ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
ネットに公開しているので、嫌なら見るなは通じないと思いますが、閲覧注意でございます。
それにしても、何だかんだでベルセルク・オンラインと投稿してはや一年が経とうとしています。
当初はオリ主が死ぬエンドでしたが、これからどうなることやら……という引き伸ばし。
これからもベルセルク・オンラインをよろしくお願いします!
みなたかさん、しーきゅーかんばーさん、glintさん、誤字報告ありがとうございました!
2024年1月25日 AM1:25
第十八層 主街区『ユーカリ』 ギルドホーム
騒がしくも楽しかった歓迎会も終わって、数時間が経とうとしていた。
現在において、『
リズベットとユイは歓迎会の途中で寝てしまいリズベットの部屋で寝ているし、キリトはフラフラになりながら居間のソファーに倒れ込み就寝。
何も変わらない夜が訪れ、だいぶ変化した睡眠が始まっていた。
場所はユーキの部屋。必要最低限のモノしか置いておらず、インテリアの購入など考えたこともないのだろう。本棚もないのだから書物もなければ、机もないのだから椅子もなかった。目を引くものがあるとすれば、何もない部屋だからこそ異様に存在感を醸し出しているベッド。あとは床に乱雑に転がっているダンベル程度だろう。鉄作りのものもアレば、石を削った作りのモノも存在しており、無駄にこだわりが強いことが感じられる。
そんな殺風景の部屋の主――――ユーキはベッドで仰向けで横になっていた。
しんと静まり返る夜の部屋。先刻どんちゃん騒ぎをしていた家とは思えないくらい、静かな夜だった。
そんな静まり返った夜に、ゴソゴソと音が聞こえる。衣擦れの音と言ってもいい。まるで自分の寝やすい位置に身体のポジションをずらしているかのような音。それもユーキの両耳から聞こえている。
二重に聞こえる衣擦れの音、そして二重の人の体温を両腕に感じながら、ユーキは深く深くそれはもう深いため息を吐いて一言。
「狭い」
言葉に出した瞬間、それはそうだろうとユーキは一人で納得した。
何せこのベッドは一人で寝る分には余裕はある。二人で寝るとなると丁度良い。しかし今は三人同じベッドに身を預けている。もちろん狭くなるなど決まっているし、それはわかりきったモノだった。
それでも自身と一緒に寝たいという物好き二人に、ユーキは提案する。
「やっぱりよぉ、オレ居間のソファーに――――」
寝るわと言う前に、遮るように二人同時に声を出した。
「ダメだよ!」
「わたしはこのままで良いと思うな……」
元気よく満面の笑みでユーキの右腕にギュッと寄り添っているユウキ。それとは対象的に消え入りそうな声で、ユーキの左側の服の裾を軽く握るアスナ。
言動も対象的であるのなら、行動もどこか逆と言える二人。人懐っこいユウキに対して、アスナは遠慮がちで恥ずかしいのか耳まで真っ赤になっていた。しかし幸か不幸か、部屋も暗くユーキには現在のアスナの分かりやすい変化は見えていなかった。
あまつさえ。
――まぁ、無理もねぇ。
――付き合いが長いとは言え、好きでも何でもないヤツと寝るんだ。
――テンションが下がるのも無理はないだろう。
――ドリューくんのヤツ、どういうつもりだ?
見当違いも甚だしい解釈をする。
それどころか、オレの罰ゲームに付き合うなんて、人付き合いの良いヤツだ、と見直している節すらあった。
少年がもう少しだけ自分のことを好きであるのなら、アスナの好意に気付いたのかもしれない。だが生憎とユーキは自分自身のことを世界で一番嫌悪しているような人間だ。そんな人間が、自分の良いところを何一つ理解していない人間が、他人からの好意に気付く筈もない。
気付かないまま、少年は最もな意見を口にする。
「寝返りもうてねぇんだけど……」
「それじゃ、寝返りをうつときはアスナから順番にやらなきゃダメだね」
「何の解決にもなってねぇよ……」
フフン、と得意気に言うユウキに、呆れた口調で返す。
そのまま気怠げな口調で、ユーキは続けた。
「それに暑苦しい」
「酷いよにーちゃん、女の子に失礼だと思うよ!」
「女の子を自称するなら、もう少し慎みってのを覚えろ」
ユーキは再び、深いため息を吐いて。
「結婚前の女がよぉ、好きでもないクソ野郎と一緒に寝ようとしてんじゃねぇよ」
「ボクはにーちゃんが好きだよ?」
「……オマエはいいさ。百歩譲って、オレの妹なんだからな」
だけどよ、と言葉を区切り左にいるアスナを横目で見てから、再度天井へと視線を向けて。
「アスナを見てみろ。コイツに至っては、思いっきり巻き込まれただけじゃねぇか」
「そうかなー? アスナも喜んでると思うけど」
