ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
最近、こんな話しの進め方で大丈夫なのか不安の毎日。
何かアドバイス、コメント、感想がありましたらよろしくおねがいします。
2024年1月31日 PM23:10
第一層迷宮区 十九階
光があるのなら、伴うように闇も存在する――――。
善を良しとする者がいるのならば、悪を是と唱える者が現れる。
物事には必ず、相反する存在が現れる。この世界において、それが両陣営なのだろう。
希望という光を照らす――――
絶望の闇へと叩き落す――――
両陣営の方針は正に、真逆と言えるものだ。
かたや見ず知らずの他人を助け尽力を尽くし、方や己の快楽のみを優先に動く。
方向性も、信念も全く違う。両陣営が衝突するのは、宿命であったのかもしれない。
人間として常識が欠落している殺人集団は構うことなく、
いかに攻略組のトッププレイヤーが集っていると言えど、数の暴力に勝てる道理などない――――。
「――――あぁ、もう! ウザったいわねぇ!!」
――――こともなかった。
自身めがけて襲いかかってきた凶刃をバックラーで防ぎ、リズベットは悪態をついた。その表情は切羽詰まったモノではなく、どちらかというと夏場で蚊を払うような仕草。飛び回られて鬱陶しい程度のモノだ。
攻撃は防いだ、今度はこちらの番。そう言うかのように、もう片方の手でメイスを持ちリズベットは振るい、一人の
元々、リズベットは裏方の人間だ。仲間の武器を強化し、メンテナンスし、精製まで請け負っている。
このような戦闘はもちろん、対人戦闘など慣れていなかった。出来る限り手加減をして、そして自分もゲームオーバーにならずに立ち回る。それは戦闘に不慣れなリズベットにとって、難しいモノだった。
「リズお姉さん、後ろです!」
だからこその奇襲。
思わず一息入れたリズベットに、背後から新しい
ユイが慌てながら発声するも遅かった。うそっ、とリズベットは直ぐに振り返るも遅かった。何人もの
凶刃は容赦なく、リズベットの身体を深々と傷をつけることになるだろう。――――そう、彼女が一人であったのなら。
「―――――っ!」
ユイの声に反応し、一人の少女の髪が流れる。
最速で、最短で、最強で。リズベットの前に身体を晒し、そのまま止まることなく狂気の集団へと突貫していった。
リズベットは叫ぶ。少女の名を叫ぶも止まらなかった。数人程度なら問題はなかった。リズベットも停止を求めはしなかっただろう。一人や二人であるのなら、少女の実力を持ってすれば容易く
だが相手は集団。十人は超える人間が密集し、槍を突き出し突撃してきている。それは何よりも脅威となり得る光景だ。何よりもリーチが違い、密集度が違う。このまま少女は、隙間などない槍衾に突き刺されることになる。
無謀で、あまりにも無策。
「舐め、ないで……!」
少女は不快感を露わに呟くと停止することなく、まさかの敢えて加速する。
一度地面を蹴り、二度地面を蹴り砕き、最後は勢いよく前方に向かって飛翔していた。銃弾のように、砲弾のように、彗星のように、物理法則を超越しながら加速していく。
もはや少女を視認出来る人間は、
持つ剣は細剣。
純白の光が幾筋もの迸り、細剣が突き出される。
狙い所は槍の穂先。少女は細剣のソードスキルでも基本技とされている『リニアー』を
その光景はさながら交通事故である。ダンプカーに轢かれたかのように、
人間の雨。
現実世界では直面出来ないモノを見ながらも構うことなく少女はリズベットに振り返り。
「リズ、無事!?」
「アスナぁ!!」
「無事ね、よかった。油断しちゃ駄目よ、ユーキくんが茅場さんを倒すまでの辛抱――――」
「無事ね、じゃなーい!!」
「ふぇ!?」
ビクッ、と。少女――――アスナはリズベットの大声を予想していなかったのか、肩を大きくビクつかせた。
「な、なんでリズ怒ってるの?」
「怒るわよそりゃ! 結構な人数相手に突っ込むとか、ユーキみたいなことをアンタがするんじゃないわよ、危ないでしょ! あと助けてくれてありがとう!」
「えー、ユーキくんに似てる? そっくり? ペアルック? えへへ、そうかなぁ?」
「いや、そこまで言ってないし。なんでアンタは、アイツのことになるとポンコツになるのよ……」
「あの娘達、緊張感足りてないよね?」
横目で二人のやり取りを見て、キリトは襲いかかる
その言葉は誰に向けたわけでもなく、咄嗟に出てしまった言葉だ。呆れるように、ため息を吐きながら、油断することなく神経を張り巡らせる。
対峙する
だがそれでも――――。
「気持ちはわかるな―ボク」
キリトの背後から、軽い口調で独り言に応答する人間がいた。
紫色を強調した装備の少女――――ユウキは背中合わせとなるようにして前方の敵を見据える。対するキリトはユウキを諭すような口ぶりで言う。
「分かっちゃ駄目だろ。多勢に無勢なんだぜ? 俺達かなりピンチなの、わかる?」
「わかってるけどさぁ。この人達、凄い弱いんだもん。にーちゃんも負けないし、あとは時が解決してくれるって考えちゃうと、ねぇ?」
それにしてもジョニーって人、何か嫌だなぁ。とユウキはボヤきながらキリトから離れ、再び
キリトは何か引っかかりを覚えた。何か致命的な見落としをしている気がした。
その辺りで彼らのレベルは止まり、キリト達は止まらなかった。そう考えると、ステータス差は大きな開きがあるに違いない。
――俺は何を引っかかっている。
――俺は何を見落としている?
