ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
2024年1月24日 PM16:45
第十八層 主街区『ユーカリ』 ギルドホーム
そわそわ、と。
紫を強調とした服装の少女――――ユウキは落ち着きなく辺りをキョロキョロと見渡した。
彼女がこうして気恥ずかしそうにしているのは珍しい。
いつも天真爛漫、無邪気で元気がいい。それがユウキという少女であった。嬉しいことがあれば楽しく笑い、悲しいことがあれば一番泣く。正に喜怒哀楽がハッキリしていると言える。
そんなユウキは今や借りてきた猫のように。肩身を狭くし、縮こまるかのようにソファーに座っていた。小さい身体の彼女が、更に小さく見えるほどである。
「ね、ねぇリズー。ボクも何か手伝おうか……?」
居てもたってもいられない、と言うかのようにユウキは台所にいるリズベットに声をかけた。
声をかけられたリズベットはひょっこりと顔だけ出すと。
「アンタは今日の主役なんだから、そのままゆっくりしてなさいよ」
「あぅ……」
ユウキがますます小さくなるのを見て、リズベットは満足したのかにしし、と悪戯を成功させた子供のような笑みを浮かべて台所に戻っていく。
血盟騎士団のギルドホームから戻ってきた二人の兄妹は、そのまま寄り道することなく『
そこで待っていたのは熱烈な歓迎の嵐。リズベットはわしゃわしゃとユウキの頭を撫でて、アスナは嬉しそうに抱きつき、ユイは両手を広げて歓迎してくれていた。キリトもその様子を見て微笑ましそうに口元を緩ませ、キリト達にクエストを手伝ってもらっていたシリカはどこか羨ましそうにその様子を見守っていた。
オマエ一人入った所で問題ない、と兄に言われたものの、正直に言うとユウキは不安だった。
第一層から彼らの関係は出来上がっていたのだ。そこへ途中から入ってくる自分がはたして受け入れてもらえるだろうか。拒絶されたらどうしよう、と普段は前向きなユウキであるが今回だけは不安いっぱいであった。
だが蓋を開けてみればその真逆。全員が全員、ユウキを手放しに歓迎し、むしろ待ってたと言わんばかりである。
そして、始まる歓迎会の準備。
当初はギルドメンバーだけで行う筈だったのだが、今は
言ってしまえば、ユウキの
歓迎されるのは嬉しいが、ここまで規模が大きくなると誰が思うだろうか。
手伝おうにも、リズベットが許してくれない。ただただ、ユウキは準備が完了するまで待っているばかりである。
台所からは今も声が聞こえる。
手伝っている「リズさん、食器ってどこですかー?」といったシリカの声が聴こえ、嬉しそうで誇らしげな「リズお姉さん、盛り付け終わりましたっ!」とユイの声が聴こえる。
姉御肌のリズベットとしても、二人との相性がすこぶる良いようだ。指示を言い渡し、出来れば褒めて伸ばす。そんなやり取りを、ユウキの耳に入っていた。
そんなこんなで、全員が全員。
各々の仕事をキッチリこなしている――――と思いきや。
「……! ……!」
ユウキ以上に、異常なまでに落ち着きのない少女が一人。
栗色の髪の毛の少女――――アスナはその場を行ったり来たり、食器をテーブルに並べては片付けて、再び並べる。上の空のせいもあってか歩けば壁に激突して涙目になりながらぶつけた額を抑えるも、再び歩き出して転ぶ。
落ち着きがない、といったレベルではない。
ユウキはそんなアスナを見て、思わずポツリと呟いた。
「アスナ、どうしたんだろ……?」
「あー、いいわよ気にしなくて」
それに答えたのは本人ではなく、リズベットだった。
ある程度の準備が終わったのか、彼女はエプロンを外しながら呆れた調子で続ける。
「身から出た錆っていうか、思いがけないライバルが登場して慌ててるのよ。のんびりしてたツケってやつね」
あたしとしては、朝田って後輩が対抗馬だったんだけどね、とリズベットは肩をすくめるてやれやれと首を横に振る。
対するユウキはライバル?と不思議そうに首を傾げるも直ぐに誰のことを指しているのかわかった。
思い当たる節はある。
アスナの様子がおかしくなったのは、兄とのやり取りを話していた後のことだった。
メンバーになったはいいものの、部屋がないので兄の部屋に泊まることになった。そして、一緒に寝ることになった。ユウキが満面の笑みでそう説明すると、アスナはニコニコと聞いていたのだがそのままピシッと音を立てて固まってしまった。
それから直ぐに、アスナが今の妙な状態になってしまったのだ。
「ちょっと、アスナ。いい加減に戻ってきなさいよ」
「……ハッ! な、なにリズ? サメの話しでもする? みそスープって男の子よね?」
「……これはダメね。しばらく使い物にならないわ」
「あばばば……」
「ホント、アンタってアイツ絡むとポンコツになるわね」
ほらまだ終わってないんだから手伝いなさいよ、とリズベットに引っ張られるアスナを見て、ユウキは笑みを浮かべた。
――リズが言っていたライバルって、ボクのことなんだと思う。
――アスナの“好き”と、ボクの“好き”。
――同じものなのか、まだボクにはわからない。
それも当然だと言える。
茅場優希という人間に対して、アスナは幼い頃から想いを積み重ねてきた。その感情は揺るぎないものであり、彼女はその好意を恋愛感情のものであると断言するだろう。
