ブラック&ホワイト2 英雄代行   作:あぞ

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第十一話 説教

「キョウヘイは初手から転けてるし。ヒュウも始めからチャオブーで良かったじゃない」

 

返す言葉もない。

 

「あんたたち二人ともジム戦を舐めすぎ。今のバトルは相手が1体しかポケモンを使えなかったから良いものの。相手も同数の手持ちを使えたら、正直言って負けてたわよ」

 

 

 

 

初めてのジム戦を勝利で収めたオレとヒュウはというと。バトル終了直後に正座をさせられて、説教を拝聴していた。

バトルコートのある広間の土の上ではなく。その前の部屋である教室の床なのは、先輩のせめてもの気遣いなのだろう。

 

因みに、町外れのバトルコートでの説教はベンチの上での正座だった。

 

オレは最初からミジュマルに左手で戦う事を事前に指示して挑んでいれば、勝利に直結するアドバンテージを取れた件について。ヒュウはヤナップに無意味な消耗を強いたとして。それぞれ説教を喰らった。

 

オレは、ミジュマルの件は完全に自分に落ち度があるが。ヒュウの交代については、与えられたルールを見事に使った策だったのではないか。と反論したが。

だったら戦闘不能になるまで戦わせてやるべきだった。中途半端に踏み台にされたヤナップの気持ちも考えろ。と一蹴された。ぐうの音も出ない。

 

ベルさんはアワアワと右往左往しており。チェレンさんは、流石に言い過ぎだ。と右手で頭を抱えている。

 

端から見たらベテラントレーナーによる、ビギナートレーナーへのいびりと取れなくもない光景であるが。これはオレとヒュウがトウコ先輩に望んだ事だ。

 

指導をお願いした最初の頃は。ミスしても苦笑してお茶を濁すような事が多かったのだが。

それでは意味が無い。もっと思った事を遠慮なしにぶつけて欲しい。と懇願し続けた結果、予想以上のスパルタ先生が出来上がったというのが経緯だ。

 

ぶっちゃけ当時は失敗した、と本気で思ったものだ。

 

だが、本音で自身の見解をぶつけてくれる先輩と、その認識に間違いがあると思えば真っ向から反論するオレたち。互いに駆け引き無しでぶつかり合った結果、今のような気のおけない関係に成れたと言えるだろう。

 

このやり取りがオレたち師弟の形である。

 

理解出来ないと言えば理解できるまで、納得できなければ納得するまで何度でもバトルや説教で教えてくれる。

その上、反論すれば頭ごなしに否定せず。こちらの言い分をしっかり聴いて、よく噛み締め、それを踏まえたで再度説明してくれる。

こちらの言い分が正しいと感じれば、謝罪した上で、自分の視点からの説明をしてくれる。

こんな素晴らしい先生を、オレは他に知らない。

だからこそ甘んじて、いや、ありがたく説教を聴くのだ。

 

尚、脚が痺れるのは既に慣れた。

 

それから説教は数分続き。

 

「こんなところかしら」

 

言い切った感のあるドヤ顔仁王立ちで締めくくった。いつもの通りである。

 

「まぁでも、初めてのジム戦にしてはギリギリ合格ライン。流石私の弟子たち!!」

 

そう言って満面の笑みで、ぐりぐりと頭を撫でてくる先輩。今日のところはヒュウも逃げずに受け入れている。相変わらずそっぽは向いているが。

 

オレたちの成長を、自分の事のように喜んでくれる先輩に、やはり気恥ずかしさと嬉しさを感じる。

 

満足いくまでオレたちの髪を乱したところで、ようやく正座解除のお達しが出た。

 

 

「では二人とも、これを受け取って欲しい」

 

そんなオレたちの様子を、途中からどこか眩し気な表情で見ていたチェレンさんは。立ち上がったオレたち二人にバッヂを差し出してきた。

 

「就任初日に迎えるチャレンジャーが、君たち二人で本当に良かった。素直にそう思える戦いでした」

 

差し出されたバッヂを手に取るオレとヒュウ。

 

「それはベーシックバッジ。キョウヘイくんとヒュウくん、そしてポケモンたちの強さを称えるものだ」

 

「「ありがとうございます!」」

 

思わずハモってしまうオレとヒュウ。真似すんなよ。と小突きあうとチェレンさんとベルさんに笑われてしまったので急遽停戦。

 

後は受付でポケモン図鑑にヒオウギジムの勝利証明を受けとれば、2つ目のバッジ獲得へ移れる。

例えバッジを8つ集めても、これを受け取っていなければ意味がないのだ。

 

チェレンさんに図鑑を手渡すと、受付カウンターのパソコンを起動して図鑑をプラグで繋ぎ、指紋をセンサーに読み取らせるとすぐにプラグを抜き、返してくれた。

ヒュウの図鑑にも同様の処置を施す。

 

「次のジムからは、受付で図鑑を提示してから行ってください」

 

オレとヒュウは揃って頷く。

 

「それにしてもキョウヘイくん。図鑑をもうちょっと活用しようか。保存されたポケモンのデータ履歴が新規で手付かずに残っているよ」

 

