ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
時系列とか何もかもぶっ飛ばした話です。敢えて言うのなら、Vol.5の終わりくらい?
なんちゃってシリアスだったVol2も終えた息抜きということで。以前にリクエスト的なモノを頂いたので、投稿しました。
某年某月某日 PM15:30
現実世界 ダイシーカフェ
何があったのかというと、色々あった――――。
ドタバタハチャメチャな感じでデスゲームに巻き込まれて、ドッタンバッタン色々あって、何やかんやあって事件を解決した。
そんな曖昧で、物語の本筋とはズレた世界線。
日常を謳歌し、平和に彼らは過ごしていた。
しかしここで、日常らしくない殺伐とした雰囲気が、店内を支配していた。
店の名前はダイシーカフェ。その店の前には『準備中』という立て札。
中にいるのは四人の人物であり、全員が男性。注目するのは、店内に設置してあるテレビ。まだ開店前だというのに、三人はその場に集っていた。一人はこの店の店主でありながら、カウンター席を挟んで接客しているわけでもなく、同じく肩を並べてモニターを注視する。
「おぃぃぃぃぃ! さっきからカービィ使ってるヤツ誰だよ! 投げ技がうぜぇぇぇぇぇ!」
「ブッ飛ばし率200%にした。ストックも99にした。別にそれは良い。問題は、投げばっかり使っているヤツがいるという事だ。……誰だ? 怒らないから俺に正直に言え。特にカービィを使っているヤツ。エギルさん、怒らないから言ってみろ?」
「……何を言ってやがる。クソピンク玉を誰が使ってるかなんざ、直ぐにわかんだろ? つーか、オマエら集中的にオレを狙うってどういうことだ? 喧嘩売ってんなら買ってやるが」
「敗北を知りたい。死んでもいいゲームなんてヌルすぎるぜ」
クラインがコントローラーを地面に叩きつけて、エギルが静かに怒り、ユーキが呆れて物を言い、そして――――キリトが勝ち誇る。
和気あいあい、というわけでもない。
どこか殺伐としており、どこかギスりながらゲームを楽しんで(?)いた。
戦犯は誰がどう見てもキリト。
某任天堂オールスター系スマッシュでブラザーズなゲームをやり始めたのは良い。ルールも変更して、アイテムも頻繁に出る設定にして、直ぐにぶっ飛ぶように作り変えた。
そこまではいい。問題は、この勝負にガチで挑んでいた者がいるということ。誰であろうそれがキリトであり、楽しむはずだったゲームが、いつの間にかどこか殺伐としたゲームに変わっていた。
そんな現実主義なキリトに向かって、クラインはいきなり立ち上がり勢い良く指差しながら。
「キリトぉ! オメェちょっとは手加減しろぉ!」
「野郎は格ゲ―でも厨キャラを躊躇なく使う、クソ野郎筆頭だからな。仕方ねぇよ」
無表情にユーキはそう言いながら、キリトの操る『ピンク玉』キャラに投げられて舌打ちをしながら。
「前にもここで、野郎と対戦ピコピコやったんだが、初心者のオレに迷わず『バージル』を使いやがったときは、今すぐ殺してやろうかと思ったくらいだ」
「桃鉄のときも、酷かったな……」
当時の状況を思い出すように、どこか遠い目をしながらエギルは呟いた。
あの時は、アスナ、ユウキと彼を止めるストッパーがいたから丸く収まったが、いなかったらコイツらは喧嘩していただろう、とエギルは考えていた。
当事者であるキリトは悪びれる様子もなく、ユーキの使っている『大型ゴリラ』キャラを投げてぶっ飛ばす。
そしてユーキはこれまた無表情に星となったゴリラを見て。
「野郎はどんな外道な手を使おうが全く気にしない上に、他人を平気で裏切るシスコンクソ野郎だからな。仕方ねぇよ」
「優希、お前怒ってないか?」
「オレがピコピコ如きにキレる訳ねぇだろ。冗談も休み休み言えよドリュー君。ただちょっと、1/3+1/6+1/2くらい殺してやりたいと思ってるだけだ」
「それはつまり、全殺しってことだな?」
ユーキは答えない。
無言で、無表情で、無謀にもキリトの操る『ピンク玉』キャラに果敢に挑むも、赤子の手を撚るように鮮やかに返り討ちに遭い、再び星となった。
そして震える両肩。プルプルと、怒りを押し殺すように下唇を噛み締め、両手で握るコントローラーはミシミシと音を立てていく。
正に今のキリトは絶対王者。
最強の矛があり、最硬の盾を有する独裁者となっている。場を完璧に支配しており、これを崩すのは容易ではない。そんな時、一人の叛逆者が現れる。
