ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
――――俺が思っているよりも有名人であることを自覚したのは、この世界から帰還してから直ぐのことだった。
茅場晶彦によりデスゲームと化したVRMMO――――ソードアート・オンライン。ゲームでの死は、現実世界での死に直結する非常な状況で、俺達は必死にクリアを目指し剣を握りあらがって来た。
しかし何とかしようとしていたのは何も俺達だけではなかった。もちろん、外の世界。つまりは現実世界でも同じように、とある団体が結成されて何とかしようと動いていた。
そのとある団体こそが『総務省SAO事件対策本部』である。大層な名前であり、何をするのか明確になっており実にわかりやすい。
彼らはSAO事件勃発後、直ぐに結成された。事件発生後の対応は早かったらしい。ソードアート・オンラインに囚われている一万人近くのユーザーを最寄りも病院へ搬送し、それから万全の状態で受け入れ、健康状態を観察する。
だがそこまでだった。
俺達が必死に生きてきた一年と数ヶ月、外部からアクションが何もなかったということはつまりはそういうことだろう。
有り体で言えば、手も足も出なかったようだ。
それも仕方ないのかもしれない。何せ相手は天才茅場晶彦だ。その程度のことは計算に入れているだろうし、下手にサーバーに手を出したものなら何が起こるかわかったものじゃない。
最悪、囚われているユーザーの脳を全て焼き切る結果になるかもしれないのだ。彼らも迂闊に手が出せなかったのだろう。
彼らに出来ることと言えば、俺達の健康管理、そして――――限られたプレイヤーのデータを追うことくらいしか出来なかった。
限られたといっても、選別は実にシンプル。それはレベルが高いプレイヤーである。そう言うわけか、俺が攻略組であることが彼らには筒抜けであったようだ。
俺としても何て言えばいいのかわからない。
クリアして現実世界に還ることも考えていた。だがそれよりも、勝手に突っ走るバカを止めるために剣を振るい、いつの間にかレベルが高くなっていた程度の認識しか俺にはなかったのだから。
それがどう言うわけか、俺達『
俺達は誰よりも自分勝手だ。好きに行動して、失敗し、ぶつかり合い、その結果がいつの間にかそんな立ち位置になっていた。良い迷惑――――とまではいかないものの、素直に受け入れ難いモノがある。
そんな俺の心境を知らずに、突然意識を取り戻した役人達は、色々と俺に問いを投げてきた。
どうして意識を取り戻したのか、一体何があったのか、茅場はどうしたのか。
俺も全て答えれるわけがなかったし、何よりも茅場がどうなったかついぞ最後までわからなかった。
“アイツ”が、どのようにして決着を付けて、あの場面で何があったのか、俺も知りたかった。
しかしそれは明かされなかった。
突如として意識を取り戻したSAOユーザー達の中に――――“アイツ”の姿はなかったのだから。
“アイツ”だけではない。その幼馴染、アスナも意識を取り戻していないようだった。最初は俺も楽観していた。タイムラグか何かだろうと考えていが――――“アイツ”とアスナは目を開けることはなかった。
二人だけではない。
301人のSAOユーザーが目を覚ましていないのだ。
世間では行方不明の茅場晶彦の陰謀であるとか、目を覚ましていないユーザーは今もソードアート・オンラインをプレイしているだとか、説得力がない論争を繰り広げている。
原因は未だに不明。いつ301人が意識を取り戻すかもわからない。
たがこれだけは言える。俺達のソードアート・オンラインは終わっていのだ、と――――。
死亡者――――612人
未帰還者――――301人。
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2024年8月15日 PM12:51
