ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
もう凄い恥ずかしい誤字しまくりで、ただただ恥ずかしい思いでございます。
お気に入りの数が爆発に増えて、ドキドキしながら執筆してますが、どうかこれからもよろしくお願いします。
第1話 少年は怒りのまま剣を振る
2022年11月8日
AM10:10 『第一層』はじまりの街の宿屋
ソードアート・オンラインの創造主――――茅場晶彦にゲームの世界に閉じ込められて、三日経っていた。
一日目に、つまりソードアート・オンライン稼働日当日に、広場に集められて茅場本人からゲームクリアしなければ現実に帰還することは叶わない。ゲームでの死は現実の死に直結する、と告げられ。
二日目に、まだ事実を受け止められない者、茅場の思惑を知って行動する者、事実を受け止められても恐怖し『はじまりの街』から出られない者が現れ。
三日目で、各々プレイヤー達はようやく行動を始めていた。
はじまりの街の雰囲気は稼働日から打って変わって、活気があった陽気的なものから、鬱々とした重苦しげなモノへと変貌を遂げていた。
無理もない、ゲームの死は現実での死を意味する。MMOとは最初は死んで当たり前、死んで対策を考えて、そして実行するというのが本来の攻略方法である。だがソードアート・オンラインではそれが使えない。プレイヤーの命はHPゲージ、なくなれば死を意味する。数値化されて、眼に見えてるのでそれは余計恐怖を増長させていた。
この世界において、恐怖に負けた人間が待っているのは死である。
現にはじまりの街から出て、出現する比較的弱いエネミーモンスターに大多数の人間がHPゲージを削られ死亡している。
普通に対処すれば負けることはないし、エネミーモンスターの攻撃が当たってもHPゲージが減るのは極僅かである。だがそれでもプレイヤーは恐怖してしまう。僅かでも減る自分の命を見て、冷静になれる人間は残念ながらそう多くなかった。
当初、茅場は広場にて「213名が死亡している」と宣告していたが、三日目の現在ではもっと減っていることが予想されるだろう。
そういうわけか、街に活気はなく、プレイヤー達は怯えてNPCはプログラム通り笑顔で通るプレイヤー達を呼び込むと言う奇妙な光景が広がっていた。
そんなはじまりの街の中にある宿屋。
どうやら宿屋の中に酒場があり、そこにはプレイヤー達が点々と席に着席しており、NPCである店員は忙しなく動き注文を取っていた。
そんな中、とても酒場の雰囲気から浮いている少年プレイヤーが一人。
酒場とは本来、成人した者たちが訪れる場所である。それを考慮すれば、少年は明らかに浮いていた。ブロンドの綺麗な髪の毛、眼を閉じているもののその容姿はどこか幼さを感じる。
「――――――」
少年の眼が開いた。
その双眸は綺麗な蒼色。普通にしていれば可愛い部類の顔であるのだが、眼つきが悪すぎてそれを全て台無しにしている。少年は明らかに未成年であり、本来酒場に来る立場ではないが、それを咎めないのはやはりMMORPG故だろうか。
少年――――ユーキは思考に耽る。
――三日経っても、外部からの連絡はなし。
――こりゃ一ヶ月、一年経とうと変わらねぇだろう。
――となると、本当にこのクソゲーをクリアしなきゃ現実には帰れねぇ。
今のユーキは現実の姿のままであった。
一日目、つまりデスゲームの開始を宣言されたとき、茅場からプレイヤー全員にプレゼントが配布されていた。
それは鏡。鏡に映し出された瞬間、この世界でのアバターは消えて、現実世界の自分へと変わっていた。
――クソッタレ。
――ゲームでなく現実なのだから、現実世界の姿にしたって言いてぇのか……。
――笑えねぇ。笑えねぇ冗談だよ。