対して、ユウキは違う。茅場優希は面識がないものの、その存在を知っていたし会いたいと思っていた。家族となる筈だった彼に会って、彼の両親が死んだ原因は自分にあると本気で思い込み謝りたいと思っていた。
――でも、にーちゃんは言ってくれた。
――オマエに罪はないって、言ってくれた。
――流石、あの人達の娘だって、褒めてくれた。
その言葉が、何よりも嬉しかった。
家族として認めてもらい、何よりも罪はないと断言した。その言葉が、ユウキにとって救いとなった。
――ボクは、にーちゃんが好き。
――でもアスナも好きなんだ。
――アスナは、姉ちゃんみたいな人だから……。
ならば、やることは一つだった。
ユウキはメイン・メニューウィンドウを開き、メッセージ作成画面を開く。
その送り先は――――。
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PM20:57
第十八層 丘の上
鍛錬とは、苦痛を伴うものだ。
身体が悲鳴を上げて、それを無視して自らを追い込んでいく儀式。それこそが鍛錬であり、努力というものだろう。
言わば、鍛錬とは努力とはそういうものだ。自らの身体を痛め続けて、限界まで追い込み、身体と心を鍛え上げていく。
そう言う意味では、少年――――ユーキは向いていた。
殺したいほど自分を嫌い、憎々しいまでに自分という人間を憎悪する。そんな人間が自分を鍛え上げるという苦痛を怠る訳がない。。
「……っ!」
一振り。たった一振り。
だがそれだけで、ユーキを中心から衝撃が空気を叩く。少年の愛剣である『アクセルワールド』が振るわれる。その勢いは、音を置き去りにするかのように勢い良く振るわれる。
今ので数えて1068本目。第十八層のギルドホームに帰ってきてから、少年はここに訪れて素振りを続けていた。
すでに身体は悲鳴を上げている。
頬を伝う大量の汗を拭うことなどしない。その両腕は苦痛を訴えて、両手剣を握る両手からは震えという警報が鳴り響く。その全てを、少年は鏖殺していく。
苦痛には歯を食いしばり、震えには無視して再度握りしめる。尽くを無視し、尽くを向き合い捻じ伏せていく。
そして再度もう一振り。
「――――ッ!!」
上段に両手剣を構えて、勢い良く振り下ろす。
途方もなく、地道なものである。とてもユーキが『蒼炎』や『魔獣』と呼ばれている者とは思えない鍛錬方法だ。
だがそれでよかった、ユーキにはそれしかなかった。
この仮想世界では、連撃が多ければ多いほど上位なものとなる傾向がある。
ならばより多くのソードスキルを会得し、状況によって使い分けるのが正解といえるのだろうが、それは一般的に考えたらの場合である。ユーキは使い分けれるほど器用ではない。何よりも誰よりも不器用な人間だ。
百の技を会得するよりも、一つの技を極限まで磨き上げる。
それがユーキの出した結論だった。殺せば死ぬのだから、殺せる技術を磨き上げた方が効率が良いと判断したのだろう。
故に、地道に剣を振るう。上段から思いっきり振り下ろす。小手先など考えもしない、一撃で何もかもを勝敗を決することを前提とし、ユーキは剣を振るい続ける。
ユーキは素振りをやめることはないだろう。
それこそ、意思とは無関係に肉体が果てるまで、両手剣を振り続けるだろう。苛烈なまでに自分を追い込み、極限まで嫌悪する自分を痛め続ける。それこそが少年の鍛錬なのだから。
だがどういうわけか、ここで上段に構えた両手剣をピタリと止めて、間を置いて振り下ろす。
「何しに来やがった」
振り向かずに、振り下ろした体制のまま背後に声をかけた。
声をかけられたのは男だ。少年と歳が近い印象で、どこか幼さが残っている。
彼――――キリトは大した驚きもせずに、どこか感心するような声を上げる。
「ストイックな奴だな。それ、第一層からやってるんだろ?」
「…………」
軽口に対して、無言で応じる。
一呼吸置いて、息を大きく吸うと――――。
「――――ッ!」
――――思いっきり振り下ろし、ここで初めて重く息を吐き出した。
脳内では俯瞰的な視点で、先程の一振りを再現する。何がダメなのか、何が余計だったのか。自分に甘えることなく分析していく。
完璧なイメージには、程遠いものだった。
この程度の一撃では、敵を一撃で倒すことも出来はしない。
完璧ではなく、完成でもない。ただただ、己に苛立ちを隠せずにユーキは舌打ちをしながら、小さく小声で分析していく。
「まだだ、踏み込みが浅い。腰も入ってねぇ。腕力じゃねぇ、身体全体で振れ……」
それを見ていたキリトは、ただゴクリと息を呑んだ。
汗すら拭わずに、キリトすら意識を向けずに、ただただ前を向いて鍛錬するユーキに目を見張る。
――凄い、なんてもんじゃない。
――アイツが振るっているソードスキルは『カスケード』。
――両手剣の最初級のソードスキルの筈だろ……。
ただ単純な、上段斬り。そこから派生するソードスキルもなく、一番最初に習得できる両手剣のソードスキル。それが『カスケード』であった。
最初級であるのだから、その威力は低い――――筈なのだが。
――アイツの『カスケード』は、必殺の域に達している。
――最上級ソードスキルよりも、威力は上だろう。
――それに、ソードスキルっていうのは発動したあとは体が勝手に動いて攻撃動作を行ってくる。
――でもアイツのは、違う。
――アイツはソードスキルを発動しても、システムに身体を預けずに剣を振るっている……!
