ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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長くなったので、三話に別けます。
残りの二話は、5/8 0時頃 投稿予定ですので、よろしくお願いします!

ルナナンさん、ルナナンさん
誤字報告ありがとうございました!


第13話 決闘 ~Re:1~

 ~エギルが話す、二人の少年~

 

 え、何だと?

 キリトとユーキどっちが強いか?

 そんなもの俺にはわからんね。俺から見たら、アイツら同じような化物だ。いいや、化物に可哀想かな?

 どっちも凄いじゃダメなのかこれ。あぁ、ダメか。どっちが強いか知りたいって?

 

 にーちゃんの方が凄いもん? まぁまぁ、ユーキの妹も落ち着けよ。

 キリトの方が凄い? クラインも何をムキになってるんだお前。

 

 だがそうだな。

 俺もちょっと気になってきた。

 ユーキが一緒に居た頃は、勝負ばかりしていたからなアイツら。

 同じ勝敗なんだろ?

 

 そういえばリズに聞いたが、今頃アイツら勝負してるんだっけ? 

 どうして戦うのかわからないとか言ってたな。仕方ないだろう、男ってのはそういうもんだ。コイツにだけは負けたくない、そんな人間が一人や二人いるもんだ。

 それにアイツらは別格。不器用で、うまく言葉に出来ないときた。だったらぶつかり合うしかない。言葉に出来ないのだから、行動で示すしかない。

 

 え、そんなことはいい? どっちが強いのか知りたい?

 ……お前もめげない奴だな。

 

 まぁ、ユーキとはリアルでの付き合いだ。俺の店に、アスナと一緒に何度も遊びに来てくれている。いわゆる常連って奴だ。

 俺はユーキが負ける姿が想像できないね。曲げないというか、絶対に折れないような奴だからな。まぁ、頑固なヤツなんだよ。

 

 アイツが負けるってことは、アイツの心が折れたってことになんじゃねぇかな――――?

 

 

 

 

 

 

 

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 2023年2月15日 PM19:02

 第十八層 主街区『ユーカリ』 中央広場

 

 

 キリトとユーキ。

 二人がこうして対峙するのは数えること66度目。彼らは様々な方法で、あらゆるルールで彼らは激突してきた。数ある激突、しかし理由は単純なモノ。単純に『この男に勝利し、対等な立場になりたいから』という簡単なモノに過ぎない。

 

 確かに、二人の最初にあった胸中はモノは違った。

 お互い、二人はいがみ合っていた。自分が傷ついても構わない、だけど周りの被害は最小限。もっと自分を甘やかしてもいいのに、自分に厳しい。そんな彼らを彼らは嫌っていた。それは同族嫌悪にも似た感情だった。

 

 しかし今は違う。

 

 

 ――認めてやるよ。

 ――オレはオマエに憧れてる。

 ――オレにはない強さってヤツをもってる、オマエを羨んでいる。

 

 

 キリトの強さ。

 それは類まれなる『反応速度』でも、物事を見通す『洞察力』でもない。真にキリトの武器となっている骨子、それは――――不屈の精神性であると、ユーキは断ずる。キリトは別に精神が強い、というわけではない。歳相応で、困難にぶつかったら折れることもある。キリトの強さはその後から生じるものだ。

 彼は折れても、どんなことがあっても、必ず立ち上がる。デスゲームに心が挫かれようと、恐怖を叩き込まれ足が竦もうと、仲間が一人で進もうと、彼は立ち上がり前進する。

 

 見る人間が違えば、その程度の強さと一蹴するかもしれない。

 だがユーキにとっては、キリトのあり方は充分に脅威に映り、憧憬の念を抱かせるには充分なモノであった。

 自分もキリトのように、最後には立ち上がれる強さを持っていれば、こんな腐った人間になどにならなかっただろうと自嘲する。しかしそんな“もしも”の話をするつもりなど、ユーキにはなかった。

 

 今はただ、キリトと肩を並べたい。

 そのためだけに、彼と対峙している。彼に勝利し対等な者となるために、ユーキは剣を握る。

 

 単純明快な理由。

 もはや二人に、言葉など、不要だった。

 

 

「――――――!」

「――――――ッ!」

 

 

 同時に駆け出して、二人の視線が重なる。 

 はじまりの英雄と呼ばれる少年が右手にもっていた片手剣を振り上げる前に。

 

 

「オラァ!」

「グッ……!」

 

 

 アインクラッドの恐怖の両手剣が、勢い良く振り下ろされる。それに合わせて片手剣を水平に構えて何とか受け止めた。

 両手剣と片手剣がかち合い、ガッギィィィ!という甲高い音が中央広場に木霊する。

 

 キリトの顔に浮かぶのは苦悶の表情。

 片手で振るわれた両手剣。それは想像に反して力強く、重く、鋭いモノであった。耐えきれず、キリトは片膝を地面に付き、何とか拮抗する。

 

 力勝負では勝てない。

 その事実を受け止めて、どうすればいいかキリトは思考を巡らせる。

 だが――――。

 

