ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 glintさん、かたかたなるさん、誤字報告ありがとうございました!
 

Q.お前いつか「オリ主がいるのだから、原作通りになるわけがない」っていったよな?
A.いいましたね。

Q.この話は、なんだ? 原作通りみたいなもんじゃないのか?
A.……君のような勘のいい読者は嫌いだよ。 


第5話 黒猫団の英雄

 私はいつも通り、ギルドメンバーと一緒に行動を共にしていた。リアルでも交流がある仲間達。気を許せる友人。それが私にとっての彼らだった。

 彼らに不満があるとか、そんなことはない。むしろ――――私は私自身に、不満があった。

 

 ただのゲームだと思っていたのに、今となっては昔の話。

 今はHPゲージがなくなればゲームオーバーとなり、この世界での死は現実世界でも死を意味するデスゲームとなってしまった。

 そんな最悪な状況の中、私の友人達は希望を持っていった。彼らは圏内である主街区に篭もるのではなく、積極的にフィールドに足を運び、モンスターを相手に狩りを行っていた。いつしか自分達も攻略組に加わることが出来るギルドになろうと、彼らは努力を怠らなかった。

 

 私はそれを見て、素直に凄いと思う。

 理不尽に巻き込まれて、それなのに絶望しない彼らみたいな人達を、強いと言えるのだろう。

 

 だけど、私は違う。私は彼らのように勇気があるわけないし、強いわけでもない。私は弱い人間だ。このデスゲームに怯えて、震えて、夜も満足に眠れない弱い人間だ。そんな人間が満足にモンスターを狩ることが出来る訳がない。

 例え、第一層の初心者でも簡単に狩れるモンスターが相手でも、私は恐くて武器を満足に持てないだろう。

 

 考えただけで、身体が震えてしまう。

 モンスターが恐い、この世界が恐い、首謀者である茅場と言う人が恐い、何もかもが恐い。

 この世界はある意味平等だった。HPゲージがなくなってしまえば、死は平等に与えられる。それは、私の友達だった娘に対しても同じだった。

 

 その娘はギルドメンバーではない。

 この世界で生きることに必死な娘で、私と同じくらいの怖がりで、私と同じく――――生きることに諦めていた。

 自分から冒険をする娘ではなかった。常に生き残るために必死で、極めて安全に日々を過ごしていた。そんな日々を慎ましく生きる彼女に対しても、この世界は平等だった。

 

 運が悪かったとしか言いようがない。運悪くモンスターに囲まれて、運悪く彼女は一人で、そして運悪くこのデスゲームに巻き込まれてしまった。

 どれだけ臆病でも、どれだけ安全面に考慮して動こうとも、この世界では残酷なまでに平等だった。諦めている人間に死が与えられ、抗う人間には僅かな温情を与える。

 

 

「……そうだよね」

 

 

 私は思わず呟いた。

 諦めるように、感情もなく、私は死を受け入れていた。

 

 周りにはモンスターの群れ。

 そして、囲まれている対象は私一人。情報では、一人でもモンスターを狩ることが出来る安全圏だった筈なのに、今の状況は真逆。

 これはまるで、臆病である私を世界が許さないと言うかのようでもあった。

 

 でも怒りはなかったし、悲しみもなかった。

 今思えば、私は疲れていたのかもしれない。この世界で生きることに、苦痛を感じていたのかもしれない。

 だから私は楽になろうとしていた。瞼を閉じて、生き残る術である槍を手放し、膝から崩れ落ちる。力無く座りながら、私はモンスターの群れが殺到するのを待つ。

 

 しかし、いくら経っても、襲われる気配がなかった。

 むしろ、聴こえてくるのはモンスターの悲鳴である。思わず私は目を開けて、顔を上げる。

 

 視界に広がるのは、変わらずモンスターの群れ。

 だけど少し違うのは、その中に黒い影が踊っていたことだった。

 

 黒い影は人だ。黒を強調した軽装で、黒コートに黒のズボン。更に剣も黒くて、髪の毛も黒い。

 舞うようにモンスターの攻撃を避けて、踊るようにモンスターを斬っていく。まるでそれは演舞とも言えるくらい優雅なもので、命のやり取りを行っているとはとても思えない。

 誰が見ても、黒い影がモンスターに蹂躙されるなど到底思えない。そう断言出来てしまうほどの、技量を黒い影は有していた。

 

 程なくして、モンスターの群れが消えて、黒い影の背中だけが私の視界に収まっていた。

 

 お礼を言わなくちゃいけない。

 私なんかのために、黒い影は剣を取って戦ってくれた。そして私は助けられた。そのお礼を言わなくてはいけない。そう思い、立ち上がろとするも。

 