茅場の思惑に、憤りを隠せない。拳を握りしめ、煮えたぎる怒りをその内に募らせる。
八つ当たりしたところでどうにもならないし、元より街中――――圏内と呼ばれる場所であり、その中にあるオブジェクトを破壊したり、プレイヤーを攻撃することが出来ないのだ。だがこれは物に当たったところで無駄だし、根本的な解決にならない。
だからこそ、ユーキは耐える。八つ当たりにエネルギーを使うくらいなら、これからのことを視野に入れて考えることにした。
――あのクソのことは、今はどうでもいい。
――問題はこれからだ。
――クリア出来ねぇと現実には帰れねぇ。
――だったらクリアするしかない。
――だがクリアするには……。
そこまで考えていたところで――――。
「……おはよう」
「……おう」
ユーキに声をかけるプレイヤーが一人。
それは少女特有の高めの声で、見知った声――――にしては覇気がなく、意気消沈しているようなものだった。
それが誰なのか確認すると、ユーキは簡単に応じる。
そのプレイヤーはアスナだった。彼女は暗い表情のまま、ユーキの座っている席の向かい側に座り対面する形となっていた。
「……」
「……」
そして沈黙。
重苦しい空気が二人の周りを覆う。それは数秒か数分か、その沈黙はユーキが口火を切ることで消えることになった。
「オマエ、どうした?」
「別に……」
暗い声のまま、アスナは答える。
思えば初日から様子がおかしかった。
茅場からデスゲームを告げられて、隣に見るアスナを見てみれば彼女は明らかに怯えていた。
それは尋常ではなく、青い顔になったと思ったら白い顔になり、ガタガタと震える。どうしたのか、とユーキがいくら声をかけても「ごめんなさい」と震えながら繰り返すばかり。
それから宿屋に泊まり、二日目で今のような覇気のない状態になっていた。
アレだけ見ることが出来た彼女の笑顔はどこにもない。どこか贖罪を背負うかのような、悲痛な表情を浮かべているアスナしかいなかった。
――コイツ、何に怯えていた?
――デスゲームじゃねぇな。
――オレに謝ってきたってことは、オレに怯えてんのか?
――どうしてだ?
そこまで考えていると。
「ねぇ……」
「あ?」
「これからどうするの?」
感情の起伏がない声色で、アスナは問いかける。
対してユーキは真剣な表情で受け止めて、アスナを真正面から見据えて。
「それより、オレの質問に答えろ。オマエどうしたんだよ?」
「私は、大丈夫だから」
「大丈夫なわけねぇだろ。その理由、オレにも言えないのか?」
「……」
沈黙するアスナに対して、ユーキはチッと舌打ちをする。
それは誰に対してか。こんな世界に閉じ込めた茅場に対してか、それとも昔馴染みのツレの状態すら何とか出来ない情けない自分に対してか。前者であり、後者なのだろう。
いつもの粗暴な声色は鳴りを潜め、幾分か声を丸くして口に出した。
その語り口はどこか、幼子をあやすかのように、穏やかなものだった。
「……無理はすんな」
「……うん」
アスナの力ない返事を聞いて、ユーキは切り替える。
いつもの粗暴な口調に戻り、先程のアスナの問いに答えた。
「一日割いて、ドリューくん探したが見つからねぇ。移動したのか、それとも見つけられねぇだけなのかさておき、このまま黙って引き篭もるのは性に合わねぇ」
「……そうだね」
茅場優希という人種がどう言う人間なのか理解しているのか、アスナはこれと言ったリアクションも取らずに肯定する。
彼らが一日潰して探していた人物――――アンドリューだったが見つけることが出来なかった。
街中にいるプレイヤーに聞き込みしても彼を発見することが出来ない。アレだけ目立つ外見をしているのだ、それが見つけられないとなると街にいないのか、もしくは――――。
――オレは何を考えている。
――そんなことがあってたまるか……!