 

「おい」

 

 

 ここで、アインクラッドの恐怖は上から容赦なく。

 

 

「――――このオレがオマエに、考える時間を与えてやると思ってんのか?」

「なっ……!?」

 

 

 黒よりも黒く、墨よりも黒く、闇よりも黒い。

 ユーキの身体から、黒の力の本流が噴出する。それはまるで炎のようで、自身をも焼き尽くす。そんな理不尽な力を、情け容赦なく開放していく。

 

 ユーキの『力』の開放。自身に向けられた憤怒によって発現された力、ここまで一人でフロアボスを攻略することを可能にしていた力を、個人に向けて発現させた。

 だがこれは、個人で振るうには手に余るモノ。その代償は――――自身の崩壊。

 

 キリト達が合流するまで、ユーキは記憶を欠落し、今も左目の視力は回復せず、左手の感覚は喪失している。

 それは毒だ。絶対的な力を行使出来るが、その代償に身体を蝕んでいき、最終的には死を約束されている。誰にも負けない力を手に入れる代わりに、身の破滅が約束された猛毒の類。普通の人間なら使うことを躊躇う力を、ユーキという人間は躊躇うことなく使う。

 

 それも今まで、ユーキ本人死んでも誰にも影響がないと考えがあった故だ。

 今となって彼は知った。自分が死んで、悲しみ怒り嘆く人間がいてくれる存在を彼は知っている。だがそれでも、知っていても――――。

 

 

「――――このまま、叩き潰す」

 

 

 ユーキの剣は防がれている。にも関わらず、そのまま砕き両断する勢いで、ユーキは力を強めていく。

 同時に、頭部を守る『スケープ・ゴート』の奥の更に奥。頭の奥からミシミシという締め付けられるような音が伝わってきた。このまま『力』を使い続ければ何が起きるかわからない。アバターが耐えきれず、砕け散る可能性すらあるかもしれない。

 そうなれば、待っているのは死だ。ユーキの知る何者かが悲観に打ち拉がれているかもしれない。

 

 それでもユーキは、歯を食いしばり『力』の行使を緩めることはない。

 目の前にはキリトがいる。自分は彼と対等に向き合い対峙している。

 それだけで充分、充分過ぎる場面、充分過ぎる理由だった。

 ここは、この場面だけは、この瞬間だけは。

 ――――ありとあらゆる力を使い、本気でキリトと、向かい合わなければ、ならない――――と。

 

 

 このままでは、武器の上から叩き斬られる。

 キリトは予感すると、無我夢中で両腕に力を込めて、叫びながら。

 

 

「ッ、オォォォォォォッ!」

 

 

 一瞬だけ、ユーキの暴力と拮抗する。

 だがそれも一瞬、このままの状態であれば、すぐに押し返されて数秒前の再現となるだろう。

 しかし一瞬、されど一瞬。拮抗できればキリトにって、その一瞬だけで充分だった。

 

 

「……ッ!」

 

 

 その一瞬の隙を突いて、キリトは吹き飛ばされる勢いで横に転がり、態勢を立て直して後方へ飛ぶように距離を開ける。

 たった一合、キリトの片手剣とユーキの両手剣を合わせただけで、力勝負では話にならないことを叩き込む。現にキリトは肩で大きく息を切らし、歯を食いしばりユーキを睨みつける。よく見れば両足が震えており、体力も大きく削り取られている事がわかる。

 

 

「……――――――」

 

 

 兜の奥で、ユーキの唇が微かに歪んだ。

 最初の一撃、自身の力を全力で行使した一撃を振るい、それでも対峙した少年は立ち上がる。それを見て、ユーキは何を想ったのか。彼自身ですら明確な答えを見つけられないまま、ユーキは己の内に眠る意思を更に噴出させていく。それは更なる闇、自分自身すら燃やし尽くす程の黒い憤怒。

 途方もない暴威を身体から噴出させ、彼の背中に収束させる。それは渦となり、一回転二回転三回転、と連続で回転数が増す。

 

 そして右手に石斧剣を突き出して、前に倒れ込むように身体を脱力させる。

 だが同時に――――ドンッッ!と発破をかけたような爆音が響くと、衝撃となり辺りを叩き込む。

 そしてそれは計り知れない推進力となり、ユーキはジェット噴射のような勢いで、キリトへと殺到する。

 

 それは一本の槍のようで、絶対前進する突撃槍のようで、真っ直ぐにキリトへと飛ぶ。

 

 

「な――――――ッ!?」

 

 

 反応速度が思考を凌駕するかのように、考える前にキリトは横に飛び躱す。

 対してユーキは驚くことなく、むしろキリトなら躱して当たり前というかのように、地面に足を付きガガガガッ!と地面を削るような音を立てて、無理矢理停止すると、ユーキも真横に飛ぶキリトへ再度突撃する。

 

 今度は横薙ぎ。

 何もかもを吹き飛ばし、何もかもを削り斬る。そんな途方もない一撃が容赦なく、はじまりの英雄へと襲いかかる。

 

