ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
数多くの人の命を救った父と母、そして今となっては数多くの命を奪う原因となった叔父。
二つの意味を持つオレの姓は、この世で最も有名だろう。
医者であった父親、母親は数多くの命を救ってきた。ときには日本国内で、ときには国外で、あるときは紛争地域まで足を運んでいたことを、オレは幼い頃からよく知っている。
名医、と呼ばれる部類なのだろう。救われた者は父と母に礼を言い、父は照れくさそうにして、母はそんな父を見て微笑ましく笑みを零していた。子供ながらオレはそんな二人に――――憧れていた。
オレも将来二人のような、立派な大人になりたいと本気で思っていた。
そんな父には弟がいた。弟であった人はオレの叔父にあたり、その人は何でも出来た。天才というヤツなのだろう。
いつも何を考えているかわからない顔で、物心がつく頃からオレは叔父のことが苦手であった。
無表情で無感情。一を聞いたら十は理解してしまう怪物の類。その見識はあまりにも広く、叔父が本当の意味で世界と向き合っていないことを、オレは何となく分かっていた。生物というよりも機械。世界を俯瞰的に見ているかのようで、浮世離れしていた。
そんな叔父でも、父と会話するときだけは人間の顔をする。気持ちよく父が笑いながら叔父の肩を叩くと、叔父は困ったように薄い笑みを零し、取り留めのない兄弟の会話を始める。
オレはそんな叔父が――――好きだった。
数多くの人の命を救った父と母、そして今となっては数多くの命を奪う原因となった叔父。
二つの意味を持つオレの姓は、この世で最も有名だろう。
壇上に立ち、ふと考える。どうしてオレは今まで、自分の正体をアイツらに告げなかったのか。とどのつまり自分の本名。
オレが立つ壇上からは、このデスゲームに生き残ったであろう全プレイヤー達の顔が一望出来た。
悲観に沈む者、絶望に打ちひしがれる者、そもそも自分がどうすればいいのか途方に暮れる者。千差万別、プレイヤー達は一同に違う反応を見せている。
オレの言葉はプレイヤー達の意識を一変させることだろう。
憤怒に、憎悪に、嫌悪に、顔を一瞬で歪めて意識を向けることに成功することだろう。
今から言うモノは、ある種の起爆剤だ。下を向いている者達を、無理矢理にでも上に向かせる代物。オレの言葉に全員が意識を向き、耳を傾けることだろう。
その後の展開も、わかっている。
これまでの状況を考えても、オレはまともな扱いを受けることはない。それだけのことを、叔父はコイツらにしてきたのだから。その事実を関係ない、とオレは耳を塞ぐことは出来ない。彼らにはオレを非難するだけの権利があるし、理由もあるのだから。
――あぁ、だからか。
そこまで考えて、オレはぼんやりと納得した。
怒号、罵倒、拒絶。何もかもグチャグチャに混ぜ込んだ負の感情がオレを叩く。そんなモノ予想してたし、仕方がないと理解も出来る。何せオレはあの男の身内なのだから。
それは“アイツら”も同じだろう。ありとあらゆる負の感情をオレに向けることだろう。当然だ、今まで何も言わなかった。機会はいくらでもあったのに、オレは何もしなかった。何も言わなかった。
考えただけで、心臓の音が大きくなる。心が締め付けられるような、例えようのない“痛み”が走る。
――まいった。
――痛みには耐性があった。
――これは、結構……。
――いいや、だいぶ痛い。
オレは恐れていたのかもしれない。“アイツら”がオレから離れるのが。無意識に恐れていたのかもしれない。
大切なモノというのは直ぐに壊れるし、人というのは呆気なく死ぬ生き物だ。オレはソレをよく知っている。何せオレは、二度も人の命を糧に生き残ってしまった畜生だ。命を摘むのは容易い、もっとも難しいのは命を守ることだ。
大事なモノなんて作りたくなかった。これ以上、オレの世界には何もいらなかった。
幼馴染がいて、後輩がいて、叔父がいる。それだけでオレの世界は完結していた。これ以上広がる兆しなど見せなかった。