 

「あ……れ……?」

 

 

 助かったと思った瞬間、私の身体が震えていた。

 ここで漸く、無事だと分かった途端、私は恐怖を感じていたのだ。

 虫が良すぎる話である。今まで諦めて死を受けれていた人間が、ここに来て死を恐れるなんて、滑稽にも程がある。

 

 

「えーと……」

 

 

 いつの間にか、黒い影が私の目の前に立っていた。声から察するに、黒い影は男性のようだ。

 

 顔を見上げる為に、私は顔をあげる。

 黒い髪に、黒い瞳。どこか中性的な顔立ちで、見ようによっては女の子とも見える中性的で整った少年だった。

 

 彼はどこか気まずそうに、だけど眼は真っ直ぐに私を捉える。

 心配するような顔のまま。

 

 

「大丈夫?」

 

 

 手を差し伸ばし、弱い者を助ける。

 誰にでも出来そうで、実は一番難しい事を行う少年。

 ――――まるでその姿は、お伽噺に登場する人物のようだった――――。

 

 

 

 

 

 

 

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 2023年4月27日 PM18:30

 第三十層 主街区『ゼラニウム』 酒場

 

 

 モンスターからドロップする素材を集めるために、彼は三十層に足を運んでいた。

 狙うモンスターも下級モンスターであることから、彼一人で行動していた。ユイもリズベットに預けており、アスナはユウキと行動していることだろう。

 

 そんなこんなで、素材を集めていたところにモンスターに囲まれているプレイヤーを見つけ助けて圏内まで護衛した所で助けたプレイヤーのギルドメンバーと遭遇。彼が『はじまりの英雄』とわかるや否や大興奮。リーダー格の少年は興奮気味で彼を酒場に誘い、彼も最初は断ったモノの引き下がらないリーダー格の少年に折れ、現在に至る。

 

 

 ――まいったな……。

 

 

 第三十層の主街区『ゼラニウム』の外れにある酒場の隅の席にて、件の黒い影の彼――――キリトは静かに思案する。

 

 

 黒い影、と表現するのは彼の装備からの比喩であった。黒いロングコートを羽織り、防具らしい防具は胸当て程度の軽装。黒いレザーパンツに、手には黒のグローブ。背負っている武器まで黒い直剣。

 夜のフィールドであれば、暗闇に紛れて目立たない装備であるが、今キリトがいる場所は酒場の一角。明かりが灯っている室内であるが故に、全身が黒の装備で固められている彼はとても目立っていた。

 

 だが、彼が目立っているのはそれだけではない。

 

 

 ――本当に、まいった……。

 

 

 丸い机を囲うように、キリトと四人の少年、そして一人の少女が座っていた。

 

 そんな中、キリトはどこか居心地が悪い様子で、グラスに入っている水を飲む。

 視線を泳がせるようにチラッと見ると、その先には三人の少年の視線が突き刺さる。少女だけが、顔を俯かせている。キリトと視線が合うものなら、顔を少しだけ赤く染めて再び顔を俯かせていく。

 少女以外の三人がキリトに浮かべているのは、羨望の眼差し。かの有名な『はじまりの英雄』が自分達と肩を並べている、それだけで少女以外の四人は興奮していた。

 

 とはいっても、そう言った感情を向けられるのは初めてではない。

 何度も向けられたモノであるが、慣れないものは何度繰り返そうが慣れないものだ。

 加えて、酒場にいる全てのプレイヤーがキリトを注目しているようでもあった。

 

 良くも悪くも、キリトというプレイヤーは有名である。

 モンスターキラーによって絶望に染まっていたプレイヤーを救った『はじまりの英雄』。神話の英雄のように諦めずに、討伐してみせた彼に、全てのプレイヤーは希望を持つようになった。

 全プレイヤー達の希望の象徴。今となっては、最強の攻略ギルド集団『血盟騎士団』の団長であるヒースクリフと二分するほどの人望を集めていた。

 

 そんなプレイヤーが、自分達の目の前にいる。酒場にいるプレイヤーが浮足立つのも、無理も無いのかもしれな。

 

 どうしたものか、と空になったグラスをテーブルの上に置きながら考えるキリトに、意を決して一人の少年が口を開く。

 

 

「あ、あのキリトさん! 今回は本当にサチを助けてくれてありがとうございました!」

 

 

 四人のリーダー格の少年――――ケイタが勢い良く立ち上がりながら、キリトに向かって思いっきり頭を下げた。

 もはや何度目かのやりとりかわからない、と言いたげにキリトは苦笑を浮かべて。

 