それを証拠に、上段に剣を構え振るわれるまで、剣筋がまったく見れなかった。
幾千、幾万、幾億と剣を振るってきた結果なのだろう。ユーキの振るうカスケードは、既にシステムを凌駕し己の力のみで発動出来る域まで達していた。
――一朝一夕で身につくレベルじゃない。
――恐らく、常日頃欠かさずに素振りしていた結果なんだろう。
――アイツは、妥協を知らない。
キリトは再認識した。
眼の前に居る男の一番の武器が何か。
他の追随を許さない膂力でも、野性味溢れる第六感でも、身を削る戦闘により培われた経験でもない。
本当の意味で、真の武器とするは強靭な意思。決して妥協をしない強い意志であるのだと。
現に、ユーキは納得していなかった。再び両手剣を上段に構える。
そのままの状態で、振り返らずにキリトに問いを投げる。
「三度目はねぇ。何をしに来たんだオマエ?」
「……お前には言っておこうと思ってな」
何を、とユーキが尋ねる前にキリトが本題に入る。
「ヒースクリフに会った」
「――――――」
簡潔に言うと、上段に構えていた両手剣を下ろす。
聞く気になったとキリトは判断すると、そのまま続けた。
「単刀直入に言う。俺はヒースクリフが茅場晶彦だと思う」
「根拠は、何だ?」
「アイツの身体が、ブレたんだ」
「あ? どう言う意味だ?」
ここでユーキはキリトの方へと身体を振り返った。
言っている意味がわからない、と怪訝そうな顔をしているユーキに対して、キリトは一度頷いて。
「超反応と言っても良い。俺がエリシュデータに手をかけた瞬間、いつの間にか俺の後ろにアイツが立っていた」
「……オレらのように、『心意』を使ったって可能性は?」
「ない。『心意』を使うには、その前に何かしらの動作がある。俺の場合は白色のエフェクトが発生するし、お前の場合は炎だ」
だが、とキリトは言葉を区切り結論だけ告げる。
「アイツにはそういう類が一切なかった。多分、アイツはシステム管理者ウィンドウか何かを使って、限界以上にプレイヤーの速度を上げたんだと思う」
「……オマエに一つ、面白ぇ情報がある」
「なんだよ?」
「血盟騎士団が最強と呼ばれる理由の一つに、情報の速さだって鼠が言ってたよな?」
「あぁ」
「その情報が誰が仕入れていると思う?」
「……まさか」
眼を丸くするキリトに、ユーキは忌々しげに口に出した。
「団長ヒースクリフらしいぜ。本当にナメてやがる」
「確かなのか?」
「間違いねぇよ。殴り込んだとき、副団長やってる奴から聞いたからな」
だが妙な話しだった。ユーキとしては、肩透かしにも程がある。
これではいずれ、奇妙に思うプレイヤーも現れる筈だ。何せ、到達したばかりの階層の情報を既に入手しているのだ。確かに一目置かれるかもしれないが、それも最初だけだ。いずれ疑問に変わり、奇妙に映ることだろう。
本当に正体を明かしたくないのなら、本当に隠し通したいのなら、他のプレイヤー達に万事を委ねて見守っている筈だ。だとするのなら、茅場晶彦がヒースクリフというなら、今取っている手段は失敗といえるだろう。
あの男が、あの天才が、あの茅場晶彦がそんなミスをするだろうか。
否、否である。茅場優希の知っている茅場晶彦ならば、もっと上手くやる筈なのだ。
故に、ユーキは忌々しげに舌打ちをする。
どんな目的があるのかは定かではないが、自分たちを侮っているしか思えない茅場晶彦の行動に苛立ちを隠しきれない。
「あの野郎、本当にナメやがって……クソが……っ!!」
「わざと、かもしれないな」
「あぁ!?」
「だっておかしいだろ。考えれば考えるほど、アイツの行動は穴だらけだ。とても合理的じゃない」
「知るかよンなこと。天才サマの考えることなんて、オレには昔からわからなかった。どっちにしてもあの野郎を叩き潰せば済むハナシだ」
「……それと、気になることがあるんだ」
「ンだよ?」
キリトは真正面から、ユーキを見つめていた。
思わずユーキも身構える。しかしキリトは少しだけ考えて、いいや、と首を横に振って。
「何でもないよ」
「ハッキリしねぇ野郎だ。ンだよ、言えよ」