既に死んでいる。
最悪な結末を想像し、ユーキはありえないと否定するように自分のこれからの進路を説明した。
「オレはこれから『ホルンカ』って村に行く」
「どうして?」
「レベルを上げるために決まってんだろ。近いうち、この辺りはプレイヤーの狩り場になっちまう。そうなったら待ってるのはモンスターの奪い合いだ。それはかなり面倒くせぇ」
吐き捨てるようにユーキは言葉を漏らした。
この世界はレベルが全てと言ってもいい。経験値を稼ぎ、レベル上げて、スキルを覚える、その繰り返しだ。それに気付いた者は初日に行動している筈であるし、このまま呑気にはじまりの街に居座る訳にもいかない。
無論、それは危険が付き纏う。VR実験に参加したとはいえ、レベル1の身であり、装備も初期のまま変わっていない。なおかつ得意の両手剣はまだ装備できない状態。
それでも前に進むには経験値を稼ぐしかない。例え危険でも前に進むためにはそれしかないというのなら、ユーキは迷わず前に進むことを選ぶ。
幸いアンドリューの聞き込みをしたときに『ホルンカ』という街の情報と、その周辺のエネミーモンスターのことは聞いている。
「オマエはこのままここでドリューくんを探してろ。この場所を出ねぇ限り、死ぬことは――――」
「私も行く」
アスナは遮るように、決意するかのように、罰を求めるような顔でそのまま続ける。
「私もユーキ君と行く」
「……オマエ、言っている意味分かってんのか?」
圏内である街から出れば、HPゲージが減ることになる。それは最悪、死に繋がる。
状況判断が出来ないほど、彼女はバカではない。それを分かっていながら、ユーキは再度冷たい口調で問いかけた。
「死ぬかもしれねぇんだぞ?」
「わかってるよ……」
「わかってねぇよ。いいから、オマエはここにいろ」
「いや」
「このっ、いい加減に――――!」
「私も!」
ユーキは立ち上がり怒鳴りかけるも、それ以上の大きな声でアスナは遮る。
そのまま座ったまま、見上げるようにして少し涙目になりながらも、悲痛な表情で。
「私も……君に付いて行く。絶対に、置いてかれても、付いていくから……」
「…………」
視線が交差し、睨み合う。
折れたのは――――。
「チッ」
ユーキだった。
彼はドカッと乱暴に椅子に座りなおすと、不機嫌そうに舌打ちをして、嫌々了承した。
「勝手にしろ。足引っ張るようなら、叩き潰してここに縛り付けるからな」
「うん……」
力ない返事に、ユーキはそのまま乱暴な口調で問いかけた。
「オマエの武器は何だよ?」
「細剣だよ」
それを聞くと、ユーキはメインメニュー・ウィンドウを開いて、ステータス画面を開く。
そこには自分の装備、状態、自分のコル数が表示されていた。彼が見たのは自分の所持金である『コル』の部分。アインクラッドで使用できる通貨である。それに余裕があることを確認すると、メインメニュー・ウィンドウを閉じて。
「とりあえず装備整えんぞ」
「私お金なんて……」
「心配すんな。オレが出す」
そこでアスナは違和感を覚えた。
ソードアート・オンラインを始めて3日間、彼らは同じ時間を過ごしてきた。一日目は広場のあと宿屋に戻り、二日目は一緒にアンドリューを探し宿屋に戻り、三日目はこうして一緒にいる。とてもではないが、コルに余裕があるとは思えない。
と、なると考えられるのは――――。
「もしかして夜街を出てフィールドでモンスターと戦ってた?」
「…………だったら何だよ?」
「今度から私も付いていくから。それと――――」
アスナはギュっとユーキの手を握る。
両手で力いっぱい、震えながらユーキの片手を握ると。
「危ないことは、絶対に、しないで……」
「……覚えてればな」
そういうと、ユーキはその両手を振り払い立ち上がる。そしてそのまま前を向き歩き出したところを、アスナが追いすがりながら。
「自分の装備は買ったの?」
愚問だとアスナは思う。
この世界において、防具や武器は命綱だ。これを疎かにしては死に繋がるのは明白である。だからこそこの質問に意味はない。自分の命が大事な人間なら真っ先に購入しているはずなのだから。
だからこそ、ユーキは鼻で笑い、小馬鹿にした声で。
「当然じゃねぇか」
彼のステータス画面の装備は初期装備のまま。
彼が新調する装備のコルは全て、アスナにつぎ込まれるのだった――――。
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PM22:15 第一層『ホルンカ』
そして特に問題はなく、二人はホルンカに到着していた。
道中、エネミーモンスターと何度か戦うことになったが、特に危険もなくここまで到着することが出来た。
ユーキがいるのは街外れ。エネミーモンスターが跋扈しているフィールド、通称『圏外』と呼ばれる場所だ。そこは圏内とは違いHPゲージが減る。つまり死ぬ可能性すらある。
