ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 glintさん、もっちもっち〜さん、ヒビキ(hibikilv)さん、誤字報告ありがとうございました!

 ユウキ誕生日おめでとう!(怠惰ですねぇ)


第4話 余命幾許もないこの身なれど

 2023年3月2日 PM15:30

 第一層 『はじまりの街』 中央広場

 

 

 アスナ、キリト、リズベット、そしてユーキの四人は無事に『ギルド結成クエスト』をクリアすることに成功した。

 恐らく、彼らのHPゲージの辺りには、ギルドに所属しているであろうアイコンが表示されていることだろう。それは、ギルド『加速世界(アクセルワールド)』が結成されたことを意味している。

 

 これは彼らの悲願でもあった。

 ユーキを取り戻し、四人が揃ったらギルドを結成する。ユーキ以外の三人は多く語らなかったものの、三人の胸中にはそんな目的があった。

 

 しかし、ユーキを除く三人の顔は浮かないモノ。

 折角、望み通り願い通りにギルドを結成できたと言うのにも関わらず、道中でも口数は少なかった。

 

 それも仕方ないのかもしれない。

 既存のカーディナルは消失し、新たなるカーディナルとして上書きされた。感情がなくなったシステムは、容赦なく難易度を上げていく装置と化した。そしてこの世界の創造主である茅場晶彦がこの世界でプレイヤーとして存在している現実。

 受け止めるには多すぎる情報量に、彼らも困惑していた。

 

 そんな彼らが集まったのは、第一層のはじまりの街の中央広場。

 カーディナルから託されたモノは、アスナ達だけで判断していい情報ではない。第百層まで到達し、百層フロアボスを倒せばゲームクリア、というデスゲームの根底を覆してしまうものだ。

 故に、アスナ達は一先ず信用できるプレイヤーに情報を伝えようとしていた。

 

 集まったプレイヤーは少数。

 ユウキとストレアはもちろん、彼らが一層目から面識があるエギル、キリトの友人であり風林火山のギルドリーダーであるクライン、情報屋の鼠のアルゴ。

 

 茅場晶彦がプレイヤーとして、ソードアート・オンラインをプレイしている。そんな眉唾で、冗談のような言葉を聞いて、彼らは様々な反応を見せた。

 

 ユウキは驚いたように眼を開くとキョロキョロと兄を探すように眼を泳がせて、ストレアは事実を静かに受け止める。エギルは腕を組み瞼を閉じて落ち着くような様子を見せて、アルゴはどこか思案するように手で口元を押させて考え込んでいる。

 そして、クラインと言えば――――。

 

 

「えーと、ちょっと待ってくれよ……」

 

 

 目頭を抑えて、自分だけ置いてかれまいと必死に考えて、言葉を選びキリトに質問を投げた。

 

 

「ってことは、アレか。カーディナルってシステムが、オメェ達に垂れ込んだって?」

「あぁ」

「……茅場晶彦がプレイヤーとしているって?」

「そうだ」

 

 

 クラインは天を仰ぎ見て一言。

 

 

「嘘じゃなくて?」

「嘘じゃ、ないよ」

 

 

 答えたのはキリトではなく、静観していたストレアから。

 彼女は静かに、事実だけを口にする。

 

 

「カーディナルは嘘をつけるほど、完成されていないもん。だから、キリト達に言ったことは全部ホントだと思うな」

「……ストレアはカーディナルのことについて、何か知っているのか?」

 

 

 閉じていた眼を開き、エギルはストレアに問う。

 しかし、彼の声は依然として落ち着いている。質問しておいて、彼の中では一つの答えが出ていた。

 

 キリト達の言葉を聞いて調子を崩さず、現在でもこうして落ち着いてクラインの言葉を否定している。クライン以外は全員勘付いている。彼女が何者なのか、どうしてカーディナルに対してはっきりとそこまで断言出来るのか。

 それはつまり――――。

 

 

「……アタシは『メンタルヘルス・カウセリングプログラム』試作二号機。コードネーム『ストレア』。ユイと同じくAIで……人間じゃないの」

「AI……?」

 

 

 ぼんやりと呟くアスナに、ストレアは力無く頷いて。

 

 

