ブラック&ホワイト2 英雄代行   作:あぞ

10 / 25
第十話 左ノ太刀

もうここまでだ。

 

ミジュマルの気概は買う。正直十分過ぎるほど頑張った。

 

だからもう止めよう。

 

「ミジュマル」

 

静かに声を掛ける。なに、ここで意地を張らなくても、この先まだまだ精進する機会はあるさ。

 

だからもう止そう。ここからは。

 

声を掛けられたミジュマルの肩がピクリと上がる。

 

「ごめんな、オレが最初から間違えてたよ。相手はトウコ先輩クラスの相手だ」

 

チラチーノを視界に捉えつつ、ミジュマルに語り掛ける。

 

ミジュマルも油断なくチラチーノを見据えているが、オレの声にも耳を傾けているのが分かる。

 

そうだ、ここからは。

 

「だからミジュマル、左だ」

 

告げた。後はお調子者に見えてその実、意地っ張りなミジュマルが、それを受け入れるかどうかだ。

 

一瞬の沈黙。しかし、ミジュマルは右手に持ったホタチを、左手に持ち替えた。

 

どうやら分かってくれたらしい。そしてミジュマルは先程よりも闘志を漲らせているのが分かる。

右で仕留められなかった憤りからか、数ヵ月ぶりに実戦で左を使う高揚からか。はたまたそのどちらもなのか。

 

さぁ、此処からが本番だ。

 

なんせ、オレのミジュマルは。

 

 

 

 

左利きだ。

 

 

 

 

「ミジュマル!接近してシェルブレード!」

 

「ミジュマ!!」

 

初手の焼き増し。しかし、距離は先程よりも遠く、ミジュマルもダメージを負っている。

 

それでも駆けるミジュマルは、最初の斬り込みよりも速い。

 

牽制のロックブラストが飛んで来る。これは切り払う。足下に飛んで来るロックブラスト。これすらも切り払う。

 

タネマシンガン、切り払う。襲い来る弾幕を、切って斬って切って。徐々に縮まる距離。

 

チラチーノの目に、脅えの色が写る。

 

そうだろうね。自分の技が全て叩き斬られて、相手は闘志を迸らせて走って来るんだから。

 

「チラチーノ!」

 

チェレンさんが叫んで渇をいれる。

 

チラチーノの目に気迫が戻った。

 

だがもうここは、ミジュマルの距離だ。

 

「アクアジェット!シェルブレード!!」

 

「ギガインパクトで迎え撃て!!」

 

チェレンさんは様子が変わった事に気付いたのか。指示したのはノーマルタイプ最強格の物理技。しかし、その分自身への衝撃が大きいという両刃の剣。

チラチーノの両腕が可視できるほどのオーラに包まれた。

 

しかしミジュマルは飛ぶ。相手を見据えて真っ直ぐに。

 

お互いに受けたダメージは少なくない。この一合で勝負が決まるだろう。

 

 

突き出されるチラチーノの腕。それに先ず横一閃。それを受けて若干生じた隙に体を捻って袈裟懸けにもう一太刀。更に擦れ違い様に背中目掛けて逆袈裟に見舞い。計三回に及ぶ連続斬り。

 

空中での無理な挙動が祟って、背中から地面に落ち、土煙を上げるミジュマル。

それでも何とか立ち上がり、チラチーノの方へ体を向ける。

 

チラチーノはふらりとうつ伏せに倒れ、起き上がらない。

 

戦闘不能だ。

 

 

 

一瞬の静寂。

 

 

 

「チラチーノ、戦闘不能。勝者はチャレンジャー、キョウヘイ」

 

そう言ってチラチーノをモンスターボールに戻すチェレンさんの顔は晴れ晴れとしていた。

 

それを聞いてミジュマルに駆け寄り、倒れそうになったその体を支えた。

 

「キマってたよミジュマル。これまでで過去最高に!」

 

「ミジュマ~」

 

当然だ。とでも言うように声を上げるミジュマル。全くこいつときたら、あれだけ凄いバトルをやった後で、もういつものお調子者だ。ブレないその様子に思わず苦笑が漏れる。

しかし、本当によくやってくれた。

 

奮闘したミジュマルの頭を撫で、ボールに戻そうとした瞬間に、ミジュマルの体が光だした。

進化が始まったのだ。

 

