ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
2023年2月15日
PM13:45 第十八層 主街区『ユーカリ』
ユーキ達が第十七層を突破して、一時間ほど経過した。
第十八層の作りはどこか、第一層によく似ており、その主街区である『ユーカリ』もはじまりの街にそっくりな作りとなっていた。
教会があり、噴水広場があり、露天エリアがあり、商業エリアがある。
ただ違うと言えば、黒鉄宮の有無くらいと言えるだろう。
その主街区は今となっては、プレイヤーで溢れかえっている。
第十七層を攻略し、転移門が有効化され下層にいたプレイヤー達が流れ込んできたからだ。
いつもならば、ユーキはいちいち転移門を有効化になどしない。
何故ならば有効化しなくても、フロアボスが撃破された二時間後には自動的に有効化されて、下層の転移門と繋がる仕組みとなっている。
故に、いちいち転移門を繋げる必要もないし、そこまでする義理もない。という理由で、ユーキは今まで攻略してから直ぐに、転移門を有効化することはなかった。
しかし、今。
彼はこうして、攻略して直ぐに転移門を有効化して、他のプレイヤーを第十八層に招き入れた事実。
どういった心境の変化があったのか、他人には理解出来ない。何があったのかは、彼だけが知っているのだから。
当の本人――――ユーキは、第十八層の主街区『ユーカリ』を一望できる丘で一人、街を見下ろしていた。
頭部を覆う兜『スケープ・ゴート』は装備されていない。素顔を露出させて、何をするでもなくただ見下ろしていた。
生暖かい風が頬を凪ぎ、彼の綺麗なブロンドの髪が靡く。蒼い瞳はどこか虚ろなものとなり、無感情に街を見つめていた。
「どうしたの、こんな所で?」
元気ないね、とどこかユーキの背後で呑気に声をかける女性プレイヤーが一人。
彼は振り向かない。退屈そうな口調で、その声に応じた。
「……見てわかんねぇのか? 一人になるために、こんな所にいるんだが」
「そうなの? ごめんねー、言ってくれないからわからなかったよ」
謝罪するも、悪びれる様子もない。
彼女――――ストレアは明るい口調で続けた。
「ねぇねぇ、何で一人になりたいの?」
「……質問するだけの人生かよオマエ。毎度毎度、質問だけしやがって。ちょっとはその足りない頭で考えてみろ」
「考えてもわからないんだもん。だったら、最初から聞いたほうが早くない?」
暗に、空気を読んで消えろ。そう語ったつもりが、まったく伝わっていない。いいや伝わっているのだが、それを踏まえてここにいるのか。
どちらとも取れるストレアの振る舞いに、チッ、と舌打ちをするとユーキはつまらそうな口調で答える。
「オマエに話した所で、何にもならねぇよ」
「そうかなー? 話してみないとわからないと思うよ。ほら、アタシってメンタルヘルスカウンセリングプログラムだし」
「……何を言ってやがる。カウンセラーってキャラじゃねぇだろ」
「いいからいいから、話してみてよ。解決出来ないかもしれないけど、話なら聴くことはアタシにだって出来るし」
本来、茅場優希という人間は、本心を打ち明ける人間ではない。
その言葉には常に自身すら騙している欺瞞と虚偽に満ちており、憎まれ口をすぐに吐き出す人間だ。他人に対して笑顔という仮面を被り、気心の知れた人間に対しても本心を語ることは少ない。
ならば、ここで茅場優希の取る行動は、適当な言葉を並べてストレアを騙すことにある。
筈だった――――。
「……今までオレは、前だけを見て進んできた」
だがここに来て、平常とは違う行動に出る。
ポツリポツリ、と。彼は自分の本心を零し始めた。
「それが正しいと思った、それが最善だと思った。オレは誰よりも、攻略することに向いている、そう思っていた。何せオレには家族がいない、現実世界にも待っている人間はいない。家族も、友人も、恋人もオレにはいない」