 しかしその一撃は、再び防がれることになる。

 だがただ防ぐだけではない。キリトは受けるのではなく――――。

 

 

「うおおおおッ!」

 

 

 ――――弾く。

 下から上に、片手剣を突き上げて、ユーキの横薙ぎの一撃を突き上げるように弾いた。

 

 思わず、ユーキも面を食らう。

 だがそれは一瞬。直ぐに口元を歪めて、弾かれた石斧剣はそのまま、キリトへと振り下ろされる。

 

 

「ぐっ――――ぁ……ッ!」

 

 

 三度、ユーキの暴力は防がれる。しかし状況は同じではない。

 ユーキの一撃は通らなかったものの、キリトは威力を殺しきることが出来なかったようで、そのまま後方へと勢い良く吹き飛ばされる。

 

 

 その一撃は戦意を削ぐには充分過ぎる一撃だった。

 一人のプレイヤーとして考えられない一撃、一人の人間が振るえる膂力の範疇を超えている。通常のオンラインゲームであれば、チートの一言で片付くかもしれないが、生憎『ソードアート・オンライン』は普通のオンラインゲームではない。チートなどという違法は存在せず、己が鍛え抜いたレベル、剣技がそのまま形となり反映される。

 ユーキの『力』は正にそれであった。己の“絶対なる意思”が力となり、負の感情が黒い炎としてアバターの身体から噴出され、容赦なく敵対する者達を叩き潰していく。その姿はベルセルク、敵の戦意を挫き、敵対する人間に恐怖を与える。故に――――アインクラッドの恐怖。

 

 

 そしてキリトは、そんなユーキの暴威を真正面から味わってしまった。

 だがそれでも――――。

 

 

「―――――――、」

 

 

 ――――はじまりの英雄は、倒れない。

 彼は片膝を突いて、歯を食いしばり、再び立ち上がる。そう、再び立ち上がったのだ。

 一撃を受ける毎に戦意を削られようと、余力などとうの昔に存在しない。最初の一撃を受けてしまった時点で、キリトに余裕などない。先程よりも呼吸は荒く、身体中から汗が滴る。剣を握る手は感覚がないのかブルブル小刻みに震えて、両足は踏ん張りが効かないようでもある。そんな有様になろうと、キリトは立ち上がってみせた。

 

 その姿に、ゾッと。

 ユーキは鳥肌が立つ感覚を覚えた。それは恐れているからではない、嬉しそうに歓喜に震えながら、キリトの存在を認める。

 

 自分と対峙したプレイヤーで、こうして立ち上がってみせた者は皆無だった。誰もが恐怖に震えて、化物を見るような眼で縋るように見つめて、二度とユーキの前に立ち上がることはない。それもそのはず、そうなるようにユーキが恐怖を叩き込んだのだ。立ち上がれないのも無理はない。

 だが、キリトだけは違った。恐らく彼もまた、恐怖を覚えているのだろう。それでも彼は立ち上がった、何度叩き潰してもキリトは立ち上がってみせた。

 

 

 ――やっぱり、コイツは強い。

 ――ストレアは、オレと同じ力をコイツも使えるって言ってやがった。

 ――それは大きな間違いだ。

 ――オレの力は間違った力、コイツの力は正しい力。

 ――負の感情を爆発させるオレに対して、コイツは正の感情を力として奮い立たせる。

 ――オレにはない、正しい力……!

 

 

 兜の奥で、蒼い双眸がキリトを射抜くように見る。

 言葉は粗暴そのもの、しかしその声はどこか歓喜を若干含んでいる。そんな不思議な口調で、ユーキは吐き出すように口にする。

 

 

「健気に防ぐじゃねぇか」

「お前の剣がヌルいだけだろ?」

 

 

 不敵に笑みを浮かべるがキリト自身痩せ我慢であることは重々承知している。

 だがそれでも、眼の前に居る男にだけは弱みを見せないように、キリトは最後までその強がりを貫き続けてみせた。

 

 

「お前の剣じゃ、俺は倒せない」

「デカイ口叩くじゃねぇかよ。オレの剣を読み取ったつもりか?」

「読むまでもないだろ?」

 

 

 キリトの軽口に、今度こそユーキの雰囲気が変わる。

 ただ暴力に任せていた小手調べから、本気で仕留める鋭利なモノへと、わざとらしく変貌を遂げる。

 ユーキから噴出されていた力の奔流は更に勢いをまして、黒く、更に黒く。墨よりも黒く、闇よりも黒く、何よりも黒く、何にも染まらないそれが炎のように噴出する。

 

 ビリビリ、とその脅威を肌で感じる。

 絶対的な意思の具現、アインクラッドの恐怖の絶対的な力の象徴。それらを一身に浴びながらも。

 

 

「来いよ、アインクラッドの恐怖――――」

 

 

 振るえる手で剣を握り締め、その口元は不敵に笑みを貼り付けて、自身も絶対に負けないという意思を秘めて。

 

 

「――――第二ラウンドだ」

 

 

 

 

 

 

 


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