ラフィエルドロップハート   作:黒樹

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当初の予定を変更。
モチベーションだだ下がりしてたが急に書きたくなったから更新。



そして、拡散

 

 

「……困りましたね」

 

海の中から浜辺を見てラフィエルはぼそりと呟いた。ゆらゆら揺れる波の狭間で、遠巻きに見つめていた椎名の姿を追っていて、そんなラフィエルの元へ茶化しに来たサターニャと暴れて一息着いたこの頃。海水浴客が増えた浜辺には男性客の百鬼夜行があれほど見たいと思っていたのに今は悍ましく感じるほど、大勢の人々。

 

「どうして、私がこんな目に……」

 

日頃の行いが祟ったのだろうか。ラフィエルの胸部を隠していたトップスはいつのまにか流され、半裸のまま海の中へと1人だけ放り出されてしまったのだ。サターニャに助けを求めればよかったが、それはラフィエルのプライドが許さなかった。咄嗟に追い払ってしまっている。

 

浜辺には男性客の百鬼夜行が出来上がっていた。おそらく椎名の言っていた通り、椎名の目撃情報から釣られたアイドル探しの百鬼夜行なのだろう。殆どが私服で、しかし半分以上はもう水着だった。

–––どうしよう。

不安だ。もし、男の人に近づかれたら。下劣な目で舐め回されることになるのだろうか。痴女だと勘違いされて襲われることになるのだろうか。見られることが堪らなく嫌になったのは、初めてだった。

 

「ひ、ひとまず足のつくところで……」

 

溺れて誰かに救助されても人生は終わる。だからと言って岸に近づけば、今度は男性客の警戒をしなければならない。そして何よりも男性客の数が圧倒的に多い。女性客の数なんて一割にも満たなかった。

そんな人混みの中、サターニャ、ガヴリール、ヴィーネを探すのは困難を極める。まして椎名に助けを求めることなど論外、そんなことできるはずもない。

胸が浮かないように抱えて岩場の影へ、頭がいっぱいで注意力の散漫していたラフィエルはその岩場に人がいることなど接近するまで気づきはしなかった。

 

「ねぇ、ちょっと君!」

 

視界の狭まっていたラフィエルに男の声が掛かった。慌てて視線を右往左往させると、3人組の男達が徒党を組み何かを探しているようだった。そんなの答えはわかっている。けれど、その男達は、既に諦めムードだった。

 

「この辺で黒羽椎名、見なかった?」

 

「い、いえ……」

 

何故か咄嗟に嘘をついた。

男達はそれを聞いて、あまり気にしていないようだった。

 

「やっぱデマだったんだって」

 

「そうだよな。さっきまで雨降ってたし」

 

「もういいんじゃね?」

 

男達の方針は決まったようだ。目の前の少女、ラフィエルに向き直る。

 

「では、私はこれで……」

 

「あ、ちょっと待ってよ、君1人?」

 

腕を掴まれた。幸いにも、胸を押さえていない方の腕だった。

 

「と、友達が待っていますので……!」

 

「何人?」

 

この手の輩か。今更だが、そんなことを考える余裕もラフィエルにはない。彼女は素直に、嘘を交えて、あくまで素直に答えてしまう。

 

「……3人です」

 

「じゃあさ、奢ってあげるから今から一緒に遊ばない?」

 

サターニャ、ガヴリール、ヴィーネ。3人だ。それはさほど大した人数でもなかったのか男達には数の差はあまり意味のないものだった。むしろ1人じゃないことが。

 

「結構です」

 

「そんなこと言わずにさぁ、友達と相談して–––」

 

なおもラフィエルの腕を離さない男。最初は穏やかだった焦りが段々と強くなっていく。大きくなっていく。波のせいで鎖骨が見えたり隠れたりと舐め回すような視線も感じた。気づかれるのも、時間の問題だった。

ただ、その一瞬、ガッと男の腕を横から掴む手が伸びた。男とラフィエルの間に気配もなく近寄って割り入った男がいた。パーカーに身を包んだ、男だった。傷だらけの体を持つ、男だった。

 

「おい、人のものに手を出してんじゃねーぞ」

 

「な、なんだよ、連れって男? ……あれ?」

 

