ブラック&ホワイト2 英雄代行 作:あぞ
「あのね、私の事はルッコって呼び捨てにして欲しい、かな。旅に出てるって事は、多分キョウヘイさんの方が年上ですよね?」
あれから。ベンチに座ってミックスオレを飲みつつ談笑していると、話題の谷間でルッコさんが唐突にそんな事を言ってきた。
スクールの女子相手に敬称をつけて呼ぶことは無かったが。年下相手とは言え、地方を問わず活躍する人気アイドル相手に取って、面と向かって呼び捨ては流石に気まずい。
ならば、この局面は。
「でしたら、オレの事もキョウヘイで良いですよ」
「ええ!?それは失礼だと思います。でしたら、その…キョウヘイくんで」
「ならオレもルッコちゃんで」
読み通り渋ってきた。今日会ったばかりの短い間柄だが、こう返せば遠慮してくるのは読めていた。そして相手に不快感を抱かせずに、すかさず妥協案を提示する。
ポケモンバトルも会話も相手を理解し、次の手を読むのが重要なのだ。と言いつつ、普段の会話ではそこまで考えて発言してはいないが。
「あ、敬語も要らないですよ?」
「すみません、それはハードル高いです」
読み負けてしまった。そこまで踏み込んで来るとは…オレもまだまだ甘い。
わざとオーバーリアクションでお手上げポーズを取り、おどけて見せたオレを見て。ルッコさん…もといルッコちゃんは笑顔を見せる。
お互い小さく吹き出すと、示し会わせたように視線が正面に向かった。
「フタ、フタッチ!」
「トル」
「にゃあ!」
そこでは廊下に座って、オレとルッコちゃんのポケモンたちが談笑していた。
オレのフタチマルとガントル、ランプラー。ルッコちゃんのニャースとヒメグマが向かい合っている。
因みに、フタチマルとルッコちゃんのポケモンたちの間にはガントルが居座り、頭上にはランプラーが浮いている。フタチマルが暴走しようものなら、直ぐ様取り抑えられる布陣となっているのだ。
それぞれ笑顔を見せており、会話を楽しんでいる様子だ。フタチマルの顔は少々、いや、かなりだらしなく緩んでいるが。
ガントルとランプラーも表情は分かり難いが、柔らかな雰囲気を纏っているので。やはり、楽しんでいるのだろう。
「フタチマ!」
「トル」
「フタ!」
あ、フタチマルがヒメグマに近付こうとして、ガントルに脚で吹き飛ばされた。
「プラララ」
「フダッヂ!」
そしてすかさず尻に火を灯すランプラー。フタチマル…懲りないやつめ。
最初はその一連の流れに戸惑った様子で、若干引き気味だったルッコちゃんのポケモンたちも。3、4回ほど繰り返されたやり取りに見慣れたのか、今では苦笑する程度に収まっている。
ホント、うちのフタチマルが節操なくてすみません。
そんなポケモンたちの様子を見て、口に手を当てて遠慮がちに笑うルッコちゃん。こちらは完全に、フタチマルを中心としたコントに慣れたようだ。
「みんな楽しそう。うちの子たちは私のお仕事に付き合ってくれる時間が長いから。お仕事以外で、こうして他のトレーナーさんのポケモンと交流させてあげる事が難しくて…お留守番しているの子たちも連れて来てあげれば良かったかな」
「オレのポケモンたちも、ルッコちゃんのポケモンと知り合えて喜んでますよ。機会があったら、また話をさせてあげて欲しいな」
そうは言ってみるが。多分、その機会は訪れないだろう。
なんせ相手は世界を飛び回る人気アイドルとそのポケモンたちで、オレたちは、一介の駆け出しトレーナーとそのパートナーだ。偶然が重ならない限りは、こうして顔を合わせる事は有り得ない。
プライベートで会うとなれば話は別だが。休日に一般男性と会うなどというのは、スキャンダルのもとだ。
芸能界には疎いオレだが、その程度の知識はある。たまにテレビや週刊誌で、その手の話題が取り沙汰されているのを目にする。
「…ありがとう」
それを理解しているのだろうルッコちゃんも、寂し気な笑顔でそう応えた。
大分打ち解けてきた証拠か。時折、お互い無自覚に敬語が抜け落ちる。
最初ほどでは無いが、若干気まずい空気が二人の間を過る。
「あ、あのっ!良ければ連絡先…」
しかし、意を決したように小さな拳を胸元で握り締めたルッコちゃんが、その沈黙を破った瞬間。
『ヒオウギシティのキョウヘイさん。至急選手控え室までお戻りください』
アナウンスが掻き消した。
焦ってライブキャスターを取り出し、ホーム画面に表示されている時刻を見ると。休憩の時間は、5分前に終わりを迎えていた。話に夢中になっていて、時間を念頭に入れるのを忘れていた。トウコ先輩がこの場に居れば、説教必至である。トレーナーにとって時間感覚は、重要な要素なのだ。
「やばっ、行かなきゃ!ルッコちゃん、驚かせてしまってごめん。それと話せて楽しかった!ニャースとヒメグマも、ありがとね!」
空になったミックスオレの缶を、備え付けのゴミ箱に投げ入れ。フタチマル、ランプラー、ガントルを順にモンスターボールに戻しつつ。矢継ぎ早に声を掛け、階段へと向かう。
「私も、楽しかったです!きっと…絶対にまた、お話ししましょう!」