大切なモノを作った所でどうせいなくなるのなら、それは最小限の数でいい。あんな痛みなどもう味わいたくない、もう二度と大切なモノを失うなんてゴメンだ。
そう思っていた。
なのに“アイツら”はズカズカとオレの世界に上がり込んでくる。勝手に干渉して、勝手に上がり込んで、勝手に住み着き始めている。
オレの言い分など聞きもしない。どいつもこいつも、オレが全速力で走ろうが、その後を必死に追いかけてくる。
いつしか、オレの世界は広がっていた。
黙っていることも出来た。
この世界に囚われている時間だけ、隠すことも出来た。
だがそれは逃げていることに変わりない。一歩も前に進んじゃいない。
背など向けられない。“アイツら”と本当の意味で向き合うには、オレも本音をぶつけるしかない。そして沈んでいたプレイヤー達の意識を、叔父に――――茅場晶彦に向けることが出来る。
その結果が、この世界のプレイヤー達がオレの敵になろうと構わない。“アイツら”がオレから離れようとも仕方がない。
敵だらけになったとしても、この世界から“アイツら”を解放する事が出来るのなら、オレは何でもしてやる。
オレは口を開く。
「――――まず、アンタ達に謝らなければならないことがある」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2024年1月31日 PM13:30
第一層 『はじまりの街』
しん、と広場に集められたプレイヤー達は静まり返っていた。
空いた口が塞がらない、と表現するように誰もが口をポカンと開けて、ただ発言主であるアインクラッドの恐怖へ――――ユーキへと視線を向けていた。
それはユーキが所属しているギルドメンバーも例外ではない。
リズベットも眼を丸くしているし、事情がわかっているユウキやユイもこのタイミングで言う少年に対して驚いている。付き合いの長いエギルもユーキの発言を上手く飲み込めていなければ、クラインも例外ではなかった。
反応が違うプレイヤーがいるとすれば二人。
その一人であるキリトは腕を組み、眼を瞑りユーキの言葉に耳を傾けている。
もう一人のアスナは両手を組み、何事も起きないように祈るように成り行きを固唾に見守っていた。
この二人以外、似たような反応を見せている。
それは、ディアベルも例外ではなかった。
戸惑うように、壇上に上がっているユーキを見上げる。
「アンタ達はアイツにこの世界に囚えられた。ある日突然、たかがゲームだと思っていた世界が、死と隣り合わせのモノになった」
その声は不思議と広場に響き渡っていた。その声は、直に声を向けた人々に訴えるような、必死とも取れる声。
今の現状を告げるユーキは、止まることなく斬り進んで行く。
「ムカついた人間もいると思う。オレもそうだった。関係のない連中を巻き込んだアイツが許せなかった。どうやってアイツを斬るか、ずっと考えていた」
茅場晶彦を許さない。
その点だけ言えば、ここに集っているプレイヤーの意思は一致していた。
この世界に閉じ込めた茅場晶彦を、自分達を騙していたヒースクリフを許さない。プレイヤー達には共通の認識があった。
「自分の為に行動する。そういう点で言えば、オレと茅場は似ている。最短距離で、最短時間でオレは走り続けてきた。譲れないモノがあって、我慢が出来ないから、オレはひたすら突っ走ってきた」
その結果が『アインクラッドの恐怖』だった。
当時、殺人鬼に目を付けられ全員を守る事が出来ないと勝手に悟り、ユーキはいち早くこの地獄から抜け出そうと一人で攻略を始める。
様々な主張、あらゆる言い分がユーキにはあった。だが根底にあるのは――――幼馴染が剣を取るのが我慢が出来なかった。そんな勝手なモノだった。
自分が傷つくことを是としたが、幼馴染が傷つくことは否と唱える。
なんて自分勝手なことだろうか、独りよがりにも程がある。何せ幼馴染がそんな事を望んでいないのだ、少年にも自分の行動理由は我儘なモノだと理解していた。
だが走り出してしまえば止まらない。
勝手な主張のまま、ユーキはひたすら走り続けた。勝手に走り出した自分だ、そのまま勝手に死ぬことになろうが文句を言う人間はいないだろう。少年は本気でそう思っていた。