そう言って苦笑するチェレンさん。ポケモンのデータは頭の中に可能な限り詰め込んでいるので。すっかり図鑑を見るのを忘れていた。

 

「ええー!?折角の図鑑なんだから、もっと活用してよお」

 

それを聞いてベルさんは不満気に声を上げる。説明して貰ったのに放置してすみません。

 

「まぁ、キョウヘイはポケモンの事だけは、ほとんど丸暗記してるだろうからねー」

 

「他の事は軒並み駄目なのにな。運動は例外として」

 

言いたい事を言ってくる先輩とヒュウ。だが、実際事実だから反論できない。

 

「ポケモン図鑑は個体毎のデータも読み取れるから、手持ちのポケモンの訓練にも役に立つよ!」

 

「まじすか、科学の力ってすげー」

 

「この間説明したよお」

 

途中で視界にチラつくトウコ先輩に気を取られていたので、その時だったんだと思います。

 

 

 

 

 

その後、話の流れで。ジム開設祝い兼オレとヒュウの祝勝会を開いて貰う事になった。

 

チェレンさんは、他に挑戦者が来ないとも限らない。と難色を示したのだが、トウコ先輩とベルさんに押し切られる形となった。

 

オレとヒュウはチェレンさんのチラチーノとハーデリアも預かって、一先ずポケモンセンターへ。

チェレンさんはフレンドリーショップにお菓子と飲み物の買い出しを言い付けられ、外へと出る。

 

「おかしい…僕は祝って貰う側なのでは?」

 

そう呟くチェレンさんの背中が何とも言えず、妙に印象的だった。

 

暖かい陽射しの中吹く風は、しかし、未だに冷たさを含んでいた。

 

 

 

 

オレとヒュウはポケモンセンターに着くと、ポケモンを預け。回復を待ちつつ、ポケモン図鑑を開いてアデクさんのウルガモスのデータを観たりして盛り上がっていた。

 

「アデクさんのウルガモスは平均的な個体と比較すると、やや小さめなんだな」

 

「二代目はまだ若いからってのもあるかもしれないけどね。でもあのプレッシャーのせいか、データ以上に大きく見えた」

 

実際に目にしたウルガモスの姿は、今でも鮮明に脳裏に浮かぶ。

 

「サンギタウンにアデクさんの実家あるし。19番道路で張ってれば、俺も会えるかもな」

 

「でも、イッシュ地方を旅して回ってるらしいし。難しいかもね」

 

「そこなんだよなー」

 

そう言って、ヒュウは受付でのソファーに脱力したように背を預けた。

 

その様子に苦笑しつつ、図鑑を弄る。これは本当に便利だ、使わないのは勿体ないな。

そんな事を考えていると、脳裏に映るウルガモスが飛んで行き、今度はベルさんが胸を張って得意気にしている様子が浮かんできた。思わず吹き出しそうになるが、何とか堪える。

 

 

そのまま何分か、無言の時を過ごしていると。

 

「なあ」

 

ヒュウが唐突に話し掛けてきた。

 

「んー?」

 

「…いや、やっぱなんでもねーや」

 

図鑑を弄りつつ生返事をすると、ヒュウは話を途切らせてしまう。いや、その引きは逆に気になるでしょう。

 

ヒュウに体を向けて続きを促そうとすると。

 

『キョウヘイ・グレイフィールドさん、ヒュウ・アンカーさん。ポケモンの回復が終わりましたので3番窓口へお越し下さい』

 

「だってよ。行こうぜ、キョウヘイ」

 

呼び出しのアナウンスが掛かり、逆に促されてしまった。

一体、言おうと思ってたのか。

 

「なんだったのさ」

 

らしくない様子を見せたヒュウに首を傾げつつ、足早に進むその後を追った。

 

 

 

ポケモンの受け取り後。戻る道中、やんわりと何の話題を振ろうとしていたのか訊ねてみたものの、はぐらかされたので諦め。

とりとめの無い話をしつつジムへ帰り着くと、門の取手に「仕込み中」と書いてある掛札が引っ掛かっていた。

 

ジムの休止を反対するチェレンさんに、トウコ先輩が、手は打つ。と得意気に言っていたのだが…まさかこれの事ではないだろう。

これではポケモンジムというより、休憩中のレストランだ。

 

「…飯屋かよ」

 

やっぱりヒュウもそう思ったか、当然だろう。

 

不安に思いつつ扉を開けると、脱力したように椅子に座って項垂れるチェレンさんと。それに反比例するかのようにテンション高く、お菓子の載った皿や紙コップを配膳するトウコ先輩とベルさんの姿が目に飛び込んできた。

 

やばい、とてもじゃないが入りたくない。

 

ふと、トウコ先輩と目が合った。満面の笑みで手招きしている。…にげることができない!

