ブラック&ホワイト2 英雄代行   作:あぞ

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第十三話 早業

会場内はこれ以上ないほどの盛り上がりを見せていた。

 

何故なら、サプライズで登場した大人気アイドルが特設ステージでその可憐な歌声とダンスを、愛らしい笑顔を振り撒きながら披露しているのだから。

 

曲名は「Heart Sweetsください」この曲は聞き覚えがある、テレビや街中で流れていた。それがルッコさんの曲だとは知らなかったが。

 

大会参加選手はそれをステージの目の前という特等席で観覧しているだけに、テンションの上がり様もひとしおだ。

 

オレはルッコさんの歌声に耳を傾けつつ、バックダンサーとして踊るニャースとヒメグマの動きに注目した。

素晴らしいキレのステップだ。あの足捌きと身軽さ、リズム感をバトルに応用できないだろうか。

 

それと、ニャースとヒメグマがステージに登場してからというもの、フタチマルのボールを押さえ付けるのに必死である。

こいつはお調子者な上に大のメス好きなのだ。

多分、あのニャースかヒメグマのどちらか、若しくはその両方がメスなのだろう。

こんなところで出てこようものなら大顰蹙だぞフタチマルよ。

 

そうして必死でボールを抑えながらニャースとヒメグマに見入っていると、曲が止んだ。

 

『ありがとうございましたー!選手のみなさん、大会がんばってください!私も応援してます!』

 

「めっちゃ頑張るぜー!」

「ウオオオォーー!!!」

「ルッコちゃんかわいー!」

 

アイドルからのエールに、選手は大盛り上がりで、特に一部の男性なんかは雄叫びを上げている。女性陣も嬉しそうだ。

 

因みに、ふと気になって町長の方を見てみると。会場全体が盛り上がっているのを見て、満足そうに笑顔をみせていた。これで話が短ければ最高の町長だろう。

 

周囲の様子を見回しているとルッコさんとそのポケモンたちが退場し、司会者が第一試合の組み合わせ発表をし始めた。

トーナメント表自体は控え室に張り出すとの事。

 

『Aコート、ヒオウギシティのキョウヘイ選手対…』

 

おっと。オレはなんと、Aコートで早速試合だ。腕が鳴る。

 

 

 

「それでは!ヒオウギシティのキョウヘイ選手対フエンタウンのヨシト選手の試合をはじめます!」

 

そう宣言したのは、なんとルッコさんだ。どうやらAコートで行われる試合の開始宣言は彼女が行うらしい。さすがにバトル開始以降は、後ろに控えているは審判が引き継ぐだろうが。

 

先端に青いメッシュの入ったサイド…なんだろう、ロール?を揺らしながら一生懸命と言った様子で声を張り上げている。その面持ちからは、若干緊張の色が窺える。

バトルの開始宣言をするのは初めてなのだろう。

 

相手の選手を見ると、ルッコさんのそんな様子にデレデレのようで。顔が緩みまくっていた。名前を呼んで貰えたのが嬉しかったのだろうか。

 

因みに、フエンタウンと言えば温泉で有名なホウエン地方の町だ。今は活動を再開しているようだが、一時期火山活動が停止して大変だったと聞く。

 

お互いに一礼すると、モンスターボールを互いに取り出す。

 

開始の宣言を求めて、ルッコさんの顔を覗くと。一瞬目があった気がしたが、すぐに慌てたように逸らされてしまった。まぁ男子によくある勘違いだろう。これからバトルが始まるというのに、思春期の男はこれだからいけない。

 

ルッコさんが右手を挙げると両者ボールを構える。左手は胸の辺りで固く握られており、その表情は緊張で微妙に引き吊っている。バトルに不慣れなその様子から察するに、きっとトレーナー課ではなく一般課なのだろう。

大会運営も無茶振りが過ぎるのではないか。

 

そしてギュっとめを瞑ると。

 

「バトル開始!」

 

右手を振り下ろしつつ叫んだ。

その瞬間意識が切り替わる。ここから先は、バトルに関わらない余計な情報は要らない。

 

空中で放物線を描く2つのボール。中から飛び出したオレのポケモンは。

 

「モッシ!」

 

最初に決めていた通りヒトモシだ。

 

「ドラア!」

 

そして相手はコドラ。ココドラの進化した姿であり。ホウエン地方に多く分布する、鋼と岩タイプを併せ持った体重100kgを超える重量級のポケモンだ。

タイプ相性ではこちらが不利。ならば先手必勝。

 

「シャドーボール!」

 

指示した瞬間、コドラの顔面に黒いエネルギー弾が命中する。

相手は真っ向から技を撃たれた筈なのに、完全に不意を突かれた形となった。

 

ガントルの強みが、集中力と類い稀な器用さ。フタチマルが華麗な太刀捌きによる白兵戦なら。

ヒトモシの真骨頂は早射ちと弾速である。

 