煮え切らないキリトに、ユーキは苛立ちを募らせる。
それでもキリトは口を開こうとしなかった。
簡単な疑問だったはずだ。それでも、問いを投げることが出来ない。
『ユーキは茅場晶彦と知り合いなのか』とても簡単で、難しくない疑問の筈だ。
だが聞けない。聞けば恐らく、ユーキは答えてくれるだろう。
――アイツが隠しているのは、多分理由があるはずだ。
――それに俺の予想通りなら、アイツはとんでもなく重いモノを背負っている。
――誰よりも現実世界に帰りたくない筈だ。
だというのに、ユーキという男は誰よりも前を向き、現実世界に帰還しようと足掻き続けている。
クリアしたところで、彼に待っているのは賞賛ではない。待っているのは怨嗟、憎悪、憤怒の類だろう。このゲームがクリアされれば、茅場晶彦は手が届かない存在となるだろう。そうなれば、民衆の標的は手頃の位置にいる存在。つまり一般人であるユーキと的を絞っていく。そんなものはユーキが一番良く理解している筈だ。
それでも、ユーキは歩みを止めなかった。待っているのが地獄だとしても、“ここ”では満足できないと進み続ける。
――そんなこと、俺に出来るのか?
――世界中の人間を敵に回すことなんて、俺に出来るのか?
考えただけでも、キリトの背筋が凍りつく。
現実世界に帰れば、敵意を向けた家族がいる。父も母も、妹でさえ怯えた眼で自分を見てくる。戦友だと思っていた人間達が、殺意むき出して睨んでくる。
進んだ所で地獄、されど立ち止まっても地獄。ユーキは呆れるほど、詰んでいる状態だった。
――同じ立場になったら、どうするかなんてわからない。
――わからない、けど。
自分だけは、ユーキの味方であろうとキリトは思う。
世界中がユーキに敵意を向けても、自分だけはユーキを守ろとうと思う。
キリトにとってユーキは友達でもない。親友でもなければ、宿敵という訳でもない。ライバルとして、競い合う者として、肩を並べるためにキリトはユーキの味方であろうと決意した。
「何を見てやがる。用がもうないなら帰れよオマエ」
面白くなさそうに吐き捨てると、ユーキは再びキリトに背を向けた。
鍛錬を続けるつもりでいるのだろう。しかしそう簡単にはいかないようだ。キリトはニヤニヤ笑みを浮かべながら。
「リズからの伝言だ。『アンタ早く帰ってきなさいよね』だってさ」
「オレの都合だろうが。ンでオマエに指図されなきゃ――――」
「ユウキも待ってるぞ」
「……チッ!」
大きく舌打ちをすると、渋々と言った調子で歩を進めた。
本当にユウキに甘くなったもんだ、とキリトは笑みを深めてユーキの後を追う。
もちろん、その笑みは微笑ましげに見守るモノではない。もっと黒いナニカであり――――からかう要素を見つけたといわんばかりの意地の悪い笑みだった。
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PM21:15
第十八層 主街区『ユーカリ』 ギルドホーム
「ンだ、こりゃ……」
片眉を上げて、ピクピクと口元を痙攣させてユーキはぼんやりと呟いた。それも引き気味に、理解が追いつかないといった調子で。
キリトと肩を並んで―――――というのが気に入らなかったのか、キリトよりも数歩前をユーキは歩いて、キリトはその後を追うように帰路についていた。
それは別に良い。第十八層の主街区『ユーカリ』。その郊外にある場所にあるのが彼らのギルドホームだ。ならばそこに帰宅するのになんら問題もない。問題はその後。帰宅してギルドホームで行われている騒ぎに対してユーキはリアクションを取っていた。
ドンチャン騒ぎ、なんてものじゃない。もはや宴状態と言える。
今の中心では何故か、アームレスリング大会なんてものが繰り広げられているし、部屋の隅ではキバオウがキリトの魅力を永遠と語っている。
――何かこう、違うだろ
――歓迎会ってのは、歓迎されるヤツが主役だろ。
――アイツが主役で、アイツの好きのモンが出されて、アイツを楽しませる。
――それが歓迎会ってもんじゃないのか?
