ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 こういう裏話の方がキーボード打てってテンションが上がる。何故?
 次回も近いうち更新する予定です。


幕 間 妹として、兄に出来ること

 

 2023年2月15日

 PM15:45 第十八層 主街区『ユーカリ』

 

 

 攻略ギルド『アインクラッドナイツ』が壊滅の危機あり、という連絡が『鼠のアルゴ』から連絡が入った数十分後。

 主街区『ユーカリ』ではどこか忙しなく、プレイヤーがざわついていた。。『アインクラッドナイツ』はソードアート・オンラインでも規模が大きい部類のギルドである。そのギルドが、今では壊滅状態にあるという。

 ある者は助力しようと述べ、ある者は様子を見るべきだと静観を保つ。何も準備もせずに突撃するからだ、と小馬鹿にする者もいれば、我関せずにクエストを行うプレイヤーもいた。

 壊滅の危機にあるという報道は、恐らく下層にも知れ渡っていることだろう。

 

 そんな中、忙しなくプレイヤーが行き来する主街区で、ユウキとストレアは第十八層の主街区『ユーカリ』のとある宿屋へと足を運んでいた。問題の迷宮区ではなく、宿屋に向かっているのは何も『アインクラッドナイツ』を見捨てたからというわけではない。それよりも先に、行わなければならない問題を彼女達は抱えていた。

 

 

「ユウキ、本当にいいの?」

 

 

 前を歩く彼女に向かって、ストレアは心配するように尋ねた。

 問われた本人であるユウキは、トレードマークである紫のローブを羽織っているものの、いつものように頭から目深く被っている状態ではない。

 いつもの天真爛漫の様子は鳴りを潜めて、眼もどこか真剣なモノと化している。その様子は、使命を背負うような、並々ならぬ雰囲気を纏っていた。

 

 ユウキはストレアの問いに「うん」と迷うことなく頷いて見せて。

 

 

「ボクにはこれしか出来ないから」

「……あの人に、全部任せてもいいの?」

 

 

 今までユウキが背中を守ってきたのに、と暗にストレアは語る。

 彼女は『人間』という生き物は、ここで尻込みする生き物だと、カーディナルから教わった。自己の保身、自己の栄誉、自分のことしか考えてない。他人のことなど二の次で、恐怖をバラ撒くのが人間であると。

 しかし彼女は――――ユウキは違った反応を見せる。

 

 自分に出来ることを精一杯考えた結果、彼女は決断をする。

 その結果が、どんなものになろうとも。例え兄と慕う者から疎まれることになるうとも、問題ではないと言うかのように。これで兄が傷つくことがなくなるのなら、それでいいと言うかのように迷うことなく、頷いてみせた。

 

 

「ボクは、にーちゃんが傷つかないなら別に良いんだ」

「…………」

「ボクが願うのはお門違いなのはわかっているけど、にーちゃんには幸せになってもらいたい。にーちゃんの幸せはあの人が居ることなんだと思う。ボクが一緒に居れなくても良い、にーちゃんが笑っていてくれれば、それだけで充分だから……」

 

 

 だから悔いはない。

 ユウキの結論に、ストレアはどうするべきか迷っていた。

 

 少なからず、ユウキの兄は彼女本人のことを想っていることはわかっている。

 だがしかし、それをユウキ本人に伝えていいのかどうか、彼女は迷っていた。ここで真実だけ言うのは簡単である。それだけではユウキは信じないだろう。ならば誰の言葉なら信じるのだろうか。決まっている、ユウキの兄本人の口から言わなければ信じないだろう。

 

 だからこそストレアは一肌脱ぐことにした。

 器用ではない妹と不器用な兄の背中を押すために、自分が輪に入れなくても良いという似たような選択をした兄妹の為に、彼女は協力する。

 ユウキのやりたいように、とある人物達への接触に協力する。

 

 

「しょうがないなー、アタシも手伝うよ」

「うん。ありがとう、ストレア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして彼女達は目的の宿屋前へと到着した。

 とある人物達へ接触するために、ストレアは『鼠のアルゴ』から情報を手に入れている。

 

 とある人物達、その人数は三人。少年プレイヤーが一人、少女プレイヤーが二人。

 その人物達がが十八層に到着したのは、つい数時間前である。そして待ち合わせも、ユウキ達が目の前にいる宿屋となっている。

 

 

 そんな、ユーカリの中にある宿屋。

 どうやら宿屋の中に酒場があり、そこにはプレイヤー達が点々と席に着席しており、NPCである店員は忙しなく動き注文を取っていた。

 