埼玉県所沢市 病院 アスナとユーキの病室
ぼんやりと、外から景色を眺めていた。
空は晴天で、雲ひとつ見られない青空が広がっている。病室は冷房が効いているからか、丁度良い温度が保たれていた。
ここで日向ぼっこをすれば、だいぶ気持ちよく昼寝できるだろうな、とぼんやりと考えて通路側にあるベッドに視線を向けて俺はぼやいた。
「そんなことしたら、お前に怒られるか」
苦笑混じりに呟いた言葉に、通路側のベッドで寝ている金髪の少年――――ユーキは何一つ反応を見せなかった。
当たり前だ。アイツは意識を失っている。規則正しい寝息を立てて、普段の目付きの悪さをどこへやったのか、極めて穏やかに眠っている。
俺の悪態に目を覚ますかもしれない、何て思ったことはない。
期待をしていなかったと言えば嘘になる。いつだって規格外だった男だ。もしかしたら、「うるせぇよ、ヘタレ剣士」と不機嫌そうに悪態をついて目を覚ますかもしれない。
だがそんなことはなかった。現実は何も変わらない、アスナもユーキも意識を失ったまま目を閉じていた。
「まいった……」
自然と言葉が出る。
ふらり、と俺は外が見える窓際に背を預けて、拳を握りしめてうつむいた。
現実から目を背けるように、俺は情けない声を漏らす。
「俺、だいぶキてるな……」
頭に渦巻くのは、最悪な光景。
このまま一年が過ぎて、二年過ぎて、五年過ぎて、十年過ぎても二人が目覚めない最悪な光景。
いいや、目覚めないだけならまだいい。ある日突然、ナーヴギアが作動し二人の脳を焼き切る、そんなあってはならない光景が頭を過る。
「なにが、はじまりの英雄だ。なにが、攻略組の希望だ」
瞳から涙が溢れそうになるも必死に堪える。何も出来ない自分が嫌になる。
俺は何も出来ない。どれだけレベルが高かろうが、名の知れた剣士だろうが、それはあの世界での話しだ。今は何も出来ない子共、取るに足らない人間に過ぎない。
第一層の『ホルンカ』で、一人押し潰されそうだった俺に二人は声をかけてくれた。
もしかしたらあのまま、心が折れていたかも知れない。そんな俺に手を差し伸ばしてくれた二人に、俺は何も出来ない。
俺には――――何も、救えない――――。
顔を伏せていると、耳にドアの開く音が聴こえた。
時間は昼過ぎ。この時間帯から来る人間は限られている。ユーキの後輩である朝田って女の子か、エギルの娘であるレベッカ。もしくは――――
「桐ヶ谷君、今日も来てくれたのか」
顔を上げた俺に眼に映ったのは、仕立てのいいブラウンのスリーピースを着る恰幅の良い初老の男性であった。
この人と会うのはこれが初めてではない。何度もこの病室で顔を合わせて、何度か会話もした。この人物はアスナの父親――――結城彰三である。
アスナが良いところのお嬢様であることは、あっちの世界で話しは聞いていた。だが、まさか総合電子機器メーカー『レクト』のCEOの娘であるとは予想もしていなかった。
そんな立場も感じさせない彰三さんは顔をほこらばせて「よく来てくれたね」と気安い口調で言い、俺は頭を下げた。
「お邪魔してます、結城さん」
「邪魔なんてとんでもない。明日奈と優希の友人だ、いつでも来てくれたまえ」
彰三さんはアスナの枕元の近付くと、彼女の頬を撫でて、隣に寝ているユーキへと視線を向ける。その表情はどこか悲痛な面持ちであった。きっと俺も、あんな顔をしているのだろう。
だが俺と彰三さんは違う。
彼は直ぐに表情を柔和な笑みに変えて、来訪者である俺を気遣った。彼も余裕が無いはずだ、娘が未だに目覚めず胸が張り裂けそうな心境の筈なのに、俺に向ける表情はそれを一切感じさせない。
これが大人の態度なのだろう。アスナの優しさは、彰三さん譲りのようだった。
「君は友達思いのようだね」
「友達、ですか……」