ミジュマルの体はガントルの時のように、一瞬砕けて光の粒子に変わり。再構築されると、フタチマルへと進化した。

 

「フタッチ!」

 

相当なダメージを負っていた体からは、傷一つ無くなっているが。それは見掛けだけなので、後でオボンの実を渡しておこう。

 

「おめでとう、フタチマル。これからは二刀流だな」

 

二つに増えたホタチを両手に握って、感触を確かめているフタチマルを撫でると。得意気に胸を張った。

 

わしわしとフタチマルを撫で続けていると、拍手の音が後ろから聞こえたので振り返る。すると、チェレンとトウコ先輩、ベルさんが並んで立っていた。手を叩いていたのはチェレンさんとベルさんのようだ。

 

「素晴らしい戦いぶりだったよ。それとフタチマルへの進化、おめでとう」

 

「おめでとお。すごかったよお!フタチマルも頑張ったねえ」

 

「最後まで右に拘ってたら、この場で説教だったわね」

 

まじか、危ないところだった。聞き入れてくれたフタチマルに感謝しないと。

あれ?この場で、という事は、説教自体は確定なんですかね。

 

「そうそう!なんで最後は最初に防げなかった攻撃も切れるようになったの?」

 

ベルさんが興奮冷め遣らぬ様子で尋ねてくる。

 

「そのフタチマルは左利きだったんだね」

 

ベルさんの疑問に答えたのは、チェレンさんだ。

 

「ポケモンにも利き腕はあるからね。キョウヘイくんはフタチマルに進化してからの事を見据えて、ミジュマルの内から両方の腕でホタチを扱えるように鍛えていたんだ」

 

チェレンさんの言う通りだ。

オレのミジュマルは利き手でのホタチ捌きは他のミジュマルやフタチマルの追随を許さない程で。左手のシェルブレード一本で、級友のフタチマルの二刀流を押し返す技量を誇っていたのだ。

 

その為、トウコ先輩のアドバイスを受けて、ミジュマルの時から進化した時の事を考えて、右手でもホタチを扱う訓練を始めたのだが。

これがまた思うように行かず、ムキになったミジュマルは、進化するまで右手一つで戦い抜いて見せる。と言わんばかりに左手の使用を自ら律し。オレもその意思を尊重して、敢えて左手で戦え、とは指示してこなかったのだが。

チェレンさんとチラチーノという強敵を前に、遂に解禁したというのが事の経緯だ。

 

「チェレンのフタチマルが進化したての頃、苦労してたの見てたからね。それで今の内から両刀やってみれば?って言ったんだけど。ここまで意固地になって利き手使うなとは言わなかったんだけどなー」

 

「いやぁ…あはは」

「フタッチー」

 

トウコ先輩にジト目で見られて、居心地悪くなり、揃って頭を掻くと誤魔化すような乾いた笑いを上げるオレとフタチマル。

だがそのお陰でミジュマルは右手の技量をかなり上げる事が出来たので、結果オーライという事にして欲しい。

でもそれで躍起になって勝ちを逃すような事をしたら、手加減しているみたいで相手にも悪いだろうから、今後は気を付けなければ。

 

「最初から左手で来られていたら、最初の一撃で危なかったかもしれないね。ジムリーダーとして、相手の力量を見定める目も養っていかなければ」

 

顎に手を置いて、考え込むようにそう言うチェレンさん。

 

やはり最初は様子見だったらしい。

戦う前から、ジムリーダー資格を取得できる実力者であり。何より、かつてトウコ先輩と互いに高めあったであろうチェレンさんは強敵である、という予想はしていた。

しかし、ミジュマルがモンスターボール越しにそれを把握しつつも、右手でホタチを構えていたのでその判断を尊重したのだが。場合によっては、こちらが一撃で倒されていた可能性もあったのだ。

あの勝負で得られる経験値は多かっただろうが、やはりこれも結果オーライか。

 

結果論だけ見ていても仕方がない。この反省をきちんと次に生かそう。

 

「チェレンさんとトウコ先輩のお陰で、フタチマルになって直ぐに二刀流ができそうです」

 

「僕とパートナーの経験が、トウコを通じて生かされたなら本望だよ。きっとそれを聞いたら僕のダイケンキも喜ぶだろう」

 

チェレンさんのダイケンキか。いずれ戦わせて貰いたいものだ。

それを伝えると、チェレンさんは快く承諾してくれた。

 