――まぁ、オレ歓迎会とかされたことも、したこともないけど。
と、そこでユーキは自分の足に何かが当たる。
足元を見ると、それは瓶だった。それも一升瓶であり、如何にもという趣をしている。
まさかな、と思いつつユーキは拾い上げた。
ラベルを見るとそれはもう物騒な銘が刻まれている。その名も『現実殺し』。物騒極まりない名前であり、如何にもという容器にこれまた予想通りのものであった。中身は空ではあるが、恐らくアルコールが入っていたのだろう。
ソードアート・オンラインは現実に親しい作りになっている仮想空間だ。
食べ物を食べれば満腹感が得られるし、味覚だってある。当然、眠気だってあるので睡眠も必要になってくる。しかし、ことアルコールに於いては話しが別だった。未成年もいるということもあってか、酒はゲーム内で売買されていてもアルコールは入っていない。当然そうなれば、酔うということもないのだが。
――間違いねぇな。
――こいつら全員、場酔いしてやがる。
酒を飲んだであろう者は、気分が高揚しているのか顔を少しだけ赤らめている。おまけにこのドンチャン騒ぎ。明らかに大半の人間が場に酔っていた。
思わず溜息を吐く。
飲んでも呑まれるな、とはよく言ったものだと思いながらユーキは呆れた口調で。
「おい、ヘタレ剣士。これは何だ、どう言う状況だ?」
返答はなかった。
いつもなら、ヘタレ剣士って言うな!と返ってくる筈だがなにもなかった。
ユーキは隣を見るとキリトの姿はない。どこにいったのか、首を傾げるよりも早くキリトを見つけることが出来た。
「…………」
「…………」
というよりも、眼が合った。
いつの間にかキリトはモンスター達に絡まれており、身柄を拘束されている。
モンスター達というのはつまりリズベット、サチ、アルゴ、そしてユイの四名。それもガッチリと拘束。両脇にリズベット、サチ。正面からはアルゴ。背後にはユイ。それぞれがそれぞれ抱き着くような形で、キリトの身体を拘束していた。
普段はそんなことしない彼女達だったが、今回は普段通りの状態ではない。顔は赤らめており、視線もどこか焦点が定まっていない。意識もハッキリしない様子を見て、彼女達も場に酔っていることがわかる。
ユーキから見たらその光景は、さながらパニック映画に出てくる序盤で逃げ遅れた市民のようである。ゾンビ物とかによく出てくるアレ。扉を開けたらギッシリ最後までゾンビが敷き詰められており、逃げようとしてもそのままゾンビに捕まり食われるよくあるアレだ。
となれば、キリトの後の結末は変わらない。ゾンビ映画よろしく食われて終るように、彼もまたこのまま食われて終るのだろう。
なんて哀れ、なんて可哀想なことか。
ユーキは彼のこの後の結末を想像して目頭を押さえる。
「(キリト、オマエの姿は忘れねぇ。残念だが、オマエはここまでみたいだ)」
「(いやいや、待て待て! 助けてくれ!)」
「(残念だが、無理だ。オレも助けてやりてぇが、そうなったらもう……)」
「(……本音は?)」
目頭を押さえていた手を口元に持っていき、満面の笑みでニッと笑みを零して親指を立てる。
こらえきれない、と言わんばかりに痙攣しながら。
「(ザマァ、モテ男……! 精々頑張れ、応援してんゾッ☆)」
覚えてろォォォォ!といった絶叫にも似た悲鳴を聞いて、ユーキの笑みはますます深まっていく。
他人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだが、ここまで甘いものとは思ってもいなかったようだ。入った瞬間、素振りに戻るか考えたが来てよかったと再認識する。
さて、どうするか。
ユーキは周囲を見渡していると。
「ゆ、ユーキくん」
聞き覚えのある声。
ユーキは「おぉ」と気の抜けた声で応じながら、声の主へと振り返る。
そこに立っていたのはアスナである。
彼女は大きな皿を持って、笑みを浮かべていた。
「……オマエさ、何かあった?」
笑みを浮かべている。
ニッコリと他人が見たらそれは満面の笑みと言えるだろう。しかし付き合いの長いユーキから見たら、その笑みはどこかぎこちないものである。満面ではなく、六割の笑み。作り笑いとも言える、そんな笑みを彼女は浮かべていた。
アスナも心当たりがあるのか、どこか慌てながら問う。
「え? ど、どうしてわかったの?」
「長い付き合いだ。この程度わかるに決まってんだろ」
「そうだよね、長い付き合いだもんね……」
そう言うと、アスナは顔を伏せた。
どんよりと、影を背負うような。今度は誰がどう見ても、彼女が落ち込んでいると分かる状態のまま続ける。
「わかってたんだよ。ユーキくんが優しいってことくらい。カッコイイってわかっていた。それなのに自分だけしか気付いてないって思い込んでて……油断して、焦っちゃって……」