ユウキは呑気に首を傾げて「ね、アスナ?」と黙っていた彼女に話を振った。未だに真っ赤に顔を染め、耳まで赤く染めているアスナは力無く「うん」と答える。
その小さい声が耳に入り、ユウキはニッコリと笑みを浮かべて。
「ね?」
「ね、じゃねえよ……」
「いいからいいから。それにほら、二人だと楽しいけど、三人だともっと楽しいと思うよ?」
「なにその、美味しいモノと美味しいモノ足したら、もっと美味しいモノが出来上がる理論。頭悪いにも程があんだろ」
「――――ユーキくんは」
と、ここで黙っていたアスナが声を上げた。
左へと視線を向ければ、アスナがユーキへ目を向けている。どこか縋るように、自信無さ気でビクビクと怖れるような不安といった口調で問う。
「ユーキくんは、わたしがここで寝ちゃ、いや……?」
「…………」
ユーキとしては“いや”というよりも“困る”といったニュアンスのほうが正しい。そう困る、困るのだ。アスナが隣で寝られちゃ、ユーキとしてもだいぶ困る。
だからこそ、ユーキは正直な気持ちをアスナにぶつける。自身の正直な思い、嘘偽りのない言葉をアスナにぶつけた。
「まぁ、いやじゃねぇよ……」
うん、甘い。
やはり自分は幼馴染に対して、甘いということが再確認出来た。
――自分の部屋に帰れ。
――簡単な言葉なのに、言えなかった。
――泣きそうな声だったし。
――断ったら泣かれる。
――泣かれたらもっと困る。
自己嫌悪とはいかないものの、ハッキリと口にしない自分自身がもっと嫌になった。
そんな兄の気持ちをつゆ知らず、妹はウンウンと満足気に頷くと満面の笑みで。
「よかったよー。にーちゃんが嫌だっていったらどうしよう、って心配しちゃった」
「……オマエさ、何か隠してない?」
「えっ!? な、何かって? どうしてそんなこと思ったの?」
「勘」
一言、たった一言、されど一言。どういうわけか、説得力が溢れる一言だった。
しかし勘なんて証拠にもならないものであり、あくまで個人的な感覚のものだ。こんなもの直ぐに反論出来るし、容易く論破出来るだろう。
だが相手が悪かった。
第六感、虫の知らせ、野生の勘と言う意味ではユーキという男はスペシャリストであり、ユウキも弁論に秀でたタイプではない。むしろ、考えるよりも先に体が動くタイプ。考えるのではなく感じる側の人間だ。
そんな人間が反論できるわけがなく、嘘をつける訳もない。
ユウキはあわあわ、とテンパりながらもそれでも反論する。
出た言葉と言えば――――。
「さ、サメの話しをしようよ!」
「可哀想なくらい誤魔化すの下手だなオマエ」
「……ユウキ、寝ちゃった?」
アレから暫く三人で談笑していた。
アスナも慣れてきたのか、ようやくまともにユーキと会話することが出来るようになり、彼女は寝息を立て始めたユウキの今の状態を問いかける。
チラッ、とユーキは右側に視線を向ける。
規則正しい呼吸音、可愛らしい口が小さく開けてユウキは眼を瞑っていた。時折モニュモニュと口を動かし、ユーキの右腕をギュッと握り身体を預けている。
「……みたいだな」
「懐かれてるね」
「オレには出来すぎた妹だよ」
照れ隠しなのか忌々しげに言うユーキに対して、微笑ましく見えたのかクスクス笑みを浮かべて。
「それ、本人にいったら喜ぶと思うよ?」
「言うわけがないだろう」
「だよね」
それから暫く、会話がなくなった。
部屋に響くのは、ユウキの呼吸音のみ。静かで、静かすぎるくらい穏やかな時間が過ぎていく。
だがその沈黙も、心地良ものであった。落ち着く、と言っても問題はない。
それを証拠に、アスナの次の言葉は穏やかなもの。
話題がなくなって焦ったような口調ではなく、極めて落ち着いた声で問う。
「覚えてる?」
「何をだ?」
「昔もこうして寝たことあったよね」
「あー……」
それはいつの頃だったか。
数年前だったか、十数年前だったか。確かにアスナの言うとおり、こうして一つのベッドに寝たことがユーキの記憶にあった。
アスナの家で、それもアスナの部屋での出来事であったことを覚えている。
「ガキの頃の話しだろ」
「うん。遅くまで話ししてて」
「京子さんにキレられたんだったか」
「そうそう!」
寝ているユウキを起こさないように声を押し殺しながら、アスナは楽しげに笑みを零す
それから困ったような口調に変わりながら続けて言った。
「あの時のお母さん恐かったねぇ」
「まぁ、ガキ二人が深夜に騒いでたんだから無理もねぇだろ。つか、あの時の原因オマエな」
「え、そうだっけ?」
「昔やってたアニメのキャラの真似をしてたんだろうが。ンで、オレが怪人役やらされてボッコボコにされてた、と」
「……えへへ、覚えてないや」