「ん、違うのかね?」
彰三さんは不思議そうに首を傾げた。
無理もない。結構な頻度で俺は二人の様子を見に来ている。俺の仮想世界での立ち位置も、彰三さんはわかっている。攻略ギルド『
今もなお目覚めない仲間の安否を気遣っているように見える筈だ。もちろん、その気持はある。だが――――。
「友達と言っていいのか、俺にはわかりません」
「そうなのかい?」
「はい。アスナさんとは良い友人関係だったと思います。でも――――」
そこまで言うと、チラッと俺はユーキを見た。
友達、と二文字で表すには俺達は歪だ。目を合わせれば喧嘩をして、言い争いをして、最終的に剣で決着をつける。そんな友達など何処にもいない。友達の定義に、俺達は当て嵌まらないだろう。
「ユーキ、君とは……正直わかりません。俺達は喧嘩ばかりしてきました。傍から見たら俺達は友達のように見えなかった……と思います」
「喧嘩、か……」
意外そうに呟いた彰三さんの口元には笑みがあった。
ふふっ、と面白そうに笑みをこぼした彼は口を開く。
「私はね、桐ヶ谷君。優希が自ら進んで争う姿を見たことがなかったよ」
「そう、なんですか?」
「あぁ。優希が喧嘩をするのは……そうだね。明日奈が絡んでいた時くらいのものだったな」
懐かしむような口調で、彰三さんは続けた。
「明日奈達が小さかった頃の話しだ。二人は何処に行くのも一緒でね。優希が歩くと、その後ろを明日奈が追いかける。明日奈が近所の子供に意地悪されたと聞くと、優希は倍にしてやり返したこともあった」
「それは、目に浮かびますね……」
俺は素直に感想を漏らすと、彰三さんはそうだろうと笑みを浮かべる。
「少なくとも私の記憶では、優希からは喧嘩の火種を持ち込んだことなかったよ。それが君相手にムキになっていたとはね」
「意外、ですか?」
「余程、君に負けたくなかった見える」
クスクスと、笑みを浮かべて彰三さんは諭すような口調で言う。
「友人か、そうでないか。それは慌てて答えを出すモノでもないだろう。君達の物語はまだ続く、優希を敵と見るか、競争相手と見るか、それとも友人と見るか。今はわからないままでもいい。ゆっくり答えを見つけなさい」
「…………」
大人の意見であると、と俺は思う。
わからなくてもいい、急ぐ必要はない。これで最後、というわけではないのだ。これでユーキが目覚めないまま終わる、なんてことをこの人は考えていない。
どんな状況でもいつだって希望を胸に、いつの日か二人が目覚める日をこの人は望んでいる。
強い人だ。
家族とその親しい人間が今も目覚めないのに、これで終わりではないと前向きに言える。
希望的観測、楽観主義、何て言うつもりはない。結城彰三という人物は現実を認識し理解した上で、まだ終わりではないと言うことが出来る。
この人もまた、俺にはない強さを持っていた。
ユーキとはまた違う、前を向く強さを。
「そう、ですね」
沈んでいた心が、冷めていた心が、再燃するのを感じる。
どうかしていた。
今にも自分の顔をぶん殴りたいが必死で堪える。帰ったら何発もぶん殴るとしよう。
俺が信じないでどうする。アスナが、ユーキが目覚めるのを、俺が信じてやれないでどうする。
そんな当たり前のことを教えてくれた彰三さんに、俺は深々と頭を下げた。
きっと、彼にはわからないだろう。でも礼を言いたかった。だからこそ俺は頭を下げる。
「ありがとうございます」
「ん? いいや、構わないよ。私としては優希と良い友人関係でいてほしいけどね」
俺は頭を上げる。
視界に入ったのは、彰三さんがユーキの手を握る光景だ。
彰三さんの大きな手が、痩せ細っているユーキの包み込む。
それは極めて優しく、丁重に扱うように、まるで慈しむような仕草だ。
しかしどこか違和感がある。昔から知っているとは言え、彼の今の仕草は他人にするものではない。まるでアスナに触れるように、家族にでも接するように。
