ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 かたかたなるさん、glintさん誤字報告ありがとうございます!

 最近、GGO編を妄想しております。
 とりあえず、またネカマプレイに走ろうとするものの、仕様上それは出来ず少しだけ落ち込むユーキ みたいな?

 あっ、そうだ(唐突)
 リクエスト受け付けております。
 詳しくは活動報告を参照で、何かあれば活動報告に書き込み、もしくはメッセージでお願いします。


第2話 ギルド

 2023年3月2日 AM11:40

 第十八層 主街区『ユーカリ』 オープンカフェ

 

 

 十八層の主街区『ユーカリ』の大通りに面したオープンカフェに『二人』は丸いテーブルのある席に座っていた。

 時刻は昼時。世間一般的に言えば、昼食の時間帯である。大通りには、様々な店が存在していた。それは、武器屋であったり、防具屋であったり、雑貨屋であったりとこの大通りである程度は購入出来るラインナップ。

 そんな中、何よりも多いのは飲食店である。レストランであったり、中華料理店であったり、スペイン料理店であったりと、バリエーションが豊富に揃っていた。

 

 精神をすり減らし、一日必死に生きていく。そんなデスゲームとなってしまった世界において、数少ない娯楽の一つに上げられるのが食事である。勿論、本当に食事をしているわけではない。この世界は仮想世界であり、何かを食べたり飲んだりしても、直接胃袋に入るわけではないのだ。

 単純に、食事している、と脳に直接刺激して錯覚させているだけに過ぎない。それでも、プレイヤー達にとって食事は娯楽になっている。何せ、『攻略組』ではないプレイヤー達の目的は生きることであり、レベルを必死に上げてゲームクリアを目指す彼らとは心構えが違う。

 

 ゲームクリアを目指さなかった彼らは、酷く人間らしく、とても脆い者達だ。

 生きることに必死で、一秒たりとも気が抜けない。

 そんな極限の精神状態でやれるとことと言えば、食事しかない。いくら食べても太りようがないし、好きな物を好きなだけ食べる。そうすることで、ストレスを発散させて精神を安定させていく。

 

 

 そういうこともあり、時間帯が昼時なのも重なり、大通りは非常に賑わっていた。

 数少ない女性プレイヤー同士で食事を楽しもうと店を吟味している者も居れば、男同士の友人のような集団も店の前でどうするかこうするかと相談している。

 

 唯一の娯楽、数少ない楽しみ。加えて、いくら食べても太らないある意味で夢の環境にいる。

 そんな中、女性として一際『太らない』ということに関して敏感の筈である彼女達『二人』――――ユウキとストレアは退屈そうに、とあるオープンカフェの席に座り、人が多く行きかう大通りを眺めていた。

 

 二人が退屈そうにしている、と表現するのは少し語弊がある。

 退屈そうにしているのはユウキだけであり、ストレアはむしろ興味津々といった様子で、プレイヤー達を観察していた。

 

 ユウキの感情は、表情と態度に露骨に現れ始める。

 背中を丸めて、丸いテーブルに顎だけ乗せて、無気力な調子でユウキはストレアに問いを投げた。

 

 

「ねぇ、ストレア。何でそんなに面白そうなの?」

「こんなに人が居るんだよ? 面白いに決まってるよ~」

 

 

 逆に「ユウキは面白くないの?」と不思議そうに問うストレアを見て、ユウキはそのままの態勢で困った笑みを浮かべながら。

 

 

「ストレアってさ、赤ちゃんみたいだよね」

「む~。それって、どう言う意味ぃ?」

「あ、ごめんね。別にバカにしてる訳じゃないんだよ。ただ、何というか……純粋過ぎるというか、汚れを知らなすぎるっていうのかなー? 人をあまり良く知らないようにも見えるんだよね」

 

 

 自分でも何を言っているのかわからない、とユウキは言うかのように身体を起こして、どこか要領が得ないようにそう言った。

 対して、ストレアは少しだけ、眼を丸くさせる。彼女は純粋に、ユウキに驚いていたのだ。その言葉通り、ストレアは人間をよく知らない。知識としてあるが、理解はしていないといった方が正しい。

 

 

