ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
Vol.1 も残すこと4話(予定)
2022年 11月20日
PM10:20 『第一層』はじまりの街 路地裏
――――率直に言うと、あたしは困り果てていた。
眼の前にいるのは、軽薄そうな男の子。格好も軽鎧に身を包んで、如何にもファンタジーに出てくるような格好をしている。
男の子、といってもその男の子は生身でもないし、この世界は現実世界ではない。ソードアート・オンラインというVRMMORPGの中の仮想世界。軽薄そうな男の子の身体はその世界で作られた作られたアバターだ。
しかし中身は人間。ちゃんと感情がある。
ニヤニヤ、と。何が楽しいのか彼は笑う。
そしてまたよくわからない、自慢話を始める。
「そういえばさー、俺のレベル5なんだよねー」
「……凄いですねー」
「でしょー? ところで、これから狩りにいかない? リズベットは俺が守るよ」
リズベットというのはあたしのプレイヤーネーム。気軽に守ると言ってくるのは、先日たまたまフィールドで出くわした赤の他人。
一言二言話しただけで、気安く話しかけてくる。正直言って迷惑な話だ。
こうして気安く話しかけて来る男は少なくない。
ソードアート・オンラインの男女比率は圧倒的に男性が多い。そのせいか、女性プレイヤーは重宝されている。
何せあたしのようなオシャレもしていない女にまで声をかけてくるのだ。これで格好もちゃんとしている女性プレイヤーは蝶よ花よと愛でられていることだろう。そう考えると同情してしまう。
――それにしても、守るねぇ……?
――その意味をちゃんとわかってんのかしら?
心の中で、思わず疑問に思う。
普通のMMORPGであれば、深く重く考えなくても済む単語だ。
でもこの世界では違う。HPゲージがなくなれば、この世界でも現実世界でも死ぬデスゲームにあたし達は巻き込まれている。
この周辺にいる、弱いモンスターでも侮れないのが今の現状なのだ。それで守るという言葉の意味、この世界では軽々しく口に出来ないモノである筈。でも軽薄そうな男は平然と口にする。履き違えているとしか思えない。
「それじゃ、どこに行く?」
「え?」
考えに耽って沈黙していたあたしを見て、狩りに行くことを了承したと捉えたのか彼はいやらしい笑みを深めていた。
冗談じゃない。
何度も言うが、彼とはフィールドで偶々出くわしただけの仲だ。確かにフレンド登録して欲しいとしつこかったので、登録したけどそれ以上の関係ではない。ただの赤の他人。ぶっちゃけると、彼のプレイヤーネームも覚えていない。
そんな人物に、自分の命を預けてパーティーを組めるだろうか。
答えはNO。絶対にNO。
「ほら、行こうぜ」
「――――ッ! ちょっと、やめてよ!」
肩に手を回してきたので、反射的に手を叩く。
ここは街中、HPゲージが削れることはないし、圏内では犯罪防止コードに弾かれてしまう。
HPゲージは削れない、でも彼の自尊心をあたしは傷つけてしまったようだ。
ギロリ、と。
鋭い眼つきで彼はあたしを睨みつける。
「なにその態度?」
「あ、アンタがいきなり身体触ってくるからでしょ!?」
あたしの言葉が気に入らなかったのか、彼は近付いてくる。壁際まであたしを追いやって、そのまま片手を壁にドンッと勢い良く押し当てると。
「リズベットさぁ、調子に乗ってない?」
「はぁ!?」
「いいや、乗ってるよね。俺に声をかけられて調子に乗ってるよね?」
何を言っているのか本気でわからない。
どうして彼に声をかけられて、あたしが調子に乗らなければならないのか、本気で理解が出来ない。
彼はそのまま、少しの敵意をあたしに向けたまま。
「俺が君みたいな子に声をかけるのは奇跡なんだよ?」
「アンタ、何を言って――――」
「――――『はじまりの英雄』って知ってる?」
あたしの言葉を遮り、彼はにやぁ、と生理的に受け付けない笑みを深める。
『はじまりの英雄』。