そう。あの表情と仕草はまるで――――父親のそれであった。
気になることがる。
アスナの両親、兄には会ったことがあった。だが不思議とユーキの両親に会ったことはない。
影も形もないように、最初から存在しないように、不自然なほど空白だった。
だからこそ、俺は問いを投げた。
「結城さん」
「何かな?」
「ユーキ、君のご両親は、どこに……?」
ピタリ、と彰三さんの動きが止まる。
それから言うべきか、言うまいか迷うように、彰三さんは一泊考えて。
「優希が小さい頃に事故でね……」
それだけで充分だった。何もかもを理解した。
ユーキの両親の姿が見えないのも、彰三さんの態度にも、この病室の配置も理解した。
思わずバツが悪そうにする俺を、彰三さんは意外に思わずに問いを投げた。
「知らなかったのかね?」
「……はい」
「全くらしいと言えばらしい。優希は自分の話をしなかっただろ?」
そこまで言うと、彰三さんはユーキの頬を撫でて笑みを浮かべて。
「優希の両親とは、私も家内も付き合いがあってね。困っている人間を放っておけないような、善良な人達だったよ」
父親の方は口が悪かったけどね、とボヤきながら言う彰三さんの口元には、確かな笑みを浮かべていた。懐かしむような、もう見ることが出来ない光景を思い出しながら、彼は笑みを浮かべていた。
困っている人間を放っておけない、考えるより先に身体が動く、そんな人間を俺も良く知っている。とても他人事とは思えない。
「考えてみれば、優希は彼によく似ている。無鉄砲さも、雰囲気も、よく似てる。何も彼にそこまで似なくても良かったろうに。まったく――――困った息子だ」
言うと同時に、また新しくドアを開ける音が聴こえた。
俺も彰三さんも、そちらに視線を向ける。
入ってきたのは男だ。
人の良さそうな顔つきで、ダークグレーのスーツを見事に着こなす長身。フレームレスの眼鏡のレンズの奥で、彰三さんと俺に向かって目を細めて笑みを浮かべる男は口を開いた。
「社長」
社長と呼ばれたのは確認するまでもなく、彰三さんに向けられた言葉だった。
となると、彼は『レクト』の社員であることが予想できる。彼は誰なのか考えている俺に、彰三さんは気を使ったのか紹介する。
「彼は須郷君だ。うちの研究所で主任を任せている」
そう言うと彼――――須郷さんは柔和な笑みを浮かべて俺に近付いて右手を出す。
「須郷、須郷伸之です。よろしく」
「桐ヶ谷、和人です」
差し出されてしまったのだから、応じない訳にはいかない。
俺は須郷さんの右手を握る。普通ならばそこで手を離す。だが須郷さんは「おぉ!」とどこか大げさにわざとらしく驚いて、朗々とした口調で言った。
「君が明日奈さんの所属していたギルドの……! ありがとう、明日奈さんを守ってくれて!」
「……いいえ。俺もアスナさんには助けられました。守られてたのは俺の方です」
素直に受け取るのならば、須郷さんのそれは謝意に属するのだろう。
だがどう言うわけか、俺にはそうは見えなかった。どこか打算的に、純粋にアスナを想っていないような、そんな穿った見方をしてしまう。
ユーキでもあるまいし、俺は何を考えているのか。
「社長、例の件ですが」
「……あぁ、それか」
そんな俺の心境を他所に、須郷さんは俺の手を離すと彰三さんに向き直った。
対して彰三さんはバツの悪そうな顔で応じると口を開いた。
「答えはもう少し待ってくれないか?」
「――と、言いますと?」
「君とは確かに家族ぐるみの付き合いだ、信頼もしている。だがねそれとこれとは別のところにあると私は思っている。家内は賛成しているが、私はどうも気が乗らなくてね」
「いいえ! 社長のご気持ちもご尤もだと思います。僕はいつでも待っていますので」