ふとそこで、輪の中にヒュウが居ない事に気付き辺りを見回すと。入り口付近の壁に背を預け、腕を組んで佇む親友の姿が視界に入った。

 

オレは、チェレンさんたちに断りを入れ。ヒュウの方へと向かい。フタチマルにも着いてくるように言う。

 

するとヒュウも壁から背を放し、此方に向かってゆっくりと歩いて来た。

そして、擦れ違う瞬間に右手を軽く叩き合うと、乾いた音が広い空間に響いた。

 

言葉は無いが、互いに伝わった筈だ。オレの激励。

そして言葉は無くとも、伝わってきた。ヒュウからの称揚。

 

バトンタッチだ。入り口付近のベンチに置いておいたバッグからオボンの実を取り出してフタチマルに与え、モンスターボールに戻すと。

今度はオレが壁に背を預け、ヒュウはバトルコートへと向かって進む。

其処には既にチェレンさんが待機しており。トウコ先輩とベルさんは再び観客席へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

オレと同様の行程を経て、チェレンさんとヒュウのバトルが始まった。

 

「行け、ヤナップ!」

「ヤナッ!」

 

ヒュウの初手はヤナップ。草タイプを持つ猿という動物のようなポケモンだ。

トウコ先輩の指導を受け始めてすぐに、オレのミジュマルとダンゴロ相手に有利を取る為にゲットしたポケモンだ。

 

それを受けて。オレは、祖父母のポケモンの墓参りにタワーオブヘブンに赴いた時に、ヤナップ対策でヒトモシをゲットした、という経緯がある。

 

「頼んだよ、ムーランド!」

「ガウ!」

 

チェレンさんが繰り出したのはムーランド。犬と呼ばれる動物に形状が酷似した、ヨーテリーの進化したポケモン。

 

チラチーノを見た時に分かっていたが、チェレンさんはノーマルタイプのジムリーダーのようだ。

 

ジムリーダーは一部の例外を除いて。原則的には一つのタイプを指定し、そのタイプのポケモン、若しくはそのタイプを持った複合タイプのポケモンを使用する取り決めとなっている。

 

これは、基本的に格上のジムリーダー相手に、チャレンジャーが攻略し易いように。という配慮ではあるが。

 

各々のタイプのエキスパートであるジムリーダーは、徹底的に不得意とするタイプへの対策を取っている場合が多いので。電気タイプのジムに地面タイプのポケモンで挑めば楽に勝てるか。と言うと、そうでもない。

確かに多少は難易度も下がるだろうが、そのジムを攻略するためだけに野生のポケモンを捕まえて、それをぶつけるだけでは、寧ろいつになっても勝てないだろう。

 

 

バトルフィールドでは睨み合いが続いている。どちらも後の戦を取る心積もりなのだろう。

 

「種爆弾!」

 

しかし、ついに痺れを切らしたヒュウが動いた。

着弾すれば弾けてダメージを与える拳大の種が、山なりに飛ぶ。

 

「ムーランド!直進して炎の牙!」

 

チェレンさんはそれの下を潜り抜けるように指示を飛ばすが。なんと種爆弾は空中で爆発し、中から更に小さな種が散弾のように八方に飛び散る。

 

しかし、その音に一瞬目を向けるも、慌てた様子もなくムーランドは駆け抜ける。足止めの目論見であったならば失敗だ。

 

飛散した種がムーランドを掠めるが、大きなダメージにはならない。

そのまま距離を詰めたムーランドが、チェレンさんの指示を受けた通り、炎の牙で襲い掛かる。

 

だが、襲い掛かる直前で足下から急激に蔦が生え、ムーランドを縛り上げた。

どうやら、チェレンさんとムーランドの気が逸れた一瞬の隙を突いて宿り木の種を足下に仕掛けていたようだ。

 

種爆弾はこの為の布石だったのだろう。

 

「タネマシンガン!」

 

一転して無防備になったムーランドにタネマシンガンを撃ち込むヤナップ。

 

「食い千切れ!ムーランド!」

 

しかし、ムーランドは器用に牙で蔦を焼き切ると、そのままタネマシンガンをその身に受けつつも炎の牙でヤナップに襲い掛かる。

 

「右に飛べ!ヤナップ!」

 

回避を指示するヒュウの叫びも虚しく。ヤナップは右足にムーランドの牙をその身に受けてしまった。その瞬間に炎がヤナップの体を包み込むように走る。

 