指示を聞いた瞬間に技を出し、一瞬の内に着弾させる。事前にこれを知らなければ、コドラのような俊敏姓が高いとは言えない相手には完封勝利もあり得る。

 

「もう一度シャドーボール!」

 

相手が初撃で怯んでいる内に、追撃の指示を出す。

 

「こ、コドラ!ストーンエッジ!」

 

相手も焦って応戦の指示を出すが、相手が技を出す前にヒトモシのシャドーボールが再度、無慈悲にも顔面に炸裂。コドラは鑪を踏んで更に怯む。

 

しかし流石に堅いな。

 

早射ちさせるとその分威力が下がるとは言え、相手のタフネスはかなりのものだ。

ならば次は。

 

「シャドー、ボール!」

 

「来るぞ!横に跳べ!」

 

相手はこちらの攻撃を、その速さを裏手に取って事前に避ける手段に出たようだが。

 

「ドラァ!」

 

 

今度は避けた先で直撃する。

技の指示に間を開けた時は、溜めてから放つ算段になっているのだ。

 

「コドラ!?」

 

そして、ポケモンもトレーナーも混乱している今が畳み掛けるチャンス。

 

「弾ける、炎!」

 

「モシシシシ!」

 

ヒトモシの頭部にある火から無数の炎が飛び出し、コドラを襲う。

まるで雨のように降り注ぐ炎に焼かれ。ついにコドラはその身体を地面に横たえた。

 

「コドラ、戦闘不能!よってこの試合、キョウヘイ選手の勝ち!」

 

審判がこちらを指し示すように、水平に右手を上げると、ルッコさんが試合の終了宣言をする。

オレと相手の選手は互いに揃って一礼し、審判とルッコさんにも礼をすると。ポケモンをモンスターボールに戻し、次の試合に臨む選手の邪魔にならないようにバトルコートを後にした。

4つあるコートの試合の中から、オレたちの試合を観てくれていたのだろう観客の拍手がまばらに響き渡った。

 

相手はがっくりと肩を落としていたが、仕方ない。勝負と言う以上は、勝者と敗者が出るものなのだ。

 

 

 

 

 

「キミのヒトモシ、とんでもなく強いね」

 

自分の試合が終わり、控え室に戻らず他のバトルコートで行われている試合を観戦していると、先ほどバトルした選手に声を掛けられた。確かフエンタウンのヨシト選手と言ったか。

 

「ありがとうございます。あなたのコドラもタフでした、最初の2撃で倒れなかったのには驚きました」

 

「いやぁ、うちの相棒は頑丈さが売りだからね。とは言え、なにもさせてやれなくて、コドラには面目がない」

 

「手前味噌ですが、ヒトモシの早射ちを初見で受けきるのは結構厄介だと思います」

 

正直な話、フタチマルでもヒトモシの技。特にシャドーボールの早射ちは完全には捌ききれない。

まぁ元々、自主練の際にミジュマルに良いようにやられて自棄になったヒトモシが溜めを作らずシャドーボールを放ち。その瞬発的な発射と弾速を見たオレが、これはバトルで使えるのではないだろうか。と、トウコ先輩やヒュウに付き合って貰って孟特訓した成果が今の早射ちである。

 

習得するために、朝から晩まで日夜特訓に明け暮れたと言う話をすると。ヨシト選手は引き吊った笑いを浮かべ。それは簡単には真似できないなぁ。と言って、軽く挨拶をした後去っていった。

 

どうやら、出来る事なら早射ちの秘訣を聴きたかったのだろうが。そんなものはない、特訓あるのみだ。

 

因みに、早射ちはヒトモシの個人スキルと言うわけではないが、ポケモンによってはどれだけ頑張っても形に成らない者もいる。

 

しかし、そういうポケモンは。例えば技の威力が高かったり、コントロールが良かったりするので、そっちを鍛えてやれば良い。

 

最近見た中だと、アデクさんのウルガモスが技のタイムラグが少なく、似たタイプだ。

技の射出はヒトモシの方が早いが、ヒトモシは早射ちすると威力が下がるのに対して、あのウルガモスは溜めもなく凄まじい威力の大文字や暴風を撃って見せたので、練度が段違いである。

最終的な目標は、今のタイムラグのない射出と弾速を保ちつつ、威力を下げずに技を放つ事だ。

 

オレは他の選手の試合を観戦しつつ、今後の訓練プランを頭の中で纏め始めた。

 

 

 

 

 

「ヒトモシ!弾ける炎で弾幕を張れ!」

 

ホウエン地方出身トレーナーのコドラを下した後、2試合目、3試合目と順調に勝ち上がり。ついにベスト8に登り詰めたオレは、ベスト4決定戦をDコートで行っていた。

 