「うん……」
「誰よりも弱い人間であるオレは、誰よりも前に進んで敵を斬らないとならない。そうするべきだと理解していた」
そう感じる理由は、今となってはわからない。
ただ言えることは、己はここで止まるべき人間ではないし、許されるべき人間でもない。そう彼の心が叫ぶように訴えていた。
戦う理由はとうの昔に抜け落ちており、懐かしくも汚し難い光景に移る人物達が誰なのかも思い出せない。
瞼を閉じる。
瞼の裏に映るのはとある光景。
見知らぬ黒髪の少年プレイヤーと言い争いをしている。
呆れた様子で仲裁に入るやはり見知らぬ桃色の髪の女性。
そして、視界の端には、困ったように笑うこれまた見知らぬ――――栗色の女性の姿。
それが誰なのか。
それがどこで、何もかも取りこぼし抜け落ちている。何も、思い出せない。
しかしその光景は尊いものであり、誰にも穢してはならない。そう思わせるには、充分な光景だった。
「所詮、適材適所。誰よりも向いているから、オレは進み続けてきた」
だが、と言葉を区切り瞼を開ける。
空を見上げる蒼い瞳には、これでもかというくらい綺麗な青空が広がっていた。
「ここに来て、オレに死んでほしくないとか言いやがる馬鹿野郎が現れた」
「…………」
「本当に馬鹿なヤツ。オレなんぞの為に、必死こいて後を追ってきやがる……」
何度、彼は罵声を浴びせたかわからない。
付いてくるな、と。何度怒鳴ったか覚えていない。
それでも少女は――――紫ローブの娘は何度言っても、彼の後を追随することを止めなかった。健気とも捉えることも出来る行動、その点で言えば少女は自分よりも頑固である、と心の中でユーキは自嘲してみせた。
「アイツだけじゃない、馬鹿はまだ他にもいた。多分“アイツら”も―――――」
何者かは思い出せない連中。
記憶にはないが、彼らも自分のことを追い掛けている。そしてその理由は、自分が死んでほしくないから。そんな理由で、彼らはあとを追いかけている。そんな確証がある。
「誰も巻き込まない筈だった、誰にも迷惑をかけない筈だった。なのに、こうしてオレは巻き込んじまっている……」
「…………」
「オレが死んだ所で誰も気にも留めない。だがそれは違った。居たんだ、オレが死んだら悲しんだり怒ったりする連中が。オレはそれに気付けなかった、気付くことを放棄していた。認識しちまったら、オレは前に進めなくなる……」
「…………」
「所詮、攻略も、進むことも、オレの独りよがりだった。勝手に決断して、勝手に託して、勝手に進んで、勝手に巻き込んだ。オマエらとアイツらを、巻き込んだ」
拳を握り、奥歯を噛みしめ、肩を揺らす。
その怒りの矛先は自分自身。自分勝手に振る舞っていた情けない自分自身に向けられていた。
「このまま進むのは簡単だ。だがオレが進めば、またオマエらを巻き込む」
「……そう、だね」
「オレにはそれが我慢出来ないらしい。攻略しなけりゃ、アイツらが追いかけてくる。かと言って、進んだままならオマエらが傷つく。正直な話、オレにはどうすればいいのかわからない」
それが、茅場優希の本心だった。
進んでも、立ち止まっても、彼自身ではない他人に火の粉が降り注ぐ。
もはやどこに進めば良いのか、優希にはわからない。
だからこそ、彼は主街区が見渡せるこの丘で、立ちすくんだのだろう。
見晴らしの良い場所で、目的地を探すように。その姿はまるで、何者かとはぐれてしまった迷子のようでもある。
「アナタは……」
ここで、ストレアは口を開いた。
静かに聞いていた彼女は、静かな声色で口を開く。
「アナタは、独りにはなれない」
「…………」
「だって、アナタは他人に甘すぎるし、自分に厳しすぎるもん。そんな人が独りになれる訳がないよ」
彼女は今までの彼の行動を思い出していた。