この街にいれば、聞いたことがある異名だ。誰も敵わなかったモンスターキラーと呼ばれる怪物を倒したプレイヤー。はじまりの街に活気を取り戻させて、プレイヤー達に希望を抱かせたプレイヤー。
正に英雄と呼ばれる実力を持っている。
そして彼は、耳を疑う事を口にする。
「俺、そいつの相棒なんだ」
「は?」
眼を丸くさせるあたしの反応が面白かったのか、彼の不快な笑みはますます濃くなる。
「『はじまりの英雄』は今や凄い有名じゃん? 俺がアイツにお願いすれば大抵のことをやってくれる訳だ」
「……何が言いたいのよ?」
「わからない? 俺がアイツに何をお願いするのか、リズベットにはわからない?」
何となく、彼が言わんとしていることが理解出来た。
つまりはこの街から追い出されたくなかったら、自分の言うとおりしていろ、と言いたいのだろう。
通常ならバカバカしい、と一笑されてしまう発言であるが、『はじまりの英雄』の発言力はそのバカバカしさすら可能としてしまうほどになっていた。
この街を救った英雄が「あのプレイヤーを追い出せ」と言うものなら、他のプレイヤー達は喜んで、この街から追い出してしまうだろう。
この事実にあたしは、頭に来ていた。
確かに立派だと思う。はじまりの街を救ったのは本当に凄いと思う。
でも、こんなヤツを相棒にするなんて考えられない。
それが言葉となって、感情となって爆発させる。
「アンタみたいなヤツが、あの人の相棒になれる訳ないでしょ!」
「だったら試してみる? アイツの発言で、リズベットのこれから生きるか死ぬか決まるけどいい?」
あたしは手を握りしめる。
悔しくて悔しくてたまらなかった。正直な話、あたしは『はじまりの英雄』を尊敬していた。
モンスターキラーに立ち向かい、それを討伐した英雄に心惹かれそうになっていた。だが蓋を開けてみればこれだ、英雄も人間でどうしようもないプレイヤーであるらしい。
顔を下に向けて黙るあたしに気分を良くしたのか、彼は機嫌の良い声に変わって。
「それじゃ、行くかリズベット。心配しなくてもいいよ、君は俺が――――」
「――――あー、悪い。ちょっといいか?」
彼の言葉を遮るようにして、路地裏に新しい声が響く。
それは男の子の声、どこか幼さが残る声だった。彼とあたしは、ほぼ同時に幼い声の方へと視線を向ける。
そこに立っているのはやはり幼い男の子。黒いハーフコートの下には防具の類がほとんど見られない。街で出歩く用の服装なのかと思いきや、背中に剣を背負っているのを見て、あの軽装でフィールドに出ていることが分かる。
軽装の男の子は、少し困った表情を浮かべて。
「俺に相棒なんていないんだけど……?」
「ハァ?」
「いやだから、『はじまりの英雄』の相棒がどうのこうのって話してたろ? まさかアイツが相棒ってことになってる?」
それは心外、と言いたげな表情で眉を潜める軽装の男の子に、今まで強気に出ていた彼が狼狽え始めた。
まさか、と。こんなところで、と。独り言をブツブツ呟き始める。
そして、何となくあたしも察することが出来た。
眼の前にいる軽装の男の子は一歩近付いて。
「なぁ、相棒って誰のことを――――」
「ひぃ!?」
彼は脱兎の如く、軽装の男の子の進行方向に走る。
いいや、アレは逃げると言った方が正しい表現方法なのかもしれない。とにかく今まで強気だった彼は物凄い勢いで、それこそ全力でその場から逃走を図る。
決まりだ。
あたしは声が震えるのを自分でも感じる。
尊敬していた人に出会えたことに喜ぶとか、そんな甘酸っぱいものじゃない。
もっと単純明快で、複雑な理由ではなく。
軽装な男の子はそんなあたしの心なんて気付いていない。
マイペースに、自分のペースを崩さずに、気まずそうな顔で聞いてきた。
「……邪魔しちゃった、よな?」
「あ、あんた、もしかして……」
『始まりの英雄』?と問いかけるあたしに対して、どこか恥ずかしげにはにかみながら。
「……まぁ、一応そんな呼ばれ方しているときもある、かな?」
「――――――ッ!??」
声にならない叫びが出た。
