ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 glintさん、誤字報告ありがとうございました!

 そして何だかんだ言って、50話突破してました。
 長く続けていられるのは、読者さんがいてこそだなぁ、と感じました。
 私、飽き性なもので……。

 今後も、よければ見ていただければ幸いです!




第6話 聖竜連合の交渉人

 2023年5月14日 PM8:20

 第一層 はじまりの街 宿屋の大広場

 

 

「ですから、わたし達は誰の味方とかじゃありません!」

 

 

 日が昇り、鳥が囀り、窓から日の匂い。

 誰も朝起きて、今日は誰も訪れなかった。

 そんな幸先の良い朝を迎えたのも束の間、金髪碧眼の少年――――ユーキは渋い表情を顔に浮かべて二階から一階へと降りてきた。

 

 渋い顔で降りてきたのは理由がある。

 別に、彼が低血圧で起き抜けに機嫌が悪くなるタイプだから――――なんて理由ではない。目覚めは良かった。何しろ常日頃起きたら誰かが自分の寝顔を見ている、という生活を彼は送っていたのだ。しかし今日に限ってそれはなく、彼からしてみたら漸くまともに起床し、それはもう清々しい朝を迎えたことだろう。

 

 起きて早々、皮肉を口にする必要もなく、ため息を吐く必要もない。これこそが、人の朝を迎えるべき状態である。そんな気持ちなのも一瞬のこと。

 一階から聴こえてくる口論が原因で、彼は渋い表情を浮かべるハメとなる。

 

 その声の主は男性と少女のもの。

 少女の方は、ユーキも聞き覚えがあるものだが、男性の方は記憶にないモノ。何よりもこんな朝から口論など、絶対に碌でもない状況になっているのは明らかだ。

 

 だからこそ、ユーキは渋い表情を浮かべる。

 絶対に碌でもない予感を感じ取り、尚且つ聞き覚えのある少女の声がその証拠となっている。

 

 ユーキの知る“少女”は気性が荒い類ではない。

 むしろその逆。積極的に争う性格でもないし、出来れば争いは避けている。ユーキの知る中でも『優しい』と断言できる程の人格であり、怒ってない限り大声を出すことはありえない。

 となればだ。ユーキが寝ていた二階にも聴こえてくる程の大きな声。ユーキの知る“少女”は怒っていることになる。

 

 

 ――珍しいこともあるもんだ。

 ――アイツがここまでキレたのはいつ以来だ?

 

 

 昔を思い出した所で、記憶にない。

 しかし呑気に思い出している暇などない。彼は今がどんな状況なのか、自分の視界から映る範囲内で情報を集めることにする。

 

 一階の大広間には、既に人垣が出来上がっている。

 勿論、その中心にいるのは例の“少女”と五名程の武装した男達であった。周囲はざわつきながらも、事の成り行きを見守っている。少女と男達の間に入って仲裁をしようとする者は、まずいないだろう。それだけ激しい口論ということだ。

 

 次に、ユーキは少女へと視線を向けた。

 五人の男達の中心にいる人物を、下から見上げるように彼女は睨めつけている。その様子は正に『怒髪、天を衝く』と表現出来るほど彼女は激しく怒っていた。

 

 

 珍しいモノを見た、と思うと同時に、どんなことをしたらあそこまでアイツを怒らせることが出来るんだ。

 と、言わんばかりに今度は少女が睨めつけている男性へと視線を向ける。

 

 男性はかなり恵まれた体躯であった。

 かなりの長身で筋肉質。歳は三十代前半くらいで、ごく短い髪に角ばった顔立ち。太い眉の下の眼は少女を見下すような眼で睨みつけている。

 

 男性の見下したような眼、そして少女を侮りきっている雰囲気を敏感に感じ取り、ユーキは益々顔を不快に深めていく。

 やはり碌でもない状況になっていた。少女のことだ、自分のことではなく、仲間の誰かが悪く言われて苛立ちが募り、臨界点に達して大声を上げてしまった。

 

 そんな所だろう、とユーキは事の顛末を予想すると、取り敢えずこの状況をどうにかしようと輪の中心へと足を進める。

 到達する前に予行練習は抜かりない。柔和な笑みを浮かべて、如何にも草食系男子のような頼りない雰囲気を身に纏っていく。何せ久しぶりなのだ、数ヶ月まともに被ってないものを彼は急に被ろうとしている。しかもぶっつけ本番である、それ念入りに予行練習を行うというもの。