茅場晶彦を斬ると言う明確な目標があるのにも関わらず、幼馴染を一人には出来ないと共に行動し、戦えなくなったプレイヤーをはじまりの街まで護衛し、一人で折れかけていたはじまりの英雄をパーティーに誘う。
それからも、彼は他人に甘い行動を取っていた。近隣のフィールドに他のプレイヤーが狩りに行けなくなるという理由で、はじまりの英雄とモンスターキラー討伐に趣き、討伐後の裏で自分ではなくはじまりの英雄の名を広めるように尽力を尽くす。結果、今まで白い目で見られていたベータテスターへの風当りが緩和され、むしろ尊敬の眼差しを向けられるようになった。
彼がパーティーから離れても、甘いのは変わらない。プレイヤーキラーに襲われているプレイヤーを助けて、眼に映る挫けそうなプレイヤー達に手を差し伸ばしてきた。当然、全員が感謝してきたわけではない。時に恐れられて、時に何でもっと早く助けてくれないと理不尽な怒りをぶつけられることもあった。だが彼は、他人に手を差し伸ばし続けた。
そんな人間が、独りになれる訳がない。
恐ろしく他人に甘く、自分に対して厳しすぎる人間が、独りになれる訳がない。人の縁が、そんな簡単に切れるわけがないのだ。
それをストレアは理解していた。今までずっと、茅場優希という人間をモニタリングしていた彼女だからこそ、理解出来た。
「もう、休もうよ。このまま進み続けたら、いつか必ず壊れる。アナタの使っている力は、そういうモノなんだよ?」
「オレが使う力、オマエはわかるのか」
ユーキの問いに、ストレアは頷いて。
「カーディナルのデータベースで見たことがある。意思の力で、システムを超越するモノ。本来あり得ない現象を引き起こす力。アタシはそれを使える人を知っている」
「誰だ?」
「はじまりの英雄とアナタ。モンスターキラーを倒した時、はじまりの英雄が使ったスキルがそれに値するモノだよ」
彼は思い出す。
とは言っても、その記憶は微かなモノだ。モンスターキラーを討伐したのは覚えているが、それが誰と共に立ち向かったのか覚えていない。だが確かに、モンスターキラーをトドメを刺すとき、妙な力を使っていたことを覚えている。
片手剣が不自然に光、四回の連撃である筈のソードスキル『バーチカル・スクエア』が同時に四回叩き込まれていた。
ストレアは視線をユーキの背から、地面へと向けて顔を俯かせて、どこか口にするのが戸惑うようにして。
「本来『力』を使っても、アバターに何も起こらない、と思う。だけど、アナタの力は意思が強すぎるの」
「…………」
「自分すら壊すほどの強すぎる意思が、アナタ自身を壊す。だからそうなる前に――――!」
休んで欲しい。
そう言う前に、ユーキは遮るように口を開く。
「それよりも、アイツはどこに行った?」
彼が言うアイツとは誰なのか。
そんなもの問うまでもない。ユーキを兄と慕う彼女に他ならない。
彼女がユーキの後を追いかけるのは理解できる。
だがその逆は? つまりユーキが彼女を傍に置いていた意味が、ストレアに理解出来なかった。
「……一つ教えてほしいな」
「……なんだ」
「どうして、あの娘を傍に居させたの?」
考えてみれば見るほど奇妙なものだった。
ストレアには『ユウキ』というプレイヤーネームを明かしているにも関わらず、ユーキには何一つ明かしていない。
ユーキからしてみたら彼女は、自分に付いて回る目的も、名前も、自分の素顔すら公開していない。なのに、何故ユーキは怪しむこともせずに傍に置いていたのか。ストレアにはわからなかった。
だがユーキは特別なことを言うわけもなく。
「決まってんだろ――――」
当たり前のことを口にするような口調で。
「――――アイツが、オレの妹だからだ」
「気付い、てたの……?」
その背中を見つめて、ストレアは思わず眼を丸くさせる。
対するユーキは淡々とした口調で。