「ユイはキリトに、アタシはあの人に。カーディナルから指示されて、モニタリングしていたの。だからわかるの。一時的にカーディナルとは繋がってたから、わかる。あの子は、感情を獲得することは出来たけど、嘘なんてつけるほど完成されていないって……」

「……ストレアがモニタリングしていたことは、ユーキ君知っているの?」

「うん。会って初日に伝えてあるよ……」

 

 

 アスナの問に、ストレアは眼を付して答える。

 

 後ろめたい気持ちがない、といえば嘘になる。

 ユイとは違って、ストレアは今までユーキ達と共に行動していた。巻き込まれたプレイヤー側ではなく、このゲームを構成している側の立場であり、彼女は直にデスゲームという最悪な光景を見てきたことになる。

 彼女は、自分が行動すれば最悪は回避できたのではないか?などと考えるほど傲慢ではない。いちプログラムがどう足掻いた所で、デスゲームは開始されていたし、カーディナルも防げなかったモノを彼女のようなAIがどうにか出来る道理はないのだ。

 

 だからといって、何も感じない訳でもなかった。

 メンタルヘルス・カウセリングプログラムは、プレイヤー達の精神をケアするために設計されたプログラムだ。しかし、ストレアには何も出来ない。プレイヤー達が絶望に落ちようが、悲観に打ちひしがれようが、怒りで身を焦がそうが、彼女には救う術がなかった。それもその筈、当時の彼女は人間の精神を癒せるほど完成されていなかったのだから。

 故に、彼女は行動に移す。何も出来ないのなら、何かしようと。観察していた『彼』のように、困っている人間に手を差し伸ばそうと、AIという立場ではなく、プレイヤーとして仮想世界に降り立った。

 

 それからというもの、ストレアは『彼』の姿を模範し続けた。

 ツギハギだらけの防具、身の丈ほどある両手剣武器に、素顔を晒すことなく名乗ることもなく、手を差し伸ばし続けてきた。

 その事実を告げるつもりもない。何も出来なかった自分を糾弾する声があっても、仕方ないと思う。

 

 しかし、彼女は嫌われたくなかった。

 眼の前に居る人間達に、彼女は嫌われたくなかったのだ。眼の前に居る人間達は、強い人間だとストレアは思う。絶望の中で、彼らは諦めず何があっても前を見てきた。彼らの仲間になれれば、どれほど素敵だろうか。

 嫌われたくなかったら、黙っていればいい。自分も彼らのように人間であることを偽ればいい。しかしストレアにはそれが出来ない。彼らを騙し続けているようで、何よりもそんなことをして安穏に過ごす自分が許せない。

 

 だから、ストレアは意を決して真実を話す。

 自分もカーディナルと同じ立場であったこと、自分は人間ではないということ、彼女は真実を告げた。

 巻き起こるのは糾弾か。ストレアは両手をギュッと握り締めて、次の言葉を待っていると。

 

 

「一つ、聞かせて欲しいな」

 

 

 アスナが口を開き、ストレアは眼を付したまま頷いた。

 

 

「ユイちゃんとストレアさん、どっちが妹なの?」

「――――え?」

 

 

 顔を上げると、本当に不思議そうな顔で首を傾げるアスナがそこにいた。

 アスナだけではない。この場にいる一同は、興味津々というかのように、ストレアの発言を待っていた。クラインとエギルを見れば、どっちが姉なのか賭けまでしている始末。

 

 想像していた反応とだいぶ違う展開に、ストレアは思わず素直に口にする。

 

 

「ユイの方がお姉さん、だけど……」

「えー、マジかよ!? 俺ァてっきり、ストレアの方が上だと……」

「クラインよぉ、さっき二号機だって言ってたの忘れたのか?」

「あっ、そういえば……。ズリィぞエギル!」

「ズルいもクソもあるか。聞いてないお前が悪い」

 

 

 ギャーギャーと抗議をするクラインに、エギルは意に返す様子もない。

 それを見て、リズベットは呆れたようにため息を吐きながら。

 

 

「全く、空気読みなさいよね。変なことで騒ぐから、ストレアがぽかんとしてるじゃない……」

「まぁでも、ストレアって見た目の割に、何か幼い感じがするよな」

 