 そんな中、とても酒場の雰囲気から浮いている少年プレイヤーが一人、少女プレイヤーが二人。

 酒場とは本来、成人した者たちが訪れる場所である。それを考慮すれば、彼女達は明らかに浮いていた。

 丸型のテーブルを囲うように、三人がそれぞれ座っていた。

 

 

 ――あの人達だ。

 ――はじまりの街で、にーちゃんと一緒に居た……。

 

 

 念のため、確認するようにストレアをチラッと見ると、ストレアは笑顔で頷いてみせる。

 目的の人物達が、彼女達である。

 

 ユウキは確認すると、スタスタと軽い足取りで目的の人物達の方へと歩を進める。

 ここで彼女達を、兄の前まで連れていけば何と言われるのか、ユウキにはわかっている。恐らく、自分は怒られてもう二度と一緒に行動させてはくれないだろう、とユウキは感じ取っていた。

 だがそれでもいい、と。これで兄が足を止めてくれるのならそれでいい、とユウキは迷うことなく断言できる。二度と兄と呼ぶチャンスを不意にしようと、ユウキには後悔はなかった。このまま進み続けて、兄が死んでしまうよりかは、何百倍もマシなのだから。

 

 そんなユウキに気付いた栗色の髪の毛をした少女プレイヤーが席を立って。

 

 

「貴女がアルゴさんが言っていた人、よね?」

「う、ん……。君がアスナさんだね?」

 

 

 そうだよ、という少女――――アスナというプレイヤーは微笑みを浮かべて応じた。

 同性であるユウキから見ても可愛いと思える笑みを浮かべて、そしてどこか雰囲気がユウキの亡くなった姉に似ており、少しだけ言い淀む。

 

 アスナは深く追求せずに、優しい視線で問いかける。

 

 

「それで、わたし達に用があるってアルゴさんから聞いたんだけど、何かな?」

「…………」

 

 

 意を決して、ユウキは口を開く。

 

 

「――――ユーキさんについて、話があるんだ」

 

 

 それだけで伝わったようである。

 今まで静観していた黒髪の少年は反応すると、桃色の頭髪をした少女はアスナをどこか心配するように見つめる。そしてアスナは真剣な表情に変わると。

 

 

「ユーキ君が、どうしたの?」

「……その前に、今アインクラッドナイツがフロアボスに挑んでいること知ってる?」

「うん、聞いてる。わたし達も助けに行こうとしてたけど――――」

「――――そこに、ユーキさんも向かってると思う」

 

 

 ユウキとストレア以外の三人が三人共、息を呑む。今まで追ってきた人物の背中が見えてきた、手を伸ばす距離に少年が居る。そう考えたら、彼女達が反応するのも無理はないだろう。その為に彼女達は追いかけてきた、その為にここまで追いついてきたのだから。

 

 それを知っているように、ユウキは自分の発言を撤回するように首を横に振ると。

 

 

「ううん、向かってる。絶対に向かってる」

「……どうして、そう言い切れるの?」

 

 

 我ながら、意地の悪い問いだとアスナは思う。

 何故なら――――。

 

 

「だって、ユーキさんだもん」

 

 

 ユウキは困ったように笑った。

 

 そう。この問いに答えなどない。

 ユーキというプレイヤーは、茅場優希という人間を知っていれば、ユウキが言った答えになる。

 何故、自分の危険を顧みず助けに向かうのか。それが茅場優希だからという答えになっていない答えになってしまう。

 

 何だかんだ文句言って、建前を並べて、意地の悪い言葉を吐き出して、茅場優希は困った人間に手を伸ばしてしまうのだ。その行動に理由などない。身体は勝手に反応してしまうかのように、何も出来ない自分に苛立ちを覚えて、片端から手を伸ばしてしまう。

 それは優希が常日頃、お人好しと蔑むそれであった。結局のところ、他人に甘い彼もまた『お人好し』の部類に過ぎない。それは一人で行動するようになってからも同じことだ。

 

 茅場優希と言う人間は――――どこまで行っても彼だった。

 それをアスナもユウキも熟知している。

 

 困った笑みから、悔しそうに何かに耐えるような表情へ。

 ユウキは変化を遂げて続ける。

 

 

「これからもあの人は、そうやって進み続ける。これ以上進んで壊れてしまうってわかっているのに、進み続けてしまう」

「……それがユーキ君、だもんね?」

「うん。ボクがいくら言っても聞いてくれなかった、ボクの声なんて届かなかった――――」

 

 

 でも、と言葉を区切る。

 その眼には涙を浮かべており、悲しそうであり悔しそうでもあり、自分の無力さを呪うような眼でアスナに懇願する。

 

 