 それもその筈。

 ストレアという女性プレイヤーは現実世界に存在しない者。彼女はメンタルヘルスカウンセリングプログラム試作2号であり、単刀直入に言ってしまえば人間ではない。彼女はNPC、つまりはAIである。しかしストレアは、NPCの身でありながら、プレイヤーとして存在していた。その仕掛けは簡単。未使用のアバターを自身に上書きすることで、一人のプレイヤーとして仮想世界に存在する事が出来た。

 

 そんな彼女が、何故NPCという立場を捨てて、プレイヤーとして生きているのか。

 

 理由は二つだ。

 一つは、カーディナルの命令によるもの。人間を深く理解する為に、彼女をカーディナルに『恐怖を与えた者』をモニタリングさせていた。だがそれは妙なものだ。モニタリングが命令であるのなら、『メンタルヘルスカウンセリングプログラム試作1号』のように遠くから観察していればいい。何も、人間と同じ立場になる必要はない。そこで二つ目の理由である。

 

 もう一つ、むしろこちらの理由の方がストレアとしては割合が大きい。

 それは人間を深く理解したいが為に――――カーディナルに『恐怖を与えた者』がいかなる存在か、間近で見たいが為に。

 その存在は、奇妙であった。口は粗暴で、態度も凶悪。おまけに人を突き放すことを平気で行う。だがそれでも、『恐怖を与えた者』は助けを欲する人間に手を差し伸ばしていた。

 どんな状態になろうと、自分が吹けば倒れる存在になろうと、『恐怖を与えた者』は手を伸ばし続けてきた。

 

 その行為は、否定であった。

 カーディナルの定義する人間の否定。恐怖だけが人間であるという主張の否定。

 

 だからこそ、ストレアは『恐怖を与えた者』に興味が湧いた。

 システムであるカーディナルに恐怖を与えた『彼』に、恐怖という感情を叩き込みカーディナルをどこか人間らしいモノに変えた『彼』に、ストレアは興味が湧いた。そして、会話してみたいと思った。

 それから遠くから監視することを止めて、プレイヤーとして彼女は仮想世界に降り立つことになる。模倣するように『彼』のようツギハギだらけの装備で身を固めて、武器は両手剣を装備し、気ままに人助けを行ってきた。

 そして『彼』――――ユーキと出会うことになる。

 

 

 ストレアをAIだと知るのはユーキだけだ。だからこそ、人をよく知らなそうという、どこか的を得た発言をしたユウキに驚いていた。

 彼女の内面をしっかり見ていないと浮かんで来ない感想。ということはつまり、ユウキはストレアとしっかり向き合って会話していたことになる。

 

 そう考えただけで、ストレアは胸に温かいナニカが宿るのを感じる。

 苦楽を共にした彼女が、こうして自分をしっかり見てくれている。その事実を喜々として噛み締めて、ストレアは満面の笑みをユウキに向けて。

 

 

「えへへー、そうだね」

「……何でそんな嬉しそうなの?」

「秘密~」

 

 

 喜色満面であるストレアに対して、ユウキは不思議そうに首を傾げた。

 それでもストレアは答えない。素直に口にするのは照れくさいもので、まるで『彼』みたいだと思うと不明な嬉しさがこみ上げてくる。

 

 その状態で、どこかテンションが高いまま、ストレアはユウキに問いを投げる。

 

 

「ところで、ユウキはどうして不貞腐れていたの?」

「……そう見えた?」

「見えたけど?」

 

 

 素直に返すと、ユウキは苦笑混じりに答える。

 

 

「……笑わない?」

「笑わないよ! 教えて教えて?」

「うん、その……何というか……」

 

 

 天真爛漫な彼女にしては、珍しく言い淀んでいた。

 それだけ言い辛いのか、それとも恥ずかしいのか。恐らく、どちらかという訳ではない。どちらもユウキが言い淀む理由として、その感情が存在するのだろう。

 

 それから意を決して、ユウキは頬を少しだけ染めてか細い声で理由を話した。

 

 

「にーちゃんに、置いて行かれたのが……面白くなくって……」

「そうなんだー? それで、ユウキは何で恥ずかしそうにしているの?」

「だって、子供っぽいじゃん! 置いてかれていれてってさ……」

 

 

