ストライクウィッチーズ短編集   作:ストパンSS流行れ

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「洗いっこ(エイラ、芳佳)」

「あ、エイラさん。おはようございます!」

 

 早朝の訓練を終え、浴場に向かうとすでに先客がいた。下着姿でちょうどズボンを脱ごうとしているところ。芳佳と同じくこれからお風呂へはいるのだろう。

 

「おはよ。宮藤」

 

 エイラさんの声はまだ眠たげだ。

 

「珍しいですね、こんな時間に。よかったら一緒にどうですか?」

 

 芳佳は普段からこの時間帯に入っていたが、エイラさんを見かけたことはなかった。

 リーネちゃんは今日は非番で朝から出かけるらしく、訓練は一人だった。訓練後は一緒にお風呂で疲れを癒やしたり、立派なものをこっそり拝んだりと、芳佳にとって大事な時間である。少し寂しさを感じていたためエイラさんがいたことが嬉しかった。

 

「まあいいけど。私は湯には浸からないゾ?」

 

「え!? 何しに来たんですか!?」

 

「何ってサウナだけど」

 

「サウナって暑いだけじゃないですか」

 

 坂本さんに誘われて一度入ったことはあるが良さがいまいちわからなかったのだ。坂本さんも頻繁にサウナに入る訳ではないらしく、以降はお風呂だけで済ませていた。

 芳佳の反応にエイラさんはやれやれとでも言いたげに額に手を当てた。

 

「お前はなんにもわかってないナ~。仕方ないから私が気持ちよさ教えてやるよ」

 

 にやり、と笑みを浮かべたエイラさんに芳佳は一瞬見とれてしまった。

 

 エイラさんに手を引っ張られながら脱衣所から出ると朝のひんやりとした風が芳佳を襲う。汗をかいているせいで余計に寒く感じる。ちらりとエイラさんを横目で伺ってもいつもどおりの無表情ですたすた歩いている。

 強引にサウナへ行く流れに持っていかれてしまっている。だけれどエイラさんと二人きりで話す機会は未だにないままだった。つまりこれは仲良くなるチャンスなのだ。

 

「とりあえず軽く汗流しとけ」

 

「あれ? 身体洗わなくていいんですか?」

 

「汗流してからのが気持ちいいダロ?」

 

「まあ、エイラさんがそういうなら」

 

 二人はさっと頭や身体を洗い流す。

 芳佳がそのままサウナに向かおうとすると、エイラさんに止められた。

 

「これで軽く拭いとけ」

 

 エイラさんがいつの間にか手にしていたタオルを芳佳は受け取った。

 

「さ、行くゾ」

 

 エイラさんがサウナ室の扉を開ける。もわっと熱気がかかり、ほんのりと木の香りがした。中は階段のようになっていて三段ある。一段につき人一人が寝転がることのできるくらいのスペースがある。角には石を積み上げてちっちゃな塔みたいなものがある。見るからに熱そうだ。

 エイラさんは白樺の束を二つ拾うと芳佳を最下段に座るように言った。そのまま芳佳の隣に腰掛け白樺を一つ渡す。とりあえず受け取ったはいいが使い方がよくわからないままだった。

 それからしばし互いに無言のままだった。エイラさんが相手だと不思議と気まずい感じはしない。芳佳がサウナに慣れ始め落ち着いたところで、いきなりエイラさんが白樺の葉で叩いてきた。

 

「わっ! なにするんですか!」

 

「ヴィヒタだよ。私のお手製ダゾ。感謝しろヨナー」

 

 ばしばしと全身を叩かれるが、葉が柔らかいのか痛みは全くなかった。それどころか叩くたびに白樺の良い香りがふわりと広がる。まるで森林浴でもしているかのようにさわやかな感じがした。なるほど、と叩かれ続けながら芳佳は納得した。

 

「さてそろそろ出るか」

 

「えっ! もうですか?」

 

 以前、坂本さんと入った時はもっと長かった。

 

「なに驚いてんダ。もっと入ってたかったのか?」

 

「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」

 