「――――君は違う。君なら、アスナさんならきっとユーキさんに届く。ボクなんかじゃダメだったけど、君の言葉なら絶対に届くと思うんだ!」

「……」

「だからお願い、お願いします! ユーキさんを、にーちゃんを助けて下さい!」

 

 

 目をギュッと閉じ、勢い良くユウキは頭を下げる。

 しかし直ぐにアスナは行動を移していた。両手がそっと優しくユウキの両肩に触れる。それは華奢なもので、とてもユーキの後を追いかけてきた強者だとは思えない。だがアスナは、アスナ達は彼女を知っている。いつも『アインクラッドの恐怖』の後ろで背中を守ってきた彼女の存在をアルゴから教わっている。

 

 

「……聞いてもいいかな?」

「……なに?」

 

 

 頭を下げたまま答えるユウキに、アスナは問う。

 

 

「君が付いて来ることに、ユーキ君は何か言ってた?」

「何も言ってないよ。ただ、ボクが倒れた時とか、ボスに付いていこうとしたら凄い怒ったよ?」

「……そっか」

 

 

 どこか安心するように言葉を漏らすと、アスナは優しい声で。

 

 

「顔を上げて、ユウキさん」

「……――――」

 

 

 ユウキは顔を上げる。

 瞬間、言葉を失った。アスナの顔を見て、彼女は言葉を失った。

 

 彼女は――――微笑んでいた。

 それは慈愛に満ちた表情で、人間とはこんなにも優しい表情が出来るのか、とユウキは感嘆する。母のような、聖母のような、何もかもを許すようなそんな笑みのままアスナは口を開く。

 

 

「大丈夫、貴女の声は間違いなくユーキ君に届いてるわ」

「そん……な……」

 

 

 そんな訳ない、と否定する言葉の前にアスナは首を横に振り否定する。

 

 

「ううん、届いてる。貴女が倒れて怒ったのも、ボスに付いてこうとして怒ったのも、貴女のことを大事に想っているからよ」

「にーちゃんが、ボクを……?」

 

 

 そんな訳ない、そんな訳ない筈だとユウキは否定する。イヤイヤ、と首を弱々しく横に振って否定する。

 それを認める訳にはいかない。自分は誰よりも彼に恨まれなければならない。想われてはいけない、何故なら彼の幸せを奪ったのは自分なのだから。そういった自責の念が、ユウキの華奢な両肩に重くのしかかる。

 

 だがそれはアスナが許さなかった。

 包み込むように、ユウキを抱き寄せる。何もかもから守るように、深く包容しながら彼女は深く想いを言葉に込めて。

 

 

「ユーキ君のことを守ってくれて――――ありがとう」

「――――――!」

 

 

 それが、限界だった。

 溜めていた涙が溢れる。ポロポロと音をたてるかのように大粒の涙が溢れ始める。

 誰かに感謝してほしかった訳ではない、誰かに認めてほしかった訳ではない。だがアスナの感謝は、ユウキの心を洗い流す聖水のようだった。

 

 

「ユーキ君は、無茶ばかりするから大変だったでしょ?」

「うん、でも楽しかった。ボク、にーちゃんと一緒に冒険出来て楽しかった……」

 

 

 涙を眼からこぼし、震える声で漏らすユウキの背中を、アスナは優しくポンポンと叩いて頷いて同意する。

 

 

「今度はわたしも守りたいの。だからユウキさん、協力してくれないかな? 一緒にあの人を守っていこう」

「でもボクに出来るかな?」

「出来るよ」

 

 

 自信満々に言うと、一度アスナは抱き寄せていたユウキから離れると、右手を差し出した。

 一緒に手を取るように、共に赴くように、彼女は手を差し出したまま。

 

 

「わたしとユウキさんで、無茶ばかりするあの人を守っていこう?」

 

 

 それは光のようだった。

 何もかもを照らすような、何もかもを包むかのような優しい光。何者も触れてはならないような、尊い何かを感じる。

 

 そこでユウキは納得する。

 これが、にーちゃんの守りたかったモノだったんだ。と彼女は納得して、差し出された右手を握る。

 

 

「ユウキ」

「え?」

「ボクのことはユウキって呼んで欲しいな。さん付けは嫌だよ?」

「うん、わかったわユウキ。わたしのこともアスナでいいからね?」

「わかったよ。よろしくね、アスナ!」

 

 

 にこやかに握手を交わす二人を静観していた、黒髪の少年が席を立つ。

 それから早る気持ちを抑えるかのように口を開いた。

 

 

「それじゃ、行こうか。アイツが居るんだろ?」

「空気読めない、って言われない?」

 

 

