ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 感想や評価点、お気に入りをしていただけてありがとうございます。
 中には更新ありがとう、とか言って頂ける方もいらっしゃいますがとんでもない。むしろ呼んでいただけてありがとうございますって気持ちでいっぱいです。

 内容もないようで、とても万人向けするような作品ではないのにここまで皆さんに評価していただけているのは大変嬉しいことであるし、自分には勿体無いくらいです。本当にこうして投稿出来ているのは感想や評価点、お気に入りしてくれている方々がいてこそです。

 本当にありがとうございます。
 これからもより良い作品にしていきたいと考えているのでよろしくお願いします!
 

 
 紅月玖日さん、-シロ-さん、スッズムシーさん、誤字報告ありがとうございました!




第6話 『騎士長』ディアベル

 2024年1月24日 AM12:30

 第十八層 主街区『ユーカリ』

 

 

 アレから問題もなく、『ビーストテイマー』シリカの使い魔ピナを蘇生しキリト達はギルドホームがある第十八層の主街区『ユーカリ』まで戻っていた。

 何も問題なく、何も滞りもなく、全て予定通り。しかし、キリトからしてみたら少々拍子抜けでもあった。

 

 使い魔に必要なアイテム『プネウマの花』はレアアイテムであり第四十七層のダンジョン『思い出の丘』にしか存在しないアイテムだ。

 第五十層までしか到達していない現状で、四十七層は攻略組からしてみても高レベルのモンスターであるし、プネウマの花を一つ摘みに行くというだけでは非効率極まる。

 この世界では数少ないビーストテイマーの使い魔である蘇生用のアイテム。蘇生するためには三日以内という期限があるものの、使い魔を殺してしまったビーストテイマー達にとって、これほど欲するレアイテムは存在しないだろう。

 

 だからこそ邪な事を考えるプレイヤーにとって、プネウマの花は欲しいアイテムの筈だ。

、例えば、ビーストテイマーをパーティーに誘い、わざと使い魔が死んでしまうような状況を作り、奇遇にも『プネウマの花』持っていると言い、それをビーストテイマーに高値で売りつける。

 しかし先程言ったように、いちいち高レベルモンスターがひしめくダンジョンに行ってもいられない。

 となれば待ち伏せして、プネウマの花を入手したプレイヤーを襲い力強く奪えばいい。そんな考えをして、実行するプレイヤーがいると思ったのだが――――。

 

 

「――――って考えていたんだ。ま、そんなことなかった訳だけど」

「……キリトくん、まるでユーキくんみたいな考え方するね?」

 

 

 説明が終わり安堵とも取れる溜息をキリトが吐くと、隣で歩く女性プレイヤー――――アスナが苦笑を混じえて感想を呟いた。

 それに対して心外だ、と言わんばかりにキリトは面白くなさそうに苦い顔になりながら問いを投げる。

 

 

「……それは嫌だな。そんなに似てる?」

「うん。斜めに物事を捉えているというか、警戒心アリアリって感じ」

「……俺達からしてみたら、アスナ達が呑気すぎるんだけど」

 

 

 そうかなぁ、とアスナは首を傾げるのを見て、キリトは一度だけ力強く頷いた。

 呑気と言うより、ポワポワしているといった方が正しい。キリトから見たアスナという少女はそういう少女であった。

 

 だがこと攻略においては、その限りではない。的確な指揮、モンスターへの知識、そして類まれなる剣技。どれをとっても、アスナというプレイヤーは一流であった。

 モンスターやフロアボスと対峙する際には冷静そのもので、攻略会議での発言する際にも凛とした佇まいで意見する。普段の“ポワポワ”しているアスナはその場には存在しない。その場に存在するのは『紅閃のアスナ』という攻略組である。

 数多くのMMORPGを経験し、ソードアート・オンラインでのベータテストを体験したキリトからして見ても、アスナのプレイヤーとしての完成度には目を見張るモノがあった。

 

 普段のポワポワしたアスナ、攻略組としての『紅閃のアスナ』。二つのギャップはそれは凄まじい。

 要はONとOFFの違いである

 更に言えば、ユーキと一緒に居るアスナはONとOFFどころの話しではない。そもそもスイッチという概念が存在しないというかのように、彼女は蕩けきっている。それを必然的にフォローするのがユーキの仕事なのだ。