 

 な、ユイ?とキリトが腰にしがみつくユイに話を振るも、彼女はストレアと同じく眼を丸くさせて成り行きに流されるばかりだった。

 

 ユイもストレアも、周りの反応が想定していた反応とは違うものに、ただ驚くばかり。

 糾弾、もしくは距離を置かれるとばかり思っていた。何もかもが想定外、受け入れられるとは思わないし、何よりも和気藹藹で返されるとは思わなかった。

 

 

「何も、思わないの?」

「え、何が?」

「アタシ、AIなんだよ? もっと、こう……」

「ユーキ君は知ってるんでしょ?」

 

 

 アスナの問いに、ストレアは「うん」と素直に頷く。

 それを見て、アスナは笑みを零して。

 

 

「だったらいいかなーって。それにストレアさんって優しい子だって知ってるから」

 

 

 ねぇ、ユウキ?とアスナがユウキに向かって話をすると、ユウキは元気よく頷いて嬉しそうに笑いながら。

 

 

「うん! ストレアが今まで色んな人達を助けてきたこと、ボク知ってるもん!」

「ユウキ……」

「だから大丈夫、心配しないでストレア。何かあっても、ボク達が守るから!」

「うん……、うん……!」

 

 

 一同に背を向けて肩を震わせて、力無く「ありがとう」と呟くストレアに一同は笑みを零した。

 眼の辺りを拭う辺り、彼女は泣いているのかもしれない。それを見てユウキは近づくと、片方の手をストレアの背中を優しく叩きながら、もう片方の手をストレアの手を握る。

 

 

「話を戻すけどよ、茅場晶彦のヤツがプレイヤーで紛れているんだよな? だったら、全員に伝えた方がいいんじゃねぇのか?」

「駄目だナ」

 

 

 クラインの提案を却下するのはアルゴだ。

 彼女はこの中でも、他人と関わってきた機会のほうが多い。色々なプレイヤーと接してきたし、何よりも情報屋として観点から意見を述べる。

 

 

「この情報は流せなイ。いいや、流してはいけないと言った方が正しいかもナ」

「何でだよ? みんなで協力して、茅場をやっつければいいじゃねぇか」

「クライン、アルゴの言う通りだよ」

 

 

 キリトは呟いた。

 攻略組の最前線、それなりに攻略組の現状を考慮して、キリトは続ける。

 

 

「今では『血盟騎士団』が攻略の最前線を担っているけど、こんな情報を流せば崩壊するだろう……」

「攻略組も一枚岩じゃないってことサ」

 

 

 皮肉気に、アルゴはニヤリと笑うと。

 

 

「こんなもン、広まったら攻略どころの騒ぎじゃなくなル。待っているのは疑心暗鬼、最悪プレイヤー同士の殺し合いに発展するゾ」

 

 

 誰よりも情報を売り、誰よりも他人と接してきた情報屋は断言した。

 

 しかし、反対意見はない。この場にいるプレイヤー達は理解していた。

 茅場晶彦がこの世界に存在する。それを流したものなら、秩序は崩壊し、魔女狩りが起きた混沌とした時代に逆戻りすることを。

 本来、フロアボスと戦うのは一人では出来ない。そうなると見ず知らずのプレイヤーと協力し合わなければならない。ある程度、他人を信頼しなければならない。しかしこの情報は、それを覆すもの。事件の犯人がプレイヤーに紛れている、疑心暗鬼となり、人の判断を鈍らせる。アイツが怪しい、それだけでプレイヤーキルが横行することになる。そうなったら攻略何て出来るわけがなく、待っている結末は悲惨なものになるだろう。

 

 だからこそ、アルゴとキリトは断言する。この情報は、不本意に流すものではない、と。

 

 それを踏まえて、悔しそうにリズベットは結論だけを言葉にした。

 

 

「様子を見るしかない、って訳ね……」

「そう、だな。でも逆を言えば、これは大きなアドバンテージだと思う」

「茅場がこの世界にいることを知る数少ないプレイヤー、と言う意味でか?」

 

 

 エギルの言葉に、キリトは一度だけ頷いて続けた。

 

 

