ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 本編のIF。
 もし、早い段階で後輩が女性だとわかったら。
 もし、それが幼い頃だったら。

 時間軸は帰還者学校に通っている辺り。


番外編 幼馴染がオレに当たりが強い件

「勘違いしないで貴方のことなんて露ほど気にしてないわよ、わたしは」

 

 ――――。

 

「はぁ!? べ、別にたまたまです。たまたま、エギルさんの店に来たら貴方がいただけよっ!」

 

 ――――……。

 

「い、いや。貴方が嫌いってわけじゃ……」

 

 ――――?

 

「……それよりも、後輩さんとは何かあった?」

 

 ――――。

 

「何かって何かよ。今でも親交あるんでしょ? それで、どうなの?」

 

 ――――、……。

 

「何よ、歯切れ悪いわね。何かやましいことをしているの?」

 

 ――――……!

 

「あ、あほっ!? アホって言った人がアホなんですー! ばーか!」

 

 ――――っ!?

 

「うるさいわよっ! ばか、ばかっ!」

                 「優希くんのばかー!」

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 都内 某ファミレス店内

 

 

「――――それで、言い争いになっと?」

 

 

 ストローでコップに入っているグレープジュースを吸い上げる。

 ズビビビッ、と乙女がたてる音としては相応しくない騒音を立てて、誰が聞いてもでも分かるくらい退屈そうな調子で、彼女――――篠崎里香は適当に聞いていた。

 

 実際問題、下らないのだ。

 他人から溢れる惚気ほど、下らないものはない。それは友達だろうと変わらない。下らないものは下らないし、傍から見てもやはり下らないものである。

 

 聞いていたと言うからには、里香は聞き手側ということになる。

 つまり、何者かが里香に話しかけているわけだ。その者は目の前に、里香と対面するように席に座っていた。

 

 先程まで、失敗した、とこの世の終わりのような顔をしていたにも関わらず、今では乙女らしくない飲み方をしている里香に注意するように。

 

 

「もうっ、リズ! ダメよそんな飲み方。行儀悪い」

「大丈夫よ。誰も聞いちゃいないし」

 

 

 そういう問題じゃないでしょー、と小言を呟いている対面席に座っている人物。里香に話していたのは彼女だ。

 現在、彼女達がいるファミレスはそこそこ混んでいる。しんと静まり返っているわけでもなければ、雑音が店内に響いているというわけでもない。そこそこの客足で、そこそこの客数。耳を澄ましたところで、彼女達の会話を盗み聞き出来るほど静けさを保っているわけではない。そのため、店内で里香の奇行に耳聡く反応する人間はいないだろう。

 

 だがそういう問題じゃない。

 確かにそんな問題ではない。

 きっと、いいや、絶対。そういう問題じゃない。マナーとしても、乙女的にも、彼女の言うとおりなのだろう。

 だがそれでも、里香には里香の言い分もあるのだ。

 

 へぇーへぇー、と悪びれもなくストローを咥えながら里香はやさぐれた調子で。

 

 

「悪かったわねー。でも二時間も惚気を聞いてればねー、そりゃあたしもやさぐれますよー」

「の、惚気っ!?」

 

 

 ポーッ! という音を立てて顔を赤く染める。

 里香の言葉を真に受けて、彼女はとても乙女らしい反応してみせる。それを見て思わず里香は感心する。なるほど、これが女子力か、と。

 そんな関心を尻目に、彼女は明らかなパニックに陥りながら。

 

 

「の、惚気って! どこをどう聞いたら、そうなるのよっ!」

「好きな男の職場に行って、素直になれずに痴話喧嘩、どうしようどうしよう、でも聞いて優希くんの制服かっこよかったの! エギルさんにお願いしてわたしも雇ってもらえないかなー。でも迷惑だよねー。でもかっこよかったなー。カッコいいと言えば、優希くんって小さい頃ねぇ――――からのアイツの過去話」