「小声でブツブツなに言ってんのオマエ。つか聞こえねぇんだけど?」
「自己嫌悪してますぅ……」
どんよりと影を背負ったまま、アスナは「どうぞ」とユーキに持っていた皿を差し出した。
ユーキも不思議そうな面持ちのまま、それを受け取った。盛り付けられているのはハンバーグ、フライドポテト、そして焼きそば。どれもこれも、ユーキの好物のモノだった。
「……オムライスはねぇの?」
「あっ、ごめん。作ってない……。食べたかった?」
「……いいや、今はいいや」
ユーキは再度、周囲を見渡して手頃な場所を確保し椅子に座る。
アスナもその隣に座ったのを確認すると、ユーキは訪ねた。
「アイツはどこいった?」
「ユウキならあそこにいるよ?」
アスナはその場所を指差した。その指した先へと視線を向けると。
「れでぃーす、あんど、じぇんとるめーん! 始まりました、腕相撲大会決勝! 司会はボク、『蒼炎のユーキ』の妹! そう、ボクだよ!」
歓声に包まれていたユウキを発見した。
両手を上げて、ニッコリ満面の笑み。まるで太陽のような暖かい何かを感じさせる笑顔で歓声に応えていく。
大人気となっている妹を見て、兄は純粋な疑問を口にする。
「何してんのアイツ? つか、何で腕相撲大会?」
「んー、なんかね。ユウキがやりたいんだって」
「腕相撲大会を?」
「腕相撲大会を」
ふーん、と興味をなくしたのかフォークを持ち、フライドポテトを突き刺して口に頬ばっていく。
そんなユーキとは裏腹に、腕相撲大会は盛り上がりのピークへと達していた。何せ決勝戦だ、盛り上がらない筈がないだろう。
「決勝のカードはこの二人! 斧使いエギルに、風林火山リーダーのクラインだぁ!」
二人の男が、対面している。
一人はクライン。片手を上げて、凛々しい顔つきのまま歓声に応えていた。
一方、もう一人。エギルは腕を組み、両眼を瞑り黙々と集中力を高めていく。
対照的な二人。
そんな二人に琴線が振れたのか、ユウキは喜々としてクラインの方へと近付いて行く。
「それでは、意気込みを聞きましょう! クライン、何か一言ある?」
「潰すよ、今日はオラ!よく見とけ、オラ!」
クラインの言葉にますます会場はヒートアップしていく。
うんうん、とユウキは満足気に頷くと今度はエギルの方へと近付いて。
「さぁ、エギルはどう応える!?」
「時は来た。それだけだ」
「プロレスかよ」
もはや腕相撲大会に目もくれない。
ユーキは十代特有の冷めたコメントを乱暴に送りつけながら、ハンバーグを一口食べる。
対するアスナは「あはは……」と困ったように笑みを浮かべながら。
「でも、ユウキ楽しそうだよ」
「…………」
楽しそうなのはユーキもわかっていた。
本当に楽しそうに、ユウキは笑っていた。全力でバカをやって、全力で楽しんでいた。この世界を全力で、楽しんでいた。
もうユウキは出会ったときのような、罪悪感に駆られていた彼女ではない。
積もり積もった罪の意識から開放され、歳相応の笑みを取り戻していた。
――まぁ、なんだ。
――アイツが楽しければ、それでいい。
そう思うと、自然に口元が緩んでいく。
ユーキは軽く笑みを浮かべながら、もう一口ハンバーグを頬張ろうと口を開けるも。
一際大きな歓声が、ユーキの背中を叩いていた。思わず振り返ると。
「瞬ッ殺! クライン、開始と同時に負けたよ――――ッ!?」
興奮気味に言うユウキのおかげで、状況を掴めた。
どうやら開始と同時に、エギルがクラインに勝利したようだ。
現に、クラインは悔しそうに「ちくしょうッ!」と地面を殴り、エギルは開始直前と変わらずに腕を組み眼を瞑っている。
それを見たユウキは、首を傾げて覗き込むようにエギルに問いを投げる。
「あれ、エギル勝ったのに嬉しそうじゃないね?」
「あぁ。実を言うとな、俺には心残りがあるんだ」
「というと?」
「確かに、この中では俺が最強なのかもしれない。俺が優勝したのだから、それは間違いないだろう」
だがっ!と言葉を区切り大きく両手を広げる。どこか大げさな調子で、演技染みた調子でエギルは続けた。
「俺にはどうしても、勝ちたい男がいるのさ! コイツに勝たずして、最強と名乗れるだろうか!?」
「その男って!?」
「それは――――!」
そう言うと、エギルは勢い良く指差した。その人物のいる方向へと、エギルは指差した。
「―――お前だ、ユーキ!」
「あ?」
モニュモニュ、とハンバーグを頬張ったまま噛み砕きながら応じる。まるでその頬はリスのように、大きく膨れ上がっていた。
それを見たエギルはますます笑みを深めていく。好戦的な笑みを浮かべたまま、続けて言う。
「お前の腕力は、攻略組トップクラス。いいや、もしかしたら腕力だけで言えば最強といえるのかもしれない!」
「確かに! にーちゃんは力持ちだもんね!」