 恥ずかしそうに言葉を漏らし、視線を泳がせる。

 そんなユウキに対して、ストレアは裏表のない調子で返した。

 

 

「子供っぽくてもいいと思うけどな~」

「そう、かな……?」

「うん。ユウキはあの人の為に頑張ってきたし、あの人もわかってると思うよ? むしろ、もっと甘えて欲しいって思ってるくらい」

「嫌われないかな……?」

 

 

 いまいち自信がないのか、少しだけ俯くユウキに、ストレアは自信の豊満な胸をこれでもというくらい自信満々に張って、これまた自信満々な言動で。

 

 

「嫌われる訳ないよ! 毎日あの人を観察していたアタシにはわかるの。ユウキが好きだって事が!」

「す、好きッ!?」

 

 

 ボンッ!と音を立てて、顔をトマトのように真っ赤に染め上げるユウキに、ストレアは更に追い打ちをかけていく。

 

 

「好きというか、大好きかなっ!」

「だ、大好きっ!?」

 

 

 脳内で処理が追いつかないというかのように、顔を真っ赤に染めたユウキはフラァ……、と上体を仰け反りながら、あわや後ろに転ぶというところで踏みとどまり、態勢を戻すとストレアに詰め寄ると。

 

 

「す、好きって! ボクとにーちゃんは家族だし、兄妹だもん! だ、ダメなんだよ! ボクも好きだけど、まだ早いというか。そもそもボクはにーちゃんと一緒にいれるだけで嬉しいというか…ッ! ……あぅ……」

 

 

 これでもかと真っ赤に染めて、ユウキは今度こそ機能を停止した。

 プシュー、と頭から煙を立てて、オーバーヒートしそうな勢いで、彼女は耳まで真っ赤にさせて俯いてしまう。

 

 そんなテンパっているユウキを見て、元凶であるストレアは無駄に自信満々に誇らしげに言った。

 

 

「アタシ知ってるよ。アレは『シスコン』って言うんでしょ?」

「……シス、コン?」

「うん。妹に世話を焼きたくてたまらない人をそういうんでしょ? あれ、違った?」

「あぁ、好きってそうことなんだね……?」

 

 

 天国から地獄。

 真っ赤に染めて、ニヤニヤしていたユウキの表情は変貌を遂げる。

 期待から落胆へ。坂を思いっきり転がり落ちるかの如く、ユウキは泣けばいいのか悲しめばいいのかわからないというかのような、複雑な表情に変わっていく。

 

 

「どうしたのユウキ? 何か悲しいことでもあった?」

「あ、うん。何でもないよ、うん。そうだよね、それでも嬉しいよ? 嬉しいけど……何だかなぁ……?」

「んー? よくわからないけど、ユウキもあの人が好きなんだね。アタシも好きだから仲間だね!」

 

 

 ニッコリ満面の笑み。

 ユウキと一緒ということが嬉しいのか、ストレアは本当に嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

 それを一身の浴びたユウキも、思わず笑みを浮かべた。

 そうだ、これでいいのだ、とユウキは今は取り敢えず気持ちを切り替える。家族として好きでいてくれるのならそれでいい。そうなりたいと思ったし、妹として扱ってくれて何よりも嬉しい。

 

 

 ――そうだよ、これで良いんだ。

 ――お義父さんとお義母さんが亡くなった原因はボクにある。

 ――それでも、にーちゃんは受け入れてくれた。

 ――よく頑張った、って褒めてくれた。

 ――家族になろう、って言ってくれた。

 ――ボクはそれで充分だよ。

 ――それ以上欲張っちゃ、罰が当たるもん。

 

 

 今ある幸せを噛み締めて、ユウキは気持ちを切り替える。

 そんなユウキに、ストレアは本当にわからないという口調で問いかける。

 

 

「でも、それならどうして、あの人に付いてかなかったの? ユウキが行きたいって言えば、態度では嫌々だけど、内心はノリノリで許可すると思うけどな~」

「今回は、ダメだよ」

 

 

 ユーキはここにはいない。

 ここというのは、主街区と言う意味であり、階層と言う意味でもある。

 ユーキだけではない。アスナ、キリト、そしてリズベットは四人で第三層に赴いていた。今更、彼らが下層に降りた所で行えることなどたかが知れている。しかし、彼らは下層に向かわなければならなかった。