その男の名は――――クライン。
彼は立ち上がったまま、ツカツカとゲーム本体の場所まで歩みを進めて。
「秘技『コントローラー外し』」
「!?」
キリトの操るコントローラーのケーブルを本体から抜く。
思わずガタッと音を立てて椅子からキリトが立ち上がるも、時は遅し。
ニヤリ、と笑みを浮かべて。
ユーキの操るゴリラはピンク玉に向かって思いっきりぶん殴り、ピンク玉は為す術なく空を舞い、天を超え、星となっていく。
憎きピンクの悪魔を倒したことを確認すると、クラインとユーキはハイタッチしながら。
「ザマァ! キリトくん、ザマァ! 偉いぞ野武士面、百万年無税」
「ガハハハ! ボコボコタイムだぜぇ!」
「お前らこの野郎ー!」
それだけ言うと、キリトは直ぐに立ち上がり本体に手を伸ばし。
「必殺『電源ボタン』」
ポチッ、と本体を消す暴力に出る。
場に君臨していた絶対王者は自分がルールと言わんばかりに、一撃必殺の荒業に出る。
つまるところ、電源ボタンをオフにして、ゲーム自体を消す。
「テメェ、何やってやがる!」
「先に仕掛けたのはクラインだろ! というかユーキ、キレてないと言いつつ、しっかりキレてるじゃないか!」
「うるせぇんだよ、クソブラッキー!」
「何だと、この性格破綻者!」
ギャーギャー、ワーワーと同世代の二人の少年が取っ組み合いを始める。
それを見て、ゲーム本体とコントローラーを片付けるエギルは一言。
「店の物は壊すなよ?」
「というわけで、下世話しようぜ」
「……すまん、クライン。意味が全くわからない」
アレから少年二人は、近いうち『ALO』で決闘で決着をつけるという話で落ち着いて、今では丸机を囲って、飲み物を片手に落ち着いていた。
そんな中、勢い良く机を叩きながら、クラインが言うと、キリトは呆れる口調で返す。
そんなキリトに不満があるのか、クラインは口を尖らしながら抗議した。
「男四人集まったら、そりゃもうゲスな話したいだろうが」
「俺を巻き込むなよ。そもそもユーキ達はともかく、俺達がやるとキモいオッサンになっちまうだろ」
「んだとぉ、エギル! 何でオッサン枠に、俺も入ってんだよ!」
バンバン、と机を叩く。
エギルからは「壊すなよ!」と言われようと、クラインの勢いは止まらなかった。
「男が集まったら、猥談だろ! オレなんか、ギルドのヤツらとずっと話してんぞ?」
「何を話してるんだお前、十代かよ……」
溜息を吐いてエギルは呟いて、少しだけ考えて口を開く。
「しかしそうだな、十代か……。なぁ、優希とキリトはそういう話ししないのか?」
「俺はそもそも、そういう話しを気軽に出来るヤツがいないからなぁ……」
「優希は?」
「……猫被ってるオレに、その手の話を振ってくるヤツが先ずいねぇ」
困ったように笑うキリト、退屈そうに呟くユーキ。
青春を謳歌している年代の少年達から出るセリフとは思えないことを、二人は言っていた。
それを聞いたクラインは眼を光らせて、勢いが良い口調で。
「ダメだ、ダメだぜ二人とも! そんなんじゃ、枯れちまうぞ? エギルみたいに」
「……クラインは後で倍請求するとして、確かに勿体無いな。若い頃の特権、みたいなもんもある」
「そうなのか?」
不思議そうに問うキリトに、エギルは「あぁ」と答えると。
「年を重ねると、若い頃に出来たことも出来なくなってくる。だから若い頃に出来ることは今のうちにやっておけってハナシだ」
「そうそう、それで? キリトはどんな女が好みなんだ?」
クラインはどこか興味津々に尋ねて、キリトは若干慌てながら返す。
「お、俺か? というか好みって、踏み込み過ぎなんじゃないか?」
「まだ優しい方だぜ? これからドンドンエグい話しするんだからな!」
「えー……」
どこか少し引き気味になりながらキリトが言うのに対して、クラインは気にしない様子でグイグイ話しを斬り込んでいく。
「それで、どういう子が良いんだ? というか、誰が良いんだ?」
「誰って何だよ?」
「オレらの周りには、ありとあらゆる属性持ちがいるだろ。幼馴染であったり、巨乳であったり、妹であったり、ロリであったり、姉御肌であったり、不思議ちゃんであったり。誰が良いんだ?」
「だ、誰って特にないよ。でも、料理が上手い娘がいいな、俺は」
「面白くねぇな……」
「おい」
ジト目で睨むキリトを無視して、クラインは標的を移していく。
それは我関せずを決め込んでいた一人の少年。スマホを片手に、メールの返事をしているユーキへと照準を合わせていく。