あたしが抱いていた感情は『驚き』だ。ソードアート・オンラインが始まって以来の英雄、今この状況で最も有名な人物がこんな女顔の男の子だとは思わないだろう。
もっと背が高くて、もっとイケメンで、もっと王子様的なサムシングであるはずだ。いいや、そうでなくてはならないのだ
だから叫んだあたしは悪くない。
勝手なイメージを持って、『はじまりの英雄』を想像していたあたしは悪くない。
ぶっちゃけ、あたしが100パーセント悪いと思うけど、今だけは悪くないということにしておいてほしい――――。
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PM11:10 『第一層』はじまりの街 噴水広場
アレからあたし達は一緒に行動をしていた。
というのも、変な男に絡まれていたことを説明するや否や彼は「それじゃ、護衛するよ。逆恨みされてまた来る可能性もあるしな」と有無を言わさずにそう申し出てくれた。
優しい、のだと思う。
普通なら色々と考えてから、結論を出す筈なのに、彼は条件反射的に即答してくれた。
少なくとも、今まで顔を合わせてきた男のプレイヤー達は少し考えて結論を出していた。あたしが女であること、助けたあとの見返りがあるか、色々と打算的に考えて結論を出していた。
だが彼は違う。
困っている、という事実があるだけで、あたしに手を差し伸ばしてくれた。
だからこそあたしは疑問を口にする。
「でもいいの? あたしなんかに時間使っちゃって……」
「いいよ、別に。こんな世界だ、もしかしたらってことがあるかもしれないだろ?」
「うん……」
彼が何を言いたいのか、あたしは理解した。
簡単に人が死んでしまう世界だ。もしかしたら先程の男が逆恨みして、あたしを襲いに来るとも限らない。と、彼は言いたいのだろう。
思わず顔がにやけてしまう。一番最初の対応は我ながらどうかなと思うものだったが、仮にも憧れていた『はじまりの英雄』がこんなに優しい男の子だと事実は、正直言って嬉しいことこの上ない。
バレまい、と顔を伏すあたしを見て、どうやら彼は不安に思っていると解釈してしまったのか、どこか慌てながら、しかし優しい声であたしを励ましてくる。
「心配するなよ、君は絶対に守る。パーティーメンバーにも事情をメッセージでさっき飛ばしてるし、もうちょっとで合流するぞ」
「迷惑じゃないの?」
「大丈夫だろ」
即答する彼の横顔は、どこか誇らしいものだった。それだけ彼はパーティーメンバーを信頼しているようにも見て取れる。
同時にあたしは興味が湧いた。このソードアート・オンラインで有名な『はじまりの英雄』のパーティーメンバーがどんな人達なのか、純粋に興味が湧いてくる。
あたしは思ったことを口にする。
「ねぇ。『はじまりの英雄』のパーティーメンバーってどう言う人達なのよ?」
「……その前にいいか?」
「なによ?」
そう言うと、彼は歩きながらあたしの方へと顔を向ける。
そしてどこか恥ずかしそうに、頬を右手の人差指で掻きながら。
「その『はじまりの英雄』って呼ぶのやめてくれないか? 正直、恥ずかしい……」
「それじゃ何て呼べばいいのよ?」
「キリトでいいよ。それが俺のプレイヤーネームだから」
はじまりの英雄――――キリトの言葉に対して、あたしも若干面白くなさそうな声で。
「それじゃあたしのこともプレイヤーネームで呼びなさいよ」
「わかったよ。……えーっと、リズベットだっけ?」
「リズでいいわ」
これでお互い『はじまりの英雄』、『君』と他人行儀な関係ではなくなり、あたしは満足そうに頷く。
それから再び、先程の疑問をキリトに投げかけた。
「ところで、キリトのパーティーメンバーってどんな人達よ?」
「良い奴らだよ。多分、リズのことを放っておかないと思う。一人はリズと同い年くらいかな? もう一人は――――」
そこまで言うと、キリトは複雑そうな表情を浮かべる。
一口では言えない。どこか嬉しそうに悔しそうに面白くなさそうに、そして再び嬉しそうに。感情が複雑に絡み合ったような顔つきをしたまま。
「――――捻くれてるな」
「捻くれてる?」
聞き間違いなのだろうか?