割り入った男の顔を見た瞬間、腕を掴んでいた男の動きが硬直する。その間に腕を捻り上げた。もちろん、ラフィエルを傷つけないように一瞬力が緩んだ瞬間を狙って握力で攻撃した後に捩ったのだ。

 

「–––ってぇ! あ、こいつ黒羽椎名じゃん」

 

「つうーことは、彼女さん?」

 

「なんだ、やっぱ来てるし、彼女もいるんじゃねぇか」

 

納得したような、そんな雰囲気に椎名は乗った。

 

「俺は彼女とその友達と海水浴に来てるんだ。姉達は来てねぇよ。ブラコンの舞姫菜なんかに教えたら、絶対についてくるだろ」

 

「そっか。悪かったな」

 

礼儀だけはあったのか一言謝罪して男達は去って行った。もう、この海水浴には興味はないだろう。男達がうろついている海水浴場に、他に女を探すにも競争率が高過ぎるのだ。それどころか見つかる確率も皆無に等しい。

男達が去ったことを確認した後、背後に隠していたラフィエルを一瞥して、パーカーを脱ぐとその勢いのまま風にたなびくパーカーをラフィエルに纏わせた。

 

「……あの、クロさん?」

 

「ずっと見てたよ。どうせトップスが流されたんでしょ。だから、海の中から出ることもできなくて腕で胸押さえてどうにかしようと奔走して。困ったら呼べよ。男がいるって言えば、普通はあいつらも諦めるからさ」

 

椎名の一言、二言、三言、それはラフィエルにとって反則級の威力を秘めていた。

 

「よく、わかりましたね……」

 

「たまにあるから。海水浴でパーカーは外せないんだ」

 

ラフィエルは羽織らされたパーカーに腕を通す。なんだかそれを着ただけでほっとした。でも、それは、椎名が来た時より、ほっとした感じは少なくて、上までチャックを閉めるのも怠惰に余った袖で口元を隠す。

 

「……ずるいです。こんな不意打ち」

 

キュンって。心臓が早鐘を打っていた。涙さえ浮かびそうだった。

 

「何か言ったか?」

 

ぼそりと呟かれたラフィエルの言葉も、彼女がしている表情も、見惚れてしまったがあえて知らないフリをして椎名はラフィエルの手を握った。

俯いていたラフィエルがその様子に気づくこともなかった。

 

「ほら、行くぞ。海水浴どころじゃなくなったからな。みんなを探さなきゃ」

 

あと、少しだけ。2人きりの時間を。

ラフィエルはわざと足を遅らせて、椎名との時間を少しだけ伸ばした。

 

 

 

 

 

その帰りの電車。早めの帰宅。しかし、遊びに遊んで満足気な一同は疲れたのか電車の中で眠りに就く。最初からやる気のなかったダメ天使ガヴリール、元気いっぱいで知らぬところでラフィエルに一矢報いたサターニャも、緊張の糸が切れて安心したのか眠ってしまったラフィエルも暫し夢の中へ。

起きていたのは、学生気分を満喫しながらもみんなの引率をするヴィーネとずっと彼女達を見守っていた、されど比率的には無意識にラフィエルの様子ばかりを追っていた椎名だけ。その椎名の膝には肩を枕にしていた筈が崩れ落ちたラフィエルが眠っていた。

 

「ヴィーネも眠いなら寝ればいいのに。俺が起きてるから」

 

「そういうわけにもいかないよ。1人だけってのはね」

 

親しき仲ならもっと深く説得に掛かるのだが、それを前にヴィーネはからかい気味に口元に手を当てて、

 

「襲われても困るからねー」

 

やっぱり、からかった。

 

「そうだな。ヴィーネが寝たら真っ先におまえを襲ってたかもな」

 

「え、わ、私⁉︎」

 

本音半分、冗談半分の返しにヴィーネはたじろいだ。

 

「ヴィーネって押しに弱そうだし、迫っても流されるんじゃない?」

 

なんでもOKしそう。面倒見が良い、性格が良い、は流されやすいと紙一重だ。

 

「シーナだって押しに弱いじゃない!」

 

現に膝の上のラフィエルを拒否していない。

 

「ちゃんとダメなものは断るよ。それに一度忠告はしたしね」

 

「えー、例えば?」

 

「その人の為にならない事とか、そういうやつ」

 

曖昧な物言いだがヴィーネには伝わったようだ。だけど、誤魔化されたようでやはり釈然としない。

 