「すまないね、君には本当に悪いと思っている。私も明日奈には幸せになってもらいたいのだが、本人を蚊帳の外に話を進めるのは筋が通っていないだろ?」
話の流れが読めず俺はただ沈黙していた。
だが何となく察しがついた。アスナに幸せになってもらいたい、本人を蚊帳に話を進める、限られた単語を読み取り会話の内容を組み立てていく。
そして見えてくるモノが一つ。
「おっと、もうこんな時間か。そろそろ戻らねば。桐ヶ谷君、これからも二人と仲良くしてやってくれよ?」
俺は「はい」と二つ返事で応じると、その返事に満足したのか彰三さんは一度深く頷くと病室から出ていった。
残されたのは俺と須郷さんの二人。
会話などない。元々俺は社交的な性格ではない。だがそれよりも、何か嫌な予感がした。
それは須郷さんから。
どう言うわけか、自分でも説明がつかない不思議な感情。
そうこれは――――不信感だ。
「桐ヶ谷君、君ってさ『はじまりの英雄』って呼ばれてたんだって?」
「……はい」
彰三さんを前にしていた態度とは打って変わって、須郷さんは口を開く。
こちらを下に見ているような、上から物を言うように、彼は続ける。
「明日奈とも一緒だったんだろ?」
「……何が言いたいんですか?」
「どんな気持ちなのかなって思ってさ」
言うと同時に、須郷さんはクスクス不快に笑みを浮かべて、ゆっくりとした足取りで窓際のベッドに近付いて行く。
そこで寝ているのはアスナだ。だがどう言う理屈だ。ただ歩いている、ただ笑みを浮かべている、それだけの筈だ。なのにどう言うわけか、初対面なのに、この男の仕草の何もかもが、癪に障る――――。
「さっきの話はね、僕と明日奈が結婚をするっていう話さ」
「…………」
驚きはなかった。何となく、察しがついていたからだ。
須郷さん――――いいや、須郷の笑みはますます深まるばかり。まるでトロフィーを掲げるように、誇らしげとも取れる態度で口を開く。
「だから聴きたくてね。同じ仲間が結婚すると聞かされて、どんな気持ちなのかさ」
「……どんな気持ちも何も、結城さんに断られてるだろ」
不遜な物言いだと自覚している。
とても初対面に言う口調としてはキツすぎる物言いであると理解している。
だがどうしてか、我慢が出来なかった。感じていた不信感はいつしか――――不快感に変わっていたのだ。どうしようもなく、説明が出来ないほど、俺は須郷を嫌悪している。
当人の須郷は対して気にしてないように、自信満々に告げる。
「それも時間の問題さ。明日奈は既に僕の手の中にある」
舌を舐めずり、下卑た笑みを浮かべて明日奈の髪に触れようと手を伸ばす。
それを――――。
「やめとけよ」
俺は須郷の腕を掴んで制止させる。
そして信頼と信用を込めて、善意のつもりで俺は言った。
「そんなことしたら、ユーキに叩き潰されるぞアンタ」
「あぁ、彼か」
チッ、と舌打ちをすると忌々しげな口調で須郷は吐いた。
その瞳には純粋過ぎるほどの嫌悪、憎悪、様々な負の感情が渦巻いている。
「彼は本当にズルい。何も苦もなく、何も努力もせずに、好意を受け取っている。そうは思わないか?」
「思わない。何も知らないアンタが、ユーキを語るな」
「君こそ彼の何がわかるというんだい?」
なに、と訝しむ俺に須郷は腕を振り払いながら口を開いた。
「生い立ちも、彼が何を考えているのか、彼の根底にある狂気すら分かっていない君が、何をわかると言うんだい?」
「……アンタ、何を言っている?」
その口調は奇妙なものだった。
まるでユーキの何もかもを知っているように、目の前の男は話している。知り合いだというのか、それにしてはユーキという人間を知らなすぎる。知っているのであれば、明日奈が手の中にあるなんて物のような表現はしない。言ったら最後、ユーキがキレるに決まっているからだ。
なのにどう言うわけだ、この男は何を知っているのか?