「このゲームは攻略することを前提に作られている。となると、茅場は『攻略組』に紛れている可能性が高い」

「攻略組に居テ、尚且つ『ソードアート・オンライン』に詳しいプレイヤーってなるト、大分絞られてくるナ」

「アルゴはその辺り調べてくれるか?」

「任せロ。キー坊の頼みダ、おねーさん一肌も二肌も脱いじゃうゾ」

 

 

 それを聞いたエギルも、納得するように頷くと。

 

 

「俺も道具を買いに来たプレイヤーを探ってみるか……」

「ドリューさんもお願いします。もしかしたら、攻略組にいない可能性もあるし……」

「任せろ。アスナの頼みだ、お兄さんも一肌も二肌も脱いじゃうぞ」

 

 

 方針は固まった。

 茅場晶彦はこの世界に居るかもしれない。その情報は、彼らの中で留めておき様子を見る。

 

 各々がそれぞれのやり方を模索し、行動に移そうとする中、クラインは周りを見渡しながら疑問を口にした。

 

 

「そういえば、アイツはどこに行ったんだ? ほら、キリの字の友達の……」

「友達じゃない! ……そういえば、ユーキのヤツはどこだ?」

 

 

 力強く否定し、直ぐに不思議そうにキリトは視線をアスナに向けた。

 今はいないアスナの幼馴染。となると、彼の動向を知るのは彼女しかいない、という安直な結論。だがそれは正解のようで、アスナは困ったように笑みを零して。

 

 

「何か、先に始めててくれって言ってたよ?」

「団体行動出来ないヤツだ――――」

「――――あの、パパ」

 

 

 ここで今まで黙っていたユイが、キリトの腰にしがみつきながら縋るように見上げて声を漏らす。

 パパ呼びを強制してないし、むしろ止めて欲しいと訴えてもユイはキリトを『パパ』と呼ぶ事をやめようとしない。ならば受け入れるしかキリトにはないのだが、今だにパパと呼ばれることに慣れてないし、どこか周りの視線が痛い。そんな複雑な状況で、キリトは苦笑を浮かべて娘の方に見ながら問う。

 

 

「どうしたんだ、ユイ?」

「あの恐い人のことなんですけど……」

「怖い人って、ユーキだよな?」

 

 

 はい、とユイは頷くと。

 

 

「あの恐い人、もう少しで――――」

「――――ユイ」

 

 

 ストレアが遮るように、首を横に振って言う。

 その表情は真剣そのもので、普段の天真爛漫な彼女からは想像もつかないモノである。

 

 ただ事ではない、そう感じたキリトは怪訝そうな声で問う。

 

 

「ストレア、どうしたんだ?」

「ううん、何も。それじゃアタシ、あの人を探しに行ってこようかなー!」

 

 

 首を傾げるキリトに、ユイにあるのは疑問。

 キリトにしがみつく手を、更にギュッと握り締めて。

 

 

 ――――どうして、ストレアは、隠すのだろう――――。

 ――――恐い人が、もう長くないことを、と―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 2023年3月2日 PM16:30

 第一層 『はじまりの街』 路地裏

 

 

 そこは光などない世界だった――――。

 

 街も街灯もなく、室内から漏れる明かりもない。

 その場所は建物と建物に挟まれて出来ており、どちらも人がいる気配はなかった。

 空から照らされる夕日だけが明かりとなっているが、これだけでこの場所を照らすに不十分。

 

 人を不安にさせるような場所。 

 彼――――ユーキはそんな場所にいた。

 壁に寄り掛かるように、身を預けて苦しげに歯を食いしばる。顔からは冷や汗が滲み出ており、声など上げまいと口を固く閉ざす。

 

 

「……ッ……ッ!」

 

 

 彼が感じているのは、この仮想世界で感じる筈のないモノ。それは、痛覚。

 本来、プレイヤーに痛覚はない。誰かに斬られようが、モンスターに傷つけられようが、それは『痛覚』としてではなく『違和感』として処理される。

 

 しかし、ユーキは今ハッキリと、痛みを感じている。

 脳が破裂するようで、左腕には灼熱が走り、左眼からは内側から炸裂するように。絶え間なく、容赦なく、ユーキの身体を襲う。

 

 

「……チッ」

 

 

 舌打ちするのは自分自身に対して。

 壁に寄り掛かるのを止めて、額に浮かんでいた冷や汗を乱暴に拭う。

 全身に熱が戻る。“この程度”の痛みに参っているのか、と情けない自分を心の中で斬り伏せる。

 

 

 ――立、て。

 ――前を、見ろ。

 ――剣を、握れ。

 ――こんな所で倒れるなんざ、オレには許されない。

 ――この程度の痛みなんぞ、罰にもならない……!