 

 普段被ってないものを被る。

 それはつまり――――。

 

 

「――――アスナ、どうしたの?」

 

 

 猫かぶりである。

 ユーキは努めて口元に満面の笑みを浮かべて、人の良い柔らかい表情で、輪の中心人物である少女――――アスナに向かって話しかけた。

 

 対するアスナは今までの怒りはどこに消えてのか、明るい表情をユーキに向ける。

 その顔はまるで『迷子だった子供が、親を見つけた』といったモノにそっくりであった。

 

 

「ユーキくん――――!」

「失礼だが、君はなんだ?」

 

 

 遮るようにして、アスナと対峙していたリーダー格の男が口を開く。

 その眼はもちろん、見下したソレだ。自分よりも歳下の子供が現れて邪魔をされた。そう言った憤りも、その眼からは感じ取ることが出来る。

 

 それはアスナからもわかっていたようで、再び口を開き声を荒げようとするのをユーキは二人の間に割って入るようにして止めた。

 男からアスナを守るように、身体を入れ替えてユーキはあくまで下手に出ながら答えた。

 

 

「ボクは、アスナと同じギルドの仲間です」

「君も『加速世界(アクセル・ワールド)』だと? とてもそうは見えないな」

 

 

 『はじまりの英雄』『紅閃』『クリエイター』と名高いプレイヤーの中に、お前のような貧弱そうな男がいるとは思えない。そんな明らかな侮蔑を乗せた言葉にも、ユーキは笑みを崩さない。

 今にも身を乗り出そうなアスナの手を右手でギュッと握り締めなだめながら、極めて穏やかな口調で接する。

 

 

「ところで、失礼ですが貴方は?」

「私は、攻略最大ギルド『聖竜連合』遊撃部隊リーダーであるコーバッツである!」

 

 

 自信満々に胸を張る男性――――コーバッツを尻目に、ユーキは考えを巡らせた。

 

 『聖竜連合』。

 それは、アインクラッドに存在する攻略ギルドの一つである。

 数あるギルの中で“最強”のギルドが『血盟騎士団』だとするのなら、コーバッツが所属する『聖竜連合』は“最大”と称することが出来る。

 最大と称される所以が、プレイヤーの数に他ならない。様々なギルドからプレイヤーを引き抜き、そしてあるいは合併、もしくは吸収することによって、多くのプレイヤーを抱えることに成功していた。

 とは言っても、彼らを突き動かすのは『戦えないプレイヤー達の変わりに自分達が戦う』といった自己犠牲の精神ではない。むしろもっと自分勝手なモノで『トッププレイヤーとしての自尊心を守る』程度の理由でしかない。

 故に、血盟騎士団を目の敵にしており、場合によっては一時的なオレンジプレイヤー化も辞さないなんて黒い噂まで存在する。

 

 そんな連中の、中心人物とも取れる男がアスナに尋ねてきた。

 碌でもない理由に決まっているが、一応ユーキは問う。

 

 

「コーバッツさん、どのような用件で?」

「私は交渉をしに来たのだ」

「交渉、ですか?」

「うむ、君達の団長にも伝えたのだが、もう一度言おう。――――私達『聖竜連合』の傘下に入って貰いたい!」

 

 

 一際大きな声でコーバッツが告げるが、ユーキの耳には入っていなかった。むしろ、予想通りの展開で退屈そうに受け流していた。

 

 数多のギルドを吸収、合併してきた『聖竜連合』としては、『加速世界(アクセル・ワールド)』は喉から手が出るほどほしいギルドとも言えるだろう。

 所属しているプレイヤーは四人と少数規模のギルドであるが、その中の三人は異名を持ち、更に言うのであればその中には『はじまりの英雄』と一際注目を浴びているプレイヤーが存在する。

 そのことから、知名度で言えば最強の『血盟騎士団』、最大の『聖竜連合』と引けをとらないものだ。ここで『加速世界(アクセル・ワールド)』を傘下に加えることが出来れば、攻略ギルドの地位は盤石なものとなり、ひいては『血盟騎士団』を出し抜ける。そんな浅はかな思惑があるのだろう。

 