 

 そこまで考えて、キリトは思わず口に出してしまう。

 

 

「ユーキのヤツも大変だな……」

「キリトくん、それはどう言う意味かな?」

 

 

 ハッ、と口を抑えるももはや手遅れ。

 アスナはにっこり満面の笑みを浮かべて問いを投げる。非常に攻めるタイプの笑顔を向けられて、思わずキリトはしどろもどろになりながら話題を変える。

 

 

「そ、そう言えばさ! 買い物はこれで終わりだよな!?」

「……誤魔化してない?」

「してないしてない、するわけがない」

 

 

 必死にブンブンと勢い良く首を横に振るキリトを見て、アスナは納得言ってないものの渋々といった調子に片手でメインメニューウィンドウを開く。それから慣れた手つきでアイテムストレージを開き確認して、ようやくキリトは安堵のため息を吐いた。

 

 

「うん、これで全部だね」

「しっかし、結構な数になったな……」

 

 

 キリトも自分のアイテムストレージを開き確認しながら呟いて、アスナもその言葉に同意する。

 

 

「数が数だもん。仕方ないわよ」

「ほとんどがエギルから買ったモノだしな」

 

 

 キリトの脳裏には居丈高に「HAHAHAHAHAHA!」とサムズアップしながら笑うエギルの姿があった。

 彼がエギルにどんなイメージを抱いているのかつゆ知らずに、アスナは満足気に大きく頷いて。

 

 

「想定してたコルよりも安く買えたし、リズも大喜びだよ」

 

 

 今もシリカとユイの相手をしているリズベットはくしゃみをしていることだろう、とキリトはぼんやりと思う。

 アスナとキリトのアイテムストレージを見ても、食材を大分買い込んでおり、その量はまるでこれからパーティーをするかのようでもある。実質それは的を得ていた。現にこれから彼らは加速世界(アクセル・ワールド)のギルドホームにてパーティーをするのだから。

 

 ことの発端は、数十分前の話し。

 シリカの使い魔である小さなドラゴン、種族名は『フェザーリドラ』のピナを蘇生させて、ギルドホームでお茶を飲んでいたときの話しだ。

 血盟騎士団のギルドホームに向かっていたユーキからアスナへメッセージが飛んできたのだ。内容はとても淡白なもの。

 

 『妹がギルドに入ることになった。パーティーの準備をしてほしい。必要経費は全部オレが払う』

 

 それを聞いたキリトとリズベットは「やっとか」と笑みを零し、アスナとユイは「遂に!」と喜び、いまいち要領を得ていないシリカとピナは首を傾げていた。

 当初は加速世界(アクセル・ワールド)メンバーだけで行う歓迎会だったのだが、アスナのテンションが上がりに上って「知り合い全員呼んじゃおう!」ということになり現在に至るということだ。

 だから食費などの経費は全て割り勘となっているのだが、そのことをユーキはまだ知らない。

 

 アイツが帰ってきたらまた一悶着あるな、とキリトはそんな未来を想像しつつふとある疑問が浮かびアスナに問いを投げる。

 

 

「そう言えばさ、あの二人って兄妹なんだよな?」

「そうだよ。どうかした?」

「いや、なんか、こう……。その割に、距離感が曖昧というか、チグハグというか……」

 

 

 自分で言っておいて、説明になっていなかった。

 兄妹と言う割に近く、だがどことなく遠い存在とも言える。

 

 どうして遠いと感じるのか。

 どちらかと言えば、ユウキから甘えまくり、それをユーキも受け入れている。それが二人の兄妹の距離感とも言える。

 ユーキがソファーに座れば、その隣をユウキが笑顔で座る。兄に甘えたい年頃とでも言うかのように、ユウキは兄に甘えまくっていた。それこそ喜びのあまり尻尾をブンブン振り回す子犬の如くである。

 

 そこまで考えて、普段の二人のやり取りを思い出してキリトがハッと気付く。

 

 

「そうか。そういうことか……」

「え、なになに?」

「距離感が近いのに遠いなぁ、って思ってたんだ。その原因がわかってさ」

 

 