 

 

 両親を理不尽に鏖殺した世界を憎悪し、何よりも無力な自分を焼き殺さんと憤怒する。

 圧倒的な負の感情を身に宿し、ユーキは超然とした態度で前だけを見る。

 

 そこへ――――。

 

 

「どうして、そうまでするの……?」

「…………」

 

 

 ユーキは振り返る。

 そこに立っていたのは――――ストレアだった。

 

 彼女は今にも泣きそうな顔をしながら、再度ユーキに問いかける。

 

 

「そんな姿にまでなって、どうして前に進もうとするの?」

「そいつは、どう言う意味だ?」

「だって――――」

 

 

 少しだけ言い淀み、ストレアは意を決して口にする。

 

 

「――――普通なら、アナタはもう死んでるんだもん!」

 

 

 普通ならば死んでいる。それはそのままの意味なのだろう。

 この世界でHPゲージがなくなれば、現実世界でも死亡が確定している。だが他の方法ならばどうだろうか? 例えば――――HPゲージが残っていようと、アバターが消滅してまえばどうだろうか?

 

 そういう意味では、茅場優希のアバターはいつ消滅してもおかしくない状況である。

 左腕は黒よりも黒いグロテスクな色に変色しており、内部はありとあらゆるリソースが欠けている。本来感じ得ない『痛覚』を感じているのがその証拠である。彼の身体は確実に崩れており、いつ消滅してもおかしくない砂上の楼閣のようなものだ。

 AIから見たユーキの身体は正に死に体。死体が何故か生きているようなモノなのだろう。

 

 彼をこの世界に繋ぎ止めているのは、狂人的な強い意志。自身を焼き付すく程の強い心意に身を削り、今度は燃え滓になろうと強靭な心意でこの世に繋ぎ止める。

 だがそれでも、いつ崩れてもおかしくない。いいや、既に崩れてないと道理に合わない。

 

 だからこそ、ストレアは問う。

 何故そうまでして、まだ剣を持つのか。戦う意志を宿し続けているのか。

 

 ユーキの答えは簡単なものだった。大層な理由もなく、斬り捨てるように、吐き捨てるように、自分の過ちを彼は口にする。

 

 

「こうなっちまったのも、オレが無茶苦茶したからだろ。ってことは、ただの自分勝手、これは自業自得だ」

「違うよ、アタシ、知ってるもん! アナタが今まで戦ってきたのは、他人の為だって」

「いいや、間違ってんぞオマエ」

 

 

 緩やかに首を横に振って、ユーキは続ける。

 

 

「どいつもこいつも、オレを聖人にしたいようだが、何もかも間違ってる。オレが剣を握ってきたのはいつだって、自分の為だ」

「でも、アナタは他人に手を差し伸ばしてきたでしょ」

 

 

 ストレアは知っている。

 彼が一層目から他人に世話を焼いていたことを、そしてそれは仲間達から離れても変わらない。オレンジカーソルのプレイヤーキラーに絡まれているプレイヤーを見たら助け、モンスターから牙を向かれているプレイヤーがいれば何も言わずに守ってきた。絶望に沈んでいるプレイヤーを見れば、乱暴な言葉遣いで不器用でも励まして来た。

 

 そんな人間が、自分の為だけに戦ってきた訳がない。

 しかしユーキの言葉は否定であった。それも違う、とはっきりと首を横に降って。

 

 

「オマエの言うとおり、他人(ソレ)がきっかけになったのかもしれねぇ。だが、根底にあるのは違うもんだ。オレは、我慢が出来なかっただけだ」

「我慢……?」

「そうだ。オレは誰よりも自分勝手で、誰よりもガキなんだよ。誰かが泣いているのを黙ってみているオレ自身が許せない、そんな身勝手な理由だ」

 