 

 

その後、酒も入っていないのにハイテンションのトウコ先輩とニコニコ笑顔のベルさんが主に場を作りつつ。陽が暮れるまで宴会は続いた。

 

途中から全員吹っ切れて、ポケモンも交えて騒いで遊んで。何だかんだ楽しい時間を過ごせた。

チェレンさんには、開設初日からどんちゃん騒ぎして申し訳ない気持ちで一杯だけど。

 

 

宴も酣となり、いい加減解散しようと宣言するチェレンさんの提案は多数決で可決された。

無論、トウコ先輩はブーたれていたのだが。

 

「それじゃあ、最後に電話番号交換しておこうよ!そうすればまた皆で集まれるでしょ?」

 

ベルさんの鶴の一声でライブキャスターでの番号交換タイムとなり。その日はお流れとなった。

交換と言っても、トウコ先輩とベルさん、チェレンさんは元々横の繋がりがあるので。オレとヒュウが輪に加えて貰うような形となるが。

 

 

 

宴会の片付けを終えて、揃って外へと出る。

夜風が火照った体を冷ましていく感覚が、何とも心地好い。

 

「いつでも連絡待ってるよ。可能な限り力になろう」

 

「私も!図鑑の事でわからない事があったら連絡してね!他の事でも、お姉さんに頼ってくれて良いからね!」

 

「まぁ、躓いたら渇くらい入れてあげるわ」

 

3人の先輩がそれぞれ力になってやると笑う。

 

「「ありがとうございます」」

 

オレとヒュウは揃って頭を下げると、感謝を告げる。

長く一緒に居るためか、こういう時のタイミングは株って仕方がない。

 

「オレは今日は家に帰って休みます」

 

流石に今からサンギタウンへ戻る気は起きず、そう告げる。

 

手を振って離れると、振り返してくれる先輩たち。ヒュウはそっぽ向いているが、まぁヒュウはそれで良いと思う。

 

オレは明日の旅へと思いを馳せながら、一昨日ぶりの自宅へと駆けた。

 

 

 

 

 

 

「キョウヘイがヤナップを使ったら、1体でハーデリアに勝てましたか?」

 

キョウヘイを見送った後、星々が輝く夜空の下。ヒュウがポツリと呟いた。

 

それを聞いて、顔を見合わせるチェレンとベル。ヒュウの様子がおかしいというのは、出会って間もない彼等にも察する事が出来た。

 

「ヒュウくん、それは…」

 

チェレンは無意味なその疑問を諌めようと、声を上げるが。

 

「ヤナップのトレーナーはあんたなんだから、キョウヘイだったらどうとかそういうのは関係ないわよ」

 

チェレンの声に被せるように、トウコは言う。

トウコの言ったそれは、言わんとした事と概ね一致していたので、チェレンは口をつぐんだ。

 

そうですよね。と自嘲気味に呟くヒュウ。

 

それを見るトウコの視線は何処か痛まし気だ。

 

「俺、ここ2年間。キョウヘイに録に勝ててないんですよ」

 

チェレンがそれを聞いてピクリと反応し、ベルはそう言って空を見上げるヒュウに見覚えがあった。

 

『僕はトウヤに…勝つことはできないのか』

 

3年前のカノコタウンで見た、眼鏡を掛けた幼馴染の背中と、一致した。

 

「あいつが新しい戦術を試す時とか、ミジュマルが右手でシェルブレードを使ってる時には、勝てるんです。でも…あいつが本気で勝とうとしてるバトルでは絶対に勝てない」

 

先輩トレーナーである3人は、後輩トレーナーの独白に、静かに耳を傾ける。

 

「俺は、強くならなきゃならない…やりたい事がある。そして、対等に並び立ちたい相手が居る」

 

震える程に握り締められらた拳。それを撃ち据えたい相手は、己か。

 

「だから、だから…トウコ先輩、チェレンさん。俺に力を貸して下さい!」

 

そう言って振り向き、深く頭を下げるヒュウに、トウコは。

 

「駄目ね」

 

拒絶の言葉を投げ掛けた。

 

 

ピクリと跳ねるヒュウの肩。

 

「おい、トウコ」

 

予想だにしない言葉を告げるトウコに、チェレンが憤り詰めるが。ベルが行く手を塞ぎ、小さく首を振るって、トウコに視線を送る。きっとまだ、トウコの言葉は半ばだ。根拠のない確信が、ベルの中にはあった。

 

「やるんなら、並びたいなんて言わずに。勝ちたいって言いなさい」

 

それを聞いて勢いよく姿勢を上げるヒュウ。その目には焔が滾っている。

 

「勝ちたいです!」

 

そして叫ぶように言った。普段のヒュウからは考えられないくらい、震えた声で、しかし大きく吼えた。

 

「よし、よく言った」

 

頷き、手を差し伸べるトウコ。

 

「僕も。ジムに挑戦者が居ない時は力を貸そう。丁度塾の方も来年度からだから、時間はある」

 

チェレンも、同様に手を差し伸べた。

 

 

 

「ありがとう…ございます!」

 

 

 

それらの手を取って、感謝を告げるヒュウの声は、先ほどよりも震えており。

その光景を見詰めるベルの瞳は、母の眼差しのように暖かいものだった。




蛇足な補足
キョウヘイの苗字が和姓ではないですが、容姿は公式のビジュアルのままです。
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