「そんな男に勝たずして、何が最強か! なにが腕相撲優勝者か! 上を目指さないやつは、それは男じゃねぇ!」
ユーキはエギルが何を言いたいのか、理解していた。
だからこそ、噛み砕いたハンバーグを飲み込む。持っていたフォークを置いて「ご馳走様。美味かった」とアスナに小声で伝えると立ち上がった。
エギルが言う前に、ユーキはその挑戦に応じることにした。
口を引き裂くような獰猛な笑みを浮かべて、エギルに向かって片手で制止させる。皆までいうな、と。わかっている、と言わんばかりに口を開く。
「あー、つまりそれはなんだ。エギルくんはオレに喧嘩を売ってる訳だな?」
「そうだ」
「なるほどなるほど」
うんうん、と数度頷いて歩を進める。
向かう先は決戦の場。腕相撲大会が繰り広げられていた決戦の地。その大地に立ち、机を挟んでエギルの真正面に立つと。
「――――いいよ、やろう」
その一声に、会場はワッ!と一際沸いた。
今回最高潮の盛り上がり。決勝戦以上に、周囲が湧き始めていた。
ニヤリとエギルは不敵な笑みを浮かべて、ユーキに提案する。
「ただ、やるだけじゃ面白くない。そこでどうだ? 負けたら罰ゲームをするってのは」
「あ? 罰ゲームぅ?」
右肩をグルグル軽く回して状態を整えているユーキに対して、エギルはますます笑みを深めていく。
まるでその笑みは、ユーキが食いついてくるのをまっていたようでもあった。
「俺が勝ったら、今夜ユウキとの添い寝をアスナも一緒にしてもらおう!」
「な――――」
「えぇぇぇぇぇぇ!?!?」
ユーキが声を上げるよりも速く、そして大きく見守っていたアスナが声を上げた。
思いがけない罰ゲームに立ち上がり、顔を赤く染めて口を大きく開ける。
理解が追いつかないとは正に彼女の今の状態。
どうしてエギルがそんな提案するのか、そもそもどうしてエギルがあの兄妹が添い寝することを知っているのか。疑問が疑問を生み出して、思考が堂々巡りを始める。
そこでアスナは気付いた。
ユーキの視界から見えない場所で、死角の位置でアスナに向かってピースサインを送っているユウキの姿を。アスナは見つけることが出来た。
そう。
この腕相撲大会こそ、ユウキの狙いだった。
事の経緯を、歓迎会が始まる前にエギルにメッセージで相談したところ、この腕相撲大会を提案された。
エギル曰く、ユーキは降りかかる火の粉は全力で払う性格だ。喧嘩を売ってしまえば全力で買ってくれる。それに変に律儀なところがあるからこそ、負けても罰ゲームに応じてくれる。
そういうわけで、こうして腕相撲大会というユウキの作戦が開始された訳だ。
そんな妹の思惑とは裏腹に、兄は溜息を吐く。
「ンなもん、オレの罰ゲームってより、アスナに対する罰ゲームじゃねぇか」
「え?」
「……ンだよ、エギル君?」
「あ、いや。続けて?」
思わず「まだ気付いてないのか?」といった疑問を口にしそうになるも、寸前の所で飲み込んだ。
ユーキはどこか怪訝そうな顔のまま、気にすることなく続ける。
「いっその事やめてやろうか、って考えた。だがまぁ、考えてみればオレが負けなければいいだけのハナシだ」
「……なぁ、一つ疑問なんだが」
「ンだよ?」
「どうしてユウキはよくて、アスナは添い寝ダメなんだ?」
「そいつは家族だ、別にいいだろ」
だが、と言葉を区切りエギルの問いに答える。
「アスナは違う、アイツは女だろ。好きでもねぇ野郎と一緒に添い寝なんざ、苦痛にも程がある。可哀想だろうが」
「お前、戦闘での勘は鋭いけど、こういうときは鈍いのな。いいや、こういうときだからこそ鈍くて、戦闘では勘が鋭いのか?」
何を言っているのかわからない、とユーキが首を傾げる一方で。
エギルはいいや、と頭を横に降ってテーブルの上に肘を置いた。それは合図だ、これから始まる決戦への合図。
ユーキは獰猛に笑みを浮かべると、それに応じた。
少年もテーブルの上に肘を置いて、自身よりも数倍大きな黒い手――――エギルの手を握りしめる。
「ところで、罰ゲームは何を考えているんだ?」
「教えねぇよ。震えて待ってろ」
そう言うと、ユーキは両眼を閉じて意識を集中させる。
瞬間的に力を爆発させるために、深く深く、更に深く。意識を深く沈めていく。
研ぎ澄まされていく。肩に力を入れずに、リラックスした状態でユーキは待機していた。
そして。
「れでぃーご―!」
ユウキの楽しそうな開始の合図。
それが耳に入った瞬間、眼を開けてユーキは全力で右腕に集中させる。
だが。
「――――ッ!?」
「――――……ッ!」
ビクともしなかった。
レベルも筋力も自身の方が上だと言うのに、ビクともしない。むしろ少しでも腕の力を抜けば、そのまま速攻で持っていかれる。そんな確信がユーキにはあった。
――う、そだろ……!?
――なんでビクともしねぇんだ……!
――筋力に全振りしてんのに……ッ!