そこで彼は何をしているのかというと。
「…………」
ひたすらに片手剣を振るっていた。力強く振るわれ、その度に風切り音が聞こえる。
どれだけ剣を振るっていたのか、身体中からは汗が流れていた。
「…………ッ!」
一度振り下ろし、直ぐに振り上げて、思いっきり踏み込む。
より鋭く、より疾く、より力強く。剣を思いっきり突き出した。ソードスキル『レイジスパイク』、それが今の突きのソードスキルの名前だった。
ソードスキルとは、簡単に言ってしまえば技コマンドのようなもの。発動したあとは体が勝手に動いて攻撃動作を行う。攻撃力も通常の斬る薙ぐ突くといった攻撃よりも威力が高い。
それからも何度も何度も、ユーキは剣を振るう。より正確に穿てるように、自分の体に馴染ませるように。
これに意味があるかどうかは、彼本人もわかっていなかった。
だがこうでもしないと落ち着いていられない。発散しなければ、正気を保てなかった。剣を振るう、それだけで気が紛れる。もはや夜中の素振りは日常と化している。
そして不意に――――。
「…………」
ピタッと。
ユーキの剣が止まる。彼は周囲を慌てることなく見渡すと。
「……」
囲まれていた。
どれもこれも同じエネミーモンスター。足は蔦で支えられており、それが胴体まで伸びている。そしてその胴体には大きな口があり鋭利な牙がある。牙があるということは、噛み砕くことも可能なのだろう。
エネミーモンスターの名前は『リトルネペント』。一メートル半ある個体もいれば、二メートル弱ほどの身の丈を有している個体もいる。姿形は多少の違いはあれど、今は共通して言えることが一つ。
目の前のプレイヤー。
ユーキを獲物として認識していた――――。
「――――」
対するユーキは変わらず、剣を構えることすらしない。
ふとHPゲージを見たら半分は削られており、ゲージの色も黄色になっていた。
――あぁ、ようやく。
口元を押さえて、ユーキは周りのリトルネペントを睨みつけながら。
――ようやく、獲物がかかりやがった……!
獰猛に口元を歪める。
この世界はレベルが全て。それがなければ前に進むことすら出来ない。実にシンプルで、実に浅はかだとユーキは思う。
――変わらない。
――何一つ変わらない。
――仮想世界と現実世界を分けたところで何一つ変わらない。
ユーキは片手剣を構える。
初期装備である『スモールソード』を構えて、周囲を見渡す。
――世界は残酷で、不平等だ。
――前に進むためには力がいる。
――力を手に入れるためには経験値が必要。
――経験値を得るためには目の前の三流を斬らなければならない。
これは儀式。怒りを力に変える儀式。
思い出すのは、今までの人生。両親を理不尽に奪った世界、茅場晶彦の顔、そして無様に生き残ってしまった何より許せない自分自身。
蒼い瞳に、暗い感情が宿る。それは怒りであり、憎悪であり、憤怒である。絶対的な殺意、確固たる殺気。
それはどう言う現象か、エネミーモンスター達はざわめき始める。
取るに足らないプレイヤー一人を取り囲む輪は、より狭くより密度を増していった。ここにきて自我のない筈のエネミーモンスター達は、結束を固めてきていた。
ここで殺さなければならない、ここで仕留めなければならない、ここで鏖殺しなければならない。
ありえない思考がエネミーモンスターたちを支配する。
正に絶対絶命。
そんな状況下でも、ユーキの『怒り』は衰えることを知らない。
――元からオレは一度死んでる。
――死んでるのだから、こんな無茶も出来る。
――現実世界でも帰りを待ってる身内なんざいねぇんだ。
――だったら前に進むしかないだろう。
――余分なことに考えを割く容量がないんだ。
――その分全速力で、前に進むしかねぇ。
通常それは狂っているのかもしれない。
自分の命を勘定に入れないで、前だけしか見ていない人間を狂人と称するのだろう。もはや止まらない、止まれば茅場優希は死ぬとでも言うかのように、彼は前だけを進み続ける。
――下らねぇ世界を作ったアイツをオレは否定する。
――最短距離で、オレはアイツを。
――茅場晶彦を。
――斬る。
「かかってこいよ、三流共」
そのままユーキは獰猛に口元を歪めて、肉食獣のように瞳を爛々と輝かせて、怒りをその身に纏いながら――――。
「テメぇらはオレの餌だ――――!」
今日も、死線を潜る。
まるでそれが生き残ってしまった自分に対する贖罪とでも言うかのように――――。
→クソゲー
ソードアート・オンラインのこと。
命名者:ユーキ
→彼が新調する装備のコルは全て、アスナにつぎ込まれるのだった――――。
THE過保護
→エネミーモンスター達はざわめき始める。
エネミーA「え、アイツなにやばくね?」
エネミーB「マジやばくね?」
エネミーC「そんなことよりサメの話しようぜ!」
エネミーD「俺のシリカちゃんまだかよ」
→オレの餌
妖怪経験値置いてけ