「例えば?」

 

「お金の貸し借り。取り敢えず、何も聞かずに貸してくれってやつは信用しないな。性格がわかっていてもそれは人の極一部の部分だし、表と裏はわからないから。ちゃんと本当の事を話した上でしか無理かな。特に殆ど知らん奴とかそのままくたばれって思う」

 

親戚だとか言って、金に寄って来る虫のなんと多いことか。有名になった姉に付き纏う厄介者は数知れず。そんな人生を送っている椎名の生い立ちを知っているヴィーネはなんとも言えなかった。

例え話として、というか良い例として上げると、

 

「ヴィーネとラフィエルなら理由さえ話してくれれば問題はない」

 

ガヴリールとサターニャはアウトだった。

ネット廃人、通販魔とくればそれは自業自得だ。

甘やかすとしても、一回きり。

それで学習しなければ見捨てるつもりだった。

 

「わたしはともかく、どうしてラフィはいいの?」

 

「嘘は吐くし人を騙すけど」

 

「けど?」

 

「………………あれ、なんでいいんだろうな」

 

犯罪擦れ擦れで不法侵入はするわ、思い返して椎名の言葉は止まってしまった。そんな思い出になりかけた記憶も椎名にとっては宝物になりつつあった。

 

「……裏切らないんだ」

 

「あー、なんかわかる」

 

搾り出された答えにヴィーネは共感する。確かに悪い人ではないのだ。ラフィエルは少し意地悪なだけで根本的なところは天使のまま、ある意味生に忠実なところがある。

 

「前から気になってたんだけどシーナって彼女作らないの?」

 

「……立候補しますってやつ?」

 

「違うわよ! 真面目に答えなさい!」

 

いきなりの変化球にヴィーネは戸惑った。

その様子がおかしくて、今の空気なら本気で答えられそうな。

なんというか、ヴィーネは話しやすい相手だった。

すらすらと自分の気持ちが出て来る。

 

「彼女って欲しいからって作るものでもないと思うんだ」

 

「そういう考え方もあるのね」

 

「なんとなくその人といたいって思えるような、ずっとこの先も一緒にいたいって思えるような相手がいたなら、そしたら初めて恋人にしたいって思えるのかな?」

 

椎名にとって恋愛は専門外。恋愛なんて、経験もない。好きという感情を理解はしていない。出した言葉通りなら椎名の気になる相手は複数いることになる。その中で決めるとなると、やはり恋愛というものがわからない、と言わざるを得なかった。

例として上げるなら。

 

「ヴィーネが彼女になったら幸せになれそうだよね」

 

「はぁっ⁉︎」

 

ただ、目の前にいたから例として上げたのだが、いや多少少なからずとも気になる要素はあった椎名の不意打ちにヴィーネは赤面した。こうして面と向かって言われることは経験上なかった。ないのである。皆無だったのだ。

 

「ヴィーネは可愛いし、優しいし、尽くしてくれそうだし」

 

「え、え、えぇ?」

 

「蠱惑魔的なところも魅力的だと思う」

 

「小悪魔、的……」

 

かなり素でヴィーネは聞き間違えた。

がっしりと椎名の肩を掴む。向かい合う姿勢。

キスをしようとしてるカップルに見えなくもない。

ずいっとヴィーネが顔を近づけた瞬間だった。

 

「やっぱり–––」

 

ガンッ。

突如、椎名の顎がアッパーをくらったように仰け反った。

 

「……ふぁ。おはようございます」

 

椎名の頭の位置と入れ替わるようにラフィエルが起き上がる。車窓に頭を打ち付けた彼の膝の上に手をついて雌猫のように妖艶に挨拶をして見せ、僅かにすりすりと頰や体を擦り付ける。たった一瞬の行動に誰も意図的だとは気づかない、だが友達にしては少し近過ぎる距離だ。

 

「〜〜〜ッ。おはよう、ラフィエル」

 

悶絶した後、叱ると思いきや膝の上から退かせることすらしない。右腕は背凭れに掛けるように、左手はラフィエルの腰に掛かるような位置だ。思いっきり腕の体重を掛けているように見える。

ヴィーネはなんとなく察した。

 

「仲良いわね?」

 

にやにやとからかうような微笑みを浮かべる。確かに距離は縮まったが、世間一般で言う恋人のような関係ではない。普段のスキンシップと先の一件でラフィエルの理性が少し外れているだけである。