――俺は、何を……?
彼らがここにいるということは、独房エリアから抜け出したからに他ならない。
もちろん、脱走など出来る筈もない。どのようなユニークスキルを持っていようが、システム外スキルを屈ししようとも、ユーキのように
となるともう一人。彼らを手引きした人間が最低でも一人は存在するということだ。
そこでふと、視界の隅に入った。
未だに消えない『チェンレジー・ザ・ゴッド』の生首。自分達が来て、既に事がきれていたフロアボスを思い出す。
あの無残な姿があるということは、『チェンレジー・ザ・ゴッド』を倒したということになるのだろう。誰の仕業なのかなどと考えるまでもない。この場に居たのは
だがそこで――――。
――あ。
――待て。
――おかしいだろ。
ゾワリ、とキリトに鳥肌が立った。
そんなこと、ありえない。何故なら彼らはキリト達にすら歯が立たないプレイヤー達だ。対人戦闘は目を見張るモノがあるものの、筋力も速度も経験も何もかもがキリト達に劣っている。
そんな人間が、どうして、フロアボスを――――倒せるというのか。
――見落として、いた……。
――
――違う、コイツらじゃない。
――コイツら以外の、誰かだ……!
そう。
誰かが、この場に居たのだ。
それが一人なのか、数人なのか、数十人なのか、予想がつかない。
「漸く、気付いたか」
小馬鹿にしたような口調で、赤い眼のプレイヤーがキリトに声をかける。
片手にエストックを持つプレイヤーの名は――――ザザ。
彼はエストックを持て遊びながら笑みを零しながら続けた。
「アレを、倒したのは、オレ達じゃあない。あの人だ」
「あの人、だと……?」
キリトは怪訝そうな顔でその言葉に応じる。
あの人ということは、複数形ではない。となればそれは一人。たったの一人で、『チェンレジー・ザ・ゴッド』を屠ったということになる。
何をバカな、とキリトは否定する気はなかった。
そんな非常識を十七回も繰り返した人間をよく知っていた。否定する気はない、デタラメと言うしかない。ならばその非常識は、一体どこに消えたというのか。
「まさか……」
「その、まさかだ」
ザザは笑みを益々深めて、赤色の双眸を愉悦に染めて続けた。
「あの人は、最上階に、いる」
「――ユーキ!」
答えなどわかりきっていた。
キリトから余裕の表情は消え、直ぐにでも最上階へと続く階段を登ろうと足を踏み出す。
そこへ――――。
「おっと」
ザザと数十人の
「そこをどけ!」
「随分と、必死だな、はじまりの英雄。ここから先は、通行止めだ。急ぎの、用事でも、あるのか?」
「お前達は、最初から――――」
「――――そうだ。オレ達の目的は、足止めだ」
言葉を肯定し、ザザは両手を広げる。
キリトの焦燥感に駆られた表情を見て、気分を良くしたのかザザは高揚とした声色で口を開いた。
「もう、少しだ。もう、少しで、あの人は、何もかもを手に入れる」
「あの人って誰だ、手に入れるって何をだ!?」
「『世界』だ」
「あの人は、『世界』を手に入れる。邪魔など、させるものか。作り変えられた世界で、貴様は、オレが殺すのだから」
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同時刻
その場所に光などなかった。
暗く何よりも暗く。底は深く何よりも深く。
周囲ニハ何モナイ。視界ニハ何モ映ラナイ。
光もな帰れば音もなく、自分が立っていることすら確認できないまま茅場優希は意識を覚醒させた。
これで二度目だ。
右を見ても左を見ても、上を見ても下を見ても、光などない闇の世界。
思わずため息を吐く。これで何度目だ、とほとほと自身に呆れていた。何度自分は――――。
――オレは何度、死にかければ気が済むんだ?
この場所は死後の世界、もしくは自分の内面。そのどちらかのなのだろう、と優希はぼんやりと考えていた。
一度目は殺人鬼との戦いで、経験しているのだ。二度目となると慣れてくる。
ここに墜ちてしまったのだって、何となく察してはいる。
大方、先の戦闘においての茅場の直剣による投擲が致命傷となってしまったのだろう。そして自分は気絶をしてしまい、現在に至り今もなお死にかけている。
――手も足も出なかった。
――ありゃ完璧に、オレの負けだ。
思いの外素直に、優希は自身の敗北を認めていた。
ありとあらゆる手を使い、ありとあらゆる手段で鏖殺された。最早ぐうの音も出ないとはこのことだろう。
「――――そうだね。アナタ、ボコボコだったもんね?」
その声は透き通るものだった。
この闇しかない空間には似合わなすぎて、そして好き通り過ぎている声。その声は楽しそうに、歌うように続ける。
「やっぱり強かった?」
――ありゃ、化物だ。
――めっちゃ強いわ。
突然の声に対して、優希は動じることはなかった。
むしろ声が聴こえて当然と言わんばかりに、その声の主の存在を認める。
「アタシからしてみたら、アナタも化物だよ」
――そりゃ、どう言う意味だ?
