する日常の象徴と呼ぶべき存在となっている。そんな人間を自分のような人間が踏み込んで良い存在じゃない、と彼は無意識に神格化している節があった。

 

 だからこそ、彼は否定する。

 ありえない、と自分と明日奈が付き合うのはありえないのだと。生き汚く生き残った人間が、人並みの幸福を得るなど間違っていると言うかのように。

 

 

「ンなことより、オマエどうすんの? 週末遊びに行くんだろ?」

『え? あ、えぇ、そうね』

 

 

 急に話題を変えられて若干戸惑いながら朝田は合わせる。

 

 

『何時にするの?』

「まだ時間あるからな。また近いうちに連絡する」

 

 

 そう言うと視線の先には茅場晶彦の記事の締め言葉。

 思わず自然とそれを言葉にしてしまった。

 

 

「『これはゲームであっても、遊びではない』ねぇ……?」

『どうしたの先輩?』

「……いいや、何でもねぇよ」

 

 

 ――なぁにを言ってんのかねぇ、晶彦くんはよお?

 

 

 心の中で呟くも、それは明日嫌というほど思い知ることになる――――。

 

 

 

 

 

 




→ドリュー
 アンドリューのこと
 命名者は優希。

→オムライス
 優希の好物の一つ。
 ダイシーカフェで、オムライスからコーヒーを注文するのが優希の鉄板

→MMO
 優希「ようするにピコピコのことだろ?」
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