気恥ずかし気に笑って誤魔化すアスナに、ユーキは呆れた口調で言う。
「昔のオマエってそういうところあるよな。内弁慶というか、オレと浩一郎兄にはガツガツ言うくせに、外に出ると遠慮するというか」
「確かに、ね。近所の子に意地悪されてたもん。あの大きな男の子の……誰だっけ?」
「ジャンボな」
「そう、ジャンボくん!」
それからアスナはどこか嬉しそうな口調で続けて言う。
「あのときから、わたしって君に守られてたんだよね」
「別に守ってねぇよ」
「ウソ。わたしが意地悪されてたら、必ず来てくれたでしょ? ヒーローみたいに」
「余計なお節介ってヤツだろ。オレがヒーローなんてありえねぇよ」
「でも、お節介はヒーローの証だ、って本で見たことあるよ」
「燃やしちまえンな本」
吐き捨てるように言うも、アスナは続けて呟いた。
「子供の頃から無茶してるもんねユーキくんは」
「無茶なんてしてねぇよ」
「ううん、してるよ。考えるよりも先に身体が動いて、困っている人を助けちゃう。子供の頃から無茶してるもん」
そこまで言うと、アスナはどこか不安そうにユーキに問いを投げた。
「小学校の頃は無茶、してないよね……?」
一瞬、一瞬だけ後輩である『朝田』の顔が過ぎった。
小さい頃から一緒だったものの、小学校だけ通う学校が違うからアスナは小学生の頃のユーキを知らない。
そこでも、ユーキは傍から見たら無茶、といよりも狂人のような振る舞いをしていた。イジメられている後輩がいたから助け、全校生徒を敵に回しリンチのような喧嘩を日々行っていた。
とはいっても、ユーキは助けたといった認識はない。多人数で一人を痛めつけていたのが気に入らなかった。だから首を突っ込んだ程度の認識だ。これも少年の言葉を借りるのなら、余計なお節介の一つに入るのだろう。
故に、助けたという認識も、無茶をしているという自覚もない。
ボロボロにされた以上に最後にはやり返していたし、最終的にはユーキと朝田に喧嘩を売る人間はいなくなっていた。過程はどうあれ、結果よければ全て良し。そう捉えているユーキは、当然といった口調で。
「してねぇよ」
「ホントに?」
「ホントに」
「う、そだぁ……」
ぼんやりとした口調でアスナは否定する。
それから眠たそう「ふあぁ……」と小さくあくびをすると、ウトウトとユーキの左腕に頭を擦り付けてきた。
「眠いのか?」
「だいじょうぶ……」
言葉では言ったものの、口調はまったく頼りないものだ。
それも仕方ないといえるのかもしれない。朝からシリカのクエストを手伝い、帰ってきたら歓迎会の買い物をして、夜にはこうして自身が好いている男性と同じベッドに寝ている。
心も身体も休まる時間がなかったのだ。加えて、今の現状が若干慣れたということは、緊張の糸が切れたということ。つまり張り詰めた感覚がほぐれて、一気に疲れが押し寄せてきたようなものだ。
睡魔に負けそうなのも無理はない。
「いいから寝ろよ」
「おねがい、きいて?」
「ンだよ」
「うでまくら、して?」
「……何でだよ?」
「こどものころ、してくれたから……」
今は子供じゃないだろう、と心のなかでツッコミを入れてユーキは腕を伸ばして。
「ほら、これでいいのか?」
「うん。ありがとう、ゆーきくん」
そう言うと、ノロノロと自身の頭をユーキの腕に預けて、今度こそアスナの瞼は落ち、寝息を立て始める。
右腕はユウキに拘束されて、左腕はアスナの枕となっている。
それから一際大きな溜息を吐いて。
「眠れるわけがねぇだろクソッタレが……」
実のところ、一番緊張していたのはユーキであった。
それもその筈だ。捻くれており、物事を斜めに構えているとは言えど、ユーキも年相応の男である。
可愛い妹と可愛い幼馴染が両隣で寝ているとなっては、意識するもの当然だ。加えて、出る所が出ているアスナの身体と、幼さはあるものの出てなさそうで出ているユウキの身体を押し付けられている現状。
緊張しない筈もなく、意識しない筈もない。
これがアスナに添い寝されたら困る理由だ。嫌ではないが困る理由。ぶっちゃけ、ユウキ一人でも困っていた。
心臓はバックバク。思考もまとまらない。
究極のやせ我慢。それが今のユーキの姿であった。
よく受け答え出来ていたな、と珍しく自分に感心する。
「女には優しくしろ、って父さんに言われたが……」
その言葉は絶対の意思が宿っていた。
必ずやりとげる強い意志を声色に乗せて、一人ここに宣言する。
「――――もう二度と、添い寝はしない」
アスナ「ねぇ、優希くん。昔みたいに明日奈ちゃんって呼んでくれないの?」
ユーキ「今のオレがンな呼び名になってみろ。気持ち悪いだろ」
アスナ「そうかなー? 可愛いと思うけど……」
ユーキ「オマエって、だいび美的感覚可哀想だよな」