「だがそれはダメだと、オレを止めるヤツらがいた」
ユーキは眼を閉じる。
つまらない言い争いをするキリト、それを窘めるリズベット、どちらが勝つか賭けを始めるエギルとクライン、元気よくユーキに全財産を賭けるユウキとストレアに、おずおずとキリトに賭けるユイ。
取り留めのない風景だ。この世界に囚えられ、『アインクラッドの恐怖』をやめてから繰り返してきた下らないやり取り。
ふと視線を外すと、幼馴染が――――アスナが笑みを浮かべていた。
「人が良すぎる連中だ。オレなんぞ放っておけばいいのに、アイツらはオレに構い続けて放ってはおかなかった」
そう言うと、ユーキは目を開けた。
蒼い双眸は真っ直ぐに、プレイヤー達の顔を見つめる。
「オレと決着を付けたかったヤツがいた、オレの面倒を見てくれるヤツがいた、オレを兄と慕ってくれるヤツがいた、オレに怯えても歩み寄ってきてくれたヤツがいた、オレを見守ってきてくれたヤツがいた、オレの命を救ってくれたヤツがいた、オレが一人突っ走っても見捨ててくれなかったヤツがいた。オレがこうして生きてこれたのも、アイツらのおかげだ」
ユーキは両手を見つめる。
年相応の手だ。逞しくもない、まだ頼りにならない両手。父とは比べものにならない手。
それを力いっぱい悔しそうに握りしめる。
「オレは、この世界からアイツらを現実世界に帰したい。そのためなら何だってする、どんなことでもする――――」
だから、と言葉を区切りユーキは頭を下げる。
その行動に周囲がザワつき始めるが、ユーキは下げたまま続けた。
「――――みんなの力を貸してくれ。オレだけで何でも出来る、なんて思い上がるつもりもない。茅場晶彦を倒すには今しかない。その為には、みんなの力が必要なんだ!」
言葉を失うとはこのことを言うのだろう。
ユーキという人間の言葉をの意味を、少年をよく知らない人間はわかりかねていることだろう。
いつだって無茶をして、いつだって誰かに一人でやってきた少年が、ここに来て他人を頼るという意味を。そしていつだって自分の為に剣を握ってきたと主張していた少年が、他人のために戦いたいという意味を。
顔を上げて、ユーキは両手を広げる。
自分の気持ちを露わにするように、必死の声は続く。
「茅場の家族であるオレに手を貸したくなくても、一時的でもいい。この世界から抜け出した後、この生命をアンタ達に差し出してもいい! だが今は、今だけはみんなの力を貸してほしい! この世界から抜け出す為に!」
そこまで言うと、ユーキは再び頭を下げる。
頼む、と。少年にそこまでさせるくらい、“アイツら”と称されていた者達は大きな存在なのだろう。
ユーキは今まで、見ず知らずのプレイヤー達に手を差し伸ばしてきた。
それは罪悪感からの行動だったのだろうか。いいや、違う。少年は我慢が出来なかっただけだ。眼の前で泣かれて、不幸になる人間を、ひたすらに我慢が出来なかっただけだ。
見てみぬフリをすればいいのに、それが出来ない。誰よりも不器用で、誰よりも素直じゃないユーキが、こうして頭を下げるという事実。
周囲はどう応対すれば良いのか迷っていた。
ザワつき始め、少し前に起きていた小競り合いなどなくなっている。
もう答えは出ている。
ただ、代表となる人間がいない。だから全員、どうすればいいか迷っていた。
そんな中、壇上の下にいたディアベルが口を開く。
「みんな、オレは彼に命を救われたことがある――――」
ユーキはその声を聞いて、思わず顔を上げる。
そして下にいたディアベルを見下ろした。ここで話すことではないと困惑する。
対するディアベルはユーキを見上げて、ニッコリと微笑むと続ける。
「この中にはオレと同じく、彼に救われた人もいると思うんだ。違うか!」
ディアベルが言うと、ポツリポツリと声を上げ始める。
それは小さな声、だが徐々に声が大きくなっていた。
「そうだ、俺はアイツに助けられた!」
それは第一層のホルンカで途方に暮れていた、ユーキにアニールブレードを譲渡した青年の男性プレイヤーだった。
「わ、私も! PKに襲われている時に、『アインクラッドの恐怖』に助けてもらったぞ!」