「ぬにゃ」
「きゅう」
背中から聞こえてくるルッコちゃんとニャース、ヒメグマの声に振り返り。笑顔で手を降ると、階段を駆け上がった。
『さぁ!タチワキシティトーナメント、ベスト4が揃い踏みました!』
控え室に駆け込み。スタッフさんに急かされて会場へと向かい、既に待機していた3人の選手の横へと並ぶと。それから間もなくして、司会者が現れ午後の部の開始を宣言した。
『最初にぶつかり合うのはこの二人!地元タチワキシティのトレーナー!アルジャーノン・クック!!』
控え室で「俺は勝つ俺は勝つ」と頻りに呟いていた、スキンヘッドの大柄な男性トレーナーだ。その強面と革ジャン、革ズボンの服装が相まって堅気じゃない雰囲気を放っている。
太い丸太の様な腕には刺青が入っており、それを振り上げて雄叫びを上げている。
あ、ルッコちゃんがオープニングセレモニーで選手にエールを送った時に叫んでたの、この人だ。ファンなのだろうか。
『対するは、旅に出て間もないビギナートレーナー!キョウヘイ・グレイフィールド!!』
午前に引き続き、午後の部も一番手だ。
横から視線をぶつけて来るスキンヘッドの男性に笑みを返し、一応手を観客に振っておく。
「ビギナーの割には、随分余裕そうだな小僧」
観客の歓声の中、そう話し掛けてくるクック選手。
「緊張しても、良いこと無いですからね」
適度な緊張感は身が引き締まって良いが、度の過ぎた緊張は手持ちのポケモンにもそれが伝わって、平常時のポテンシャルを発揮できなくするだけ。バトル前にそんなものは不要だ。
クック選手はオレの返答を聞いて「分かってるじゃねぇか」と、口元を歪ませる。どうやら笑みを浮かべたようだが、申し訳ないが威圧している様にしか見えない。
『おっとお!バトル前から熱い視線を交わしています!これは白熱したバトルが期待出来そうだ!!それでは両者、バトルフィールドへどうぞ!』
煽りを入れる司会者と誘導するスタッフに促され、Aコートへと向かう。
どうやらここから先のバトルは同時進行では無く、Aコートのみで1試合ずつ進めて行くようだ。
審判もベスト8までとは違い、主審1人、副審2人の3人体制に変わっている。地方トーナメントなどと同じ、公式戦で配置される人数だ。
ふと、視線を感じて上を見ると。建物の2階に位置する特別観覧席から、町長や大会関係者に混じってルッコちゃんが座っていた。
オレの視線に気付くと、小さく手を振ってくれる。オレはそれに小さく頷いて応えると、主審の方を向いた。
その瞬間、周囲の音が耳から遠ざかり。審判の一挙一動だけが観測するべき全てとなる。
「それでは!これよりタチワキシティのアルジャーノン対ヒオウギシティのキョウヘイの試合を開始します!」
主審の宣言に合わせて一礼し、手の動きに合わせてモンスターボールを手に取り、構える。
「バトル開始!」
主審が上げた右手を勢いよく振り下ろし、戦いの火蓋を切る。
その瞬間に狭まっていた視界が、バトルコート全体に拡大した。
「トル!」
「ベ~トベトン!」
トレーナーレーンより空中に放られた二つのモンスターボールは、接続部分を残して二つに割けると光を放ち。
出場レーンには鉱石ポケモン「ガントル」と、ヘドロポケモン「ベトベトン」が向き合う形で現れた。
『さあ始まるました準決勝第一試合!現れたのは硬い岩の身体のポケモンガントルと、柔らかな泥の身体のベトベトンという真逆の組み合わせ!』
ベスト4からは試合解説も入るのか、客観的な戦況を知れるが。少し喧しいな。
「ガントル!ロックブラスト!」
ベトベトンのような流動的な体を持つポケモンには、ステルスロックによる制圧攻撃は効果が薄い。ここは堅実に攻める。
「ヘドロ爆弾!」
ヒュウのヤナップが、対チェレンさん戦で撃ったタネ爆弾の毒タイプ版だ。着弾すれば弾けて、周囲に毒を含んだ泥を撒き散らす厄介な技。
「右に回避しつつロックブラスト!」
「連続でヘドロ攻撃!」
「空中で迎撃!」
ガントルは動きつつも岩を構築し連射、一発目はベトベトンを直撃するがあまり効果的では無いようだ。ダメージが無い訳では無いが、やはりタフなポケモンだ。
二発目以降は、放物線を描いて飛んでくるヘドロの塊を迎撃する。
『キョウヘイ選手のガントル!なんと移動しながらロックブラストを放ち、しかもヘドロ攻撃を空中で打ち落としています!なんという精密射撃!!』
五発目のロックブラストがヘドロを空中で捉えた瞬間、そのヘドロが弾けた。どうやらヘドロ爆弾を仕込んでいたらしい。
「落ちてくるヘドロは気にするな!直進しつつロックブラスト!」
「ベトベトン!包み込むようにのし掛かり!」
ロックブラストを平然と受けるベトベトン。やはりあの体には、物理な遠距離攻撃はほぼ無意味か。それならそれで遣り様はある。
「迎え入れて貰え!ガントル!」
『なんとキョウヘイ選手!これまでの慎重な戦い方とうって変わって回避を宣言しない!』
ベトベトンの体がガントルを包み込む。まだだ、焦るな…今だ!