「おっと、喋りすぎたか。君は気にしなくても良い。どうせ何も出来ないのだからね」
「……何も出来ない、だと?」
「怒ったのかい? だが事実だろ」
愉快でたまらないというように、須郷はニヤニヤ笑みを浮かべて続ける。
「仲間が昏睡状態にあるのに、君は何も出来ずにいる」
「……ッ!」
その言葉は深く深く、俺の心を抉るものだった。
言葉は剣のように、槍のように、斧のように、深々と突き刺してくる。
「対して僕は違う。もう少しだ、もう少しで何もかも手に入る。名声も、地位も――――明日奈も」
それだけ言うと、須郷は俺に背を向けてドアへと足を進める。
立ち止まる俺とは違い、自分は進み続ける、とむざむざと見せつけるように肩越しに俺に視線を送ると呟いた。
「塗りつぶしてやるさ。明日奈の気持ちなんて簡単に、僕色に塗りつぶしてやるさ。優希君の、いいや茅場の入り込む余地などないくらいにね」
両足が鉄で出来ているくらい重かった。
一歩も動けない。二人を侮辱したあの男を殴りたいほど、拳を握りしめているのに一歩も進めない。
そんな俺の姿が滑稽だったのか、須郷は軽い足取りでそのまま病室を出ていった。
「くそ……」
俺は奥歯を噛みしめる。
ギリギリと歯と歯が噛み合わせている不快な音を出しながら、拳を握りしめた。
その行先など何処にもない。何処にもないのなら、向ける先は自分にしかないだろう。
「くそっ……!」
容赦なく、躊躇もなく、俺は自分の拳を自分の頬に叩き込もうと振り上げる。
だが――――。
「なん、だ……?」
何度も何度も、ズボンのポケットにある携帯がヴァイブレーションとなり振動する。
一度ではない。何度も何度も、電話の着信でも入っているのかと思ったが、その振動パターンはメールのものだ。
無視すればよかった。
だが俺は携帯を手に取る。無視しては一生後悔するような、正体不明の確信があった。
「なんだ、これ……?」
慣れた手付きで俺は携帯からメールを開く。
アドレスはどうにもバグっていた。
辛うじて読めるのはのは『ALfheim』という単語のみ。
件名もバグっている。意味がわからない『え は も う に 1 ナ ゛ ら らりるろ』という文字の羅列。
本文には『Welcome to ALfheim Online!! It's Show Time!!』という英単語。
それと添付されている画像があった。
「スパムか?」
呟いて、興味本位で画像を開いて――――。
「なっ――――!?」
声を失った。
携帯を落としそうになる。
その画像には――――鳥かごのような檻の中で閉じ込められているアスナらしき姿。
そして――――両腕を鎖で縛られ天井から吊るされている痛々しいユーキの姿があった――――。
>>須郷伸之
明日奈の許嫁。作者のイチオシ。
一体なにベイロンなんだ……?
>>結城彰三
明日奈のパパであり、浩一郎兄のダディ。メッチャ良い声(個人的主観ありあり)
最近息子同然に可愛がっていた少年に友達ができそうで嬉しい。
実のところ明日奈にはパパと呼ばれてたい。優希にもお父さんって呼ばれたい。浩一郎兄は別に……。
結婚反対勢
>>結城京子
明日奈のママであり、浩一郎兄のマミィ。メッチャ良い声(個人的主観ありあり)
優希の父とは幼馴染の関係。
結婚賛成勢なのは理由があるようで……。
>>結城浩一郎
明日奈のブラザー。浩一郎兄。両親と妹がいい声なのだからきっと良い声。シスコン。
結婚反対勢。
須郷?はっ倒すぞマジでとは彼の言。鷹派
>>『え は も う に 1 ナ ゛ ら らりるろ』
実はちゃんとした意味がある。
え」は「おの前」で「お前」、「1 ナ ゛」は1文字にして「げ」、「らりるろ」は「れがない」で「れない」。つまりそういうこと。
べるせるく・おふらいん
先輩「え、オレの出番は? 主人公だよオレ。最近出番らしい出番ねぇんだけど……」
後輩「よ う こ そ (MOREDEBANの看板を手に)」