「二層からアイツは付いて来た。オレも最初は流石に怪しんだ。素顔すら見せねぇヤツだ、何かしら疑うに決まってんだろ」
「疑うって……?」
「オレを罠に嵌めようとしてんのか、はたまたオレを知る人間が恨みを晴らそうとしてんのか、それとも――――茅場のクソッタレの差し金か」
当時の状況を振り返り、本当に怪しいヤツだった。
そんな感想を心の中で漏らして、ユーキは続ける。
「確信に変わったのはさっきだ。十七層のフロアボスと戦っていたときに言っていたアイツの言葉に、オレは漸くわかった。父さんの言っていた妹がコイツなんだ、って気付いた」
「そうなんだ……」
「あぁ、そうだ。しかし本当に、参った。まさかここで、家族に会うとは思っても見なかった……」
帰りを待っている人間が居る筈がない。
彼はそう思い込んでいたのに、ここに来て妹が現れ、しかもその妹から死んでほしくないと面と向かって言われてしまった。
だからこそ、彼の心が迷い始めてしまった。
進めば残されたたった一人の妹が悲しむ、しかし進まなければならないと心が訴える。どうすればいいのか、彼は迷ってしまった。
あの分だと、彼女も自分が兄だということを知っている。
知っているからこそ、必死に追ってくるし、死なせたくないと言ったのだろう。ユーキは静かにそう受け止めて。
「それよりも、アイツはどこにいる?」
「えーっと……」
ストレアはメインメニュー・ウィンドウを開き、フレンドリストの『ユウキ』の部分をタッチする。
そして直ぐに、マップにどこにいるか表示されて、ストレアは読み上げた。
「第十八層の迷宮区入り口だよ」
PM14:05 第十八層 迷宮区入り口
「…………」
紫ローブの娘――――ユウキは物陰に隠れて、耳を澄ましていた。
意識は三人の男性のプレイヤーに向けられている。
一人は白銀のフルプレート、腰には両手剣が装備されている。
もう一人は、黒いマスクで顔を覆っている男性。
最後の一人は、紅眼で紅髪の髑髏を模したマスクを着けている。
何やらチグハグのパーティーで、会話もどこか自然のものではない。組んで日が浅いことが明白な、どこか意思の疎通が完璧に出来ていないものである。
そして何よりも注目するべき点はそこではなかった。それはカーソルの色にある。
白銀の鎧の男のカーソルはグリーン。普通のプレイヤーで何の問題もない。ただし、他の二名はどうだろうか。それはグリーンではなく――――オレンジ。それは何かしらの犯罪を行った決定的な証拠である。
ユウキが彼らを見かけたのは偶然だった。
転移門ではなく、第十七層から続く階段から彼ら登ってくるのを見かけた。何よりも、オレンジの二人は見覚えがある。それはかつて、ユーキの仲間を襲った二人でもある。一人は何とかユウキが守ったが、オレンジの二人には逃げられてしまった。
彼らが他のプレイヤーに危害を加えるのは眼に見えている。だからユウキは物陰に隠れて、彼らを監視していた。
「よし、段取りを確認する」
カーソルがグリーンの男が、これみよがしに大きな声を上げて続けた。
「野郎が来たら、俺を襲っているフリをする。そしてお前らに気を取られている隙に、俺が後ろからブスリと殺る」
「あークラディールさん、ちょっといいッスかねー?」
「何だジョニー?」
クラディールにジョニーと呼ばれた黒マスクの男性プレイヤーはヘラヘラ笑いながら問う。
「クラディールさんの言った通り来るのかなーって。」
「当たり前だろ、野郎は攻略の鬼だ。絶対にここを通る!」
「そうッスかねー……?」
あまりの必死な言動に、ジョニーはオーバーリアクション気味に肩を竦めた。
実のところ、彼も同じオレンジカーソルの紅眼の男も、乗り気ではなかった。
彼らがクラディールに協力するのは仲間だからと言う訳ではない。彼らにクラディールに協力してやれ、と指示されたからに過ぎない。だが指示されたのはそれだけではない。もっと別な理由もあるのだが、当の本人であるクラディール自身は知らされていない内容。