 対して、ユウキを見守っていたストレアがジト目で黒髪の少年を睨めつける。とはいっても、どこかその様子はどこか楽しそうであり、仲間を見つけたような笑みを口元に浮かべている。

 黒髪の少年が反論する前に、ストレアは人懐っこい笑みを浮かべて。

 

 

「キミが『はじまりの英雄』のキリトでいいんだよねー?」

「……まぁ、そう呼ばれるときもあるな」

 

 

 黒髪の少年――――キリトは居心地が悪い調子で言葉を漏らす。どうやら彼は『はじまりの英雄』と呼ばれるのに未だに慣れていない様子であった。

 そんなキリトの周りをストレアが「ふーん、へー?」と鑑定するようにグルグルと回り始める。

 

 

「……何だよ?」

「べっつにー? アタシのお姉ちゃんがキミに興味があるから、どんな人かなーって思っただけ。んー……、及第点かな?」

 

 

 姉とは誰だ、とキリトが問いかける前に、今度は彼の後ろからどこか面白くなさそうな声で、桃色の髪の少女が口を開いた。

 

 

「さすがキリト先生、モテモテねー、モテるわねー?」

「……リズ、どうして俺を睨むんだ?」

「……鼻の下、伸びてたわよ? どこに眼を向けてるんだか」

「伸びてない、伸びてないぞ! クラインじゃあるまいし!」

「どうだかねー? 男は狼なのよ、気を付けなさいって言われたし」

 

 

 誰にだよ!というキリトの抗議を無視して、桃色の髪の毛の少女――――リズベットがユウキに話しかける。

 

 

「あたしはリズベット、リズでいいわ。あたしもユウキって呼んで良い?」

「うん、全然良いよ。よろしくね、リズ!」

 

 

 元気そうに答えるユウキに、姉御肌の性が暴れ始めたのか、抱きしめたい衝動に駆られる。だがそれを何とか押さえ込み問う。

 

 

「第一層であたしを助けてくれたのユウキでしょ?」

「うん、そうだよ?」

「ありがとう!」

「わわっ……!」

 

 

 結論から言うと、リズベットは勝てなかった。衝動のまま彼女はユウキを抱きしめる。

 

 紫のローブに、聞き覚えのある声。

 かつてオレンジプレイヤーからリズベットを救ったのはユウキであった。

 

 それがわかるや否や、リズベットは抱きしめる。

 感謝、そして圧倒的妹力の前に、リズベットは抱きしめるという選択肢以外存在しなかった。

 

 

「強くて可愛いとか、もう何なのよアンタ!」

「苦しい、苦しいよリズぅ……」

「アンタ、あたしの妹にならない?」

「だ、ダメだよ! ボクはにーちゃんの妹だもん!」

 

 

「でもまだ及第点だからね。アタシはユイを任せた訳じゃないからね?」

「だ、だから! そのユイって誰なんだ!?」

「あっ、それとアタシはキリトに興味ないから」

「さてはアンタ、人の話を聴かないヤツだな!」

 

 

 騒がしく、されど楽しそうに会話する様子を見て、アスナはクスクスと笑みを零す。

 そして同時に考える。

 

 

 ――ここに、君がいたら何ていうかな?

 ――どんな反応するかな?

 ――「馬鹿げてやがる」って呆れるかな?

 ――「鬱陶しいヤツらだ」って面倒くさそうにするかな?

 ――それとも……。

 

 

 笑って、くれるかな、と。

 アスナは心の中で、ここにいない者に尋ねる。しかし返答はない、何故ならここに彼はいないのだから。

 誰よりも前に進んでしまった彼は、この場にはいない。であるのなら、自分達が追いついてしまえばいいことである。そしてそれも今なら出来る。この十八層に、彼が居るのだから。

 

 ならば――――アスナ達の取る行動は決まっていた。

 

 

「よし、行こうみんな――――!」

 

 

 凛とした声が、響き渡る。

 アスナは全員の顔を見渡した。

 ストレア、キリト、リズベット――――そして、ユウキ。

 四人の視線がアスナに集中する。彼女はそんな中、右手を差し出す。

 

 

「――――ここにユーキ君が居る」

 

 

 応じるように、アスナの右手の甲の上に、各々手を重ねる。

 キリト、リズベット、ストレア、ユウキが手を重ねるのを見て。

 

 

「行こう。何もかもを救う為に――――!」

 

 

 全員、同時に差し出した手を握ると、拳を合わせる。

 彼女達が向かうのは迷宮区最上階。

 

 一斉に、彼女達は駆け出した――――。

 

 

 

 

 




 んー、アスユウ(アスナ×ユウキ)いいぞ。よくない?
 んー、リズユウ(リズ×ユウキ)もいいぞ。よくない?

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