ブラック&ホワイト2 英雄代行   作:あぞ

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第十二話 歓声

初のジム戦を乗り越えた翌日の朝。

 

自室のベッドの上で目を覚まし。寝起きのぼんやりとした頭で机の上に置いたバッグへ歩み寄ると、中をまさぐり金属製の四角い箱を取り出した。

 

最近は朝もだんだんと暖かくなってはきたが、陽も昇っていない内はまだ空気がひんやりとしていて。手に取った箱もそれが伝わってかなり冷たい。その感触に、若干頭が冴えた気がする。

 

30cm程度の長さの縦長の箱は、スクールの卒業祝いとして。トレーナー課を卒業した生徒全員が受け取ったものだ。

 

蓋を開けると、中にはちょっと高級そうな布で覆われた緩衝材。そしてそれには8つの窪みがあり、その内1つには長方形のシンプルな形をした紫色のバッジ。レギュラーバッジが納められていた。

 

 

 

「あと7つか」

 

蓋を閉じて、箱をバッグに再び仕舞いつつ呟く。

 

スクールのトレーナー課を卒業した子供たちは旅に出る。

そして、毎年1月に開催される地方トーナメントに出場する為。その地方に存在するポケモン協会公認のポケモンジムに挑戦し、そのジムを管理するジムリーダーに勝利する事で、目に見える勝者の証としてバッジを貰い受けるのだ。

 

そのジムバッジを8つ集める。つまりは、8人のジムリーダーに勝利を収める事で、地方トーナメントへの道が開け。その予選に参加する権利を得る。

 

オレは、あと7つのジムに挑戦し、7人のジムリーダーを倒し、7つのバッジを集めれば予選出場が叶うというわけだ。

 

 

深く息を吸って、早朝の冷たい空気を肺の中に取り込む。

 

昨日のヒオウギジムジムリーダー。チェレンさんとの戦いは、白熱したものだった。

 

ギリギリのバトルの末、ミジュマル1体で勝利を手にしたが。正直、自身の判断の誤りで敗北してもおかしくなかったのだ。

 

ミジュマルが敗北しても、ヒトモシとガントルが控えているので、その2体をぶつければチェレンさんと、対戦相手だったチラチーノにはおそらく勝てたであろう。

 

しかし、それでは公式規約に則り、1体しかポケモンを使えないチェレンさんとは対等な条件の勝負とは言えず。ミジュマルにも悔しい思いをさせてしまうところだった。

 

勿論、2体のポケモンを使って勝利したヒュウを貶めるつもりは毛頭ない。

 

これは、どうせやるなら同じ条件で戦って勝ちたい。という、オレの子供っぽい拘りだ。

まぁ、世間的に見るとオレはまだまだ子供な訳だが。

 

世間では、21歳を越えれば大人と見なされる。

これは、20歳を迎える年度までは、一部を除いた公共交通機関や、ポケモンセンターなどの一部宿泊施設が無料で使える上に、税金の納付義務を負わない為に一般的にそう言われている。

21歳を迎える年度からは全て有料となり、税金の支払い義務も生じるので。一般的にはポケモントレーナーの旅の期間は15歳から20歳までの5年間という事になる。

 

この5年間の中で、地方トーナメントや企業主催の大会などで結果を出し。地元の、オレの場合はイッシュリーグに所属するプロポケモントレーナーとなる事が全アマチュアトレーナーにとっての旅の目的である。

その期間内に結果を残せなければ、他の仕事に就く事になるだろう。

 

一応、地方トーナメントに年齢制限は儲けられていないので。親族などに旅費を工面して貰えれば夢を追い続ける事はできるが。正直、現実的ではない。世間からの目もあるし。

何より、それまでに結果を出せないようなら、プロのトレーナーとしてポケモンバトルで生きていくのは難しいだろう。

 

何故なら、プロのトレーナーと一括りに言っても、その年収の差はピンからキリまであるからだ。

 

地元のイッシュリーグを例に挙げると。

先ず頂点がI1リーグ、次にI2リーグ、I3リーグと続き、I5リーグが最下層。

 

I1リーグの所属トレーナーは、贅沢するにも困らない程の実入りがあると聞くが、トップ4。俗に言うイッシュ四天王は、地方間で行われる交流戦に、チャンピオンも含めた5人で挑む義務がある。

この交流戦は、政治的な優劣をも左右すると聞く重要な戦いだ。重圧はかなりのものだろう。

しかし、トレーナーであるならば目指す場所はここだ。

 

I2リーグは生きていくには困らない年収らしく。I3リーグは贅沢はできないがそこそこのもの。

I4、I5リーグ所属トレーナーは、それだけで食っていくのは厳しいという話だ。

折角旅を続けて夢を掴んでも、その後には現実が待っている

 