「――――――――」

 

 

 ボンッ! と。

 音を立てて彼女は顔を真っ赤に染め上げる。耳まで赤くして、顔を伏してしまう。どこかいじらしい。

 同性から見てもそれは可愛らしい反応だった。現に、里香はますます笑みを深めていく。ニヤリ、と。叩けば響く反応を見て、次はどんな意地悪いことを言ってやろうか考えている自分がいる。

 

 そこで、ハッ、と里香は我に返って頭を横に降った。

 邪念を祓うように、嗜虐心に染まりつつある悪い自分を外へと追いやる。それからすぐに調子を取り戻し、里香はため息を吐いて。

 

 

「明日奈もさー。いい加減素直になったら?」

「うっ……」

 

 

 言葉に詰まる彼女――――結城明日奈へと里香は畳み掛けていく。

 

 

「子供の頃に喧嘩別れしたんだっけ?」

「……うん。仲のいい後輩が出来たって、紹介してもらったら女の子で」

「それでテンパって、嫉妬しちゃって、喧嘩になっちゃったと」

 

 

 うん、と力弱く明日奈は頷いた。

 子供の頃というからには、今よりも幼い頃に決まっている。となれば精神も成熟しておらず、現在よりも多感な時期だったに違いない。

 里香から見たら、明日奈は大人と言っても良い部類だ。他人には別け隔てなく接して、意地の悪いことは言わない。おまけに可愛いと来た。恵まれている、といっても過言ではない。そんな人間の行動は余裕に溢れるものだろう。

 そんな明日奈が、今よりも幼かったと言え、わけがわからなくなるのだ。相当な衝撃だったに違いない。

 

 だからと言って。

 

 

「いい加減、仲直りしたら?」

「わかってるけどぉ……」

 

 

 呆れた口調で言う里香に、明日奈はますます縮こまる勢いだ。

 肩身が狭くなるとは、今の彼女のことを言うのだろう。羞恥心も相俟って、このまま消え入りそうだ。

 右手の人差し指、左手の人差し指、つんつんとイジケながら明日奈はか細い声で。

 

 

「わかってるだもん。優希くんは悪くないし、後輩さんも悪くない。悪いのはわたしだって。……でも」

「でも?」

「素直になれないんだもんー……!」

 

 

 ふぇー、と情けない声を上げる。

 それはなんの鳴き声なのか、どういった生物なのか。学名、妖怪素直になれないは更に続ける。

 

 

「ねぇ、リズー! どうしよう、どうすればいいかなーっ!?」

「素直になればいいと思うわ」

 

 

 バッサリ、と斬り捨てる。

 対して見えない斬撃を受けて、うっ、と鈍い声を明日奈が上げるがそんなもの知ったことではない。里香は再度追い打ちをかける。

 

 

「もう男らしく謝ったら?」

「女だもん、わたし!」

「見ればわかるわよ、ばか。素直に謝って、貴方にゾッコンです、って本人の前で本人を褒めちぎればいいのよ。あたしに惚気けてるときみたいに」

「そんなことして嫌われたらどうするのよ!」

「ぬかしおる」

 

 

 ドッ、と笑みを浮かべて明日奈を指差し里香は続ける。

 

 

「だいたいねぇ。嫌っている相手のために、命をかけるなんてありえないでしょ?」

「そ、そうかもしれないけど」

 

 

 そう、追いかけてこない。

 これは後で、里香が明日奈の兄、結城浩一郎から聞いた話しだが、問題となっている優希という少年は最初からSAOをプレイしていたわけではない。途中からデスゲームとなったSAOへとログインしてきたのだ。

 本来であればありえない行為だ。触らぬ神に祟りなし、ということわざがあるように、誰もが好き好んでデスゲームとかしたゲームに手を出す訳がない。手を出すとしても、それ相応の理由がある筈だ。そしてそれ相応の理由が、優希にはあった。その理由こそが、自身の幼馴染である明日奈という存在。彼女が囚われていると分かるや否や、優希は血相を変えてソードアート・オンラインに手を出していた。