「そのままの意味だよ。どうしてペインアブソーバを切るかなぁ?」
アタシがオンにしても、必ずオフってくるしさぁ。と声はボヤく。
対して優希はそんなことか、とつまらなそうな口調で答えた。
――そりゃ、アレないほうが感覚がビンビンくるからな。
――戦闘の邪魔になるんなら、切るに決まってんだろ。
「脳筋過ぎると思う……」
やれやれ、と声の主は呆れるも、直ぐに神妙そうな声に変わり続ける。
「まだ、諦めないの?」
――……まぁ、そうだな。
死にかけても、手も足も出なくても、ここに落とされても、茅場優希は諦めていなかった。諦めを踏破し、不屈に顔を上げて、迫り来る死に全力で抗う。
そうして優希は空を睨みつけていたのだ。まだだ、と。違う、と。絶望的状況になっても、優希は諦めていなかった。
「どうして、アナタは諦めないの?」
――……。
「勝ち目なんてないんでしょ? なのにどうして、アナタはまだ戦おうとするの?」
聞く人間によっては、それは悪魔の囁きに聞こえるかもしれない。抗うだけ無駄であるのなら、眼を閉じて身を任せて闇に消えていった方が良い。二人の関係性がわからない人間にとっては、そう聞こえるのかもしれない。
だが当事者達は違った。
声の主は、優希が諦めないことを知っているから、純粋な興味本位で問い。
優希は、声の主の問いに対する意味を理解している。
だからこそ、優希は少しだけ考えて、答えた。
――オレはアイツの家族だ。
――身内が間違っているのなら、殴ってでも止める。
――それが家族ってもんだ。
「身内じゃないって言われたのに?」
――それでもだ。
――それでも、アイツはどこまで言っても家族だ。
――戦う理由なんざ、それだけで充分過ぎる。
優希の言葉には迷いがない。唯ひたすらに前だけを見定めて、折れることがなく先を見据えていた。
深い溜め息が聞こえる。優希からではないそれは、謎の声の主からだった。
「本当におバカさんだよねアナタは」
――自覚はある。
――自分でも呆れてるくらいだ。
「それで、勝機はあるの?」
――ねぇよ、ンなもん。
――本気じゃ勝てないのなら、全力でやるだけだ。
その言葉の意味を、声の主は理解していた。
似ているようで、優希にとっては全く違う意味となっている二つの言葉。
優希のいう“全力”とはつまるところの。
――剣術では手も足も出なかった。
――アイツの土俵で勝てないのなら、こっちの土俵に上げるしかねぇな。
――剣術なんて程遠い、クソのような泥試合だ。
暗に優希は語っていた。
命を賭ける、と。いつもどおり、これまでどおり、身を削り肉を切らせて骨を断つと。
「知らないよ? いっぱい斬られて痛い思いしても」
――元から血の気が多いんだ。
――斬られて血が抜けて丁度良くなんだろ。
「血なんて出ないでしょ。仮想世界なんだから……」
呆れた口調から、直ぐに真剣な声で言う。
「気をつけてね」
――あぁ。
――オマエには迷惑をかける。
――折角、助けてもらったのに。
「いいよ、気にしないで。アタシはそんなアナタだから恋をして、そんなアナタだから助けたかったんだもん。きっと大丈夫だから、アナタはアナタの思い通りに行動して?」
――悪いな。
「あっ、でも無茶はしないでね? 心配だから」
どっちだよ、と優希は自身の半身に苦笑を浮かべた。
そして、手を伸ばした。何かに触れるために、必死に手を伸ばす。
それは目の前に居た。顔の輪郭を優しく撫でるように、壊れ物を扱うように頭を撫でる。
――行ってくる。
――ストレア。
「行ってらっしゃい、ユーキ」
べるせるく・おふらいん
現実世界IN茅場家
木綿季@E:ペット雑誌「ねぇねぇ、にーちゃん」
優希@E:求人雑誌「んー?」
木綿季@E:ペット雑誌「ブリーダーって響きよくない?」
優希@E:求人雑誌「はぁ?」
木綿季@E:ペット雑誌「トップブリーダーって響き、かなりクールじゃない?」
優希@E:求人雑誌「……いや、ペット飼いたいのなら素直に言えよ。何が買いたいわけ?」
木綿季@E:ペット雑誌「犬!」
優希@E:ペット雑誌「へぇ、犬ねぇ。名前は決めてんのか?」
木綿季@E:ペット雑誌「No War」
優希@E:ペット雑誌「メッセージ性の塊だな。悪くない」
遊びに来ていた幼馴染「いや、悪いと思う……」
遊びに来ていた後輩「しかも買う前提になっているわ。やだ、私の先輩。妹に甘すぎっ!?」