それは第五層の枯木の森で5人のPKに襲われていた中年の男性プレイヤーだった。
「俺達も助けてもらったよな?」
「うん『アインクラッドの恐怖』にね」
「サチのヤツ、怖がってたよな……」
「こ、怖がってないよ!」
それはギルド『月夜の黒猫団』のメンバーだった。
「それを言うなら、俺達もプレイヤーキラーからアイツとキリトに助けてもらったよな」
な? とクラインがメンバーに話を振ると、風林火山のギルドメンバーが力強い頷きで応じる。
「……私も、救われた」
どこか納得していなように、渋々と言った調子で『聖竜連合』のコーバッツが同意し。
「私も。というか、ほんの数十分前……」
恥ずかしそうに顔を赤く染めて片手を上げるロザリアの姿もある。
それからも多くのプレイヤー達が口を開く。
私も、と遠慮がちに言う者のいれば、両手を上げて「俺も!」と元気よく言う男性の姿もあった。俺も私も僕も、とありとあらゆるプレイヤー達が声を上げる。
ポカンと口を開けてその様子を、ユーキは見ていた。
非難や罵言といった負の言葉を言われるのならまだしも、こんな反応をユーキは想定していなかった。
今向けられている感情は負の感情ではない、むしろ――――。
「彼はこんなにも、オレ達を助けてくれた。確かに茅場晶彦の血縁者かもしれないが、オレ達には関係ない! 彼は彼だ。そうだろ、みんな!」
その一言が引き金となった。
広場にいるプレイヤー達は声を上げる。高らかに、勝鬨のように、その場に存在することを証明するように、大きく声を上げた。
ディアベルはその声に応えるかのように続ける。
両手を広げて歓迎するように、その声は広場に響き渡った。
「行こう、みんな! この世界から抜け出して、明日を掴み取ろう! この世界では――――みなが同士だ!」
一際大きな歓声。
大人も子供も、男性も女性も関係がない。一同が拳を振り上げて、天に突き出している。
その声をユーキは一身に浴びた。
身体全身に伝わるプレイヤー達の熱。それは灼熱のような熱さ。ユーキの本心が火種となり、ディアベルの言葉が起爆剤となり爆発した。
「頼りにしてるぜ、アインクラッドの恐怖!」「茅場が関係あるかっ!」「気にするな坊主! 俺達がついているぞ!」
といった様々な声がユーキに贈っていた。
その中には恨みつらみを口にする者はいない。誰もがユーキというプレイヤーを、茅場優希という人間を認めていた。
意識がある場所に集中する。
笑顔で両手を振る妹の姿があった、やる気満々のはじまりの英雄の姿があった、無事に終わってほっとしたのか号泣している幼馴染の姿があった、それを慰める桃色の鍛冶職とAIの姿があった。商人と野武士面は周囲の連中と一緒に雄叫びを上げている。
誰も彼もが、ユーキの正体に気にしている人間はいない。
その事実に、少年は一瞬だけ戸惑い――――。
「――――ったく、しょうがねぇお人好し共が……」
粗暴な物言い。
ディアベルは見上げるも、直ぐに笑みをこぼす。
微笑ましくユーキを見上げていた。何せ視線の先には年相応に笑みを零す少年の姿があった。
不敵なものでもなければ、好戦的な笑みでもない。
まるでそれは――――子供のような、邪気のない笑みであった――――。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
同時刻
はじまりの街 黒鉄宮 監獄エリア
ビリビリ、と建物が振動を始める。
石造りの牢獄は揺れて、地面に出来た水たまりの水面も微かに波を起こる。極めつけはその振動のせいで天井から埃が落ちてくる状況だ。
彼――――ジョニー・ブラックは苛つきながら大きく独り言を呟いた。
「うるせぇなぁ。何だよ……!」
それに答えるプレイヤーはいない。
今、この監獄エリアには数多くの元オレンジのプレイヤー達が収容されていた。
そのほとんどが、レッドギルド『笑う棺桶(ラフィンコフィン)』のギルドメンバー達。となれば、殆どがジョニーと顔見知りということにもなるのだが、不思議と彼らの間には会話というものがなかった。