あたしは復唱するも、キリトはこれでもかと力強い頷きと共に、聞き間違いではないことを教えてくれた。
「捻くれてる。素直じゃないし、無茶ばかりするし、何よりも気に入らない奴だ」
「嫌な奴なの?」
ここまで話して、短時間の付き合いだけどキリトは良い奴だと思う。
そんなキリトが気に入らない、という人物だ。何かしらの致命的な欠陥を抱いており、性格が破綻している奴だと思ったけど、それは違うらしい。
キリトはあたしの言葉を全力で否定するように、ブンブンと首を横に降って否定する。
「いいや、優しい奴、だと思う。でも気に入らないんだ」
「どんな奴よそれ……」
「それは――――」
そこまで言うと、キリトは立ち止まり視線を一点に向けた。
あたしもその視線を追うと、そこにいたのは男女一組。
一人は同性のあたしが見ても可愛いと断言できる女の子。キリトと同じく軽装の装備で、その上から羽織っている紅色のフード付きケープがこれでもかってくらい似合っていた。
もう一人は眼つきがすこぶる悪い男の子。その視線の先にはキリトの姿。見る、というよりも、メンチを切る、と表現したほうが正しいのかもしれない。
キリトは静かに一言。
「――――アイツだ」
それだけ言うと、キリトは歩み寄る。それと同時に目付きの悪い男の子も近付いてくる。
どこか一触即発な空気を醸し出して、両者近付いてく。そしてお互い手を伸ばせば拳が届く、そんな距離で止まると。
「このお人好し野郎が。オマエは何か、一日に善行を一回でも積まねぇとならねぇ罰でも受けてやがるのか?」
「文句でもあるのかよ?」
「ねぇよ。見ず知らずの他人を助けるために手を伸ばすなんざ、オレには出来ねぇ。立派なことだ、だがオマエは別だ。心底気に入らねぇ」
「やっぱり話が合うな。俺もお前が気に入らないよ」
売り言葉に買い言葉。
先程穏やかな雰囲気から打って変わって、どこか感情的になっているキリトを見て、思わずあたしは眼を丸くする。
どこか飄々としていた彼だが、こんな表情にもなれるのか、と思ってしまう。
睨み合う二人に唖然としていると、目付きの悪い男の子と一緒にいた可愛い女の子が、心配するような表情で話しかけてきた。
「リズベットさんでいいのよね?」
「え、うん……」
「大丈夫? 怖くなかった?」
「あ、ありがとう。あたしは大丈夫だけど、いいの? あの二人……」
心配してくれるのは素直に嬉しい。この子もキリトと同じく優しい子であるようだ。
思わずあたしは二人を指差しながら問うも、彼女は困ったように笑い。
「大丈夫よ。いつものことだし」
「い、いつもなんだ……」
慣れとは恐ろしいものと言うかのように、彼女は全く動じなかった。むしろ日常生活における、いつもの光景と言わんばかりにメンチを切り合っている二人を見守る。
そうしていると不意に。
「オイ、オマエ」
「はい!?」
いきなり目付きの悪い男の子に声をかけられて、声が上ずってしまった。
あたしの様子を見て、男の子は「チッ」と舌打ちをすると、声が粗暴なものからほんの僅かに声を優しくして。
「悪かったな」
「え?」
どうして彼が謝るのかあたしにはわからない。
対して女の子は彼が謝る理由を理解しているのか、クスクスと笑いながら。
「『はじまりの英雄』関連なら、ユーキ君も無関係じゃないもんね」
「……うるせぇよ」
「あっ、『あの手のバカは残らず叩き潰したんだがな』って顔してる。広めちゃったから、責任感を――――」
彼女がそれ以上口を開くことはない。
目付きの悪い男の子――――ユーキは彼女の頬を引っ張って黙らせてしまった。
「このポンコツ通訳。それ以上口を滑らせるなら、ここで叩き潰すぞ」
「ほめん、ほめんなはいぃ……ひっはらないへぇ……」
ごめん、ごめんなさい、ひっぱらないで。と彼女は言いたいのだろうけど、頬を引っ張られているせいか上手く発音出来ないでいた。
あたしは事の成り行きを見守ろうとしたが、キリトは聞き捨てならない言葉があったようで、戯れている二人に詰め寄った。
「待て。ユーキ、広めたって何の話だ?」
「うるせぇな。オマエには関係ねぇことだよバカ」
「お前! 今バカって、バカって言ったか!?」
「言ったよバカ」
「また言った! この野郎、言わせておけば!」
「ハッ、何だよ勝負するかこのバカ!」
「受けて立ってやる! 今日こそ決着をつけるぞ!」
小馬鹿にするようにユーキが言い、キリトがそれに堂々と応じる。