だからこそ、オレンジ二人からしてみたら、クラディールは滑稽に映った。まるで道化のようで、おかしいことに何一つ気付いていない。
我慢できなかったのか、紅眼の男性は小馬鹿にしたように笑みをこぼした。
「ザザ、テメェ何を笑っている……?」
ギロリ、とクラディールに睨まれても紅眼の男――――ザザは調子を崩さない。
淡々とした口調で、問いを投げた。
「アンタの、言った方法で、アイツがアンタを、助けると、思っているのか?」
「絶対に助けるに決まっている。あのクソなら――――アインクラッドの恐怖なら必ずな」
黙って聞いていたユウキは息を呑んだ。
アインクラッドの恐怖、つまりそれは彼女の義兄であるユーキに他ならない。そして会話の内容から、彼ら三人はどういう理由かは知らないが、ユーキを狙っておりこの場に集結していることがわかった。
バクバク、とユウキの胸の鼓動が忙しなく動き、頬から冷や汗が流れる。ありもしない心臓のあたりをローブの上から握りしめて、震える手を落ち着かせる。
そんなユウキの存在と対象的に、ジョニーが呑気に問いを投げた。
「でも本当に助けるのかなー?」
「絶対に助けるって言ってんだろ。あの野郎は健気にも、PoHに騙された雑魚共が襲ってた奴らを助けて回っていたって話じゃねぇか」
「誰情報ッスか?」
「PoHに決まってんだろ!!」
ジョニーは憐れむような視線を送り、ザザは小馬鹿にするように小さく笑う。
騙された雑魚共、とクラディールは評していたが、全てを知っているザザから見たら哀れにも程があり、滑稽にも程があった。
自分すら利用されていることに気付いていないピエロ。ザザから見たクラディールは完璧にそれである。何よりも面白いのは、クラディールのPoHという男に対する信頼であった。クラディールと言う男はPoHを本気で信頼しており、アイツだけは自分を裏切らないと思い込んでいた。
何も知らない。
クラディールが信頼する男がどれほどの狡猾な人間なのか、クラディールは何一つ理解していない。
だからこそ、ザザは笑みを浮かべる。
滑稽なピエロに嘲笑を向ける。
「ザザ、何が言いたい……?」
「別に、何でも。ただ――――」
ザザの紅い目がとある場所に向けられる。
そこには身を潜ませて、聞き耳を立てていたユウキが居た。
「そこに、ネズミが紛れている」
「えー、マジかよ!」
ジョニーが大げさに驚き、ザザはそれに対して頷いて。
「オレの索敵に、引っかかっている」
「あーあ、コレはマズイッスよクラディールさん。全部聴かれたんじゃね?」
「だ、誰だ!」
呑気に構えるオレンジの二人に対して、クラディールはどこか慌てたように叫ぶような大声を上げた。そして情けないことに、彼は自分から前に出ずに、オレンジの二人の背中へと移動する。
ユウキは静かに、物陰から姿を表した。
右手には片手剣が既に握られており、いつでも動けるように抜剣している。
盗み聞きしていたのが少女であるとわかるとクラディールはホッと胸をなでおろすも、対称的にオレンジの二人は身構える。
紫ローブの娘が誰なのか、理解しているように油断なく警戒態勢に入った。
そのままの態勢で、ジョニーは短剣を構えて。
「こんな所で会えるとは思ってなかった」
「あの時、邪魔をした借り、ここで返してやる」
ザザも自身の獲物であるエストックを構える。
しかしユウキの意識は二人に向いていなかった。彼女は二人ではなく、後ろで安心しているクラディールに向けて。
「――――関係ないよ」
静かな声で、淡々とした口調で。
「君が、にーちゃんを傷つけることは絶対にない」
それだけ言うと、ユウキは剣先をクラディールに突きつける。
そして告げる。絶対の意思を持って、彼女は事実だけ告げた。
「――――にーちゃんの背中は、ボクが守る!!」