 見え透いた思惑にユーキの反応は薄い。柔和な雰囲気を保っているのは、今まで積み重ねた猫かぶりの経験もあってのことだろう。

 対して、コーバッツの態度は揺るがない。高圧的で、ユーキ達を見下したまま続けた。

 

 

「我々は、君達一般プレイヤーの為に日夜戦っている!」

 

 

 心にも思っていない言葉を吐き出しながら、コーバッツは大きな声で続けた。

 

 

「であるのならば、我々に君達が協力するのは義務である!!」

「勝手なことを言わないで――――!」

「――――それに!」

 

 

 アスナの抗議の声を遮ると、コーバッツは口元に笑みを浮かべる。

 微笑むといった相手を暖かくさせる類ではない。相手を軽視する、過小評価するような相手を苛立たせる笑みをユーキ達に向けたまま続けた。

 

 

「――――君達も我々を敵に回したくないだろう?」

 

 

 自分達の敵になりたくないのなら、傘下に加われ。つまりは、そういうことだった。

 コーバッツは先程、交渉しに来たと言ったが、そんなものは建前であった。それは今のコーバッツの言動、そして今までの彼らの装備を見ればわかるというもの。

 彼らは武装してここまでやって来た。威圧するように、脅迫するように、高圧的なまでに武装していた。仮にコーバッツの言うとおりこれが“交渉”だというのなら、武装する必要などないのだ。むしろ低姿勢で、協力を仰ぐ立場であるのなら、極力敵意がないことを示さなければならない。

 

 

 ――交渉、ねぇ?

 ――ハッ、脅迫の間違いだろ?

 ――それにしても、たった五人で脅迫か。

 ――オレ達も舐められたもんだ。

 ――なぁ、キリト?

 

 

 ユーキは眼を細くし、今この場にいない少年を思い浮かべて、薄く笑みを零す。

 たったそれだけだった。コーバッツの脅迫にこの程度の反応しか見せない。舐められた、と解釈したコーバッツは一際大きな声を上げて怒鳴りつける。

 

 

「聞いているのか! さっさと私達の傘下に加われと言っている!」

「……………」

「そもそも、貴様等は取るに足らない存在であることを自覚しろ! 『はじまりの英雄』『紅閃』『クリエイター』と持て囃されているようだがな!」

 

 

 ここで漸く、ユーキは初めて反応を示した。

 ピクッ、と片眉を上げて、柔和な雰囲気から、少しばかりの剣呑な雰囲気を放つ。

 

 機微な変化に気付くプレイヤーはいない。

 ザワついている周囲の者はもちろん、対峙している『聖竜連合』の面々も気付かない。気付いているのはユーキの後ろにいるアスナだけである。

 

 どのワードがユーキの気に障ったのか理解しながらも、アスナは口を開く。

 ハッキリと、自分の考えをコーバッツに伝えた。

 

 

「わたし達は、どのギルドに属するつもりはありません。それはあなた達『聖竜連合』も一緒です」

「なん、だと……?」

「お引き取り下さい、コーバッツさん。わたし達も今回のことは忘れます」

「き、貴様! 私達が取るに足らん貴様等を使ってやると言っているのだ! 子供が調子に――――!」

 

 

 顔を真っ赤にさせて、アスナに掴みかかろうとする。歯牙にもかけない、アスナの言い分が屈辱だったのだろう、

 恥辱に塗れ、激怒に顔を染めたコーバッツは冷静ではない。現に、アスナとの間にいる彼の存在を忘れていた。

 

 

「――――オイ」

 

 

 アスナに掴みかかる直前、間に入っていたユーキがコーバッツの腕を片手で掴むみ、そのまま最低限の動きでコーバッツの重心を差し引く。

 

 

「な――――」

 

 

 何が起こったのかわからないまま、コーバッツは気が付けば背中から床にに叩き落されていた。背中から叩き落され、それは衝撃となりコーバッツを襲う。

 すぐに立ち上がろうとするが、それを対峙している少年が許しはしなかった。

 

 コーバッツの喉を右手で掴むと、そのまま彼の身体を重力を感じさせない様子で片手で持ち上げる。

 足をバタつかせ、両手で抵抗しようと、その拘束を解くことが出来ない。何よりも――――。

 

 

 ――コイツは、誰だ……?