 

「あ、あのさ、敬語とかなしにしないか?」

「恐縮です!!」

「……」

 

 

 何度言っても、ケイタは敬語を止めてくれない。

 むしろ、背筋を伸ばして、肩を強張らせて、態度はますます固くなるばかりである。

 

 ケイタの反応が面白かったのか、仲間の一人であるテツオは腹を抱えて笑いながら。

 

 

「ごめんな、キリト。ケイタのヤツ、君に憧れててさ。敬語で話すなってのは無理なんだわ」

「な、何を言うんだよケイタ!」

「僕もあの人のようなプレイヤーになりたい! って毎回言ってたもんな?」

 

 

 追い打ちをかけるように、どこか意地の悪い笑みを浮かべる少年――――ササマルに向かって、顔を赤く羞恥に染めながらケイタは慌てながら言葉を紡ぐ。

 

 

「ぼ、僕はその……、キリトさんのような、希望を与えられるプレイヤ―になりたいってだけで――――!」

「まぁ、この通り真っ直ぐなヤツだからさ。気を悪くしないでほしいんだ」

「ダッカー、フォローになってないんだけど……!」

 

 

 ケイタの言葉にダッカーと呼ばれた少年がニヤニヤ笑みを浮かべる。

 それが引き金となり、ギャーギャー、と騒ぎ始める四人を見て、キリトは再び「ははは……」と乾いた笑みを浮かべた。

 

 その光景はどこか見覚えがある。

 ムキになり、周囲の眼を気にせずに言い争いをするその姿は――――。

 

 

「ごめんね、騒がしくしちゃって……」

 

 

 おずおず、と申し訳なさそうに言う少女――――サチにキリトはやんわりと首を横に振りながら。

 

 

「いいんだ。俺も良く言い争いしてるから、こういうのは慣れてる」

「え、はじまりの英雄と?」

 

 

 意外そうに呆然と呟く彼女に対して、キリトは照れくさそうにポリポリ自分の頬を掻きながら。

 

 

「その……、はじまりの英雄っていうの止めてくれないか?」

「え?」

「俺は英雄なんて呼ばれる程、立派な人間じゃない。何よりも……恥ずかしいんだ」

 

 

 そこまで言うと、キリトはサチから視線を外してそっぽを向いてしまった。サチからキリトの表情を伺う事は出来ない。しかし彼の耳が若干赤く染まっており、照れ隠しに空になったグラスを飲むような仕草をしている。

 そのことから、彼が本当に照れている事がわかる。

 

 サチは目を丸くすると、直ぐにクスクスと笑みを零した。

 彼女から見た『はじまりの英雄』と称されるプレイヤーは雲の上のような人であった。自分とは真逆、勇気溢れる存在で、自分とは違う強い人間で、どこか超越した存在であると思っていた。

 しかし実態は違う。『はじまりの英雄』も人間。そのことがサチにとって何よりも嬉しく思い、思わずサチは抱いた感情を口にした。

 

 

「キリト、本当にありがとう」

「ん?」

「君に助けてもらえなかったら、私はあのままゲームオーバーになってた……」

「サチ……」

「だから私にとって、キリトは英雄なんだ。凄く、カッコ良かった……」

「そ、そっか……」

「うん……」

 

 

 それだけ言うと、二人の間に沈黙が流れる。

 サチは顔を真っ赤に染めて顔を俯かせて、キリトは耳を赤く染めて明後日の方向へと見つめる。

 

 居心地が悪い、というよりもどこか甘酸っぱい空気が二人を包み込む中、沈黙に耐えきれなくなったサチがどこか慌てながら次の話題を振る。

 

 

「そ、そういえばね! こうして助けられるのは、二度目なんだ私!」

「そ、そうなのか?」

 

 

 とは言っても、その空気に耐えきれなかったのはキリトも同じだったようで、先程のやりとりをなかったかようにするが如く、全力でサチに問いを投げつける。

 

 

「その人の名前はわからないけどね」

「名乗らなかったのか?」

 

 

 サチは一度頷いて。

 

 

「うん。当時は私達だけじゃなくて、ギルドの皆もいたんだけどね」

「五人で?」

 

 

 一人でいる所をモンスターに襲われゲームオーバーになった、という話しは珍しくもない。逆に、集団でいた所をモンスターに襲われゲームオーバーになったという話しの方が珍しいモノだ。

 基本、パーティーを組んで役割をこなしていればゲームオーバーになることは先ずない。

 

 サチもキリトの考えを汲んでか、顔に影を落として呟く。

 

 

