蒼天の下に   作:Marcela

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舞台はイシュガルドから移りましたがアイメリクの苦難は続くのだろうなぁ、と


蒼天の下に

部屋に戻り私服に着替え、ソファーへ体を横たえて足を投げ出す。

飼っている結構な歳の猫が無愛想な顔とは裏腹に人懐こくゴロゴロと喉を鳴らしソファーの下にやってきた。

手の平を差し伸べるとその背を撫でろと尻尾まで押し付けるようにこすりつける。柔らかな長毛の手触りに疲れた心が幾分と慰められる気がした

 

千年戦争もひとまずは終戦を宣言することが出来、今は新体制の中まだ腹の探りあいを続ける貴族と不信感やかつての身分制度の束縛から解き放たれたのか確信が持てない庶民議員達の溝を埋めるために日々走り回っている。

危惧していたゼーメル家とデュランダル家は流石に騎士としての矜持か新体制への変革には協力的でいささか拍子抜けするほどだったが、裏でまた勢力固めの根回しを続けるの可能性もある。惰性の貴族制度の頃とは違う分益々気が抜けなくなっただけのような気がした。

 

教皇の私生児ということは公然の秘密であったので誰から聞かされるでもなく感づいていた。回りも不義の子とはいえ周知故に杜撰には扱えず、針の筵の上のような好奇の目の中で神殿騎士団への入隊を許された後も意図的に前線に立つ任務は与えられずにいた。竜を屠ればどのような者でも出世の道があるこの国でそれは飼い殺しだった。

もし自分が任務で命を落とすことがあれば上司にどんな評価がくだるかもや判らない。持て余された自分に対し周囲から黙っていれば「最低限の地位」でいることを許されていたのだろう。爵位があるのだから上手くやればいずれそれなりの地位は得るだろう。

だが立身出世はどうでもいい。何処に向かうかも解らぬ果て無き戦争と熱狂の中でその閉塞感には耐えられなかった。

その鬱憤を晴らすごとく、どのような任務であってもギリギリまで前に出て危険に身を晒すことを厭わなかった。そして正義も意義も何も持たず、まさしく捨て身で戦うエスティニアンと出会い、自分と通じる何かを見たのだった。

竜に殺された家族への復讐。ただそれだけの為に戦う男。それは自分も変わらなかった。

自分を押しつぶそうとする戦争の大儀という殻の中で千年も孵りもせず腐り続けるだけのこの国への復讐。

 

そして出世の可能性の為に社交界にも積極的に参加した。当然噂の私生児という事で注目は集まったが恵まれた容姿のおかげで遠巻きな観客達を手中に引き寄せるのは容易かった。無茶の産物で竜討伐の功績も上がり、そうなれば却って複雑な出自も珍しい経歴の一つに変わる。

退屈を持て余した貴族の年増女や内部の温い権力に慣れきった正教の道徳心など汚れた下穿き程度にしか持ち合わせぬ教皇庁の好色な権力者に体を開いた事もある。社交界の華を手に入れた彼らの腕に、許されぬ実父を純粋に思慕する若い悲運の王子として飛び込み懐柔した。若い女は扱いが面倒なだけで大して使い物にはならかったので相手にはしなかったが。

そうして利用出来る物は全て利用し、他人も、自分でさえも犠牲にする事は厭わなかった

 

エスティニアンがこの国を去る事は聞かされるまでもなく解っていた

今だニーズヘッグの眷属が人を襲う可能性があるとはいえ、かつての聖戦のシンボルであった竜騎士は正教と同じく宗旨を曲げねばならぬ存在だ

竜の眼に「選ばれた」蒼の竜騎士ともなればその存在自体が千年の罪と同義になる

千年戦争の真実。人間の罪。そんなものは今日明日をただ必死に生きる者には関係のない話だ。邪竜は死んだ。

そしてあの男は邪竜とその罪の形を一人携えてこの国を去ったのだ。

 

互いにそれぞれの復讐を終え、見届けた。しかし唯一の親友でさえ自分はまた利用したのかもしれない。

自らも去るつもりでいたのだが新しい制度に担ぎ上げられてしまった事は

かつての偶像を壊した・・教皇を破滅に向かわせ殺した自分にとってそれは背負うべき罰とも感じる

あの男が抱えるそれと同じように、自分もまた対価を背負わなければならないのだろう

 

鼻先から尻尾まで絡みつくように手の平に体中をなすり擦り付け、一通り満足したのか猫はソファーに乗り上がり彼の脇に座り寄り添った

 

貴族院には教皇庁からも数人選ばれている。かつての次期教皇候補達だ。そうしなければ正教の面目を保てないからという名目だったが、状況が落ち着くに連れ戦後の冷静さを取り戻した国民からの不信感が燻り始めている

今日、彼らを除く貴族院数名と密会し、正教自体を完全に国政から切り離す事についての根回しを固めた。

席はあるが発言力は落ちる事になるだろう

次の会議でその案が提出されればかつて自分の体を珍しい果実のように扱った彼らはきっと、木の根元に落ちた熟れ過ぎた果実の様に老いた体を自分の足元に崩れ落として保身を願いに来るだろう。それは復讐を果たした清々しい成果の光景ではなく、ただひたすらに鬱陶しいのだろうなと胸が曇るだけだった

 

傍らで手足を折り曲げ香箱を作る猫がその憂鬱など関せずと言う風情でアイメリクの顔を覗き込み見つめている

白く長い毛を蓄え年寄りらしくふてぶてしい面構えをし、人の心など見透かしているような不思議な色をした目はどこか「父」に似ているな、と思った。

神殿騎士団長まで登りつめようやく叶った謁見。自らのこの悪運の元凶であるこの男への憎しみを押し殺し、他人に聞かれぬように「父上」と呼んだ時。

過去の汚点との対峙に彼は獣の眼光の様な歓喜が溢れる微笑みを湛え「我が息子よ」と答えた。

 

結局、父もまた逃れられないイシュガルドという国の概念へ復讐したかったのだろう

その点で私達はまさしく同じ魂を持つ親子だったのだ

 

英雄はあの会食もままならぬまま騒動の中慌しくイシュガルドを去りアルフィノ達暁も拠点をレブナンツトールに移した

自分を絡め取ったこの運命から逃げたいとは思わないがフレースヴェルクを尋ねて行ったあの壮麗で静かな空虚が満ちる天上の国へ、いつの日か足を運ぶこと程度は許されるだろうか。

 

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