逆に、途中でやりたい事を見付けて旅を辞めたり。旅の経験を生かした職業に就いたりという道もありだと思う。

だが、オレはヒュウと共に世界に挑むと決めているので。現状、ドロップアウトは考えていない。

 

そして最後に、リーグ所属トレーナーとは別の枠であるプロトレーナーがチャンピオンだ。

チャンピオンはリーグのトップに成ったとしても、その座には就けない。

チャンピオンになる方法は、地方トーナメントで優勝し、その後行われる四天王全員とのフルバトルに勝利し、尚且つ現チャンピオンに打ち勝つ事。

 

但し、チャンピオンが存在しない場合は四天王相手に勝った時点でチャンピオンと定められたり。勝たずともポケモン協会にその実力が認められれば成れるのだが、これは例外中の例外。とは言え、現チャンピオンであるアイリスは、この例外でその座に就いた。

 

それ故に、数合わせだとか、形ばかりだなどと言う人も居るが。去年のアイリスによる四天王挑戦を見たトレーナーで、そんな事を言う者は皆無だろう。それ程に手に汗握る素晴らしいバトルだった。

しかし、バトルを趣味程度にしか行わない人にはそれが理解出来ず。結果、そのような心ない言葉を吐き出すのだ。

そんな連中には、じゃあお前がやってみろよ。と説教してやる。

トウコ先輩ならやるだろうし。

 

 

吸った息を吐き出すと。完全に眠気から脱したと自覚できた。寝起きはそこまで悪くない方なのだ。

 

オレはクローゼットからランニングウェアを取り出すと。それに袖を通して、未だに寒さの残る地元町へと駆け出して行った。

いつも通り、ポケモンたちと共に。

 

 

 

ランニングから帰って風呂を浴び、旅の支度を整えてキッチンで喉を潤していると。母さんが起きてきた。

 

「おはよう母さん。オレはもう出るよ」

 

「おはようキョウヘイ。こんなに早くに出ないで、もっとゆっくりしていったら?」

 

母さんは今さっき起床した様子で、欠伸を堪えている。物音で起こしちゃったかな。

 

「居心地良すぎてそのままズルズル長引きそうだから、さっさと出るよ。早く次のジムにも挑戦したいしね」

 

チェレンさんとバトルしてから、次のジムリーダーと戦いたくて仕方ない。

きっと次のジムでも、全身の血が沸騰しそうになる程の熱いバトルが待っているに違いないのだ。

 

既に身支度は整えてあるので、そのままコップを洗ってシンク横の水切り棚に奥と。母さんの横を通り抜けて玄関へと向かう。

 

先輩たちにはあの後、翌朝すぐに立つ旨を連絡しておいたので、挨拶は不要だろう。

町を出たらタチワキシティまでノンストップだ。

 

「行ってらっしゃい。体に気を付けてね」

 

「行ってきます」

 

ふと、ドアを開けたところで思い出した事がある。

 

「そう言えば。ごめん母さん、博士の助手さんに図鑑貰うときに迷惑かけた」

 

「…あんた一体なにやらかしたのよ」

 

呆れ顔で溜息を吐く母さん。

 

それは、聞かないでください。

 

 

 

 

 

タチワキシティに辿り着く頃には、流石に正午近くまで時計の針が回っていたので、みんなで昼食を摂り。ポケモンセンターで休憩しつつ、ポケモンたちの回復を待っていた。

タチワキシティまでの道中、野生のポケモンとのバトルで傷を負った訳ではないが、疲労が溜まらない訳ではないし念のためだ。

 

しかし、この待ち時間は暇でいけない。そんな事を考えながら、手持ち無沙汰で辺りを見渡してみると、興味深いポスターが目に入った。

 

タチワキシティトーナメント大会!奮ってご参加ください!

 

町の大会か、力試しには丁度良いかもしれないな。

フタチマルの調整もそうだけど、そろそろヒトモシにも活躍の場を与えてあげないと拗ねてしまうだろうし。良い機会かな。

 

開催日は、なんと今日か。ポケモンジムは逃げないし、こっちを優先しよう。ジム戦前の景気付けにもなるし。優勝すればだけど。

 

当日受付は…あと10分。

 

「やばっ」

 

オレは急いで座っていたソファーから立ち上がると、ロビーにあるパソコンから大会参加申請をしたのだった。

 

 

 

 

「午後2時より開始のタチワキトーナメント大会、参加受付はこちらでーす!」

 

どうやら運良く定員割れしていなかったらしく。参加申請が受理されたオレは、ポケモンセンターに預けていた手持ちのポケモンたちを回収すると、大会開催場所であるタチワキバトルアリーナにやって来た。

 

ここはどうやら町立のポケモンバトル施設のようだ。タチワキシティは工業が盛んな大きな町なだけあって、施設も充実している。

辺りには観戦に訪れたのであろう人々で賑わっていた。

 