 ――目の前にいたのは、無名の雑魚だった筈……。

 ――コイツは、一体……!?

 

 

 対峙していた少年には、柔和な笑みは張り付かせていなかった。

 眼つきは鋭くコーバッツを見上げるように睨みつけて、全身から突き刺すような剣呑な雰囲気を纏い、粗暴な口調で少年だった正体不明の彼は口を開く。

 

 

「誰の許可で、うちの団長に手ぇ上げようとしてんだよ三流」

「貴、様……!」

「そもそも交渉ってのはよォ、話し合いっつー卓に座って成り立つもんだろうが。テメェみたいに拳を振り上げて、脅すもんじゃねぇだろうが?」

 

 

 喉を覆う手に徐々に力が篭められていき、コーバッツの首を少しずつ軋ませ、ユーキの言葉には徐々に熱を篭り始めていく。

 誰がどう見ても、彼は怒っていた。

 

 

「第一に、テメェがアイツらを使うだと? 馬鹿が、オレなんぞに劣るテメェ如きが――――アイツらをどうにか出来る訳がねぇだろうが!」

「ガ……グゥ……!」

「安心しろよ、この世界に窒息死はない。しっかり息をしろよ中年、みっともねぇ―――――ぞっ!」

 

 

 そう言うや否や、他の四人に目掛けてコーバッツを放り投げる。

 砲弾のような勢いで四人に激突し、無様に地面を転がるも、コーバッツの威勢が衰えることはない。

 喉を擦りながら、身体を起こしてユーキを睨みつけて。

 

 

「貴様、『聖竜連合』に敵に回したらどうなるか――――」

「――――それは聞いたってんだろが、ボケがァ!」

「な――――!?」

「テメェらみたいな数だけの連中なんぞ眼中にねぇんだよ。いつでもかかって来い、オレ一人で叩き潰してやるからよォ!」

 

「アイツらが出る幕はねぇんだよ。いいかクソ中年、喧嘩は数じゃねぇ、度胸じゃダボがァ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 数十分後 はじまりの街 露店エリア

 

 

 コーバッツに啖呵切ってから数十分後、騒ぎになっていた宿屋から脱出したユーキとアスナは露天エリアを歩いていた。

 朝も早いこともあってか人通りも少なく、開店前だからかいつも売買しているNPCの姿も見られない。

 

 NPCの客引きが飛び交い、いつも賑わっている露店エリアとは思えない。

 そんな静寂を叩き壊すかのごとく、ユーキは苛立ちを募らせながら歩を進めていた。

 

 

「あのクソ、コーバッツって言ったか? 今度見かけたら、ぶん殴ってやる……」

 

 

 ブツブツ、と怒りに燃えている後ろにはアスナの姿があった。

 前を歩きながらも、自分の歩幅に合わせているユーキの背後を見ながら、笑みを深めていく。

 

 

「えへへー」

「……オイ」

 

 

 背後で呑気な雰囲気を感じ取りながら、ユーキは振り返りアスナを軽く睨みつける。

 しかしそれでアスナの笑みが陰ることはない。むしろ更に深く笑みを浮かべて。

 

 

「どうしたの、ユーキくん?」

「……今までの状況で、どこに笑う要素あったよ?」

「えー、あったよー?」

 

 

 ニコニコ笑みを浮かべながら、アスナは嬉しそうに続けた。

 

 

「君が怒ったのって、わたし達がバカにされたからでしょ?」

「……」

 

 

 自覚はあった。

 今まで完璧に猫を被っていたのに、コーバッツの『取るに足らない存在』という言動に怒りを覚えていた。

 コイツらの何を知っているのか、とユーキが思うと同時にいつの間にか外面の仮面は剥がれており、いつもの粗暴な自分の姿があった。実のところ、ユーキは困惑していた。今までこんなことはありえなかった。どんなことがあろうが、猫を被り続けていた。

 

 沸点が低くなった訳ではない。

 現に、自分がどう言われようが猫を被り続ける自信がある。だがユーキ以外の他人が悪く言われれば、話しは別だった。恐らく、先程のように簡単に怒りの臨界点を突破することだろう。

 

 我慢出来ない自覚はあったが、ここまで堪え性がなかっただろうか。そんな疑問を自分に投げた所で、答えなど返ってくる訳がない。

 