 坂本さんと来たときのことを話す。

 サウナに入ってからの正確な時間はわからなかったが、とんでもなく長く感じた。実際のところ30分も経っていないだろう。しかしそのときはもうフラフラになってしまっていた。足元がおぼつかなくなり、視界もぐわんぐわんしていた。とてもじゃないが真っ直ぐ歩ける状態ではなかった。坂本さんに支えてもらいながらなんとか出てきたのを覚えている。ちなみに坂本さんは平時と変わらず元気に笑っていた。

 

「少佐はなんか勘違いしてんじゃないのか? ここは我慢大会する場所じゃないゾ」

 

 エイラさんは少し呆れた口調だった。

 

「わぁ! きもちー」

 

 短時間のうちに身体はだいぶ温まっていたらしい。外の空気が肌に触れるたび心地よい。

 汗だけさっと流し、二人は水風呂へ向かった。

 

「うぅ冷たそぉ」

 

 芳佳は水風呂を覗きこんで情けない声を出した。

 エイラさんはすでに浸かっている。芳佳は少し抵抗を感じつつもゆっくりと足先から入る。胸のあたりまで浸かってみても想像よりずっと寒さは感じない。水の冷たさは感じるものの決して不快なものではない。温まりすぎてぼうっとしていた頭がすっきりとした。

 芳佳はふと気づいた。この水風呂は意外と狭い。大きめの樽のような形をしていて、二人も入れば水が溢れ出しそうなくらいの大きさ。エイラさんの顔は目と鼻の先にあって、足なんかもうくっついてしまってる。意外と大きいんだな、とか芳佳が混乱しはじめたところでエイラさんは立ち上がった。

 芳佳は慌てて後を追う。

 

 エイラさんは適当な岩の上に腰をおろした。芳佳も隣に行く。眼前には海が広がっている。湯に浸かって見る景色とは違い、同じ海なのに新鮮な気持ちになった。

 

「結構いいもんダロ?」

 

 エイラさんの横顔はいたずらっ子のような、いつもよりずっとあどけない笑みが浮かべられていた。

 

「さ、もっかいサウナ入るぞ」

 

 外気に当てられだいぶほてりは収まってきていた。

 

「また入るんですか? 私今日当番なんですけど大丈夫ですかね」

 

「だいじょーぶだいじょーぶ。ちっちゃいことなんか気にすんなって」

 

 マイペースな人だとは思っていたけどここまでとは。エイラさんは言葉通り本当に気にしていないようだ。それどころか呑気に鼻歌まで歌っちゃっている。

 芳佳は迷った。ここで戻れば余裕を持って行動できるはずだ。しかし、もう一度サウナに入るという選択肢を選んでしまった場合、かなりぎりぎりになることは逃れられないだろう。

 

「あの、エイラさん! すみませんがそろそろ戻り――」

 

 言いかけたところで冷たい風が吹く。芳佳はぶるりと震えた。

 やっぱり、もうちょっと堪能してからでも遅くないよね。せっかく誘ってくれたのに途中で戻るのは失礼だし。自分の中で言い訳が完成したところで再びサウナ室へと入った。サウナの快楽に負けた瞬間であった。

 

 芳佳ははふう、と至福のため息を漏らした。エイラさんは隣でなにやらごそごそやっている。手にしていたのは木製の柄杓だった。おもむろにサウナストーンの元まで歩くと柄杓の中身をぶちまけた。水の蒸発する音と同時に真っ白な蒸気があがる。それは瞬く間に部屋を覆い尽くした。

 

「熱っ!?」

 

 急激な温度の上昇で芳佳は飛び上がった。

 

「大げさなやつダナ~」

 

 大量の蒸気に包まれながらうっすら覗くエイラさんはご満悦な表情をしている。

 うーん、たしかに一瞬とんでもなく熱かったけど慣れたらそうでもないのかも。一回目のときよりも発汗しているのが体感できた。これはこれで悪くないかも。

 芳佳はエイラさんが小さくうなりながらこちらを見ているのが、蒸気で曇った部屋の中でもわかった。その表情は真剣そのもの。坂本さんが刀の手入れをしているときのような、ある一定以上の腕をもった匠にしかできない顔だ。思わず芳佳は姿勢を正す。

