ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
――――身体が揺れ、少年は眼を覚ました。
それは断続的で、不規則な揺れだった。辺りを見渡すとそこは車内の後部座席。窓を見ると景色が矢のように走っていた。とはいっても法定速度は守っているし、特別飛ばして走行しているわけでもない。
『オマエ、ようやく眼ェ覚ましたか』
オマエと呼ばれたのは少年なのだろう。運転中の男性は座席ミラー越しに、少年が起床する様子を確認していた。
堀の深い顔立ちで黒い髪で短髪。顎には無精髭が生えており、その姿にどこか野性味を感じるのは日に焼けた肌も多少の影響があるのだろう、と分析することが出来た。
助手席に座っている女性も「あらあら」と上品に笑いながら後ろを振り返り、少年の様子を見守っている。
笑顔が絶えないというのは、彼女のことを言うのだろう。蒼い瞳は優しく少年を見つめて、ブロンドの髪の毛が輝かしい。どこか艶やかさと可愛らしさを両方兼ね揃えている印象を与えていた。
まだ意識を覚醒仕切っていない少年を確認し、女性は困ったような口調で。
『まだお寝坊さんのようですね?』
『マジかよ? どんだけ寝るんだコイツ……』
どこかオーバーリアクションに反応すると、男性はそのまま座席ミラー越しに少年を見て。
『しっかりしろよォ? 最初が肝心なんだからよォ?』
『そうですね。第一印象は大事ですよ? それである程度の人間関係は決まってしまうんですからね』
男性の言葉に深く頷いて、女性は同意する。
しかし少年は二人が何を言っているのか、目覚めて間もないせいもあってか理解出来ずにいた。なので少年は返事をすることが出来ない。二人はそんな少年を置いてきぼりにしたまま、話を続ける。
『しかし今回は晶彦には助けられたな。アイツの科学がなけりゃ、オレも結構手こずったかもしんねェ』
『貴方もそろそろ怒られますよ? いきなり「患者が痛覚感じねェ機械作れ」なんて言われたら怒りますからね普通』
『あの鉄仮面に感情何て言葉あんのかねェ? ホント、頭トンでるぜあの男はよォ』
『もう、そんなこと言って。あとでちゃんと晶彦くんにお礼言うんですよ?』
『ヘイヘイ』
『ヘイは一回です』
『ヘーイ』
そこまで言うと、男性は呆れた様子で座席ミラー越しに再度、少年の方へと視線を向けて。
『おい、いい加減に起きろ。そんなんだと、笑われんぞ?』
誰に笑われるのか、と少年が問う前に男性は居丈高に笑みを浮かべて。
『昨日話したと思うけどよォ、オマエに新しく出来た妹だよ。仲良くしろよォお兄ちゃん』
『急ですものね。私に相談もなしに……』
女性は目を細めながら男性を軽くにらみながら言うと、男性はしどろもどろになりながら取り付くように言葉を漏らした。
『しょうがねェだろ。助けた患者が天涯孤独で「死ぬために生まれてきた」とか勝手なことを抜かしやがるんだからよォ』
『もう良いです。貴方が勝手なことをするのは、今に始まったことでもないので』
子供のようにむくれる女性を見て、男性は「ハハッ……」と乾いた笑いを浮かべて。
『まァ、そういうことだ。名前はオマエと同じ名前で木綿――――』
少年の記憶はそこまでだ。
景色は暗転し、次に目覚めたときは外で仰向けで倒れていた。何かの衝撃があったことは覚えているが、一体何が起きたのかは理解していない。ぼんやりと瞼が重く、身体の節々が動かない。
横転した先程まで乗っていた車、何かに引火したように燃え盛る“炎”、連続する痛み、止めどなく流れる血液、荒くなる呼吸、冷える身体。その景色はまるで――――地獄だ。
意識が遠のくとは、このことを言うのだろう。
呼吸をすることさえ苦しく、徐々に小さく弱々しいものへと変わっていく。
『オイ、オイ! しっかりしろオマエ!』
声の方へと視線を向ける。
そこには身体中傷だらけの男性と女性の姿。
先程まで笑っていたとは思えないほど、二人共痛々しい姿だった。外傷が激しいのか、衣服は真っ赤に染まりどこが負傷しているのかわからないほどである。
それよりも少年は眠たかった。
呼吸をすることさえ億劫であり、止めた方が楽になれることだろう。
しかしそれを二人は許さない。
『しっかりしろって言ってんだろォ!』
『貴方!』
『わかってる! 他人を助けて自分の息子を見殺しにしました、何て医者の前に、親としてありえねェ!』
どうやら二人は少年に応急手当をするようだ。
自分たちの傷何てどうでもいい、と言うかのように二人は自分たちよりも、少年を最優先に行動していた。ここで少年を見捨てて、自分たちを優先していれば助かっていたかもしれない。だが二人は自分よりも、少年を救うことを選ぶ。
血が足りないのか、男性も女性も青い顔を通り越して白い顔になっている。
それでも二人は手当の手を止めない。必死に少年に声をかけて、意識を現世に繋ぎ止めようとしていた。
『 きろ! はオレ達の 証だ――――!』
男性が何かを言うも、少年の耳には入ってこない。
そうして今度こそ、少年の意識は途切れることになる――――。
これが少年の過ち。
茅場優希が自分が生き残るべきではなかったと自嘲する記憶。
幾万もの人間を救うはずの両親を、茅場優希は見殺しにする――――。