 そこまで言うと、キリトは納得するように頷いて。

 

 

「アイツがユウキに気を使いすぎなんだ」

「あ、やっぱりそう見える?」

 

 

 対するアスナは薄い反応を見せた。どうやら彼女は最初からわかっていたらしい。

 反射的にキリトはアスナに疑問をぶつけた。

 

 

「知ってたのか?」

「うん。距離感が掴めないってユーキくん言ってたよ?」

「距離感、ねぇ……」

 

 

 キリトにとってもその気持はわからないでもなかった。

 家族関係に上手く行かずにキリトは壁を作ってしまった。それに対してユーキは妹と上手く行き過ぎてはたしてこのまま兄貴面してもいいのだろうか、と疑問に感じているのだろう。

 

 自分とは真逆の悩みだ、と思う一方で新たな疑問が生まれてくる。

 ユーキの悩みは普通の兄の悩みではない。それこそ突然、妹が出来てどう接していいかわからないといったものだ。生まれたときから妹がいるといった悩みではない。

 その疑問はアスナに聞けばわかることだろうが――――。

 

 

 ――いいや、やめておこう。

 ――アイツだって詮索されたくないこともあるだろうし。

 ――親しき仲にも礼儀あり、だ。

 ――……別に親しいつもりはないけど。

 

 

 心中で意地を張るキリトだが、どうやら顔に感情が出てしまっていたらしい。

 口元をへの字に曲げて仏頂面で腕を組むキリトに、アスナは覗き込むように伺ってきた。

 

 

「どうしたの、キリトくん?」

「べ、別にユーキのことなんて思ってないんだからな!」

「ふえ?」

 

 

 思わず口から出た言葉にポカンとするアスナを見て、話を変えるために慌てて「ゴホンッ!」と大きく咳き込んでキリトは口を開いた。

 

 

「……でも妹がいると、どう接していいかわからなくなるよな」

「っていうことは、キリトくんにも妹がいるの?」

「あぁ、いるぞ。今は疎遠になってるけど……」

 

 

 昔は可愛かった、シリカに似ていた。とキリトはしみじみ昔を思い出す。

 衝撃な事実を知った、と言わばかりにアスナは驚くも、直ぐに調子を取り戻して。

 

 

「お兄ちゃんって複雑なんだねー。わたしもお兄ちゃんがいるけど、そんな素振り見せたことなかったなぁ……」

「へぇ、アスナって妹なのか……」

 

 

 それだけ言うと、キリトは頭のてっぺんから足の爪先までアスナの姿を眼で追う。今更であるが、アスナは美少女の類と言えることにキリトは気が付いた。

 どこか正体不明な気品のようなモノがあり、すれ違えば眼であとを折ってしまうような魅力がある。育ちが良いとも言える。

 

 ジーっと見られるのが少々恥ずかしいのか、居心地悪そうに首を傾げてアスナは問う。

 

 

「どうしたの?」

「ご、ごめん! アスナってお嬢様っぽいなーって思ってさ」

 

 

 思考をそのまま口するキリトに対して、アスナは困ったように笑みを零すと。

 

 

「ううん、そんなことない。わたしは普通だよ。お兄ちゃんがいて、許嫁がいたけど今はいなくて……お母さんとも上手くいってないけど」

「…………」

 

 

 はたして許嫁がいるのが普通と言ってもいいのだろうか。

 価値観が違うというか、別の世界の住人のような気がしてならない。というか、許嫁って本当にいるんだ、とキリトは呑気なことを考えていると。

 

 

「おや」

 

 

 と、背後から声が聞こえる。

 聞き覚えがある声に、キリトとアスナは振り向いた。

 

 そこには――――。

 

 

「こんな所で会うとは、奇遇だね」

 

 

 不思議な雰囲気を身に纏う男が一人。

 ソードアート・オンラインには存在しない魔道士と思わせるような男。

 武器などは一切携帯しておらず、普段から身に纏っている赤い重装鎧などは装着しておらず、今は長いロープを身に纏っている。

 

 攻略最強ギルド『血盟騎士団』の団長にして、『聖騎士』とも呼ばれるアインクラッドの最強の剣士。

 『神聖剣』――――ヒースクリフがその場に佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

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 2024年1月24日 PM13:25

 第三十九層 主街区『ノルフレト』 『血盟騎士団』ギルドホーム

 