 

 「うひゃっ」

 

 芳佳は慌てて胸を手で覆った。エイラさんは払われた自身の手を、空中でにぎにぎとしている。

 

「中尉と同じくらいか……? いや、もうちょっとあるカナ」

 

「ハルトマンさんほどちっちゃくありませんよ!!」

 

「お、おう。でもそれは中尉に失礼ダロ……」

 

 芳佳は口に出してからはっとした。けれどルッキーニちゃんとハルトマンさんには勝っているという自負があった。どうしても譲れないものがある。

 エイラさんは意外と大きい。リーネちゃんとはまた違った良さがそこにはあった。大きさで言えばもちろんリーネちゃんに軍配があがる。だが大きさだけで決めつけていいものなのか。芳佳は疑問に思う。否。大きさが全てではない。リーネちゃんのは大好きだけど。

 エイラさんとサーニャちゃんは肌が真っ白だ。触れたら解けてしまいそうな、儚くて繊細な印象を受ける。エイラさんのはいわば芸術品のような美しさがあるのだ。

 

「お前どこ見てんダヨ」

 

 エイラさんの頬は赤く染まっている。サウナか羞恥かはわからないが、芳佳はそれをかわいらしいと思った。人のものを触るくせに自分の話になると照れがあるようだ。

 

「にやにやすんナー!」

 

 芳佳は白樺で頭をぺしりと叩かれた。

 

 

 

「洗いっこしましょう!」

 

 もう一周している時間はさすがになさそうだったので、二人は水風呂を出た後そのままシャワーへと向かった。

 そこで芳佳はあたかも名案を思いついたかのように言った。

 

「いいけどさ。……なんか企んでないか?」

 

「そ、そんなわけないじゃないですか! サウナの気持ちよさ教えてくれたお礼ですよ!」

 

 さっとエイラさんの後ろに回り込み、石鹸を手につける。よく泡立ててからエイラさんの髪に手を通した。プラチナブロンドの髪はとても手触りがよかった。芳佳は自らの頭を洗う時より一層丁寧に洗いはじめた。

 

「どうですかー?」

 

「うん、いいゾ。その調子でやってくれ」

 

 エイラさんの言葉にほっとしながら続けた。

 

「流すので目つぶっててくださいね」

 

 そのまま身体にもやろうとするとエイラさんからストップがかかる。

 

「次は私がやってやるよ」

 

 エイラさんは濡れた髪をかきあげながら言った。

 芳佳の予想に反してエイラさんの手つきは優しかった。聞いてみると、いつかサーニャちゃんの髪を洗うことになっても心配ないように練習しているのだとか。残念ながら練習の成果を発揮する機会は来ていないそうだ。

 

 芳佳はボディタオルを泡立てると早速エイラさんの身体を洗いにかかった。

 やっぱりエイラさんは綺麗な身体してるなあ、背中を洗いながら芳佳は考えていた。肌ももちもちすべすべでさわり心地が良い。背中を洗い終えて芳佳は脇から手を回した。柔らかいものに触ったとしても不可抗力だ。仕方ない。芳佳は頭の中で謎理論を展開させて迷わず胸を触る。

 

「前は自分でやるからいいんダヨ!」

 

「ま、まあまあ。そんなこと言わずに。全部洗ってあげますよ」

 

「いいって言ってんダロ! というかずっと同じとこやってんじゃねえヨ!」

 

 不覚。芳佳はさり気なく触れたらラッキー程度に考えていた。ところがあまりの素晴らしさに我を忘れてしまったのだ。もっと慎重にやればバレなかったはずなのに。もっと長い時間堪能できたはずなのに。芳佳は深く後悔していた。

 

「後はもう自分でやるから」

 

 エイラさんは暴れたせいで少し荒げた息だ。

 その隙に芳佳は素早く自分の身体を洗い終えるのだった。

 

「じゃ、私朝食の準備あるんでお先に失礼しますっ」

 

「お前覚えとけヨ!」

 

 

 

 




書いてから気づきました。
だいぶ原作と剥離してます。
でも器の大きな人はちょっとそっとのことなんて気にすることはないはずです。
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