 

 当初の優希の反応は見たことがなかった、と浩一郎は語っていた。

 見たことがないくらい怒っており、見たことがないくらい慌てており、見たことがないくらい――――絶望していた、という。

 明日奈とは喧嘩別れをしていたが、結城家とは親交が続いていたのだろう。となれば小さい頃から、茅場優希を知っていたという事実に帰結する。そんな人物が、見たことがないというくらいだ。異常とも言えるくらいの反応だったに違いない。

 それほどまでに、茅場優希にとって、結城明日奈は大切だったのだろう。

 

 そうして優希はSAOの世界に足を踏み入れる。

 明日奈を助けるために、彼は自ら地獄へとその身を預けていく。

 

 誰がどう見ても、少なからず優希は明日奈を悪く見ていない。

 だと言うのに――――。

 

 

「でももし、嫌われたら……」

 

 

 当の本人である明日奈が煮え切らない。

 喧嘩別れしてた癖に、優希翻訳機で特許が取れるほど理解しているにも関わらず、いざ自分に対するとなるとそのスキルは活かされないようだ。

 ポンコツオブポンコツ。ヘタレオブヘタレ。

 

 ソードアート・オンラインで攻略組に属していたトッププレイヤーの一角とは思えない。

 

 とは言え、里香もこんなやり取り何度も経験している。

 故に、どうやれば明日奈がやる気を出すかなど手に取るようにわかっているつもりだ。

 だからこそ、今回も。明日奈によく効く起爆剤を使う。

 

 

「あんたねぇ、その調子だとアイツ付き合っちゃうわよ?」

「えっ、誰と!?」

「詩乃に決まってるじゃない」

「――――!?」

 

 

 バッ、と顔をあげる。

 どうやら恋人になった幼馴染と後輩を想像していたのか、見る見るうちに顔を真っ青に染め上げて。

 

 

「困るっ!」

「それじゃさっさと行動に移す」

「うん、行ってくるねっ!」

 

 

 カバンから可愛らしい桃色の長財布を取り出して、バンッ、と勢いよく千円札をテーブルに置くと明日奈は立ち上がった。

 

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。行くってどこに――――」

「この時間だと、優希くんエギルさんのところでバイトしてるから!」

「あっ、ちゃんと把握してるのね」

「もちろん――――!」

 

 

 と、そこまで言うと明日奈は脱兎の如くファミレスを飛び出していった。

 そして、入れ替わるようにテーブルの上に置かれた千円札を里香は見る。きっとそれは、明日奈が飲んでいたコーラ代なのだろう。それにしても千円札は払いすぎだ。これでお釣りが来るというもの。

 

 

「仕方ない、明日学校で返しますか。お釣り」

 

 

 やれやれ、と首を横に降る里香。

 結果報告を楽しみにしながら渡すとしよう。彼女は笑みを浮かべて明日に思いを馳せる――――。

 

 まぁ、結局の所。

 今回もダメだったわけなのだが―――。

 

 

 




>>茅場優希
 本編の主人公。セリフ無し。姿なし。
 設定は変わらず。捻くれ者で、口が悪く、態度も粗暴。
 明日奈に対して、彼女との距離感に悩んでいる様子。だいぶ過保護。

>>結城明日奈
 幼馴染。
 本編とは違い、優希と喧嘩別れしている。
 顔を合わせる度にツンケンした態度で接する。傍から見たら完璧な痴話喧嘩。
 でも本人がいないところではしっかり惚気る。なにこのツンデレ?
 優希翻訳機。でも変なところでバグる。

>>篠崎里香
 今日の被害者。
 惚気けられた回数は幾星霜。むしろもう慣れた。
 さっさと仲直りすればいいのにと思っている。
 

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