「受付お願いします。ヒオウギシティのキョウヘイです」

 

そう言って、ポケモンセンターで申請した時に受け取った参加登録用紙を差し出す。

 

「はい、確かに申請されてますね。いやぁ、当日キャンセルが出ちゃったものだから、空き枠ができるところでした」

 

ポケモンセンターのパソコンで参加状況を確認したところ、ギリギリ1名空きがあったので滑り込みセーフかと思っていたが。どうやら直前に参加取り消しがあったらしい、これはラッキーだ。

参加できなくなってしまった人は気の毒だが。

 

「それでは控え室へ向かって下さい!」

 

「ありがとうございます!」

 

簡単な説明や緒注意を受けてルールや館内見取り図が書いてあるパンフレットを受けとると、見取り図に沿って控え室に向かう。

 

控え室となっている大きめの談話室のような場所に入ると、既に出場する選手と思わしき人たちが、開催の時を待っていた。

そわそわと落ち着きがなかったり、どっしりと静かに構えていたり、知り合い同士で参加したのか談笑している人も居る。

 

オレは、荷物の預りを受け付けてくれているスタッフさんにバッグを預け、空いている椅子に座ってパンフレットに目を通した。

 

どうやらこの大会は全日程を今日中に終了する小規模なものらしく。登録ポケモンは6体までだったが、バトルでの使用ポケモンは1体のみである。バトル中の交換は不可能だ。

 

参加人数は64人と結構多めだが、この仕様なら確かに今日中に全ての試合が消化できるだろう。6VS6のフルバトルになるとそうも行かないが。

参加年齢制限もなく、賞金も出ないようだしカジュアルな大会だ、気楽にやろう。勿論狙うのは優勝だが。

 

全体の流れはパンフレット通りなら開会式の後、すぐに試合が始まる。

2つのブロックに32人ずつに別れ、それぞれ第一試合が16回、第二試合が8回、第三試合が4回、第5試合が2回。そしてベスト4が揃うと小休憩が入り、その後に組み合わせが2つのブロックを併せてシャッフルされ。トーナメントが再構築されるという訳だ。

会場はかなりの大きさで、なんと公式基準のバトルコートが4つもある。

 

開催まではあと20分。ポケモンセンターでの回復待ちの空き時間は手持ち無沙汰だが、大会前の緊張感のあるこの間は、嫌いじゃない。

第一試合はヒトモシで出るとして、以降はどうしたものか。まぁ誰で行っても勝つ気で挑むのみだけど。

 

 

 

 

 

 

2時を回って、いよいよ大会が開幕すると言うのにも関わらず、会場内の空気はだれにだれていた。と、言うのも。

 

『であるからして、このタチワキシティは以前に増して…』

 

マイク片手に開幕の言葉を述べている町長の話がすこぶる長いのだ。これは萎えても仕方がない。

最初はタチワキシティの歴史を語る町長の話に耳を傾けていたオレも、流石に飽きてきた。

 

周囲に目を向けると、欠伸をして、いっそリラックスしている人と。自分のようにげんなりしている者の二通りに分かれており。多分、前者がタチワキ町民、後者が町長の話の長さに慣れていない余所者だろう。

 

『それでは、皆さまのご健闘をお祈りします』

 

やっと話が終わった。会場内が拍手に包まれ、町長は気分良さそうに整列した選手列と向かい合わせに並ぶ、関係者各位の列へと戻って行く。話好きな人なんだろうな。

 

やっと試合が始まる。萎えていた心が急激に引き締まるのを感じた。

 

『それでは皆さま!お待たせいたしました!!』

 

マイクを握った司会者の男性が町長への感謝の言葉を告げ、会場を見渡す。

 

周囲からぼそりと複数の、本当に待ったよ。というぼやきが聞こえるが、同感である。

 

『ここからはポケモンバトル…の前に!』

 

司会者が妙な溜めを作った。なんだ、これ以上まだ何かあるのだろうか。

会場内の空気が一瞬また萎えかけるが。

 

「ここでサプライズオープニングセレモニーを開催します!!」

 

司会者が叫んだ途端、関係者列が移動を始め。そこに一台の大型トラックが走ってきて、停車する。

一体何が始まるのか、他の人も寝耳に水らしくどよめきが会場を覆う。

そして、司会者がその疑問に答えた。

 

「オープニングセレモニーを飾ってくれるのはこの方!!大人気アイドル!ルッコさんです!」

 

そう叫ぶと、大型トラックのコンテナが開き、中には大きなスピーカーなどの音響設備と。小柄な少女が立っていた。

 

『はーい!!ルッコでーす!みなさん、こんにちはー!!』

 

少女が挨拶をした瞬間、会場内は爆発のような歓声に包まれた。

 

それもその筈、現れたのは今をときめく大人気アイドル。ルッコその人だ。

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