「地均し!!」
ガントルが完全に取り込まれた瞬間、ベトベトンを中心として大地が振動する。苦手な地面タイプの技を受けたベトベトンは堪らず拘束を解除する。
物理的な衝撃は多少逃がせても、技で生み出された振動からは逃がれる事は出来ない。
「マズイ、一旦距離を取れ!」
「逃がすな!地均し!」
振動でよろけたベトベトンの行く手を阻むように素早く移動したガントルは、3本の脚を踏み鳴らして再び地面を揺らす。
「ッ!ベトベトン、ヘドロ爆弾!!」
『アルジャーノン選手!覚悟を決めたか正面から打って出た!!』
「ロックブラストで撃ち落とせ!」
ガントルは脚で地均しを継続しつつ、岩を構築してベトベトンに叩き付ける。この距離だとヘドロ爆弾の余波を多祥は喰らうが、間違いなくダメージレースではこちらが有利。
地均しを併用しつつロックブラスト放つガントルは回避行動を取れない。距離が距離だけに、撃ち落とせなかったヘドロを体に受けるも。平然と技を放ち続けるガントル。
『至近距離でのガチンコバトルを制すのは一体どちらだ!!』
ベトベトンは確かに高い耐久力を持つ。だが、火力面ではこちらに対して決定打がない。直進してきたガントルに「瓦割り」などの格闘タイプの技や「まとわり付く」をして来なかった時点で、それは見えていた。
対して此方は、毒タイプのベトベトンに効果が大きい「地均し」を持っている。駆け引き無しの正面衝突に持ち込めば、それだけ試合時間が短く済むので得意の毒も効果が薄い。
怖いのは「毒々」などを撃たれて消耗戦になった場合だったが。「地均し」が決まった時点で相手は思うように動けなくなるので、時間を引き延ばした消耗戦になる線は消えた。ならば後は相手が倒れるまで正面からぶつかるのみ。
そしてついに、ベトベトンが地面に潰れるように伏せた。その瞬間、副審が手を挙げ、主審が左腕を平行にして此方を指し示した。
「ベトベトン戦闘不能!キョウヘイ選手の勝ち!!」
それを聞いた瞬間ガントルが動きを止め、左脚がよろけて鑪を踏んだ。どうやら毒を受けたらしい。それをおくびにも見せず戦い切ったガントルを、オレは誇らしく思う。
『決まったぁ!!勝者はヒオウギシティのキョウヘイ・グレイフィールド選手!!』
観客の歓声の中、ガントルに駆け寄る。
すると反対側からもスキンヘッドのクック選手がベトベトンに向かって駆け寄ってくる。
「ガントル、ありがとう。後はゆっくり休んでて」
ガントルの体を労るようにゆっくり撫でる。次の試合の間に毒消しを飲ませてやらないと。
「ベトベトン、最高にパンクだったぜ」
お互いのポケモンをモンスターボールに戻すと、クック選手が歩み寄ってきて。右手を差し出してきた。
「お前らも、最高にロックだったぜ。ガントルだけにな」
そう言って笑みを浮かべて片目を瞑るクック選手に応じて、右手を差し出す。どうやら見掛けとは裏腹に、以外と洒落の利いた人らしい。
オレたちが互いに固く握手を交わして笑い合うと、会場が声援に包まれた。
『素晴らしい戦いでした!両者の健闘を称える声援が会場内を満たしております!』
ふと上を見上げると、笑みを浮かべて拍手をするルッコちゃんの姿。その笑顔はライブをしている時のものではなく、休憩中に見せた。思わず見とれてしまう優しい笑顔だ。
それに笑みを浮かべて応え。オレとクック選手は次の試合の邪魔にならないように、揃ってバトルコートを後にする。
『さぁ会場のボルテージが上がっております!!続いて準決勝第二試合を始めます!』
司会者のアナウンスに、会場は更なる声援に包まれた。
追記
誤字報告、適用させていただきました。
HDtamago様、有り難う御座います。
蛇足な補足
この作品では、作中ベトベトンが「のしかかり」を仕掛けたように。過去作の教え技も平然と使います。
それと、遺伝技という概念はなく。現在覚えている技からの派生や、他のポケモンの技をトレースして覚える様な形となりますが。その辺りは追々作中で説明致します。