「ペンドラー!高速移動で潜り抜けろ!」

 

相手はイッシュ地方はカラクサタウン出身のトレーナー。素早いペンドラーを更に加速させてくる戦法に、防戦を強いられている。バトル開始直後から反応が速かったところを鑑みるに、どこかでヒトモシの試合を観ていたのだろう。

今の所、互いに決定打は与えられていないが、状況は確実にこちらが不利。しかし現状を打開する事も出来ず、只々消耗戦が続く。

 

「メガホーン!」

 

「鬼火!」

 

直線軌道を取って突撃してくるペンドラーに鬼火が当たって、その200kgを超える巨大な体が青い炎に包まれる。しかし、それでも怯むことなく、火炎車の如く突撃してくるペンドラー。

 

「右に跳べ!」

 

鬼火を受けて火傷を負ったペンドラーが若干左によろけた瞬間を見計らって、回避を指示する。

 

「モッシ!」

 

「ペンドラー!止まれ!」

 

目論見が当たり、危機を切り抜けたヒトモシ。だが、相手はペンドラーを急停止させると。

 

「地震だ!」

 

地面タイプの協力な技を放ってきた。これを食らう訳にはいかない。

 

「大きくジャンプして回避!」

 

地震は限られた範囲の地面を振動させてダメージを与える技。空中に居ればダメージを受けずに済むが。

 

「後ろを取ってメガホーンだ!」

 

「弾ける炎で近付けさせるな!」

 

空中では回避行動が取れないので応戦するしかない。一方相手は炎の雨を掻い潜りながら後ろに回り込むように突撃してくる。

 

「シャドーボール!」

 

空中で身体を捻り、ほぼゼロ距離で発射したシャドーボールは直撃するも、ペンドラーの勢いを殺せる筈もなく。メガホーンが直撃したヒトモシは軽々と吹き飛ばされ、地面に転がった。

 

「止めの地震!」

 

フタチマルやガントルほどタフではないヒトモシがこれを受ければ、間違いなく戦闘不能。しかし、最後まで諦めずに足掻くのみ。

 

「もう一度跳んで回避!」

 

「メガホーン!」

 

先ほどの繰り返しだ。次のメガホーンを喰らえば流石にもう一度跳躍する体力は残らない。地震を撃たれて敗北が確定する。

 

「ヒトモシ!最後の最後まで勝ちの目はある!弾ける炎!」

 

そう叫んだ途端、ヒトモシの身体が光り。分解と再構築が始まった。

バトル中に進化が始まったのだ。流石に驚き、一瞬意識がバトルから逸れると、周囲からどよめきの声が聞こえてきた。

相手のトレーナーとペンドラーも驚愕したように目を見開いている。

 

そして、光が集束し現れたのは。

 

 

 

「プラー!」

 

 

 

ランプラー。ランプのような外見の、進化前と変わらずゴースト、炎タイプを併せ持つポケモンだが。進化前と決定的に違う所がある。

それは。

 

「ランプラー!上を取って弾ける炎!」

 

ランプラーは空中に浮かんで移動できるポケモンだという事。

 

ペンドラーの真上から、先ほどまでと比較して、より強力な炎が絶え間無く降り注ぎ。相手のペンドラーは炎に包まれた。

進化した事によって、火力と連射速度が上がっている様だ。

 

「ペンドラー!?」

 

思わずと言った様子で叫ぶ相手選手。

 

効果抜群の炎の海にその身を包まれたペンドラーは、その巨体をぐらりと揺らし。遂に地に倒れ伏せた。

 

「ペンドラー戦闘不能!よってこの試合、キョウヘイ選手の勝ち!」

 

すかさず審判が戦闘不能判定を下し、バトルを終了させる。

これ以上は危険であると判断したのだろう。

 

お互いにポケモンをモンスターボールに戻し一礼すると、ペンドラーのトレーナーは慌ただしく駆け足で出口へ向かった。おそらく、ポケモンセンターに向かったのだろう。

 

オレのランプラーもかなりのダメージを負ったので、午後からはフタチマルとガントルに頑張って貰おう。空中を浮いての移動も、もっと上達する必要があるだろうし。

今まで地を歩いていたポケモンが空中を飛んだり、浮かんだりして移動するのは少々訓練が必要なのだ。

先ほどはぶっつけ本番であれだけスムーズに空中を動けた事が、不思議でならない。

もしかしたら、オレのランプラーは天才なのかも知れないな。なんて、バトルコートから離れつつ親馬鹿な思考を頭の中で巡らせていると。

 

『ベスト4決定戦が全て終了しました!30分の休憩を挟んでから、準決勝、3位決定戦、決勝戦を開始いたします!』

 

ユッコさんのアナウンスが響いた。控え室に戻って休憩を取るとしよう。

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