ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
2024年1月31日 PM21:05
第一層迷宮区 十八階
攻略開始から三時間は経過していた。
物事は作戦通りに進んでいる。各階に殿を配置し、上の階層にフロアボス達を進ませないようにする。あまりにも無謀な作戦だ。正に捨て石といって過言ではない。何せ相手はフロアボスだ。数十人で攻略するのがやっとな化物が何体も各階層に配置され、足止めをしなければならない。それを無謀と言わずしてなんと言えばいいのだろうか。
だが早々に破綻しかねない作戦が順調通り進んでいるのは、一重に命をかけて、文字通り身を削っているからだ。
聖竜連合も血盟騎士団も自分達が出来る最大限の力を用いて、団結して自分達の希望を――――
今にして思えば、彼らがが真に団結して攻略したのは初めてなのかもしれない。これまでフロアボスを討伐する際には協力してきた。だがそれだけだ。フロアボス攻略するまでの過程で、助け合ったことなど一切ない。血盟騎士団は血盟騎士団で、聖竜連合は聖竜連合で戦力を整えてフロアボスという本番に臨んできた。
まるで二つのギルドは国だ。
反目し合ったまま、最低限戦争しないために暗黙で不可侵条約を結んでいるだけの関係に過ぎなかった。連携などとれるわけがなく、横のつながりなど存在するわけがない。二つのギルドは平行線のまま、攻略するのだろうと思っていた。
それが今。
最大と最強は手を組み、自分達以外のギルドの後押しをする。
矜持があった筈だ、自負があった筈だ。それらを投げ捨ててまで、
――凄い、本当に凄い。
――誰もが、この世界中が君たちに希望を託している……!
月夜の黒猫団リーダーであるケイタは素直に感銘を受けていた。
彼らの間に会話などない。無駄口を叩く暇があるのなら、早々に上の階層に向かうという意志が感じられる。
その先頭にはキリトとユーキが並走している。
振り向くことなく、彼らもまた自分に出来る最善を行おうとしている。
その二人の背中を捉えて、ケイタは思い出していた。
――二人に助けられてから随分と経つ。
――『恐怖』に救われて、『英雄』に見守られてきた。
以前に、キリトに言った言葉を思い出す。
キリトは真っ先に否定したが、ケイタの中での憧憬は少しも陰ることはなかった。
誰よりも前を向いて、誰よりも希望に溢れている。それがケイタから見た
だからこそ、ケイタは努力をした。
自分も、月夜の黒猫団も彼らのようなギルドになりたいと、彼と気持ちが同じ仲間達は努力を怠らず、研鑽を積んできた。
その結果、月夜の黒猫団は見事に攻略組になった。サチにアイテム管理などの裏方を任せて、ケイタとテツオがタンクに、ササマルがダメージディーラー、ダッカーがトドメをさす。連携だけで言えば、他のギルドにも負けないという自信があった。それだけの努力を積んできたのだから、その自信も当然のものだ。
だと言うのに、ケイタの心は晴れない。
望み通り、希望通り、攻略組になったというのに気持ちにしこりが残っていた。
――満足、っていうのかな。
――何かが違ったんだ。
――でもそれも、今日ようやくわかった。
――僕が本当に、やりたかったこと。
それが何なのか自覚すると、自然と両手を握り締めていた。
すると。
「見えたぞ、上に続く階段だ!」
エギルが言うや否や、彼らの背後に衝撃が走る。
地響きがなり、石造りの床が粉々に砕けて、遅れて獣ような雄叫びが木霊した。
一同は振り返る。
そこに君臨していたのは『イルファング・ザ・コボルドロード』『ザ・ダイアータスク』の二体だった。いいや、それだけではない。その背後に遅れて数体のフロアボスの姿も確認出来る。
絶体絶命。
ここで引くことも出来ない、ただ進むのみだ。
だというのに彼らは立ち止まり、振り向き化け物達に向かって一歩前に進み出る。それこそが月夜の黒猫団であり、風林火山であり、エギルでもあった。
焦燥する様子もなく、ケイタは目の前の勝ち目のない光景を見て、平静を保ったまま口を開く。
「正直言うとね、僕はキリトに憧れてたんだ」
「ケイタ……?」
バツの悪そうにするキリトへ振り返り、ケイタは笑顔で己の信条を吐露し始める。
「君はモンスターキラーを倒して、全てのプレイヤー達に希望を与えた。僕もその中の一人だ。僕も君みたいになれたらな、って思っていた」
「……俺はそんな大層な人間じゃない。どこにでもいる、ただの人間だ。希望を与えれるような、立派な人間じゃない」
「それでもだよ。僕の中では『はじまりの英雄』も『アインクラッドの恐怖』もヒーローなんだ」
でも、と言葉を区切り、自分の獲物である長棍を実体化させる。
両腕に持ち、化物達に穂先を向けて堂々とケイタは告げた。
「今日で、一方的な憧れはおしまい! 君達の背中は僕が守るよ」
そこで初めて、ケイタは振り返った。
人の良い笑顔で、されどその笑みの中では確固たる意思を宿して続ける。
「だからねキリト、そんな顔しないで。僕はね、嬉しいんだ。君達の力になれて、凄く嬉しいんだ。これが本当の意味で、僕がやりたかったことだから」
「そうそう、そンな顔すんなよキリト」
「クライン……」
ヘラヘラと笑いながら気安い口調で言うクラインに、キリトは晴れることのない表情で顔を向けて直ぐに顔を俯かせた。
謝らなければならないことがある、ずっと後悔していたことがある。言葉にしようとすると胸が締め付けられて、声に出そうとすると喉が詰まりそうになる。