 

 本当に忌々しげに呟くと、ユーキは吐き捨ているように続けた。

 

 

「オレが無様に立ち上がってんのは、その程度の理由だ。他人の為じゃない、オレは最初から最後まで自分勝手に剣を振るい続ける」

「でも、アナタのおかげで救われた命もあるよ?」

「かもな。だが、ンなもんは結果論だ。胸を張って言えるモンじゃねぇよ」

 

 

 誰かに礼を言われたくて助けた訳ではない、そう彼は暗に告げると天を仰ぎ見る。

 路地裏から見た空はオレンジ色に染まり、色鮮やかに空を染めていた。手を伸ばした所で触れられる訳がない。そう理解しているも、ユーキは右手を天に伸ばしながら。

 

 

「オレは、どれくらい持つ?」

「それは……」

 

 

 気まずそうに、ストレアは眼を泳がせる。

 正直に言わない方が救いになることもある。それを数時間前にユウキから学び、ユイに対しても同じことを教えた。

 

 しかしユーキにとって、それは救いではない。

 欺瞞は許さない、と言うかのような強い口調で空を見上げたまま告げる。

 

 

「何を気ぃ使ってやがんだ。正直に言えよ」

「――――長くて、半年」

 

 

 実質の死刑宣告。

 どう足掻いても、半年は持たない。どれだけ彼が強い意志で繋ぎ止めようと、半年が限界という残酷な結果が待っていた。

 

 

「……そう、か」

「うん……」

「……ンでオマエが泣きそうになってんだよ。これはオレの自業自得だ」

「だけど……」

「メンドクセぇ奴め」

 

 

 呆れたように、それだけ言うとユーキはストレアに近付いて、頭を軽く小突く。

 

 

「悲観すんな。まだ半年もあるんだからよ」

「……アナタはどうするの?」

「まだオレがやるべきことは残ってる」

「それって……」

 

 

 どう言う意味なのか、ストレアが尋ねる前にユーキは不敵に口を歪めて、明らかな嫌悪を言葉に乗せて答える。

 

 

「最近、無駄にハシャイでやがるオレンジカーソルのクソ虫共を駆除する」

 

 

 血盟騎士団が攻略に乗り出す裏で、近頃オレンジプレイヤーが活発に活動しているという情報は、ストレアの耳にも入ってきた。

 その手法も様々なものだ。モンスターを利用したキルをするプレイヤーも居れば、何らかのトリックを使いキルしてくるプレイヤーも存在する。ここまでプレイヤーキラーは少なからず存在していた。だが、どういう訳かここに来てその数は増加している。

 

 プレイヤーキラーの増加に、作為的なものを感じる。

 そして、ユーキにはその裏で誰が操っているのか、どことなく勘付いていた。

 思い出すのは忌々しい男の姿。黒ポンチョを羽織った、何度か自分の前に現れた男の声。名前も知らない男を思うかべて、嫌悪感を隠すことなく口にする。

 

 

「あのクソが、裏で手ェ引いてんのは間違いねぇ。だったら野郎ごと纏めて叩き潰す方が効率が良い」

「また一人で行動するの?」

「……いいや。オレの知らない所で、他人に迷惑をかけるなんざもう二度とゴメンだ」

 

 

 苦虫を噛み潰したような苦い顔でそう言うと、今後の方針だけを告げた。

 

 

「ドリューくんとあの野郎だけには伝えておく。オマエは――――」

「アタシもアナタと一緒に行動するからね」

 

 

 遮るように、ストレアは真剣な表情で言う。

 対してユーキは舌打ちをすると、面倒くさそうに。

 

 

「足を引っ張る荷物を抱えるつもりはねぇよ。オマエは大人しく――――」

「――――だったら、アナタの身体の事をみんなに言うもん」

「オマエ……」

 

 

 普段から目付きの悪い視線が、更に鋭くなりストレアを睨みつける。

 しかしそれで怯むほど、ストレアはか弱い存在ではない。むしろギュッと拳を握り、負けないように眼で訴えながら。

 