ニヤニヤとした眼で見られていることを敏感に察知すると、クラインに目を向けずにユーキはつまらなそうに事実だけを口にした。
「言っておくが、そういう好みのタイプの話はオレもしたことがある」
「え、さっきオメェないって言ってたじゃねぇか」
「普段はしねぇってだけだ。小学校の頃に朝田って後輩としたことがある」
そう言うと、操作していたスマホを丸机の上に置いて、キリトとは違い恥じる素振りすら見せずに続けた。
「オレの好みのタイプは、メガネかけてるヤツだ」
「メガネか……ん、メガネ?」
「おぉ」
エギルの問いに、ユーキの返答は揺るがない。真正面から受け止めて、これまた真正面から返す。
どこか攻めるような、コアなオプション系な部分を恥じることなく口にする。そんなユーキに男らしい何かを感じながら、今度はキリトが問いを投げた。
「メガネかけてれば、誰でも良いのか?」
「良い訳あるか。あとは、歳上が好みだ」
「どれぐらい?」
「五歳くらい。あとは、そうだな……それが寮母系なら、もう言うことはねぇな」
「こだわってるなぁ……」
そういえば、これを言った翌日朝田のヤツ、メガネかけてきてたな、と心の中で呟いて、メールが来たのでまた再度スマホを操作し始めた。
どう言う意味なのか少しだけ考えて、特に意味なんてないのだろう、と直ぐに結論を出して、ユーキの中にあった疑問は消える。
それからクラインは勢い良く立ち上がり、どこか誇らしげに胸を張りながら。
「それじゃ次はオレだな。いいか、オメェら。オレ様の好みはなぁ――――」
「――――女だろ?」
「――――女だな?」
異口同音。
キリトとエギルは口を揃えて呟く。
クラインの好みは女。それは誰でも良いとも言えるもので、聞く人間にとっては女の敵とも捉えられるモノである。
しかしクラインは「違ぇよ!」と力強く否定し。
「オレ様の好みは、天真爛漫な娘だ! そうだな、仲間内で言うのなら――――」
どこかはにかんだ笑みを浮かべて。
「――――ユウキみたいな娘が」
「あーどっこいしょーッ!!」
「―――――――ッ!」
ユーキの気合と共にスパァァァァン!と乾いた音が店内に鳴り響いた。同時に声のない叫び声がクライン絶叫する。
一部始終、事の成り行きを見ていたエギルとキリトは、確かめるように口にした。
「優希の渾身のローキックが綺麗に決まったな」
「特に意味のない暴力がクラインを襲う。いいや、意味はあるか。好みのタイプに言われたのが妹だもんな、そりゃ怒る。誰だってそうする。俺だってそうする」
「それで、クラインくん? 誰が誰を好みだって? いまいち、オレには聴こえなかった。誰の妹が好みだって言ったんだ?」
「あ、いいや……」
「まぁ、ぶっちゃけ、アンタが誰が好みだろうと知ったこっちゃねぇ、ンなもん個人の自由だ。でもよぉ? 今思い出したんだが、アンタの好みってクールビューティー系って言ってたよな? それはどうした?」
「きょ、今日は天真爛漫系がいいかなーって」
「なるほど、つまりはアレか。オレの妹はオマエの日によって変わる、日替わりランチ並にお手軽な女だと思われてんのか?」
低い声、獰猛に浮かべる笑み。
それを見たクラインは心の中で学んだ。今度から自分の発言には気をつけようと。そして、好みのタイプを『女である』という前提に話すのはやめよう。
デスゲームから抜け出した彼らの日常。
可能性の一つとも呼べる日常を謳歌している彼ら。
今日も現実世界は――――平和であった――――。
べるせるく・おふらいん
楽屋ネタ
モニターに映った優希『オレの好みのタイプは、メガネかけてるヤツだ』
朝田「――――シャッ(渾身のガッツポーズ)」
明日奈「クッ……!(膝から崩れ落ちる音)」
モニターに映った優希『良い訳あるか。あとは、歳上が好みだ』
明日奈「うんッ!(天高く拳を掲げる)」
朝田「――――ッ!(力一杯の壁ドン)」
モニターに映った優希『五歳くらい。あとは、そうだな……それが寮母系なら、もう言うことはねぇな』
明日奈「――――(この世の終わりのような顔)」
朝田「――――(何もかもに絶望した顔)」
ストレア「ユウキはなんとも思わないの?」
ユウキ「うん。ボクは、にーちゃんと一緒にいれればそれだけで幸せだし……」
明日奈(天使だ)
朝田(天使ね)
ストレア(ちくわ大明神)
~裏設定~
朝田が伊達メガネ装備しているのは、つまりはそういうこと。