だがここでしかない、とキリトは意を決して震える声を抑えることなく言った。
「クライン、ごめん。俺あの時、お前を置いていって――――」
「――――おう、許さねぇぞ」
「……そう、だよな」
ギュッと唇を噛みしめ、双眸が涙で潤んでいく。
当たり前だ。それだけのことを、自分はクラインにした。拒絶されるのも無理はない、とキリトは理解していた。顔を俯かせて、必死に泣くまいと我慢する。
だが。
「え?」
ズシッ、と。
肩に何かが乗りかかる衝撃が走り、顔を横に向いた。
そこには笑顔のクラインがいた。気持ちの良い笑顔を浮かべる彼は、そのままキリトに極めて明るい口調で言う。
「許さねぇからよ、生き残ったらキリの字の妹を紹介しろぃ」
その言葉に眼を丸くさせて。
「く、ふふ、ははははっ!」
キリトは笑みを零す。
この男はいつもそうだった。道化のように振る舞い、周りの雰囲気を和らげていく。
クラインの反応から察するに、特に気にしてないのだろう。だが彼は、敢えてこれからの未来の話をする。それはエールだった、絶対生き残ってここから抜け出そうという彼なりのエールだった。
悪友はいつもの調子で振る舞うのなら、自分もいつもの調子で振るわねばならない。
キリトはニッコリ満面の笑みで。
「絶対に嫌だ」
「……地味に笑顔で拒否るとか酷くね?」
なぁ? とクラインはキリトから離れて、ケイタに同意を求めるも困ったような乾いた笑みで返されるのみ。
これから決死の足止めをするとは思えない空気だ。その空気を壊さないように、キリトは二人に拳を突き出して――――。
「二人とも、絶対に生き残るぞ」
「おう!」
「もちろんだよ!」
――――三人は、拳を合わせた。
「そういう訳だ。お前達は先に行け」
横目で三人のやり取りを見ていたエギルは、斧を実体化させて気楽な口調で振り向かずに告げた。
肩に大きな斧を担ぐ後ろ姿はある意味絵になっていた。頼り甲斐があるといっても過言ではない大きな背中を眼にしても、ユーキの表情は晴れない。
「ドリューくん、オレは……」
「何度も言ってんだろ」
そう言うと、エギルは振り向いてビシッと親指を自分の方へ指して力強く言う。
「今の俺はエギル。もう一人の自分、素敵な自分、俺は斧使いのエギル!」
「……変わらねぇな、アンタは」
この局面で悲壮感を出さないエギルにユーキは苦笑を持って応じて、満面の笑みエギルは言う。
「そんな顔をするな。ほら、一度でもいいから笑顔を見せろよ」
「ふざけんなよ。絶対にやだ」
「おっ、いいぞ。調子が出てきたな」
満足気に数回頷いて、再び後方へと身体を向けて。
「俺のことは心配するな。こんなところで死ぬつもりはないからな」
口調は明るいものであるが、言葉の節々には確固たる意思が感じられていた。
「俺は絶対に日常に戻るんだ、何気なくも暖かい日常に戻る。その中にはかみさん、レベッカ、そしてお前とアスナもいる。だからユーキ、お前も必ず生き残れ」
含みのある言い方だった。
まるでこれからユーキのすることを見透かしたような、ユーキの願いを熟知しているかのような言い方。
隠していたわけではない。だがエギルの言葉は虚をつくものだったようで、ユーキは目を丸くさて思わず問いを投げる。
「知ってたのか……?」
「ばーか。長い付き合いだ、お前さんの考えなんて何となくわかる」
ハハッ、と居丈高が笑みを零して、ユーキに言い聞かせるように続ける。
「いいか、自分を犠牲にしようなんて考えるなよ。お前さんはそういう傾向が強い。自己犠牲も立派かもしれんが限度がある。俺も他の連中も、お前を犠牲にして現実世界に戻るなら、ここにいた方がマシだからな」
「……あぁ、わかってるよ」
「わかってんならいい。その辺りはアスナがしっかり教育してそうだしな」
ユーキは「うるせぇよ」と静かにそう言うと、エギルから背を向ける。
視線の先には上へと続く階段。十九階へと続き、最上階には全ての元凶が待っている。
だが足取りは重い。一歩簡単な一歩されど一歩、どう言うわけかその一歩が踏み出せない。見知った人間を残していいものなのか、ユーキの中で葛藤が起ころうとしていた。
「行って来い――――!」
バチン、と背中を思いっきりエギルが叩く。
力強いものだった。とても常人では出ない威力に、ユーキの身体がはじき出される。
心配するな、と鼓舞するかのようだ。現にそのつもりだったのだろ。エギルはニカっと気持ちの良い笑みを浮かべて、ユーキ本人も彼の気持ちを受け止めて口元を緩めていた。
力強く送り出され、そのままユーキは駆け出す。
余計なことを、と悪態ついたまま粗暴な調子でいつもどおり―――。
「あぁ、行って来るぜクソ店主――――!」
発砲妻@ハイライトON「ねぇ、どうなってるのよ? 私と先輩とのイチャイチャでパラダイスなリクエストが大量に来てるのに保留にしてるってどういうことよ?」
キリト@たまたま居合わせた「あの、俺に言われても……」
発砲妻@ハイライトOFF「出るとこ出るわよ、このままだと。とんでもないことしちゃうわよ、このままだと」
クライン@たまたま居合わせた「こ、これはアレじゃねっ? 本編でめっちゃヒロイン出来るってことじゃね!?」
発砲妻@ハイライトON「えっ、それってつまりメインヒロインの可能性が……?」
キリト&クライン「全然ありだよ、朝田ちゃん!」
発砲妻「(満面の笑み)」
幼馴染@今にも泣きそう「……それって、どういうことぉ?」
キリト&クライン「あっ……(察し)」