同時に二人は抜刀する。キリトは背中から剣を抜き放ち、ユーキは腰に刺していた剣を引き抜いた。そして二人はメンチを切り合いながら「勝負だ」と言い捨てる。
この街中で、始める気なのか。
思わずあたしは止めようかどうか判断に迷うところへ。
「わたしは、アスナ。よろしくね、リズベットさん」
「あ、うん。よろしくねアスナ。あたしはリズでいいわ――――って、いいの止めなくて?」
再び、思わずあたしは二人を指差しながら問うも、彼女は困ったように笑い。
先程と同じ返答で、同じ声で、同じ表情で。
「大丈夫よ。いつものことだし」
「本当に、いつものことなのね?」
ここまで来ると呆れてくる。
いつものこと、で済まされるくらい争うというのはどういうことなのだろう。男の子は理解出来ない、とあたしは思うと同時にとある場所へと意識を向けた。
それはユーキと呼ばれた男の子の剣。
キリトと同じくアニールブレード。だが極端に刀身が短く、片手剣という割にはリーチが短すぎる。
「まさか折れてるの?」
「うん」
アスナはあたしの言いたいことが理解しているのか、問いに対して肯定する。
装備を整えればいいのに、どうして彼は折れている剣を使い続けるのかわからない。このデスゲームにおいて装備とは重要な筈だ。あまり狩りに出ないあたしでもわかる。
「あのアニールブレードって、そこまで貴重な物だったかしら……」
「うーん……」
あたしの問いに、アスナは困った表情で。
「ユーキ君の中では貴重なの」
「そうなの?」
「うん。本人は絶対に否定するけど、貰ったものだし大事にしたいんじゃないかな?」
「…………」
アスナは「そろそろ、止めてくるね」と言うと、二人の間に入って喧嘩を仲裁する。
そのまま彼女は「街中で剣を抜くとか何考えてるの! みんなの迷惑じゃない!」と怒ると、キリトは冷静になったのか直ぐに剣を背中の鞘に収めて頭をペコペコ下げ始めて、ユーキは渋々剣を鞘に収めると明後日の方向を見てアスナの説教を聞き流す。
「ユーキ君、聞いてるの!?」
「ヘイヘイ、聞いてるよ」
「ヘイは一回だよ!」
「ヘーイ」
そうして今度はアスナがユーキに詰め寄り、キリトが仲裁に入る。
とても、とても、微笑ましい光景だった。誰かと誰かが喧嘩をすると、必ずもう一人が仲裁に入る。そうして彼らは今日までやってきたのだろう。そう言い切れるほど、彼らの役割はスムーズだった。
だからだろう。
あたしは純粋に羨ましいと思った。
三人が三人共、お互いを尊重し合っている、とあたしは感じている。
このデスゲームにおいて、絶望の中でも、彼らは前を向いて希望を持って日々を過ごしている。
そう言い切れるほど、彼らの周りは色鮮やかに彩られていた。これまで一人でいたあたしとは大違い。だからあたしは羨ましいと感じたのだ。
あんなに楽しく、デスゲームの中でも楽しく過ごせたらどれだけいいか。
若干一人、楽しくなさそうに、苛立ちながら斜に構えている男の子がいるけど、不快には思っていない筈だ。仮に思っていたら、あの輪の中にいるはずがない。
片手を軽く握りしめて、あたしは意を決して口を開く。
あの中に入るために、あたしも仲間に入れてもらいたいから、緊張する声を震わせながら――――。
「あ、あのっ!」
三人の視線があたしに集中する。
一人は不思議そうに、一人はどうしたのかと心配するように、一人はどこか不機嫌そうに。
自分でも緊張していることが分かる。
でもここで尻込みしては始まらない。あの三人と同じく笑い合いたい、あたしも仲間に入れて欲しい。だから――――。
「あたし鍛冶スキル取ってて、折れた剣を元に戻すのは無理だけど、一度インゴットに変えて打ち直す事が出来るわよー……なんて……」
お店を経営したい、という大昔の夢を叶えるために鍛冶スキルを取った。そして将来は自分の工房を構えて、立派な鍛冶職人になろう。と志し、鍛冶スキルを取ったのだが、デスゲームが始まればそれは夢物語。
そうなると思っていたが、ここに来て鍛冶スキルが活かせるとは思わなかった。
それから、あたしは、この三人の専属スミスとなった――――。
→リズベット
この世界では需要がありまくりの鍛冶職人。
はじまりの英雄を密かに憧れていた。
キリトの中の人の嫁。
→もっと背が高くて、もっとイケメンで、もっと王子様的なサムシングであるはずだ。
理想と現実
→メンチを切る、と表現したほうが正しいのかもしれない。
オマエ何中よ?(オォン?)
お前こそ何中よ?(アァン?)