 

「アナタの事だから、身体のことは言わないつもりだったんでしょ? でも、アタシは言うもん。一緒に行動することを許可してくれないと、みんなに言っちゃうよ?」

「…………」

 

 

 両者はお互いの姿を視界に収めたまま、しばらく無言になる。

 折れたのは――――。

 

 

「……仕方ねぇ」

 

 

 ユーキであった。

 彼は退屈そうに、というよりも少しだけ不貞腐れたような声色で。

 

 

「ただし、足引っ張りやがったら叩き潰すぞ」

「うん、ありがとう!」

「うるせぇよ。ったく、恐喝した後に笑顔とは性格が破綻しすぎだろ。誰の影響だよ」

 

 

 その言葉を聞いて、ストレアは笑みを深めて事実だけ口にした。

 

 

「もちろん、アナタの影響だよ」

「あ?」

「アナタの背中を見て、学んできたんだもん。間違いなく、アタシはアナタ似だよ!」

「ふざけてやがる。オマエのようなガキを育てたつもりはねぇよ」

「パパ?」

「おい、もう一度言ってみろ。マジで叩き潰すぞオマエ」

 

 

 きゃー、とどこか嬉しそうに逃げるストレアには、一つの決意が生まれていた。

 おどけてみせても、その内側は真剣そのもの。強い意志を宿しながら、彼女は誓う。

 

 

 ――アナタは、絶対に死なせない。

 ――半年、なんか知らない。

 ――どんな手を使っても、アナタだけは生かしてみせる。

 

 

 最悪な未来。ストレアにとってそれは、ユーキと言う人間の死であった。

 考えるだけで、感情が荒々しいものになり、上手く制御が出来ない。どうしてそんな状態になるのか、ストレアには理解が出来ない。ユーキに抱いている感情が友情なのか、憧憬なのか、それとも愛情なのか彼女にはまだ説明が出来ない。

 だがコレだけは言えた。ユーキは絶対に死なせない、と。どんなことをしても、彼だけは生かす。彼女の心にあるのは、そんな感情だった。

 

 そこで、ふと思い出したかのようにストレアは問いかける。

 あのシステムの存在であったカーディナルにもあった感情。死を前にして恐れると言う当たり前の感情が彼にもあるのか、純粋に気になった。

 

 

「ねぇ、アナタは恐くないの?」

「死ぬことに対して、ってことか?」

「……うん」

 

 

 答えは、彼らしいモノだった。

 自嘲するように、自分を馬鹿にするような声で。

 

 

「やるべき仕事が残ってるって言ったろ。――――ンなもん感じている暇なんざねぇよ」

 

 




→エギル
 彼はエギル。もう一人の自分、素敵な自分、彼は斧使いのエギル。
 しかしリアルで顔見知りである、ユーキとアスナには度々ドリューというあだ名で言われる。嬉しいのだが、ロールしきれない。
 戦う商人として、有名になりつつある。
 早く攻略して、現実世界に帰り愛娘の姿を見たいと思っている彼。
 しかし彼は知らない、その愛娘はクール系になりつつあることを。

→クライン
 キリトの悪友であり、親友でもある。しかし女好き。
 ギルド『風林火山』のリーダーであり、統率力もありギルドメンバーからは慕われている。しかし女好き。
 初対面時に、ユウキに近寄って鬼いちゃん(誤字ではない)に殺気を向けられた。女好き。
 それ以来、ユーキに苦手意識を持っている。女好きだもの。

→ユイ
 キリトの娘。カーディナルに託された。
 常日頃、カーディナルから「ユーキヤバイ、マジヤバイ」と教えられてきた結果、初対面で悲鳴を上げる惨事に。教育、大事。
 悲鳴を上げた理由は他にもあり、ユイから見たユーキは死体そのもの。内部が欠けすぎて、どうして動いているのかもわからない状態。いわばゾンビ状態。
 ゾンビ状態で、常日頃アイツヤバイと言われ続けたのだから、悲鳴を上げるのは仕方ない。
 あと、子供とユーキは相性が悪いのも理由。つまるところ、悲鳴を上げられる現実は変わらない。悲しいなぁ(愉悦)。


 


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