 それよりも現状の打破を優先しなければならない。

 目の前のニコニコ微笑みを浮かべているアスナをどうにかしなければ、ユーキの心はいつだって晴れないままだ。

 

 

「オマエらなんぞ知ったことじゃねぇよ。オレがキレたのは、多人数で少人数に喧嘩を売るって構図が気に入らなかっただけだ……」

「えー、ホントー?」

「…………」

 

 

 鬱陶しい。

 そう言うかのように、ユーキは顔を顰める。

 先程、面と向かってコーバッツに言い放った人物と同一人物は思えないほど、彼女の頬は緩んでいた。

 

 

 ――コイツ、本当にあのクソ中年と対峙してた同一人物か?

 ――ンだよ、このギャップは……。

 ――でも、コイツ変わったな……。

 ――デスゲームが始まる前だったら、あんなこと言えなかっただろう。

 ――京子さんと喧嘩して、毎回オレの所に来てたっつーのに……。

 ――本当に変わった、スゲェよ明日奈。

 ――変わってないのは、オレだけか……。

 

 

 ジッとアスナの顔を見続けるユーキに、彼女はどこか気恥ずかしそうに頬を赤く染めて。

 

 

「あ、あのユーキくん、どうしたの? ずっと見られると、恥ずかしいかなーって……」

「……何でもねぇよ」

 

 

 それだけ言うと、ユーキは再び踵を返し、再び歩を進める。アスナは首を傾げて、その後を追いかけた。

 

 

「そう言えば、キリトはどこに行った?」

「キリトくんなら、ユイちゃんとリズと一緒に四層のゴンドラに乗りに行くって言ってよ?」

「ハッ、黒猫なんちゃらのレベリングに付き合ってると思ったら、今度はそっちかよ。人が良いにも程があんぞ」

「……人のこと言えないと思うけどなー」

「……何か言ったか?」

「い、いや! 何も!」

「…………」

 

 

 問い詰めようとしたが、面倒臭くなったのかそのままユーキは歩を進めることにした。

 その背を見て、どこかおずおずとユーキを伺うように。

 

 

「あの、ね? わたしも……」

「……ンだよ?」

「あのね、あの……」

「どうしたんだ、オマエ?」

 

 

 どこか様子がおかしいアスナを心配したのか、ユーキは歩を止めて振り向いた。

 その顔もどこか心配するようなもので、アスナを注意深く観察する。

 

 対して彼女は、深呼吸を一度深く吸って、もう一度深く吐いてを何度か繰り返し、意を決して告げる――――。

 

 

「あの、ユーキくん! わたしと――――」

 

 

 ゴンドラに乗ってほしい、と言う前に言葉が止まる。

 ユーキはどこか神妙な顔でメインメニュー・ウィンドウを開くと、メールボックスを開きメールを見ていた。

 

 内容を読み進める毎に、ユーキの表情は険しいものに変わっていく。

 

 

「……何かあったの?」

「あぁ、野暮用が出来ちまった。それで、オマエは何を言いたかったんだ?」

 

 

 アスナは困ったような笑みを浮かべて、首を横に振る。

 

 

「ううん、気にしないで」

「そうか……」

 

 

 それ以上、ユーキは深く追求しなかった。

 本人が言わない以上、追求した所で話しはしないだろう、と判断すると手早く装備画面を開いて武装すると。

 

 

「それじゃ、行ってくる」

「……一つ、教えて」

「ンだよ?」

「変なこと聞くんだけど、ユーキくんって身体のどこか悪い訳じゃないよね?」

「――――」

 

 

 言葉を失った。

 今まで、身体の不調を訴えたことはなく、見破られたと言えばストレアくらいなものだった。しかしそれも、『心意』という話しの前提の話があってこそだ。

 しかしアスナはそんな情報を一切なく、ユーキの身体がどのような状態なのか勘付いていた。

 

 コイツに一生敵いそうにない、心の中で呟きながら。

 

 

「絶好調だってんだよ、見りゃわかんだろ」

「そう、だよね……」

「そうだ、だから心配すんな」

 

 

 うん、とアスナは頷いて続ける。

 

 

「どこに行くの?」

「簡単な野暮用だ」

 

 

 ――――ただのゴミ掃除だ。

 

 

 

 

 

 

 

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