 

 アレから二人の兄妹は『血盟騎士団』副団長ディアベルに案内されていた。

 会議室から、血盟騎士団の団員が寝泊まりしている宿舎、食堂から資源在庫室などくまなく連れ回されていた。

 

 そして今。

 彼らは血盟騎士団のギルドホーム敷地内の外へ来ていた。

 そこには学校のグランド程の面積が広がっており、それをグルっと周囲を牧柵で囲んでいた。

 それだけを見るなら変哲もない風景とも言える。何せ、第三十九層の主街区『ノルフレト』は典型的なファンタジー世界の田舎町と言っても良い町である。。木々や水辺が多く、素朴な木の家、大きな風車、そして牧場と素朴な街。それが第三十九層の主街区『ノルフレト』であるのだから。

 

 しかしここに、目を疑うような光景が映り込む。

 血盟騎士団のギルドホームはもちろん圏内にある。だというのに、牧柵で囲われた中には――――モンスターが沸いて出ていた。

 一目見て、ユーキは思わず妹の前に庇うように躍り出るも、ディアベルは大した驚く様子もなく「非常に硬いモンスターだけど攻撃力は低し、柵から出てくることはないから大丈夫さ」と兄妹に説明する。

 

 しばらくユーキは観察していたのだが、ディアベルの言うとおりモンスターは柵から出てくることはなく、中には訓練している血盟騎士団の姿も存在していた。

 モンスターからの攻撃を受けても恐れている団員がいないことから、ディアベルの言うとおり攻撃力はないに等しく、主に訓練用として扱っているのだろう。。

 

 出現するモンスターは主に、金属製のゴーレムのような二メートルほどのモンスター。

 動きもそこまで早くなく、落ち着いて対応すれば敵ではないと言える。しかしさすがに訓練用なだけはあって体は硬く、質の高いプレイヤーが揃っている血盟騎士団でも一体のゴーレムにかなり時間をかけていた。

 

 そんな中、一人の紫の影が踊るようにしてゴーレムの体を斬り結んでいる。

 それはまるで舞踊だ。ときに飛び、時に空中で一回転したと思ったら、同時にゴーレムを斬りつけている。

 躱すと同時に、攻撃する。そんな重力を感じさせない身のこなしで、ゴーレムを切り倒していく。もちろんゴーレムの攻撃など、一撃も喰らっていない。

 

 一人だけ別次元とも呼べるプレイヤースキルを遺憾なく見せつけるユウキに対して、牧柵外から見ていたディアベルは素直な感想を感心しながら呟いた。

 

 

「凄いな、君の妹は」

「……フン、アイツならあの程度出来て当然だ」

 

 

 同じく牧柵外から、ディアベルの隣に立って腕を組みながらユーキは言う。

 表情も仏頂面で、言葉通りに受け取るなら冷たい兄として映るのだろう。しかしその声色は若干の高揚が入り混じっている。どうやら妹が褒められて、嬉しいのだろう。それを他人にわかるように振る舞えば誤解されることもないのだが、それが出来ないのがユーキという男である。

 

 現に、ユーキとディアベルの会話を盗み聞きしていた数人の団員たちは眉を顰めている。

 大方、なんて薄情な男なのか、と思っているのだろう。

 

 だがディアベルはそうではないようだ。彼は人の良い笑みを浮かべて。

 

 

「ハッハハ、君は自分の妹を高く買っているみたいだね」

「……別に、事実を言っただけだ」

 

 

 そうか、と言葉を区切り壁を作るような言い方をされてもさして気にすることなくディアベルは続けようとするも、それを遮るようにしてユーキは本題を切り出した。

 

 

「アンタ、一体何が狙いなんだ?」

「狙いって?」

「とぼけんなよ。ンでここまでオレ達に親切に接することが出来る? 何か狙いがあるからに決まってんだろ」

 

 

 そう言うと同時に、ユーキの警戒心は強まっていく。

 ユーキからしてみたら、ディアベルという男の行動に道理などなかった。門番に下がらせて、特に条件をつけることもなく本拠地であるギルドホーム内部を案内する。中には機密となりえる情報すらあった。