牢獄に入っているプレイヤーの大半は、無気力に石造りの床に寝転がっている。ほとんどが無気力と化していた。脱獄の出来ない環境、最低限の食事、そして彼らに殺された親しいプレイヤー達の昼夜問わずに浴びせられる罵声。それらが彼らの精神をすり減らし、モノを言わない囚人と変貌させていた。
この環境において、正気を保っているプレイヤーはまともではない。
罪悪感もなければ、人の心を持たぬ獣。間違いなくそう断言できる。
そういう点で言えば、ジョニー・ブラックという男は常識を逸脱した存在といえるだろう。
そしてもう一人――――。
「なぁ、ザザは外なにが起きてるか気にならないのかー?」
返答はない。
隣の独房には赤目のザザ。
返答がないことから、彼も精神的に壊れたのかと思いきやそうではなかった。
ブツブツ、と。ザザはその場に座り込み目を瞑っている。その言葉には「はじまりの英雄、殺す」「必ず、殺す」「絶対に、殺す」と憎悪が込められた呪詛を唱えていた。
イメージトレーニングと言うものだろう。彼は報復心を糧に狂気を育み、来る『はじまりの英雄』との再戦の時に備えている。
無論、そんなことは決してない。
だがザザは望みを捨てていなかった。それほどまでに、彼にとって『はじまりの英雄』は何が何でも殺したい存在なのだろう。
「根暗なヤツだねー」
ヘラヘラと小馬鹿にするような笑みを浮かべるも、ジョニーもその気持はわからなくもなかった。
彼は両手を頭の後ろに組み、仰向けに寝っ転がり天井を見つめる。背中にはゴツゴツとした石の感触がある。そして思い浮かべるのは一人のプレイヤーの顔だ。
そのプレイヤーは少女。
第一層のときも、第十八層のときも、自分の邪魔をした少女。
紫色の髪の毛で、小柄な体型。『はじまりの英雄』と同程度の反応をする少女。
その名前は――――。
「ユウキ――――!」
呟いて、奥歯を噛み締める。ガリガリ、と音を立てるも知ったことではない。
気に入らない少女だ。いつも邪魔ばかりをする。横槍をいれて、生意気な口を叩き、自分の剣がまったく通じない。
憎んでいる、という訳でもない。嫌悪する、ということでもない。不思議な感情が、ジョニーを支配する。
彼女が泣き叫ぶ顔が見たい、自分の足元にすがりつく姿が見たい、汚物に塗れた汚れた姿が見たい。
歪んだ感情だった。犯しても犯しても足りない、何度も何度も組み伏せて、嫌がる彼女を堕落させてやりたい。
考えただけでジョニーの高揚感が増して言った。ニヤァ、と口元引き裂くような他人を不快にさせるような笑みを浮かべる。
――ユウキ、ユウキ。
――嗚呼、あの女を殺したい。
――いいや、違うな。
――アイツの何もかもを奪って、何もかもを汚したい。
――考えただけで、堪らねぇ……!
この感情が何なのか、ジョニー自身にも説明が出来ない。もう一度彼女に、ユウキに会えばわかるだろうか。
そんなことを考えていると
「……ん?」
ジョニーは上半身を起こす。
視線の先には鉄で出来た扉があった。そこから漂う人の気配。
看守が食事でも持ってきたのかと一瞬だけ考えるも、それはないと否定する。昼食は先程取った。ならば誰なのか。
少しだけ考えるも、直ぐにその扉は開かれた。
ギイィ、と重苦しい音が聞こえる。
それから何かがその人物から投げられた。それはボンと転がりジョニーの監獄の前で止まる。
それはプレイヤーの――――生首だった。
気付いた監獄の入っているプレイヤーは「ひぃ!?」と情けない声を上げる。しかしジョニーは違う反応を見せた。
ポリゴンとなり粉々に消えていった生首など興味はない。ジョニーは扉の方へ、こちらに生首を放り投げた者が誰なのか確認する。
その者は薄く笑みを浮かべている。
膝上まで包む、艶消しの黒ポンチョを羽織って、目深くフードを被っている男。その右手にはジョニーが見慣れた魔剣『
その雰囲気はどこか不気味で、他のプレイヤーとは一線を画する存在。
ジョニーは眼を見開く。
その者をジョニーは、良く知っていた。
男はノイズ混じりに、楽しそうにそれは楽しそうに謳う。
その言葉もやはり、ジョニーはよく知っているモノだった。
「vhaoa イッツ batahoa ショウ・タイ gaoua ム――――」