「私達の相手はモンスターじゃなくて――――プレイヤーだったんだ……」

「……PKか」

 

 

 キリトの問いに、サチが頷いた。

 

 PK、通称『プレイヤーキラー』。

 普通のMMOであれば、少なからず存在する。何らかの目的で攻撃を行い、プレイヤーをキルする。それがPKと呼ばれる人種だ。それは『ソードアート・オンライン』でも同じである。PKと呼ばれるプレイヤーは存在していた。

 

 しかしデスゲームと化したこの世界において、PKとは最大の禁忌となっている。

 なにせ、ゲームオーバーとなれば、仮想世界の死はもちろん、現実世界の死にも直結している。そうなれば人殺しと変わりない、悪質以上の悪辣行為だ。

 本来であれば、そんなプレイヤーはアカウント停止処分で対応するのだが、今となってはそんな見込みなどない。そもそも、デスゲームとなり仮想世界に閉じ込められてしまった現状では、アカウント停止処分などありえないのだ。

 

 プレイヤーが喜々としてプレイヤーを殺す。

 そんな光景を目の前にしたサチは、恐る恐る続ける。

 

 

「でも、私達を助けてくれた人は、PKよりも恐かった」

「PKよりもか?」

「うん。テツオとササマル。あとダッカーはファンになっちゃったけどね? 私は、あの人が恐かったなぁ……」

 

 

 助けたというのに、PKよりも恐がられる存在。

 そんな存在に心当たりがキリトにはあった。よく口論している少年、気に食わない存在であり、対等でありたいと願い続けた存在。そして、自分よりも強い存在。

 

 

 今、“彼”が何をしているのかキリトは思い出す。

 最近、“彼”はストレアとずっと行動していた。主にその理由は――――PKを排除することに他ならない。

 彼一人ならまだしも、ストレアと一緒に行動するのなら問題はないということもあり、キリトは彼の行動に目を瞑っていた。少しでも単独行動するものなら、アスナとユウキに密告してやろう、そんな企みを思いつつ。

 

 

「アイツに襲われるとか、考えたくもないな……」

 

 

 キリトはどこか遠い目をしながら呟くのに対して、サチは不思議そうに首を傾げる。

 こうして、今日一日が過ぎていく。

 

 

 ――――これがキリトと、彼ら『月夜の黒猫団』の出会いであった――――。

 

 

 




べるせるく・おふらいん

~楽屋裏~
エロマンガ先生、一場面にて

モニターに映るキリトさん『スタァバァストストリィム(ねっとり)』

ユーキ@腕組「オマエ、楽しそうだな?」
キリト@正座「そ、そんなこと……」
ユーキ@腕組「主人公なんだから、しっかりしろよ」
キリト@正座「俺もやりたくてやったわけじゃ……」
ユーキ@腕組「オマエ、何て言われてるか知ってるか?」
キリト@正座「……何て言われてるんだ?」
ユーキ@腕組「ゲス顔ダブルソードだぞ。オマエ主人公だろ、しっかりしろよ」
キリト@正座「だから、俺もやりたくてやったわけじゃ――――」

モニターに映るキリトさん『スタァバァストストリィム(ねっとり)』

キリト@涙目「わかった! わかったから、もうやめるんだ!」



→サチ
 ギルド『月夜の黒猫団』に所属している紅一点。気弱な少女。武器は長槍
 下層にて、とあるプレイヤーに助けてもらったが、恐怖を抱いている。
 もしかして:アインクラッドの○○?
 ちなみに、はじまりの英雄派
 作者の一番推しているキャラクター。

→ケイタ
 ギルド『月夜の黒猫団』のギルドリーダー。月夜の黒猫団を攻略ギルドにしたいと思っている。キリトのファンの一人。キバオウさんと相性が良い筈。
 ちなみに、はじまりの英雄派

→テツオ
 ギルド『月夜の黒猫団』のメンバーの一人。
 下層にて、とあるプレイヤーに助けてもらい、憧れている。
 もしかして:アインクラッドの○怖?
 ちなみに、アインクラッドの恐怖派

→ササマル
 ギルド『月夜の黒猫団』のメンバーの一人。
 下層にて、とあるプレイヤーに助けてもらい、好意を抱いている。鎧の下の素顔は美女だと本気で思っている。
 もしかして:アインクラッドの恐○?
 ちなみに、アインクラッドの恐怖派
 
→ダッカー
 ギルド『月夜の黒猫団』のメンバーの一人。
 下層にて、とあるプレイヤーに助けてもらい、崇拝している。
 もしかして:アインクラッドの恐怖?
 ちなみに、アインクラッドの恐怖派

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