 

 だからこそ、ユーキは断ずる。

 オマエは信用出来ない、と警戒心を強めていく。

 

 対するディアベルは、ユーキが警戒していることも勘付いていたからか、特に気にする素振りすら見せずに新たな問いを投げる。

 

 

「困っている人を放って置けなかったって選択肢は?」

「ンなもんねぇよ。見返りもなく他人の為に動く人間なんざありえねぇ。いたとしても、そいつはよっぽどのバカ野郎さ」

 

 

 その言葉を聞いたディアベルは笑みを零す。

 クスクス笑う彼に対して、ユーキは眉を顰めて。

 

 

「……何が可笑しい?」

「よっぽどのバカ野郎って、君が言うのかと思ってね」

「あぁ?」

 

 

 解せないと言わんばかりに顔を顰めるユーキに対して、ディアベルは「気を悪くさせてしまったのなら、すまない」と謝ると周りに聞こえない小声で事実だけを伝える。

 

 

「オレはね。かつて君に――――『アインクラッドの恐怖』に救われたんだよ」

「な――――に――――?」

 

 

 眼を丸くさせるユーキに、やはり気付いてなかったのかと苦笑を浮かべてディアベルは続けた。

 

 

「かつてオレは、アインクラッドナイツのギルドリーダーやっていてね。それも十八層のフロアボスにボコボコにされて壊滅されてんだ」

「…………」

 

 

 アインクラッドナイツというギルドに、ユーキは聞き覚えがあった。

 かつて一人で行動していた際に、何度か顔を合わせていたギルドである。何度か言葉を交わした覚えはあるが、当時のユーキは『アインクラッドの恐怖』と呼ばれていた。つまり余裕も何もなく、それ以上交流を深めようする気などなかった。

 

 自分を付け狙っていた殺人鬼――――PoHに唆されて、何の情報もないままフロアボスに挑み敗北。死者は出てないものの、それが原因で解散してしまったとアルゴから話しは聞いていた。

 

 当時を振り返るように、穏やかな口調と表情でディアベルは口を開く。

 

 

「昔のオレは未熟でね。人を率いる経験も覚悟もないのにリーダーなんてやっててさ。ギルドメンバーの暴走を止めることが出来なかった」

「…………」

「駆けつけたは良いものの足が竦んじまってさ、情けないったらなかったなぁ」

 

 

 自分の失敗を嘘偽りなく打ち明けるディアベルに、ユーキは耳を傾ける。

 

 

「そんなオレを、オレ達を君は守ってくれた。だからずっと言いたいことがあったんだ」

「……待ってくれ」

 

 

 そこでユーキがようやく口を開いた。

 黙していた少年は口を開き、事実だけを淡々とした口調で告げる。

 

 

「オレはアンタ達を助ける気なんてなかった。結果として助けただけだ」

「だけど――――」

 

 

 ディアベルはまだ何かいいかけるも、ユーキは横に首を振ってやんわりと遮って。

 

 

「メンバーが暴走したっていうのも、元はと言えばオレが勝手にやって焦らせちまったからだ。だったらオレに非があるし、アンタ達は巻き込まれただけだろう」

「――――――――――」

 

 

 今度こそ、ディアベルは言葉を失った。

 三十人以上をフロアボスから救っておいて、それを誇示するわけでもない。ましてや暴走したのは自分のせいだと本気で言い放つ少年の精神性。

 少年の言葉は本気なのだろう。救われて恩を感じなくてもいい、むしろ自分の責任だから悪いと思っている、と少年は本気で言っている。

 

 他人を助けて誇るでもなく、見返りすら求めない。

 その姿に、ある種の神聖をディアベルは見出していた。その姿はまるで――――ヒーローそのものであった。

 

 だからこそディアベルは心がへし折れずにここまでやってこれた。

 自分よりも歳が下の少年に追いつくために、いつか彼の助けとなるために努力してきた。

 その結果が、血盟騎士団の副団長だ。今では『騎士長(ナイトリーダー)』と称されるほどであった。

 

 だがそれでも、少年の前ではまだ足りない。

 ここまで気高い精神性を見せつけられ、その背中はまだ遠いことを思い知らされる。その背中はまだ遠く、手を伸ばした所で地平線の彼方。

 