 

 目的は、アイテム採取でも、素材集めでもない。

 とあるクエストを受注するために、彼らは第三層へ向かった。

 

 それがどれほどのを意味があるのか、どれほど彼らにとって大事なクエストなのか。

 ユウキ自身何となくでしか理解していない。ただわかることは、これだけは他人が首を突っ込んで良いものではないということ。

 

 一人進むユーキに追い付くことが出来た、アスナ達だけの報酬。

 自分の兄が大事にされて嬉しい、でもその輪に入れない自分が悔しい。そんな複雑な表情を浮かべて、ユウキは続けた。

 

 

「アスナ達にとって、このクエストは大事なモノなんだ。だから、ボクなんかがついて行っちゃダメなんだよ」

「んー、難しいね。人ってそういうのもあるんだ……」

「あるよ、たくさんあるよ。言わぬが花ってヤツかな?」

「言わぬが花、かぁ……」

 

 

 言わないことで、相手を気遣う。

 そういうこともあるのか、とストレアは学習すると、どこか悲しそうな表情で。

 

 ――あの人の身体の調子を黙ってることも、言わぬが花ってことでいいんだよね……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 2023年3月2日 PM13:05

 第三層 女王蜘蛛の洞窟

 

 

 他のMMOであるように、ソードアート・オンラインでもクエストというものが存在する。

 クエストの利点は大きい。普通にモンスターを狩って経験値を稼ぐよりも、クエストをクリアして際に得る経験値のほうが高いし、何よりも報酬というものが存在する。

 故に、MMOというゲーム環境に慣れているプレイヤーがまず行うのはモンスターを狩ることではない。効率よくクエストを回し、自分のレベルを高めていく。

 

 そんな中、ただレベルを上げる事を目的としたプレイヤーには見向きもされないクエストが存在する。

 クリアしたところで、経験値が発生するわけでもない。ましてや、報酬を得られる訳でもない。しかしクリアすることで、初めて集団が名乗ることが出来る。

 

 それこそが、『ギルド結成クエスト』である。

 そしてそれを受注出来る層は三層しかなく、場所もどこか薄暗いジメジメとした場所。

 

 それは、洞窟。

 明かりがないと先が見えない暗闇、壁にはヌルヌルとした苔が張り付いており、天井からは水滴が不等間隔で落ちてくる。

 華やかさとは縁遠い場所に、彼らは足を進めていた。

 先頭に金髪碧眼の少年。その後ろに栗色の長い髪の毛の少女、桃色の髪の毛の少女と順番に、最後は全身黒尽くめの装備の少年という隊列となっている。

 

 金髪碧眼の少年――――ユーキはどこか億劫そうな声で。

 

 

「メンドクセぇ」

「気が滅入る発言禁止」

 

 

 間髪入れずに、栗色の長い髪の毛の少女――――アスナがユーキの発言を封殺させる。

 しかしユーキは動じない。むしろアスナの言葉にエンジンがかかったように、退屈そうな口調で続けた。

 

 

「気も滅入るだろうがよ。ンで、こんな場所が『ギルド結成クエスト』の目的地に設定されてんだぁ?」

 

 

 もっとこういうのは、華やかな場所で結成出来るもんじゃないのか? と、自身の理想をボヤいたままユーキは続ける。

 

 

「オマエらもオマエらだろ。オレが戻ってくるまで、ギルド結成しねぇとか妙なこだわり持ちやがって」

「だって、キリトが『アイツが戻ってくるまで、ギルド作るの嫌だ』って言うんだもの。仕方ないでしょ」

「いやいや、俺は一言もそんなこと言ってないぞ!?」

 

 

 片手に盾、もう片方の手に松明を持っている桃色の少女――――リズベットが大げさに肩をすくめて。

 黒尽くめの少年――――キリトがどこか必死に慌てながらリズベットの発言を否定する。

 

 いじり甲斐がある態度に、リズベットは笑みを深めてく。

 その表情は新しい玩具を見つけた子供のように純粋な表情であった。

 

 

「あれれー、そうだったかしらー? あの時のキリトって、かなりユーキのこと気にしてたと思うけどぉ?」

「それはアスナだろ! 俺はコイツのことなんて、全然これっぽちも気にしてなかったぞ!」

「き、キリト君!?」

 