そして、そのまま地面に叩き付けられるが、ヤナップは何とか起き上がって距離をとった。そこでヤナップの体が粒子になってヒュウの本へと飛ぶ。

ヒュウは無理してヤナップを突っ張らせようとせず、交代を選択したようだ。

最初の睨み合いがあった為、60カウントは過ぎていた。

互いに交代が可能であれば、両者ともに条件は同じだが。チェレンさんが1体しかポケモン

を使用できないこのバトルでは。最初に生み出した空白はヒュウにのみ有利に働く。与えられた条件をうまく利用している。オレには考え付きもしなかった。

 

ヒュウはヤナップのモンスターボールをベルトに戻すと。バトルコートに向け、新たなボールを投げる。

 

「チャオブー!」

 

気合い十分で現れたのはチャオブー。ヒュウのエースポケモンだ。

バトルコート中央壁面に架けられたモニターには120のカウントが刻まれる。

 

ヤナップが交代直前に距離を離したお陰で、チャオブーはムーランドの懐に無防備な姿を曝す事無く交代する事が出来た。

 

焦って交代すれば次のポケモンが不利な状況に陥る。とは言え位置取りに気負い過ぎても、今戦っているポケモンが戦闘不能になりかねない。

この駆け引きが、交代する際には重要である。

 

交代は基本的には、した方のトレーナーが不利だが、状況を上手く整える事さえできれば一気に場を傾ける事が可能だ。

ノーリスクでタイプ相性の良い相手を繰り出せれば、その後の戦闘を優位に進める事が出来るのだから。

とは言っても、殆どの場合は同じタイミングで相手も交換可能。

場を整えられたからと言って、交代すれば良いってもんじゃないのも難しいところだ。だからこそ、ポケモンバトルは楽しいんだけど。

 

今の展開は、ヤナップが押されはしたが理想的な交代と言える。なんせ、この距離なら。

 

「チャオブー!ニトロチャージ!!」

 

ニトロチャージで即座に詰められる。

 

「左に飛んで回避!」

 

チェレンさんも流石と言うべき。即座に反応して回避を指示する。が、トウコ先輩のエンブオーに鍛えられたチャオブー…当時はポカブだったが。なら、次の挙動は予測出来る。

 

「踏ん張れ!そんでもって空手チョップだ!」

 

急制動からの強襲。因みにトウコ先輩のエンブオーは、これをフレアドライブや馬鹿力でやってくるからとんでもない。その上更にキレが良い。

他の技と組み合わせて使えるような難易度の技じゃないだろうに。

 

「ッ!雷の牙だ!ムーランド!」

 

どうやらチェレンさんも今の動きに覚えがあるようだ。なんせ顔にしまった。と書いてある、ように見える程に唇を噛み締めているのだから。

 

ムーランドは牙でチョップを受けようとするも。先にチョップが水平にムーランドの首筋を捉え、吹っ飛んだ。ノーマルタイプのポケモンに格闘タイプの技は効果は抜群。

その上、それを放ったのが炎と格闘タイプを併せ持つチャオブーなのだから、その衝撃はかなりのものであると想定できる。

 

なんせ、ポケモンのタイプと技のタイプが一致すれば威力が上がる。遊び程度にしかポケモンバトルをしないスクールの一般科生徒でも知っている。云わば常識だ。

 

「ニトロチャージ!」

 

ムーランドを仕留め切れていないと踏んで追撃の一手を打つヒュウ。そしておそらく、それは正解。

ムーランドは吹っ飛びながらも姿勢を整え、反撃の構えを見せているのだから。

 

オレが見たところ。空手チョップに無理に堪えようとせず、むしろ衝撃を和らげる為に自地を蹴った事で。ダメージを最小限に抑えつつ距離をとったのだろう。

 

トレーナーの指示なしでここまで判断できるポケモンはそうは居ない。

やはりジムリーダーはそこらのトレーナーとは訳が違う。

 

 

だが、其処からはほぼ、流れを作ったヒュウのワンサイドゲームだ。

ニトロチャージで翻弄し、空手チョップとヒートスタンプで猛攻を繰り返すチャオブー相手に。ムーランドも懸命に、文字通り喰らい付くも、ついに倒れ。戦闘不能となった。

 

オレとヒュウの初のジム戦は、揃って勝利での閉幕となった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。