 

「ありがとう」

 

 

 そう言うと、ディアベルはユーキに向かって頭を下げる。

 それから頭を下げたまま彼は言う。

 

 

「君に非はない、悪いのはオレ達だ。そしてオレ達は君に救われた。その事実は変わらないし、例え君でも覆せない。――――オレ達を救ってくれてありがとう」

 

 

 真正面からの謝辞。

 純粋な敬意に対して、ユーキはどう返せばいいかわからなかった。

 

 恨まれることはあった、怒りをぶつけられることはあった、中には憎しみをぶつけられることもあった。 

 礼を言われることも数は少ないものの経験したことがある。だがそれでも、こういったモノにはなれないものだ。自分の行動が間違っていなかっと肯定されるのは、いつまでも慣れそうにない。何せユーキ自身が自分を否定している人間だ。そんなもの慣れるわけがなかった。

 

 故にユーキは自分らしく振る舞うしかなかった。

 チッ、と小さく舌打ちをして嬉しさとという感情を押し込めて、自分の本心を悟らせないように。

 

 

「恩を感じるかどうかはアンタの勝手だが、オレに憧れてるっていう黒歴史は捨てておいた方がいいぜ。恥ずかしくなるから」

「にーちゃーん!」

 

 

 ユーキは声のする方向へと顔を向けて、ディアベルもそちらへと頭を上げる。

 そこには手をブンブン振っているユウキの姿があった。どうやらある程度満足したのか、満面の笑みでユーキの元へと駆けていく。

 

 「にーちゃん?」「『蒼炎のユーキ』の妹?」「あの『魔獣』に妹!?」といった周囲がザワつき始めるがユーキは気にすることなく駆け寄ってきた妹に応じる。

 

 

「どうした?」

「にーちゃんもやってみてよ」

 

 

 お願い!とユウキの指差す方向には金属製のゴーレムの姿。

 メンドクサイと断るのか、勝手にやってろと断るのか、それとも無視するのか。周囲はどうやって断るのか、固唾を呑んで見守っている。何せ『魔獣』と呼ばれ、最大のギルド『聖龍連合』にたった一人で喧嘩を売った男だ。気性が荒く、凶暴極まりない男に違いない。そんな男が妹の頼みなど聞くわけがない。

 

 しかしその予想とは反して。

 

 

「オマエ、何発でアレ倒した?」

「んー十回くらい斬ったかな?」

 

 

 そうか、と言葉を区切るとメインメニューウィンドウを開き、ユーキは自身の愛剣『アクセルワールド』を取り出して獰猛に笑みを零し。

 

 

「ならオレぁ一太刀だ……!」

 

 

 それだけ言うと、牧柵内へと足を進める。

 

 頑張ってー!とエールを送るユウキに対して、周囲は益々ザワついた。

 「ノリノリだ」「案外ノリノリだ」「良いとこを見せたいんだ」「かなり張り切ってる」

 

 その後、凄まじい暴れっぷりをユーキは見せる。

 金属製のゴーレムを素手でぶん殴り、両手剣で一刀両断にし、両手剣をぶん投げて穿ち、ドロップキックでゴーレムの胴体を粉々にし、ゴーレムそのものを片手で持って振り回す。

 それはもうバーサーカーと言えるほどの暴れっぷり。

 

 それを見ていたユウキは「にーちゃんかっこいい!」と黄色い声援を送り、ディアベルはポツリと一言。

 

 

「見習おう。オレもアレくらい出来るように頑張らないと……!」

 

 

 

 

 




 ~べるせるく・おふらいん~
 下校編

優希「ヴェルタース・オリジナルか。おごれ」
和人「自分で買えばいいじゃないか」
優希「それは出来ねぇ。何故ならこれは、他人から貰うことによって始めて真の力を発揮するキャンディーだからだ」
和人「なん……だと……?」

明日奈「素直に食べたいって言ってくれればいいのに……」@財布取り出し

木綿季「そしてボク達は特別な存在になってあることをする!」
和人「それはなんだ……!」
優希「オレ達が天に立つ」

里香 「ああやって、物語の風呂敷って広がってくのね」

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