 

 思いがけない飛び火。

 アスナは思わず振り返り、キリトに抗議しようと口を開く。

 その顔は若干赤らんでおり、必死でもある。顔が赤く見えているのは松明の明かりのせいではない。そうリズベットは判断すると、標的をキリトからアスナへと標準を合わせて。

 

 

「そうよねー、アスナ必死だったものねー?」

「り、リズ? 何を――――」

「他のプレイヤー達は知るよしもないでしょうねー? いつも毅然として、凛々しい態度の『紅閃』のアスナさんが、一人の男の子にフニャけて甘えるなんてねー?」

「わーわー! リズ何を言ってるのよ―!!」

 

 

 バタバタ、と。

 慌てて手足を右往左往しながら、リズベットの口を塞ごうと努力するも既に遅い。

 

 アスナの努力虚しく、リズベットの爆弾発言はユーキの耳へと入ることになる。

 彼は立ち止まり、どこか驚いたような表情で振り返ると。

 

 

「オマエ、猫被ってんのかよ……」

「えっ、そっちなの!?」

 

 

 アスナのツッコミに、ユーキは怪訝そうな顔で。

 

 

「そっち以外に何があんだ? アレだけオレが猫被んのに、あーだこーだ言ってたのに結局オマエも被んのか……」

「わたしは違うもん! 猫被ってるんじゃなくて、公私分けているだけだもん! というか、そうじゃなくて!」

 

 

 そこまで言うと、アスナの態度が変わる。

 どこか恥ずかしそうに、自身の右手の人差し指と左手の人差し指をツンツン合わせて、チラチラとユーキへと視線を向けて。

 

 

「誰が誰に甘えてるのかー、とか思わないのかなーって……」

「思わねぇな」

 

 

 対してユーキは無駄に男らしく、乙女となっているアスナを斬り捨てるように。

 

 

「つーかよぉ、オマエってオレに甘えてねぇだろ。普段と何一つ変わらねぇじゃねぇか」

「――――――」

「アスナ、あんたどれだけ普段からコイツに甘えてんのよ……」

 

 

 声を失うアスナに対して、リズベットは呆れた口調で感想をもらす。だがそれは返ってくることがなく、洞窟の中で消えてくのみである。

 こうして集団で行動する時は、ユーキを守るように率先して動くアスナであるものの、プライベートではユーキに甘えており、それが普段から、それも子供の頃から何一つ変わらない。そんなギャップも何もない状態。

 

 キリトはそんなどうしようもない空気を敏感に察知すると、どこか慌てるような口調で。

 

 

「そ、それよりもユーキ。リズが新調した装備はどうなんだ?」

 

 

 ユーキは以前のようなツギハギだらけの装備ではなく、真新しい装備に身に纏っていた。

 黒い長袖のインナーの上から胸部を覆う白色の鎧。手首には手甲が装備されており、堅実さよりも身軽さを追求したようでもある。黒色のズボン、その腰からは濃い蒼色の布が垂れている。そして、そのベルトには例の紅色の宝石の付いたペンダントがぶら下がっていた。

 腰にある石斧剣に変わる彼の獲物である両手剣があった。

 

 

「そうだな――――」

 

 

 ユーキはそう言うと、腰にある両手剣を右手で抜き放つ。

 刀身は蒼く、刃の部分だけ銀色。刃渡りも片手剣より少しだけ長く、刃の部分が広い。剣を持つ柄にはナックルガードが施されており、両手を守ってくれる作りとなっている。

 とても片手では扱えない重量である筈のそれを、彼は難なく片手で持ち一言だけ事実を伝えた。

 

 

「悪くない」

「そこは、最高だって言いなさいよ」

 

 

 溜息を共にリズベット言うものの、その表情に不快感はなかった。

 素直ではない彼に呆れるような、リズベットは笑みを浮かべている。彼女だけではない、アスナもキリトも知っている。ユーキがどれだけ、この剣を大事に扱っているか、良く知っていた。

 

 大事に扱っていないのなら、自身の剣にこんな銘などつけない。

 その両手剣のかつての名は『ユーキの剣』。しかし今は違う。今の彼の両手剣の銘は――――『アクセル・ワールド』。それはギルドの名前と同じであり、もう二度と手放さないと言うかのような彼の意思表明のようでもある。