椎名としては可愛い女の子に言い寄られるとか、スキンシップを仕掛けて来るのは嫌ではない、だから放置しているように見せてこの状況を最大限楽しんでいるだけで、掘り進めても何も出ない。

 

「あ〜、何ですかその目」

 

「なんでもないよー」

 

この日、天使を弄ったヴィーネが一番いきいきしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明けて次の日の朝。

ドタドタと部屋に接近する騒がしい足音で目を覚ました。

意識の覚醒は、バンッと扉を開け放つ音で。

自分の部屋だと認識している間に騒々しくも美しい声が耳を貫いた。

 

「どういうこと椎名くん!」

 

「おはよぅ、舞姫菜」

 

「うん♪ おはよう–––じゃなくて!」

 

姉は何がしたいのか、ぐっと携帯を突きつける。

 

「これどういうこと!」

 

「ん……。あ」

 

舞姫菜の携帯。その画面。には朝からニュースサイトを閲覧していたのかいろんな記事の見出しが所狭しと並べられて、その中に舞姫菜が騒いであるだろう記事を見つけた。

 

「黒羽椎名に彼女見つかる……?」

 

–––違った。これデウス・エクス・マキナ専用の特設サイトだ。

ともあれ、なぜこんな芸能人みたいなツイートだがなんだかわからない個人情報のばらまきをされなくてはいけないのか、そして記事の内容も誤報というサイトにありがちなやつ。

そういえば昨日は引き退らせる為に何か短歌を切ったような……。

原因はおそらくそれだろう。ラフィエルにはあの後、早めに誤解を解くからと謝罪しているので妙な誤解を生むことはないだろうが、昨日から周囲をからかうようにひきりなしにひっついて来る。今も椎名の隣で眠っていた。

 

「……そう。姉さんの方から言っておいてよ。おやすみ」

 

「動画サイトにもアップされてるんだよ!」

 

「きっとこれですね」

 

死角はなかった。昨日も、今日も。

目を覚ましたラフィエルが携帯を操作する。

会話に割り込んで来た、と思えば保存フォルダから動画を再生した。

昨日の、海の一件だった。あの時は椎名も頭がおかしかったんじゃないかと自覚はしている。

 

「今すぐそれを消せぇぇぇ!」

 

「永久保存します」

 

ラフィエルの手から携帯をもぎとりに掛かる。

嫌ですー。セクハラ。変態。等々。

揉み合っている間にもラフィエルは罵詈雑言を浴びせて来る。

誰の目から見てもいちゃついているようにしか見えない。

 

–––プルルルルル。

 

突然、2人の喧嘩を仲裁するように電話が鳴った。

誰の電話かと一旦、一方的な停戦協定を結び、椎名は自分の携帯を手に取る。その間にもラフィエルはパスワードでロックを掛けて椎名には絶対に開けられないように手を打っておく。

電話の相手に意識を向けていた椎名は当然気づかない。

画面を見ると、着信はヴィーネから。通話ボタンを押す。

 

『聞いて聞いて! なんか今月の魔界からの支給額が増えてたの!』

 

「あっ、そう、良かったね」

 

前から相談されていた椎名はそれどころではなく淡白な反応を返した。どうやら電話口のヴィーネはよほど興奮しているようだ。それすら意に介さないらしく、次の話題に移る。

 

『それと……。昨日撮った動画をガヴが拡散させちゃって……ごめんね? 撮ったの私なんだ』

 

–––まさかの身内の犯行だ。

なるほど、これは納得だ。魔界からの支給額が増えたのも。

盗撮。覗き。立派な犯罪だ。

ついでに天使を貶める見事なコンボ。

さぞかしガヴリールは支給額が減ったことだろう。

 

『すぐに消したんだけど……手遅れだったみたい。本当はガヴリールが自分の携帯に保存しようとしていただけなの! わ、悪気は…ないと思う』

 

「引き換えに教えて欲しいんだけど、あの時見てたのは?」

 

『……全員、です』

 

携帯を投げ捨てて椎名は布団に潜った。

 




ラフィエルを弄り、ヴィーネに恋愛ならばからかうスキルを身につけさせ、若干キャラ崩壊起こし始めているような……。
一番女子高生してそうなヴィーネだから仕方ないな、うん。
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