苦しそうにユーキは歯を食いしばる。
それ以上の衝撃がエギルを襲っていた。
腕相撲――――アームレスリングとはその名前とは裏腹に、手首の力が必要不可欠となってくる競技だ。
もちろん、手首だけ強ければいいというものでもない。身体全体を使い、そして手首の力を最大限生かして、初めてアームレスリングが成り立つ。
更にもう一つ、、テクニックが存在する。それは相手の親指を自分の親指で包み込む様に握る事である。経験者ならばまだしも、素人は案外このテクニックを知らない。証拠にユーキはそんなテクニック知らないでいた。
――自信はあった。
――アームレスリングなら、俺に分がある。
――そう思っていたから、腕相撲大会を開いた。
――なのに、コイツ……! やっぱりデタラメか……!
――身体全体の俺に対して、コイツは腕力だけで拮抗している……ッ!
それどころか。
「憤ッ怒ッ!!」
「ッッ!?」
徐々に徐々に、ユーキが押して行った。
それこそ腕力だけで、手首や身体全体でどうのといった小細工など使わずに。腕の力だけでユーキは押していた。
もはや、エギルの頭の中には罰ゲームなど消えていた。
自分はしっかりアームレスリングをしているのに対して、ユーキは腕だけを使った規格外。条件もエギルに分があるにも関わらず負けることなど出来はしない。
エギルは歯を食いしばり、
「ヌゥあぁァァ!!」
「なにぃ……!?」
エギルが押して。
「腕ごと、へし折ってやるぁ……!」
「ンヌゥゥゥ!」
ユーキが押して。
「諦めるものかぁ……!」
「この、野郎がぁ……ッ!!」
拮抗状態になった。
お互い引かない。
どちらかが押しても、かならずどちらかが盛り返す。その繰り返しであり、その様子はもはや意地と意地のドッジボール。先に心が折れたほうが負けるチキンレース。
ワッ、と会場のボルテージもますますヒートアップしていく。
間近に見ていたユウキはすごーい!と興奮し、見守っていたアスナはどちらを応援したものか右往左往していた。
五分の勝負。されど五分の勝負。力が拮抗しているのなら、決着などあり得ない。
勝敗の天秤は。
「クケケ……ッ!!」
ユーキへと傾いていた。エギルもユーキも汗を流し、同じような状態であるが表情は真逆であった。
勝利を確信したユーキは悪魔のような笑みを浮かべ、エギルは苦悶の表情を浮かべている。
「これは、オレの勝ちだなぁ……ドリューくんよぉ……っ!」
「馬、鹿野郎! 俺はエギルぅ! 斧使いのエギルゥゥ……っ!」
ニヤリ、とユーキは笑みを浮かべる。
勝利を確信するも、その様子は油断も慢心もない。丁寧に、丁寧に。丁寧を重ねて、細心の注意を払ってエギルを潰していく。
もう少しでユーキの勝利となる。
カカカカッ!と魔物のような笑い声を発し、エギルは唇を噛みしめて残りの力を振り絞る。
どっちが悪で、どっちが正義かわかったもんじゃない。少なくとも、ユーキは妙な罰ゲームにアスナを巻き込むまいと戦っているのだから、まともな理由と言えるだろう。だがその顔は悪党のそれである。とてもではないが、まともな理由があるとは思えない顔だ。
――もうちょっとで、オレの勝ちだ……!
――当然だ、オレは負けねぇ……!
――結婚もしてねぇ若い女が、男と添い寝なんて……っ!
――ダメに、決まってんだろっっ……!
カッ!とユーキの両眼が見開いた。
大きく息を吸い込み、ラストスパートをかける。これで悪は叩き潰され、アスナは守られる。
「これで――――」
終わりだ、とユーキが言う前に。
「ドリューさん、頑張って――――!!」
エギルを応援する声が聴こえた。
ユーキはそちらに無意識に意識を向けてしまう。聞き覚えのある声、何よりもどうして自分ではなくエギルを応援するのか意味がわからない。
応援する声――――アスナに思わず必死な声で。
「オ、マエ……! 何を――――」
一瞬の隙。
直ぐにハッと意識をアスナからエギルに戻すも遅かった。
エギルは大きく息を吸い込むと――――。
「レベッカ――――! ダディに力を――――――――ッッ!!」
「ま――――」
待て、と言おうとしたのだろう。
だが最後までその言葉は紡がれずに、一瞬の内に決着した。
ユーキの右手は抗う時間も術もなく、打ち倒される。
ドガンッ!と一際大きな音を立てた。それが決着の合図であり、どちらが勝利したのか知らせる鐘でもあった。
勝者――――エギルは両腕を高々に天へ掲げて、己の存在を知らしめていく。そしてそれに呼応するように、周囲が沸いた。怒声にも似た歓声。その全てがエギルを讃えている。
辺りからは絶え間ないエギルコール。勝者に最大限の賛辞、最大限の名誉を声高々に謳っていた。
そして敗者は馬鹿な、と呆然と呟いた――――。
「マジか……」
次回は添い寝回ですッッッ!
正直な話し、こんなの投稿してもいいのかどうか不安です。