 

 どこか生暖かい眼で、アスナとリズベットはユーキを見つめる。

 その眼に反論するように口を開きかけるも。

 

 

「――――チッ、気ぃ抜きすぎだ」

 

 

 舌打ちがあった。それは自分自身に対するようでもある。

 同時に、洞窟の真横が崩れて、五メートルほどのモンスターが湧き始めた。大きな体躯、片手には大きな棍棒。どこか典型的なオークともいえるそれは、間髪入れずに四人めがけて横薙ぎで自身の獲物を振った。

 

 彼女達も、これまで場数を踏んできた。

 それは奇襲であり意表を突くには充分であるが、それを上回る判断力が彼女達には備わっていた。考えるよりも動く。アスナは難なくオークの攻撃を回避出来るし、リズベットも盾で受け止めることが出来る。

 

 だがそれよりも速く。

 

 

「――――」

 

 

 ユーキは行動に移していた。

 横薙ぎの棍棒に対して、ユーキは右手で両手剣を持ちながら合わせるように振り上げる。その棍棒の大きさは、ユーキの身長ほどあるものだ。大きすぎ、大雑把過ぎるそれは、力任せにユーキと消し飛ばそうと迫りくる。

 

 しかしユーキの膂力は、オークの力任せの攻撃を上を行く。

 火花が散り、洞窟全体が一瞬照らされる。力任せに来た攻撃に、腕力だけで対抗した結果、軍配が上がったのは――――。

 

 

「――――フン」

 

 

 ユーキであった。

 身の丈以上の棍棒を、彼は難なく弾き、オークの巨大な体躯をよろめかせた。

 ここで今までのユーキであれば、間髪入れずに追撃をしていた。反撃の隙など与えず、自分だけの力で敵を斬り伏せようとしていた。

 

 だが今のユーキに、これ以上行動をする意思が見られない。

 彼の仕事は済んだ。あとは彼と同じ、奇襲に反応していた少年の仕事である。

 

 少年――――キリトはユーキが攻撃を弾くとわかっていたように、行動に移していた。

 ユーキの肩を足場に大きく飛び、背中の剣を抜き放ち、そして――――。

 

 

「――――――ッ!」

 

 

 ――――オークを斬り捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、四人はアレから問題もなく洞窟の地下二階に到達する。

 遺跡のようなモノがあるわけでもなく、洞窟の行き止まりに一メートルほどの石像が安置されているのみである。

 

 

「――――ンで、これでクエスト完了なのか?」

「ちょっと待って」

 

 

 面倒くさそうに言うユーキに、アスナはメインメニュー・ウィンドウを開きメッセージボックスを開いた。

 それから何度も目を通して、メインメニュー・ウィンドウを閉じると。

 

 

「うん、アルゴさんの情報だと、誰かが石像に触れてクエスト完了だって」

「ふーん……」

 

 

 興味が無いように言うと、ユーキはアスナに向かって続ける。

 

 

「それじゃ、オマエが触れよ」

「え、わたし?」

「当たり前だろ。オマエがギルドマスターなんだからな」

「それ、無理矢理だったじゃない……」

 

 

 数ヶ月前の事を思い出し、元凶であるキリトとユーキを交互にアスナはジト目で見つめるも、二人はそっぽを向いた。

 戦闘以外で彼らが息を合わせるのは珍しい。微笑ましいものであるが、内容が内容だけに素直に見ることが出来ない。そんなアスナは溜息を吐いて。

 

 

「それじゃ、触れるよ?」

 

 

 触れた瞬間。

 眩ゆい光が、洞窟内を包み込んだ。それは数秒続いて、収まり辺りを見渡すと――――。

 

 

「ユーキ君とキリト君が――――いない――――」

 

 

 

 

 

 




→ユウキ
 妹。
 甘えたい、でも甘えたい、それでも甘えたい。とブラコン大爆発中。
 甘えられたい兄としては、お互いWin-Winである。
 ギルドには入るつもりはない模様

→ストレア
 ユウキの友人。
 ユーキのことを『あの人』や『アナタ』と呼ぶ。
 裏表のない素敵な人。
 人について勉強中。



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